「英雄復活リベンジ・オブ・ジャスティス」

第3部「宇宙編」第3回

サブタイトル「発動! 世界の終わりだ!」

執筆:燃えるいたちゅう
出演者:熱きガーディアンのみなさま

1.監禁病棟

 デッドロードが闇の力を解放したことにより、冷気に包まれた東京。
 雪と霜と氷に覆われたアスファルトの上を、3人のガーディアンがそろそろと歩いていた。
「わわわ、滑る〜」
 アオイ・シャモンだ。
「もうすぐです。あそこに、お兄様が……」
 ミズキ・シャモンが白い息を吐き出しながら呟く。
「ああ、お兄様、お逢いしたいです」
 クレハ・シャモンがうつむきながらも強い決意を秘めた声をもらす。
 彼女たちの行く先には、巨大な病院があった。
 ただの病院ではない。
 アーマードピジョンの指定医療機関として、負傷したガーディアンの収容と治療を主にこなすスーパー病院であった。
 病院名は、スーパーメディカル病院。
 あのエリカが治療を受けたのも、ここなのである。
 そして。
「お〜い、開けろ! 開けろや〜!」
 やっと玄関の前にたどりついたアオイが、凍りついた自動ドアを叩く。
 吹雪が走り抜ける東京の闇に、アオイのドアを叩く音がうつろに響いた。
「なにやつだ?」
 自動ドアの脇の窓口の戸が上にスライドして開き、門番が顔を出した。
 いかつい顔の、ヒゲまみれの顔の門番であった。
「あ〜っくしょん! ここを開けてや! 兄ちゃんに逢いたいんや!」
 アオイはくしゃみしながら答える。
「兄ちゃんだと? 名は?」
「ホウユウ・シャモンや。あたしらは妹や。早う開けてや」
 アオイはぶるぶる震えながらまくしたてる。
「ホウユウだと? 奴は面会禁止だ。たとえ家族でも入れるわけにはいかん。帰れ!」
 門番は無愛想な口調でいった。
「ケチなこというな! もう怪我は治ってるんやろ? ちょっとぐらい話させてくれてもええやんか」
 アオイは噛みつくような口調になっていた。
「ダメだといったらダメだ。上からきつくいわれている。奴は当分の間ここに監禁同然の状態に置かれるのだ」
「監禁ですって?」
 それまで黙っていたミズキが口を挟む。
「ああ、いや。要するに、奴の具合は相当悪いのだ。誰かと面会することなどできそうもないし、当分の間ここから出ることなどできないということだ」
「妹たちと面会もできないなんておかしいですわ。せめて私たちを入れてくれてもいいんじゃないですか?」
「ダメだといったらダメだ。うん? うわー!」
 門番が悲鳴をあげた。
 アオイが銃口を突きつけてきたからだ。
「さっきから、開けろと何度もいうてるやろ。何でわからんのや?」
「お、おい。本気か。やめろ! お、お前も何とかいってやってくれ」
 門番は助けを求めるような目をミズキとクレハに向ける。
「残念ですが、私たちにとってお兄様はあなたの生命よりも大切な存在なのです。あくまでお兄様を監禁するというなら、実力行使も厭いませんよ」
 ミズキは、冷淡な口調でいった。
 クレハもうなずく。
「そういうことや。撃つで〜」
 アオイが笑いながら引き金を絞る。
「や、やめろ〜!」
 門番は悲鳴をあげて、窓口の戸を閉めた。
 ズキューン!
 アオイの撃った弾丸が堅い戸に弾かれる。
「ちっ」
 アオイはボール状に収縮された状態のレッドクロスを取り出した。
「兄ちゃん、いまいくで! テンションぶっちぎり、装着や!」
 アオイがボール状のレッドクロスを振りかざすと、クロスが光を放ち、展開して、アオイの全身にまとわりつく。
 全身を分厚い装甲に覆われた、ガーディアンのアオイ・シャモンが、閉ざされた自動ドアに近づいていく。
「ミサイル発射!」
 アオイはロケットランチャーからミサイルを発射。
 ちゅどーん!
 派手な爆発により、ドアは崩壊した。
「よし、突入や!」
 アオイは銃を構えて病院内に駆け込んでゆく。
「うん。変身!」
 ミズキとクレハもクロスを装着しながらアオイの後を追った。
 うー、うー!
 不審人物の侵入を察知した病院内部に、警報が轟く。
「貴様、止まれ! 止まらんと撃つぞ!」
 銃を構えた警備員たちがアオイたちを威嚇する。
「上等や! 撃ってみさらせ!」
 アオイは手榴弾を警備員たちに投擲する。
 ちゅどーん!
「うっ、げほげほ」
 爆発が起き、警備員たちは煙を吸ってせきこんだ。
「どこや、どこや……兄ちゃん!?」
 アオイたちは、兄を探して病院の奥にまで突き進んでゆく。
「感じるわ……お兄様は、向こう」
 クレハがいった。
「よし、こっちやな!」
 アオイたちはクレハのいう方向に向かい、ついに分厚い扉の前にたどりついた。
「危険。絶対立入禁止」
 そう書かれた紙が、扉に貼りつけられている。
「兄ちゃんを危険物扱いしてるんか? もう我慢の限界や。いくで!」
 またしてもアオイはミサイルを発射。
 ちゅどーん!
「兄ちゃ〜ん!」
 崩壊した扉の残骸を蹴り飛ばしながら、アオイたちが病室に入る。
 そこには……。
「よくきたね」
 ドクター・リスキーが立っていた。
「リスキー、兄ちゃんはどこや? あんたも兄ちゃんを監禁する連中に加担するなら、容赦せえへんで!」
 アオイは真っ赤な顔で怒鳴りつける。
 いま、アオイの心臓は兄を思う心で、ばくばく鳴っていた。
「落ち着くのだ、ホウユウの妹よ。彼なら、ここにいる」
 リスキーがリモコンを操作すると、部屋の奥の扉が開き、扉の向こうから、キャスターつきのベッドが自動的に動いて、部屋の中央まできて、とまった。
 ベッドに横たわっているのは、ホウユウだった。
「に、兄ちゃん!」
 アオイは歓喜に悲鳴をあげて、兄に抱きつこうとする。
「よしなさい。彼は、身体が回復したばかりだ」
 リスキーが制止する。
「う、うーん……アオイ? それに、ミズキとクレハも。きてくれたのか」
 騒ぎが耳に入ったのか、ホウユウは意識を回復させ、妹たちに語りかける。
「兄ちゃん、身体は大丈夫か?」
「お兄様、心配していましたわ」
 アオイとミズキがホッとしたように息をついて、いった。
「お兄様……」
 クレハも感動に胸を震わせている。
「ホウユウくん、行きたまえ。もうじき、きみを拘束しに病院の特殊部隊がくるだろう」
「ドクター・リスキー。あなたは?」
「私もここを出るとしよう。この病院には、アーマードピジョンという組織の負の部分が凝り固まっているように思える。ただ、ミスター・ゼットがROJ発動の危険があるガーディアンを隔離したかったという気持ちはわかるがね」
「リスキー、なぜ俺を解放してくれる? あんたは何を考えているんだ?」
 ホウユウはなおも問うた。
「きみの身体の傷は、全て治しておいた。本当はもうしばらく安静にした方がいいのだが、きみはそういしないだろう」
 リスキーは淡々とした口調でいった。
「レッドクロスがこの世界を滅ぼすことになるのかどうか。それは、装着者の良心にかかっている。そのことをよく心得てゆくのだ。強大な敵を前にどうすればよいか。そのときは己の内なる声に従うがよい」
 リスキーに促されて、ホウユウは妹たちの肩を借りてベッドから降り、病室から退出してゆく。
「ゆくのだ……英雄よ。私は、お前たちを信じるとしよう」
「リスキー。あんたの信頼に、俺はこたえるぜ!」
 ホウユウは振り返って、リスキーに別れの挨拶をする。
「兄ちゃん、早く! 警備の連中がくるで」
 アオイはホウユウの手をきつく握りしめて、先へ先へと引いてゆく。
 兄妹たちは、病院から脱出した。
「これは……この冷気は、奴の仕業だというのか?」
 ホウユウは外の冷気に身を震わせながら、天を仰いだ。
「奴は、どこにいる?」
「富士の頂きやで、兄ちゃん」
「よし、そこに行く!」
「ダメよ、お兄様。リスキーさんがいっていたように、もう少し安静にしないと」
「安静にしてたら、世界が滅びちまうぜ。リスキーが治してくれたこの身体はもう万全だ! いくぜ、俺は。奴を、デッドロードを倒しに!」
 ぴー!
 ホウユウが口笛を吹く。
 ひひーん!
 雄叫びとともに、愛馬・赤兎が吹雪が押し寄せる中、天を割ってホウユウたちの前に舞い降りてくる。
「おお、赤兎。俺を待っていてくれたのか」
 ホウユウは赤兎にまたがった。
「兄ちゃん、私たちも行くで!」
 アオイたちも、ホウユウに従う覚悟を固めた。
 最後の闘いが、ついに始まろうとしていた。

2.氷炎の姉妹

 富士山。
 日本最高峰にして、日本三霊山のひとつに数えられる霊峰でもある。
 いま、その富士の山頂を目指して登山に励む姉妹がいた。
 アクア・マナ。
 フレア・マナ。
 氷炎の姉妹として知られる二人が、いま、デッドロード打倒のため、黙々と山道を登っていたのである!!
「はあはあ。もう少しです、姉さん」
 凍りついた山道で足を滑らせないよう苦心しながら歩くフレアの額には、大粒の汗が浮いていた。
「ああ。そうだな」
 フレアの先をゆくアクアは、どこか余裕のある声だ。
 氷の戦士であるアクアにとって、デッドロードがつくりだした冷気のフィールド自体、それほど苦になるものではなかった。
「着いたぞ。ここが山頂か」
 二人は山頂にたどりついた。
 富士の山を登りきったという感慨は、いまの二人にない。
 あるのは、これから待ち受ける猛烈な死闘を思っての武者ぶるいのみだ。
「どこにいる、デッドロード?」
 フレアの問いに答えるかのように、人馬一体の黒き影が氷塊の向こうから姿をみせた。
「意外だな。お前たちが先にくるとは」
「知ったような口を聞くな。お前と私が闘うのははじめてのはずだ」
 フレアがいった。
「そう、お前と闘うのははじめてかもしれない。だが、脇にいるお前はどうかな?」
 デッドロードはアクアをみて、いった。
「デッドロード……いや、デッドナイト。私はデッドクラッシャーズにいた頃、戦士としてお前を尊敬していた!」
 アクアはデッドロードをにらみつけながら、ボール状に収縮されたレッドクロスを取り出す。
「尊敬していた? では、いまはどうなのかな?」
「敵として認識している。私は戦士として、お前を倒す」
 アクアはレッドクロスを振り上げて叫んだ。
「氷着! 氷の刃よ、我に宿らん!」
 アクアの全身がレッドクロスに覆われ、ガーディアンの姿となる。
「私も。炎着! 炎の刃よ、我を焦がさん!」
 フレアもまた、レッドクロスを装着する。
 いてついた富士の山頂で、氷炎の姉妹がデッドロードと向き合うかたちとなった。
「いま、ここで明かそう。私も戦士としてお前を尊敬していたぞ、レディ・ミスト」
 ロードの言葉に、アクアは眉をぴくりとさせた。
「残念といえば残念だな、こうして闘うことになるとは」
 アクアは冷淡な口調でいった。
 すると、ロードはフッと笑っていった。
「残念? それは違うな」
「なにっ!?」
 ロードの言葉に、アクアはけげんな顔をする。
「互いに尊敬しあっていたからこそ、いまこうして、ここで闘えるのが嬉しいのだ。少なくとも、私はいま歓喜に震えている。さあ、いくぞ、氷の女王よ」
「ふっ……そうだな。むしろ、望むところだったな」
 ロードの真意を理解したアクアの唇にも、笑みが浮かぶ。
「姉さん、一人で闘っちゃダメだ。私とともに」
 フレアが心配げにいう。
「もちろん、一対一でなくても構わんさ。いまの私は、昔よりももっと強くなっている。単独で立ち向かう必要などないぞ」
 デッドロードはあくまで余裕だった。
「気高き戦士よ、私は勝たねばならない。大義を背負っているのだ、この地上の民の平和のためにお前を倒さねばならないのだ!」
 アクアは南京珠すだれを取り出した。
「はああっ! アイスアロー!」
 珠すだれを弓状に変化させ、氷の矢を射るアクア。
 しゅっ、ずぶっ
 富士山頂の氷の山肌に、矢が次々に突き刺さる。
「かく乱か。それもよいだろう!」
 デッドロードは下半身の馬のひづめを鳴らして、姉妹の前をまわりこむように駆けた。
「勝負だ!」
 炎の剣を構えたフレアがデッドロードに斬りかかる。
 かちん、かちーん
 ロードの剣とフレアの剣がかち合い、火花を飛ばす。
「決着をつけるときがきた! みよ、私たちの技を! はああああああ〜」
 アクアが気炎をあげると、彼女のレッドクロスが光を放つ。
 ぴきぴき、ぴきぴき
 アクアの周囲の気温が急激に低下してゆき、空気中の水分が結晶化する音が響く。
「白き闇! 狂える氷の嵐! ブライトブリザード!!」
 アクアのスペシャルテクニックが発動。
 アクア周囲に発生した水の結晶の渦が意志を持った風のごとく流れ動き、氷点下の霧がデッドロードに吹きかかった。
 しゅわあああ
 真っ白な網に、デッドロードの黒い鎧がかかったかのようにみえた。
「むうっ、どこだ? どこにいる?」
 視界を遮られたロードが、剣で霧を裂き、姉妹の姿を探し求める。
「そこか!」
 炎の剣が放つ光を目にしたロードが、槍を繰り出した。
 ぱきーん
 ダミーの炎の剣が縛りつけられていた樹氷が崩壊する。
「かかったな。私はここだ!」
 ロードの背後にフレアが現れ、剣を振りあげ、気炎をあげる。
 フレアのレッドクロスが光を放った。
「燃える炎! 怒れる大地の剣! マントルブレード!!」
 振りあげた剣を、フレアは凍れる山肌に突き刺した。
 ずぶずぶずぶ
 地中深く潜りこんだ炎の剣から真紅の光がほとばしり、富士の山中に眠れるマグマを呼び起こした。
 ぶしゅー!
 山を割って噴出したマグマが、ロードを包み込む。
「ぬうっ」
 ロードを包み込んだマグマが、アクアのつくりだしたブリザードの力で急速冷凍させられ、表面がかたまって、堅固な殻をかたちづくった。
 マグマの殻の中に、凍りきらないマグマが渦巻き、灼熱の焔がロードの鎧を焼き焦がす。
「う、うおおおおお!」
「やったか」
 アクアがフレアの傍らに立った。
「わからない。でも、ここで攻撃すれば」
 フレアは地中に潜っていた炎の剣を抜き取った。
「無駄だ」
 アクアがいった。
「あっ!」
 フレアは絶句する。
 振りあげた炎の剣が、ボロボロに崩れてしまったからだ。
「ロードの攻撃を受けていたのか!? いつの間に……」
「私のも同様だ」
 茫然としたフレアの目前で、アクアが掲げた氷の剣が、やはりボロボロに崩壊してゆく。
「これほどの腕だ。私たちでは、一対一で闘っていたらまず勝てなかっただろうな」
「でも、これからどうすれば」
「私たち二人だけで闘っているわけではない。仲間がじきにくる」
 アクアのいったとおりだった。
「ぴょーん!」
 奇声とともに、トリスティアが天から降ってきたのである!

3.流星はしるとき

 しゅううううううう
 すたっ
 成層圏から舞い降りてきたと思われるトリスティアが、轟音とともに富士の山頂に着地する。
「トリスティア、宇宙から直行してきたのか?」
「うん。だって、誰も回収してくれなかったんだもん」
 トリスティアは宇宙の塵にまみれた顔をハンカチで拭きながら、フレアの問いに答える。
「すまなかったな。トリスティア、お前はMIAに認定されていたのだ」
 アクアが言った。
「えむあいえー? 何それ? 食えるの?」
「生死不明扱いのことだ。私たちもお前が死んだとは思っていなかったが、デドン将軍とともにデッドダゴンから放り出されて、それっきり消息を絶っていたのだからな」
「あっ、あの後ね、ボク、すごいものを観たんだ! おっきな戦艦がきてね……」
 トリスティアが饒舌に語ろうとしたとき。
「トリスティアさん、そんなことを話しているときではないわ」
 テレポートで、姫柳未来が現れた。
「あっ、未来! ねえ、すごいんだよ、未来がボクをみつけてテレポートで大気圏を突破させてくれたんだ!」
 トリスティアが未来をみてご機嫌な表情になり、マナ姉妹に熱っぽい口調で語りかける。
「だから、そういう話はいまはいいわよ。まず、このデッドロードを何とかしなくちゃ」
 未来は、デッドロードが封印されたマグマの塊を示していった。
 塊は、いまや表面上は静かになり、内部からは全く物音がしなくなっている。
「あっ、ロードがこの中に入ってるの? わー、すごいな、わー!」
 トリスティアは飛びはねながら塊の周囲を走りまわる。
「死んじゃったのかな?」
「そう簡単には死んだりしないさ。その証拠に、日本を包むこの冷気はいっこうにひく気配をみせない。デッド星で闇の力を吸収して強化されたのに加えて、いまの奴は闇のクリスタルを持っているからな」
 アクアは、富士の山頂から下界をみおろす。
 富士の山頂からの眺めは、雲にさえぎられてよくみえないが、壮観であった。
「じゃ、どうするの?」
「いま、テレパシーでエリカを呼んだわ。もうすぐ、光のクリスタルを持ってくるって」
 トリスティアの問いに、未来が答える。
「わー、エリカがくるんだ! わー、ひさしぶり! わー!」
 トリスティアはエリカが大好きなので大喜び。
「エリカが……。彼女には、武神を止めてもらわなければ」
 フレアが呟く。
 じきに、エリカが到着した。
「みなさん、お疲れさまです。ロードは、この中に封印されたんですね」
「そうだ。だが、放っておけばいずれ出てくるだろう」
 エリカに、アクアが答える。
「光のクリスタルは、守りにしか使えません。ですが、私と未来さんで力を発動させれば、トリスティアさんのスペシャルフラッシュを強化することができるかもしれません」
「えっ、ボクの? 何で? フレアとアクアは?」
「私たちは、武器を破壊されてしまった」
 戸惑っているトリスティアに、アクアがいった。
「そうなんだー。わー、じゃ、ボク、がんばる!」
 トリスティアは気持ちいい声でそういうと、大空高く跳躍した。
「さあ、やって! はああああああ」
 空中に静止して、トリスティアが気炎をあげる。
 彼女のレッドクロスが光を放った。
「わかったわ。さあ、エリカさん、一緒に祈りましょう」
 未来はエリカの手をとって囁く。
「そうですね。では、クリスタルも一緒に」
 エリカと未来は、光のクリスタルを一緒に握った。
「さあ。世界の平和のために。みんなの明るい未来のために!」
「人々に笑顔が再び戻ることを願って!」
 二人が目を閉じて祈りを捧げると、レッドクロスが光を放ち、バチバチという火花を散らす。
 と同時に、二人が握っているクリスタルが光を放った。
「トリスティアさん、このフラッシュをあなたにあげる!」
 未来はスペシャルテクニックを発動した。
「スパークルブレッシング!!」
 未来のレッドクロスが強い光を放ち、スペシャルフラッシュの火花が勢いよく跳ねあがる。
 ばちばちばち!
 未来のスペシャルフラッシュが、空中のトリスティアに向かってほとばしり、その身体にまといつく。
「よーし、ボクも! 神様仏様〜」
 トリスティアもまた、空中に静止した状態で祈りを捧げる。
 ばちばちばち
 トリスティアのクロスからもフラッシュが発生し、未来のフラッシュとあわさって、大きな光の波動となる。
「いっくもんね〜! はああああああ〜まといつけ、神々の権威よ!」
 トリスティアが両腕をぐるぐるとまわし、巨大なフラッシュを眼下のマグマの塊に投げつける。
 ぶしゅうううう
 がががっ
 デッドロードの封印されたマグマ塊にフラッシュが炸裂し、激しく振動させて、宙に浮き上がらせる。
「いくぞ! ぐるぐるぐる〜」
 トリスティアの身体が、空中で高速回転。
 レッドクロスの放つ光がいよいよさかんに荒れ狂い、天に光の翼が開かれたかのようであった。
 回転しながら、トリスティアの右足が光る。
「ボクは世界のために、お前を倒す! くらえ〜ファイナル流星キーック!!」
 高速回転しながら、トリスティアがマグマの塊に向かって急降下。
 ひゅうううううううう
 びしっ!
 トリスティアのキックが、マグマの塊をとらえた。
「どうだ〜!」
 トリスティアの雄叫びと同時に、マグマの塊にひびが走った。
 ぴし、ぴしぴし
 ちゅどーん!
 大爆発がまきおこった。
「やったかしら!? これでデッドロードはこの世から……」
 未来がはかない期待を言葉にしたとき。
「フフフ。ようやく出してくれたな」
 ロードの不気味な声が、ガーディアンたちの耳にこだました。
「くっ、いかん!」
 アクアが叫んだ。

4.一閃

「う、うわー!」
 トリスティアの悲鳴が富士の山頂にとどろく。
 どごおっ
 凍りついた山肌に、人型の穴が空く。
 デッドロードの下半身のひづめに蹴飛ばされたトリスティアが、山肌の中にめりこんでいた。
「くううっ」
 うめくトリスティア。
「トリスティアさん、しっかりして下さい!」
 エリカがトリスティアに駆け寄って、癒しの光を投げかける。
「トリスティア、大丈夫!?」
 未来もトリスティアに近寄ってくる。
「ここは危険ね。テレポートで脱出しましょう」
「でも、デッドロードは!?」
 未来に手を握られたトリスティアがうめく。
「また誰かがきてくれるよ。わたしたちは一人じゃないもん」
 未来はトリスティアに囁き、エリカと、マナ姉妹とともにテレポートで離脱する。
「スペシャルフラッシュの力を結集したファイナル流星キックでも倒せないとは、どうなっているんだ」
 フレアがいった。
「あの鎧の中に、肉体は存在しない。デッドロードの意識が精神体として存在しているだけだ。物理的な攻撃をいくら与えてもダメなのだろう」
 アクアが冷静な口調でいう。
「で、でも、じゃあどうすれば!?」
 未来が焦った口調でいう。
「これからくる男に聞いてみるのだな」
 アクアがいったとき。
「みつけたぞ、デッドロード!」
 天高く翔る馬にまたがって、ホウユウ・シャモンが現れた。
「兄ちゃーん!」
 アオイを始めとする妹たちも、空中を移動してやってくる。
「遅かったな。待っていたぞ」
 デッドロードが微笑む。
「なぜ嬉しそうな顔をする?」
「私は、より強大な敵を打ち破り、一層の力を手に入れていきたいのだ。お前には、その犠牲になってもらう」
 ホウユウの問いに、ロードが答える。
「犠牲にだと? ふざけるな! デッドロード、お前はただ力を得たいがために、破壊を繰り返してきたのか? 力を得てお前はどうしたいんだ!」
 ホウユウは叫んだ。
「最終的な目的などはない。力のための力だ。高度な文明を誇った私の母国が、その文明をさらに上回る大いなる力に破壊されたときから、私は力というものにとりつかれてきたのだ。この世に正義などはない。あるのは、力と力のぶつかり合いだけだ。私とお前が闘って、どちらが勝つにしても、そいつに正義などはないのだ。ただ、そいつの力が一方よりまさっていたというだけだ」
 ロードは答えた。
「ただ力を得たいという気持ち。デッドロードは、ある意味とても純粋です。その純粋さが、私たちの前に最後にたちはだかる力につながったのかもしれません」
 ミズキ・シャモンがいった。
「お兄様。この剣を!」
 クレハ・シャモンがいった。
「おお、それは、斬神刀!」
「私たちが清めて、退魔の力を強めてあります。これに、私たちの……千光太刀を!」
 クレハが斬神刀を掲げて、目をつむる。
 アオイ、ミズキも刀をあおいで、目をつむった。
 しゅわああああ
 クレハ、アオイ、ミズキの身体から、光の剣が現れ、斬神刀に溶け入っていく。
「うおお、斬神刀が千光太刀を吸収している!? いけるか、これは!」
 ホウユウは斬神刀をとって、天高く掲げる。
 ピカアッ
 斬神刀の切っ先が光を放った。
 そのとき。
「ふぅ〜、やっと着いたぜ!」
 デッドロードを討とうと集団で富士の山道を登っていた、「その他大勢」ガーディアンの一団が、山頂に姿をみせた。
「うわっ、もう始まってるのか。俺たちも参加しなきゃ!」
 ガーディアンたちはいろめきたって、デッドロードに攻撃をしかけようとする。
「ちょうどいい。お前たちの力も俺にくれ! みんなの力をひとつに合わせなきゃ、こいつは倒せないぜ!」
 ホウユウは叫んだ。
「えっ!? そうか、わかったぜ。報酬は山分けだからな」
 ガーディアンたちはニッと笑って、精神を集中させる。
「デッドロードを倒すために! いま、俺たちの心をひとつに!」
 ガーディアンたちの体内から千光太刀が生まれ、次々に斬神刀に吸い込まれてゆく。
 しゅうわあああああ
 無数の光を吸い込んだ斬神刀を光を放ってひときわ大きな剣となり、ホウユウに掲げられて、天高くそびえたった。
「そうだ、それでいい。もっと強大な力を持て。そして、リベンジ・オブ・ジャスティスを発動させるのだ。私は、宇宙的な力を誇るお前たちを倒し、神に等しい力を持つ! そしてその果てに何があるか……みてみたいのだ!」
 槍を構えたデッドロードが、ホウユウに突進する。
「ほざけ! リベンジ・オブ・ジャスティスなど使わない! ドクター・リスキーは俺を信じて解放してくれたんだ! この世界を守るため、正義の剣をお前に振るう! お前が認めない正義は、この世に確かにあるんだ!」
 突進するデッドロードに向けて、ホウユウは斬神刀を構える。
「自分が正義だと思いたいのか? それこそ偽善というものだ! 究極のスペシャルテクニックを使わずにどうやって勝つつもりだ? 肉体を持たぬ私にどんな仕掛けが通じる? 私のシナリオに従わないなら、ここで朽ち果てるのみだ、ホウユウ・シャモン!」
 ロードは、槍を突き出した。
 槍の先端が、ホウユウの胸を貫くかに思えた。
 そのとき。
「とああああああああ! 雲燿ノ太刀・天!!」
 ホウユウは、巨大な光の剣と化した斬神刀を、力いっぱい振り下ろした。
「くっ! 私を熱くさせてそうするつもりだったか! だが、何度もいうが、この鎧を砕いても、私を傷つけることはできん!」
 光の剣の一撃をもろにくらったデッドロードが叫ぶ。
 しゅわああああ
 光が、ロードの身体を包み込む。
「俺は、お前を斬る! 鎧じゃない、お前自身をだ!」
 すぱっ
 ロードの身体を光が走り抜けたかと思うと、ホウユウが斬神刀を再び構えていた。
 一瞬、辺りに静寂が広がる。
「うん? どういうことだ? ロードは何も傷ついていないようにみえるが? ロード自身はわかるが、鎧も……」
 闘いを見守っていたガーディアンが呟く。
「兄ちゃん!」
 アオイがうめいた。
「くっ……何をした? なぜ、この鎧は傷つかない?」
 ロードは戸惑ったような声でいう。
「いったはずだ。俺は、お前自身を斬ると! まだわからないか? 俺は、お前の心を斬ったんだ!」
 斬神刀を振り下ろし、ホウユウはいった。
「心を、だと……? この鎧ではなく? そんなことが……あっ」
 デッドロードの身体が硬直する。
「そ、そんなバカな……肉体を持たぬ、精神体である私自身がダメージを受けている! どういうことだ、これは……」
「刀とは、必ずしも肉体ばかりを斬るものではない。俺は、みんなの光を吸ったこの剣を持って、感じたんだ。大いなる光の意志を。真の敵を討とうとする光の力を!」
 ホウユウが見守る中、デッドロードの鎧がガクッとなって、地面にくずおれる。
 続く声は、その場にいる全員の脳裏に直接響きわたった。
「消滅するというのか!? この私が……精神体でさえ消滅したら、何が残る? 私というものが、完全に消えるのか……そんな……」
「さらばだ、デッドロード。お前の戦士としての最期、しかと見届けたぞ」
 荒い息をつきながら、ホウユウは膝をつく。
「お兄様!」
 クレハたちがホウユウに駆け寄った。
「むう……いいだろう、認めよう。私の負けだ。心を斬るとは、剣の極意だな。だが、滅びるつもりはない。この世界を出て、別の世界に移るとしよう。そうだ、精神体だけが存在する世界に行こう。そこになら、まだ、私の居場所があるかも……しれない……」
 デッドロードの声が次第に薄くなっていき、消え入らんばかりになった。
「やった。やったのか!?」
 闘いを見守っていたガーディアンたちが、ホウユウの周囲に駆け寄ってくる。
「これで日本は守られた! そして、デッドクラッシャーズもデッド星人ももう怖くはない! なんてったって大将をやっつけたんだからな。これで日本を包む冷気も……あれ?」
 浮かれ騒ぎそうになったガーディアンたちが、眉をひそめる。
 デッドロードの本体を倒したにも関わらず、日本全体を包む冷気はいっこうにひく気配をみせないからだ。
「くっ、まさか……」
 全身の力を振り絞って一撃を放ち、いまにも卒倒せんばかりのホウユウがうめく。
「お兄様、あの鎧からまだ邪悪な力を感じます……!」
 ミズキがいったとき。
 ふわああ
 くずおれていたデッドロードの鎧がひとりでに起き上がって、宙に浮いた。
 そして。
「フハハハハハ! フハハハハハハハ!」
 乾いた笑いが響く。
「この声は……!」
 遠くから闘いを見守っていたエリカが呟く。
「心当たりがあるの?」
 未来が尋ねた。
「同じだわ。闇のクリスタルに支配されたネコ男爵の口から出てきた声と……」
 エリカは、懐かしい幹部の名前を出した。
「闇のクリスタル! そうよ、まだ鎧の中にはクリスタルが!」
 未来の顔が真っ青になる。
「ガーディアンたちよ。敵ながらあっぱれというべきだが、デッドロードの鎧がある限り、闘いは終わらない! たとえ宿主を失っても、この鎧自体に宿る邪悪な意志が、お前たちを滅ぼすだろう!」
 鎧の中から、聞くだにぞっとするような声が言葉を紡いでいる。
「長年の闘いの中で、デッドロードの鎧は、それ自体が意志を持つようになっていったんだ。デッドロードの精神の持つ闇の力を吸って、驚くほど邪悪に染まった意志を! そして、闇のクリスタルも意志を持っている。デッドロードの意識はこの世界を去ったが、ロードの鎧と、闇のクリスタルが力をあわせて、ひとりでに動き出しているんだ!」
 薄れゆく意識の中で、ホウユウはいった。
「お兄様、闘いはもう無理です。早く休まないと」
 妹たちは、失神した兄の身体を抱えて戦場から離脱してゆく。
「おいおい、この鎧とクリスタルも砕かないといけないのか? でもどうやれっつうんだ。ある意味ロードより得体がしれなくて怖いぜ!」
 ガーディアンたちはどよめく。
「フハハハハハハハハ! 死ね! 世界は既に終末を迎えている!」
 宙に浮いた鎧から、濃厚な闇の力が放出される。
「う、うわー!」
 闇の力にまといつかれ、喉を締めつけられたような痛みを覚えて、ガーディアンたちは悲鳴をあげた。
「どうすればいいの。きて、武神さん……」
 光のクリスタルを握りしめて、エリカが呟く。
 デッドロードを倒したというのに、彼の置き残した邪悪な鎧によって、世界はこのまま滅びてしまうのだろうか?

5.五条大橋の闘い

 そのころ、京都では。
「ペーン、ペーン! ペーン!」
 無数のデッドペンギンたちとともに、デッドマンモス率いる再生超甲人機軍団が街を我が物顔にのし歩いていた!
「デッド、デッド、デッドマンモスゥ!」
 四つん這いになって街路を駆け抜け、吠えるデッドマンモス。
 彼らが五条大橋の上にさしかかったとき、奴は現れた!
「ぞえ〜! どこに行くぞえ〜?」
 マニフィカ・ストラサローネが橋の上に立ちふさがり、超甲人機どもを出迎えた。
「ウガー、そこを通せ!」
 マンモスは長い鼻を打ち振って怒鳴る。
「ここから先には一歩も通さんぞえ。どうしても通りたければ、私を倒してからにするがよい!」
 三つ又槍を振り上げて、マニフィカは叫んだ。
「面白い! いくぞーマンモスゥゥゥ」
 橋の上を突進するマンモス。
「ギガンティックモード! 発動!」
 マニフィカのレッドクロスが光を放ち、その身体がみるみる大きくなってゆく。
 がしっ
 五条大橋の上で、デッドマンモスと、巨大化したマニフィカががっちり組み合った。
「ウガー!」
「ふん〜」
 唸る二体。
 そして。
「ペーン、ペーン!」
 大将同士の対決をよそに、デッドペンギンたちは鴨川の凍った水面を渡っていこうとした!
 と、そこに。
「ぴぎゃ〜!」
 水面に張った氷を割って、ギルマンたちが登場。
「ペーン、ペーン!」
「ぴぎゃ〜! おぎゃ〜!」
 デッドペンギンとギルマンたちが激突する。
 ちゅどーん!
 ギルマンに接触したデッドペンギンたちが自爆し、大爆発が巻き起こった。
「ぬっ!? お前たち、大丈夫か!?」
 殉職してゆく部下の姿に、マニフィカは衝撃を受ける。
「いまだ、ウガー!」
 力のゆるんだマニフィカを突き飛ばして、デッドマンモスが牙を突き入れようとする。
「くうっ」
 マニフィカは三つ又槍を振るった。
 その脳裏に、ギルマンたちの声がこだまする。
「ぴぎゃ〜! マニフィカ様ぁ! 平和のために、この世に生きる善良なるものどものために! どうか我らのことは構わず、巨大な敵を倒して下さい〜あぎゃ!」
 ちゅどーん!
 次々に爆死してゆくギルマンたち。
「お、お前たち! う、うわああああああ」
 怒りに震えるマニフィカのクロスが激しい光を放ち、ガーディアンの力を無限大に増幅させる。
「死ねー!」
 突進したデッドマンモスの牙が、マニフィカのクロスに突き立てられた。
 かきーん!
 だが、海の女王の鎧は、マンモスの牙を弾いていた。
「お前たち超甲人機は、生けるものの生命をいたずらに奪うのみ! 許さんぞえ!」
 マニフィカは三つ又槍を力いっぱいマンモスの巨体に突き刺した。
 ぐささっ
「う、ウガー!」
 吠えるマンモス。
 だが、まだやられていない。
「させるか。デッド、デッド、デッドムササビィ!」
 上空からデッドムササビが攻撃を仕掛けてきた。
「あちょー!」
 マニフィカの手刀がムササビの脳天に炸裂。
「うがー!」
 ムササビは咆哮とともに爆発。
「お前もやってやるぞえ!」
 マニフィカは鴨川の河原に降りて、地面に両腕を突っ込む。
「がー!」
 デッドモグラがその腕に捕えられて、河原に引きずりあげられる。
「神秘の海のクラッシュぞえ!」
 マニフィカが腕を振ると、圧倒的質量を誇る海水が宙に現れ、もがくモグラに打ちつけられる。
 ざばあっ
「も、もぐもぐもぐ! うわー!」
 デッドモグラは水圧に耐えきれず爆発。
「ペーン、ペーン!」
 なおも存在するデッドペンギンが、マニフィカに抱きつき、自爆しようとする。
「茶番はもう終わりぞえ!」
 マニフィカは、自身に張りついたペンギンの頭をつかんで引きはがすと、橋の上のマンモスに向かって投げつける。
「ぐ、ぐわー!」
「ペーン!」
 ちゅどーん!
 三つ又槍に巨体を貫かれて気息奄々のマンモスにペンギンが激突、爆発が巻き起こる。
 だが、デッドペンギンはまだまだ無数に存在する。
「ペーン、ペーン!」
 それらのペンギンたちがいっせいにマニフィカにテレポート攻撃をしかけようとしたとき。
 ぴ〜ひょろろろろろろ
 不思議な笛の音が吹き渡ったかと思うと、鎧兜に身を包んだ兵士たちが現れ、ペンギンに斬りかかってゆく。
 ちゅどーん、ちゅどーん!
 兵士に襲われたペンギンたちが次々に爆発。
「こ、これは!? お前たちは何者ぞえ? 何のために闘う?」
「我らは、神命により、古の都を守る者。都を汚す者は決して許さない」
 マニフィカの問いに、兵士たちの一人が答えた。
 兵士たちの活躍により、デッドペンギンはみるみるその数を減らしてゆく。
「これで京都の街は守られたぞえ。ギルマンたちよ、安らかに眠るぞえ」
 マニフィカは死んでいったギルマンたちの亡骸を抱えて、古の都を去ってゆく。
 部下たちを、生まれ育った海で葬るために。
「闘いには勝ったが、この虚しさはいったい? なぜこんなことになってしまうのか。全ては平和を守るため? だが、犠牲はあまりにも大きいぞえ」
 深い思索にふけりながら、マニフィカは海の底に潜っていった。

6.トゥルー・ジャスティス

 太平洋上を、日本に向けて飛行する、アメリカ軍のスーパー爆撃機。
 そこに搭載されているのは、恐るべき原子爆弾だった。
「大統領、指示を! 作戦はやはり決行ですか?」
 特務を帯びたパイロットが、ホワイトハウスに直接打診する。
「スーパー爆撃機パイロットへ。ガーディアンたちは、敵を完全に倒すことはできなかった。人工衛星からの情報によれば、デッドロードの鎧自体が意志を持ち、世界を滅ぼす活動をやめようとしない。よって、原子爆弾は予定どおり投下する」
 大統領の恐るべき指令が告げられた。
「了解。世界のために!」
 爆撃機は、日本に近づいてゆく。
 だが、このとき。
 ブー。
 キキー!
 ホワイトハウスの前に、18輪トラック「コンボイ」がフルスピードで突っ走ってきたかと思うと、急ブレーキをかける。
「ヘイ、アーユーアメリカン? ノーノー! ユー・シュド・ファインド・ジャスティス!」
 コンボイの運転席からジュディ・バーガーが飛び降りて、ホワイトハウスに駆け込んでゆく。
「ジュディ、血迷ったか!? やめるんだ!」
 ホワイトハウスの警備兵がジュディを制止しようとする。
「ノーノー! チレ、チレ!」
 ジュディはたくましい肩で警備兵を次々に弾き飛ばしてゆく。
「ヘイ、プレジデント! イマスカ〜?」
 扉を破壊し、大統領の部屋に踏み込んだジュディが叫ぶ。
「君か。こんな真似をして、どうする?」
 大統領は落ち着いた口調でいった。
「ストップ・ザ・ゲンバク! ナゼ、ガーディアンヲシンジナイノデスカ?」
 ジュディは熱い口調でいった。
「誰が君に情報を流した? おおかた、今回の作戦に反対する内部の人間だろうな」
 大統領は肩をすくめた。
「ガーディアンたちは、精一杯闘った。それは認めよう。だからこそ、最後はアメリカの正義がサッパリ片をつけてくれるのだ」
「ノー!」
 ジュディは拳をデスクに叩きつけた。
「コレハ、セイギデハアリマセン! ナゼワカラナイノデスカ?」
「今はそう思えなくても、全てが終わればわかるはずだ。我々の決断の客観的正当性が」
「ノーノー! ワカリマセン!」
 ジュディは頭を打ち振りながら、ホワイトハウスのテラスへ飛び出した。
「オー、ホワット? スベテノニンゲンノ、イノチヲ、トウトベ!」
 ジュディの叫びが天にこだまする。
 しゅわああああ
 彼女のクロスが光を放った。
「オッケー! イマメザメヨ、アメリカン・トゥルージャスティス!」
 ジュディに向けて銃口を突きつけてきた警備員たちに、彼女は吠えて、親指を天に突き立てる仕草をする。
「オッケー! オッケー!」
 ジュディは叫んだ。
 そのとき。
 奇跡は起こった!
「オッケー! オッケー!」
 警備員たちも銃を捨て、親指を天に突き立てたのだ!
「オッケー! ジャスティス、トゥルージャスティス! ベイビー!」
 ジュディを先頭に、アメリカ人たちはホワイトハウスにあがってゆく。
 ジュディだけではない。
 臨時ニュースでホワイトハウス襲撃の模様を注視していたアメリカ国民の全てが、親指を天に突き立て、オッケーと叫びだしたのだ!
「トゥルージャスティス! トゥルージャスティス!」
 一瞬のうちに、市民運動が全米を駆け巡る。
 ニューヨークで、ロサンゼルスで、人々は街道に「ジャスティス」と書かれた旗を振りながらのし歩く。
「ジャスティス、ジャスティス! アメリカン・トゥルージャスティス!」
 ジュディたちは、ホワイトハウスの大統領にも強く呼びかけた。
「むう。精神系のスペシャルテクニックか。それもいいだろう。だが」
 大統領は首を振りかけた。
 だが。
「ホワイトハウスへ。全て聞いていました。アメリカン・トゥルージャスティスに賛同します。オッケー!」
 スーパー爆撃機のパイロットから、大統領の部屋に通信が入る。
 爆撃機のパイロットもまた、機体を操縦しながら親指を天に突き立て、ジャスティスを声高に叫んでいた。
 ぐいーん
 爆撃機は大きなUの字を描いて、アメリカ本土へと引き返してゆく。
「くっ、何ということだ。オッケーだと!? 何がオッケーなんだ?」
 大統領はジュディに詰め寄る。
「エブリワン・イズ・オッケー!」
 ジュディは大統領の掌をつかむと、無理やり親指を天に突き立てさせた。
「うっ! びかー」
 親指が天を突くと同時に、大統領の脳天に衝撃が走る。
「オッケー! オッケー! アメリカン・トゥルージャスティス!」
 大統領は叫んだ。
「わかったぞ、ジュディ。『ケチなことはいうな』。それが、お前のいいたかったことだな。そして、そこにこそアメリカの正義があるんだ! オッケー!」
 いまこそ大統領は、悟った。
 アメリカは、最後まで大きくあらねばならないのだと。
 原爆には、アメリカの小ささが詰まっているのだ。
「オッケー! ガーディアン、やれるところまでやってみろ! それでダメならアメリカ人が生命がけで敵を倒す! オッケー! ワー!」
 大統領を先頭に、ジュディと、警備員たちが道路に走り出てゆく。
 出迎えたアメリカの国民たちは、みな、涙を流しながら歓喜に叫び続けていた。
 アメリカの、真の道をみいだしたからこそ。

7.発動

 舞台は再び富士山頂へ。
 デッドロードの残した邪悪な鎧、デッドアーマーと対峙するガーディアンたち。
「こうなったらヤケクソだ! 覚悟を決めてあれにぶつかるぞ!」
「おう! わー!」
 ガーディアンたちはそれぞれの武器を構えて、デッドアーマーに討って出る。
「フハハハハハハ! 血祭りにしてくれよう! ガーディアンども!」
 しゅばあああ
 鎧は闇の力を放出しながら浮き上がり、剣を操って応戦してくる。
 ぶしゅうううう
 剣に斬り裂かれて、ガーディアンたちの手足から血しぶきがあがる。
「うわー! きゃー!」
 悲鳴をあげながらも、ガーディアンたちはぶつかっていった。
 彼らのクロスが、光を放つ。
「刺し違えてでもこいつを倒す! でなければ俺たちは滅びるだけだ!」
 祈りの力が介在しない、純粋な破壊衝動が彼らの中に膨れあがってゆく。
 きーん
 ガーディアンたちはいっせいに耳鳴りを覚えた。
「解放……しろ……」
「その鎧を……次元の狭間へ……」
 英霊たちの声が、ガーディアンに囁きかける。
「おう、いくぜ! 臨界点を越えて発動する! 究極のスペシャルテクニック、リベンジ・オブ・ジャスティスを!」
 ガーディアンたちはレッドクロスの力を極限まで発動させ、ついに禁断の扉を開いた。
 戦士たちの意識が肉体を離れ、純粋な存在になってゆく。
 ごごごごご
 唸りとともに、世界全体がねじれて、崩れ始めた。
「フハハハハハ! どこまでやれるかな? 世界が滅びるか、我が滅びるか、それとも俺たちが滅びるか!」
 デッドアーマー内部の闇のクリスタルの放つ洪笑が、輪郭を失いつつある世界の表面に響きわたる。
 そのとき。
「このままでは、この世界が崩壊する。ガーディアンたちは、間違った道を選んでしまったようだ」
 佐々木甚八率いる結社のメンバーたちが、世界の崩壊の中心点に現れた。
「甚八、それでは……!」
 グレイズ・ガーナーがいった。
「ああ。最後の敵は、決まった。まずはあの鎧を破壊する」
 甚八は淡々という。
「最後の敵って……そんな……」
 高田澪が茫然としていう。
「いまは、眼前の敵に意識を集中させるんだ。みんな、合体するぞ!」
 甚八は、結社の仲間たちに呼びかけた。
「おう!」
 それぞれ義体を連れた結社の一員たちが答える。
「よし、まずはスタンダードな敵から片づけるか」
 グレイズ・ガーナーがいった。
「了解。いつでもOKだよ!」
 義体レベッカが叫ぶ。
「ためらいなく破壊できるものから、だな」
 マリアルージュ・ローゼンベルグだ。
「同意、ですね」
 義体メアリィがマリアルージュに寄り添っていう。
「私も、あの鎧の破壊には賛成です」
 高田澪がいった。
「早くやっちゃおうよ〜」
 カミッラ・ロッシーニはやる気満々だ。
「ボクもがんばろうかな〜」
 義体アリアもはしゃいでいる。
「アトランティスの貴族の由緒ある鎧っていうのも、興味ある対象ですわね」
 イングリット・リードは何だかゾクゾクしていた。
「はあ〜寝ていいですかぁ?」
 義体ヴァネッサはこういうときも緊張感がない。
「揚もやるアルよ。世界の破滅を救うアル!」
 揚鈴花がいった。
「みんなでやれば怖くない、だね」
 グエン・ディウは遠くをみているような目でいった。
「正直、自信ないですぅ」
 義体ジエップが消え入りそうな声で呟く。
「命令とあらば生命がけ、だ」
 畑野慎一は覚悟を決めていた。
「よっしゃー! 諸悪の根源をぶった斬るぜー! 爆裂するしかないな、オイ」
 義体レンは一番気合をあげている。
「勝てば官軍、ですからね」
 アブドゥル・アフマートは強い信念がありそうだった。
「どこまでもついていきますわ」
 義体マリーンがいった。
「よし、全員準備はいいようだな。いくぜ!」
 佐々木甚八が呼びかける。
「オッケー! これで決めるよ」
 義体ソラが返した。
「うおおおおおおおおおお〜」
 10人の結社員それぞれが気炎をあげる。
「合体変身!! トゥルーブライド!!」
 10人の結社員、そして義体とが全てあわさり、ひとつになった。
 そして、現れたのは。
「すうううううはあああああああああ」
 目を閉じ、深く呼吸を続ける、純白のドレスの花嫁。
 宙に漂うその花嫁が、目を開いた。
「私は、トゥルーブライド。いまこの地上に降臨し、邪なるものを討とう」
 大いなる意志が、狙いを定める。
「フハハハハハハ! 貴様ら結社に何ができる? 何十人、いや何百人束になろうと同じことだ!」
 デッドアーマーは笑いながらうごめき、トゥルーブライドに襲いかかる。
「……はっ! とあー」
 巨大な腕で攻撃を受け止めるトゥルーブライド。
 その姿はどこまでも白く、気高く。
「受けろ、覇邪の拳を!」
 トゥルーブライドの拳がデッドアーマーを撃った。
 撃たれたアーマーの輪郭が歪む。
 鎧を砕くことなく、ブライドの拳が、アーマーを突き抜けていた。
「むう、この世界の崩壊が予想以上に進んでいる! もはやかたちあるものは意味をなさないのか?」
「フハハハハハハ! 新たな世界の幕開けだ!」
 笑い声をあげながら、アーマーが遠くへ、世界が溶解する彼方へと飛びさってゆく。
「待て!」
 トゥルーブライドは光輝力の翼をはためかせ、飛翔していった。

8.永遠の鈴

 トゥルーブライドとデッドアーマー。
 2体の追跡劇は、いつ果てるともなく続くかと思えた。
 もはや、そこが世界のどこであるかもわからない。
 物質のほとんどはかたちを失い、色と色とがあわさり、めくるめく渦とうねりが辺りを埋め尽くしていた。
「もう限界か……奴は、どこまでいく!?」
 トゥルーブライドは焦ったような口調でいった。
「トゥルーブライドさん!」
 エリカが、ブライドの脇にやってきた。
「エリカ、この状態の世界の中で無事なのか? 光のクリスタルの力か? 他の、ROJを発動していないガーディアンたちはどうなった?」
「みんな、戦闘で傷つき、闘える状態じゃないです。でも、まだ、武神さんがいます!」
 エリカの口調が明るくなった。
「武神だと!? 性懲りもなくくるか」
 ブライドが吐き捨てるようにいったとき。
「性懲りもなくて悪かったなあ!」
 叫び声とともに、武神鈴とリーフェ・シャルマールの乗り込むグレートピジョンロボが現れた。
 その巨大な姿は、崩壊しつつある世界のただ中にあって、いまだ輪郭を失わないかにみえる。
「武神よ、いまごろきても、貴様ではどうにもならん。みろ、デッドアーマーは地平の彼方に消えていった」
「いや、すぐ近くにいるさ。結局、いまのこの状態は、世界が輪郭を失いつつあるもので、『距離』という概念も意味をなさなくなってきているんだ」
 ブライドに、武神は答えた。
「そのとおりだ! フハハハハハハ!」
 笑い声とともに、デッドアーマーが姿をみせる。
「よし、ブライド、あいつの中にある闇のクリスタルを奪ってこい」
 武神はいった。
「私は、お前の命令を聞くつもりはない。それに、後でお前を……」
 ブライドが言葉の後半をいおうとしたとき。
「さあ、お前たちも純粋な姿と化せ!」
 デッドアーマーが、槍を投げつけてきた。
 武神たちに近づいた槍が、分裂するようにその数を増やし、無限に近い数となった。
 槍の雨であった。
「むう!?」
 武神たちが思わず身をすくめたとき。
「武神さーん!」
 エリカが武神たちをかばうかのように槍の雨の前に立ちふさがり、両腕を大きく広げた。
 ピカッ、カチーン!
 光のクリスタルがその力を発動し、形成された強力なフィールドが槍の雨を次々に弾いていく。
「エリカ、そのクリスタルを貸せ!」
「武神さん、それはできません! これをお渡しすれば、あなたは本当に狂ってしまいそうです」
 エリカは首を振った。
「わからない奴だな。俺は、狂ったって構わない。いや、もう狂っているんだから、いまさらどうってことはない」
「武神、そんなことをいっても彼女は納得しない」
 リーフェが武神にいった。
「フハハハハハ! いまや、武器はいくらでも、念じるだけで量産されつつある! レッドクロスが生み出された世界に近づきつつあるのだ……。物質の輪郭が崩れたかと思えば、その次には、物質の輪郭を自由にコントロールできる世界が到来する! だが、どんな世界になろうと、この私の邪悪な意志は変わらない! 全てが無に帰するまで破壊を続けるのみだ!」
 デッドアーマーの怒鳴り声が超世界にこだまする。
「あの闇のクリスタルは、俺と同等か、それ以上に狂っている。いまや、審判を下すべきときだ」
「審判、とは?」
 リーフェが、武神に問う。
「決まっているだろう。デッドロードがあのとき俺を侮辱した、その罪が裁かれることだ!」
 武神は血走った目でいった。
「な……」
 さすがのリーフェも目を丸くする。
「武神、やはりお前は!」
 トゥルーブライドの語気が荒くなった。
「エリカたちは結界に入れ! 俺は対消滅炉を発動させ、次元の狭間、虚数空間を広げる。そこに、デッドロードの忘れ形見であるあの鎧は、永遠にさまようことになるんだ!」
「そうか。では、お前はここから出ろ。私一人が残って、あの鎧とともに虚数空間をさまようとしよう」
 リーフェがそういって、武神をコクピットごと機体の外へ射出するスイッチに手を伸ばしたとき。
「そういうだろうと思ったぜ。さらばだ、リーフェ!」
「な!」
 武神が、同様に、リーフェを射出するスイッチに触れていた!
 しゅぽーん!
「うわあああああああ、よせ、武神! なぜお前が残る!」
 コクピットごと機体外へ射出されながら、リーフェが怒鳴る。
「消えるのは俺一人でいい。心弱き男が狂気の果てに生み出した生み出した悪夢の産物である、この俺一人でな!」
 武神はロボの全ての対消滅炉のリミッターを解除し、暴走状態にさせた。
「武神……」
 トゥルーブライドは黙って、武神を見守っていた。
「うおおおおおおおお、死の鎧よ! 俺とともに冥府へ行こうぜ!」
 グレートピジョンロボがデッドアーマーにとりつく。
「フハハハハハハ! フハハハハハハ!」
 アーマーからは、もはや狂ったような洪笑しか聞こえない。
「ダ、ダメです! 私は結界には残りません! 武神さーん!」
 エリカもまた、突進してデッドアーマーにとりつくと、片手に握っていた光のクリスタルを、アーマー内部に突っ込んだ。
「ハハハハハハ! うおっ、何を!」
 アーマー内部の、闇のクリスタルからの声がはじめて動揺をみせる。
 光のクリスタルと、闇のクリスタル。
 ふたつのクリスタルがあわさったとき、相反する力が大反発を起こした。
 かっ
 どーん!
 宇宙がはじまったとき、ビッグバンと同じ規模の大爆発が巻き起こった。
「バカな。そこまでして、究極の自滅か!? ガアアアアア!」
 悲鳴とともに、闇のクリスタルは死滅する。
「うわあああ、宇宙が、宇宙がリセットされる!?」
 トゥルーブライドも悲鳴をあげていた。
「エリカは!? 死んだのか。くそっ」
 グレートピジョンロボも輪郭を失いつつある大爆発の中で、武神はなおも執念をみせた。
 闇のクリスタルがなくなってからも存在を続けるデッドアーマーをつかんだまま、ロボは、対消滅炉が生み出した虚数空間へと飛びこんでゆく。
「この鎧は、あまりにも邪悪だ。どうしても封印しなければならない。いまエリカがやったことのせいで、宇宙の歴史はもう一度巻き戻しになってしまうかもしれないけどな! 結果的に世界が崩壊したと同じことになるわけだ、物質の輪郭が失われないというだけで! あの心弱き男も、また生まれ変わるかもしれないな……そして、今度こそエリカ、お前と結ばれ、幸せに暮らせるといいな!」
 虚数空間、次元の狭間の奥に入りこみながら、武神はわめいた。
「いいか、誰も俺を探すんじゃないぞ! 俺は、これで満足なんだ! デッドロードだったこの鎧に、永遠に次元の狭間をさまよう終身刑を科してやれるんだからな!」
 武神が、デッドアーマーとともに、次元の狭間に消えてゆく。
 そして。
 世界は、動きをいったん止めた。

9.大宇宙の意志

 動きの止まった世界。
 トゥルーブライドでさえも、どこかへ消えてしまっている。
 だが。
「どういうことじゃ。この機体は無事なようじゃ」
 エルンスト・ハウアーが、フルメタルのコクピットで首をかしげていた。
 コクピットのモニタに、不思議な図形が浮かびあがる。
「力の発動。次元転換装置じゃな」
 エルンストは、フルメタルの意志と自分の意志が等しいように感じた。
「わかっているとも。リセットのリセットじゃ。この世はゲームではないのじゃ。せっかく刻んできた歴史を、もう一度やり直してもしょうがないからのう」
 フルメタルの次元転換装置が、世界を修復させてゆく。
 ビッグバンと同規模の爆発によって、一からつくり変えられようとしていた世界が、流れを逆行させられ、爆発前の状態に戻ってゆく。
 そして。
「ガーディアンたちのROJも、リセットさせてもらうぞ」
 エルンストは、世界をさらに修復させた。
 ガーディアンたちの発動したROJによって、輪郭を失っていた世界が、再び輪郭を取り戻し、物理法則が復帰させられてゆく。
 太陽系。
 地球。
 日本。
 富士山。
「はっ。ここは?」
 ガーディアンたちは、富士の山頂で眠りから目覚めた。
「デッドロードの鎧は!? 武神は!? やはり次元の狭間を永遠にさまようことになったか」
 ガーディアンたちが、少しずつ状況を認識していくと同時進行で、日本中に明るい声が飛びかっていた。
「おい! 冷気がひいていくぞ!」
「やったんだ! ガーディアンたちが悪を倒したんだ!」
 わー!
 わー!
 人々の歓喜の声。
「武神さん、そんな……」
 エリカが、茫然として富士の山頂にたたずんでいる。

「うおー! 勝ったぞー!」
 富士山頂で歓声をあげるガーディアンたち。
 と、そこに。
 しゅおおおおおおお
 トゥルーブライドが空中に姿をみせ、下降してきた。
 しゃらあああん
 光が散っていくような不思議な音がしたかと思うと、ブライドの姿は消え、10人の結社員とそれぞれの義体の姿とが山頂に姿をみせていた。
「どういうことだ!? 合体が解けてしまうとは……」
 佐々木甚八は怪訝な顔をしている。
「おい、甚八! お前たちも、俺たちと一緒に勝利を祝おうぜ!」
 浮かれ騒ぐガーディアンの一人が、甚八の肩に手をかけたとき。
 ばしっ
 甚八は、その手を払いのけていた!
「な、なにをする!?」
 歓声をあげていたガーディアンたちは、いっせいに静かになる。
「……」
 佐々木甚八を始めとする10人の結社員と義体とが、無言のままガーディアンたちをにらみつけていた。
「じ、甚八! お前たちは、まさか……」
「ガーディアンよ、レッドクロスを廃棄するのだ」
 甚八はいった。
「なにっ!? まだ闘いは終わったわけではない。デッドクラッシャーズの残党は世界中に存在する!」
「そうだ、俺たちの闘いはまだ終わらないんだ!」
 ガーディアンたちは口々に抗議した。
「佐々木甚八よ、彼らのいうとおりだ。まだ闘いは終わったわけではない。ただデッドロードが倒れたというだけだ」
 甚八の携帯端末に、ミスター・ゼットからの通信が入る。
「結局彼らは、ROJを発動させ、世界を崩壊の危機に陥れた。結果的にロードは倒れたものの、彼らは自分たちの行いに何の反省もない。もはや捨て置けないのだ!」
 甚八の語気が荒くなった。
「おいおい、てめー何様のつもりだよ!?」
「俺たちがクロスをどうしようと、お前が直接何かいえる筋合いじゃないぜ!」
 ガーディアンたちは、次第に気色ばんでくる。
「やめて! もう争いはみたくありません! しかも、仲間同士で争うなんて!」
 エリカはガーディアンを制止しようとするが、うまくいかない。
「ふっ、仲間同士か」
 甚八は笑った。
「何がおかしい!? 甚八、お前はもう俺たちの仲間ではないというのか?」
 ガーディアンたちが詰め寄ってくる。
「佐々木甚八、そして結社の諸君よ、この星の平和を取り戻すには、まだまだガーディアンたちの力が必要とされるのだ。せっかく強大な敵を倒した後なのだ、少し頭を冷やして考え直してはどうだ?」
 ミスター・ゼットが冷静な口調でいう。
「いや、もう見限るべきときはきた。俺もガーディアンに助けられたことがあるし、複雑な気持ちではあるが、彼らを放っておくわけにはいかない。もう1度、トゥルーブライドで立ち向かう! みんな!」
「おう!」
 甚八たち結社員は再び横一列に並んで、目を閉じた。
 結社員たち、そして義体が再びひとつになり、トゥルーブライドが現れるかに思えた。
 だが。
 甚八たちの脳裏に、不思議な声がこだましていた。
「やめるのだ。先ほどトゥルーブライドの合体を強制解除したのは、私だ」
「な、何だ。この声は!?」
 甚八は動揺する。
「私が何なのか話したところで、きみたちには理解できないだろう。ただ、この世界をつくった者とだけいっておこう」
「この世界をつくっただと!? 何をいっている!」
「信じないならそれでもよい。だが、あの武神という男がデッドアーマーを追放できなかったなら、私が直接動くところだったのだ。幸い、アーマーは次元の狭間に封印された。そこで私はひと安心かと思ったのだが、あの娘、エリカの思いきった行動のために、この世界はリセットされそうになっていた。だから私は、フルメタルという機械の力を解放させ、次元の狭間のデッドアーマーと、破壊された闇のクリスタルはそのままにして、世界を復元したのだ。世界の歴史をみだりにリセットすることは、バウムでは禁じられている。結局、新しい世界をまたつくるのと同じことになるからな」
「お前はいったい何なのだ? 神というものが本当に存在するなら、お前がそうなのか? それに、バウムとは何だ?」
「詳しく説明することはできない。ただ、世界と世界をつなぐ場、とだけいっておこう。この世界とは全く違う、別世界の技術で生み出されたレッドクロスは、この世界のバランスを崩壊させる、危険な力だ。それは認めよう。だが、彼らガーディアンは、不遜な力を身につけてこの私に挑戦しようと考えていたあの男、デッドロードを駆逐してくれた。私はその点では彼らに感謝しているのだ。だから、佐々木甚八とその仲間たちよ、どうか今回は私に免じて、彼らを許してやって欲しい」
「許してやって欲しいって、そういうわけにはいかない。あんたがデッドロードを疎ましく思っていたなんていうのは、俺たちに関係ないことだ!」
「私に逆らうのはよくないぞ。ひとつヒントを与えてやろう。デッドロードの母国を崩壊させたのは、ほかならぬこの私の力なのだ。戻って結社に、私と話したことを伝えるがいい。そして、ガーディアンたちを監視する活動は続けるのだな、これからも」
「甚八! この声の主がトゥルーブライドの合体を制限できるだけの力を持っているのは本当だと思うし、ここはひいた方がいいよ」
 ソラの叫び声。
「私も賛成ですね。ベルゼブブは、この声の主が恐るべき存在であると感じている」
 イングリット・リードが、深い畏怖をこめた口調でいった。
「最後に、甚八よ。既に気づいているか? きみたちの結社は、パワーバランスの調整を第一の目的としてきたはずだ。私もまた、この世界のパワーバランスを常に監視している。そして、レッドクロスという異世界の物質に、この世界のバランス崩壊をくいとめる切り札としての役割も感じているのだ。現に、この世界を闇に染めようとしたデッド星人たちに対して、クロスは有効な武器となった。今後も、世界全体のバランスを脅かす事件が発生した際に、クロスは活躍することだろう。私の予想では、おそらく今後、○○○が現れたときに……いや、何でもない」
 声の主は、言葉を濁した。
「クロス自体にも、バランスを崩壊させる要素があると思うが?」
「もちろん、クロス自体が危険だといえばそうだし、注意深く監視する必要があるだろう。だが、クロスを破壊しようとするなら、私は、クロスを生み出した世界の創造者と調整しなければならなくなる。できればそうしたことは避けたいのだ」
「全く、そんな、雲の上の話をされたって……まあいいか。あんたと話したことは、確かに結社に報告しなければならないようだ。クロス自体にパワーバランス調整の役割があるという説明には一理あるな。だが、俺たちは、クロスを糾弾したかったわけじゃない。ガーディアンを叩きたかったんだ!」
「そう感じるのは勝手だが、ガーディアンに罪があるわけじゃない。彼らに力を与えたレッドクロスに罪があるのだ。だが私は、クロスの罪については敢えて容認しようと思っている。理由は、これまで述べてきたとおりだ。では、さらばだ」
 甚八たちの脳裏に響いていた声が消えた。
「どうした、甚八!」
 ガーディアンたちが怒鳴る。
「何でもない。何だか白けてしまったが、クロスとガーディアンと、どちらに罪があるか、もう少し考えてみるのもいいだろう。ではまた、しばらくの間はきみたちの監視者として振る舞うとしよう、我々は」
 甚八は、仲間の結社員たちに合図を送った。
「行くぞ」
 こうして、結社とガーディアンの衝突は回避された。

10.

 富士の樹海。
 デッド星と地球への『扉』の前に、凍りついたガーディアンの姿があった。
 モップをかついだ少女。
 アンナ・ラクシミリアである。
 デッドロード出現により再び汚れた樹海を、彼女は懸命に掃除していたのだが、ロードの恐るべき力により、カチカチの氷の像にされてしまっていたのだ。
 だが、デッドロードが倒され、日本中を覆っていた冷気がひいていくいま、彼女を封印していた氷も少しずつ溶け始めていた。
 そして。
 みしみしみし
 アンナを包む氷全体に大きなひび割れが走る。
 モップをつかんでいたアンナの拳に、力が入る。
 ぱりーん
 ついに、氷全体がはがれ落ちた。
「ふう、冷たかったですわ」
 アンナは息をついた。
「氷づけになっていた間、いろいろ考えていましたが、全ての元凶はこの『扉』にあるといえそうですわ。もう変なものが出てきて地球を汚さないように、この『扉』をお掃除することにしましょう」
 アンナはモップを構え、精神を集中する。
 彼女のクロスが光を放った。
「アンナ・スチームインパクト!!」
 アンナの構えるモップの先端が高速回転し、高温の水蒸気を噴射する。
 ぶしゅううううう
 しゅわああああああ
「この地上から、人々を嘆き悲しむ災いが、少しでも消えんことを!」
 アンナが祈りを捧げると、モップが火花を散らす。
 スペシャルフラッシュの力で、水蒸気がプラズマ化し、『扉』全体を包みこんでいった。
 ぴかあああああああああ
 『扉』のすぐ近くにあって、『扉』が開くのをずっと抑えようとしていた玉石の封印が光を放つ。
 光の中で、『扉』は煙をあげながら収縮してゆく。
 ついに『扉』は小さな点となり、ついで、地球上から消え失せた。
「さあ、これでひとつ、大きな掃除をすませました。次は、地球全体がきれいになるまでモップをかけましょう」
 アンナはニッコリ微笑み、モップを担いで樹海から去ってゆく。
 空全体を灰色に塗りつぶしていた雲が消えさり、ようやく顔を出した太陽の光が、アンナの頬をまばゆく染めあげていた。
 熱く、熱く。


(第3部第3回最終回・完)

【報酬一覧】

マニフィカ・ストラサローネ 2、000万円(デッドマンモスと再生超甲人機2体を倒す)
ホウユウ・シャモン 5、000万円(デッドロードの精神体を倒す。鎧は破壊できなかったので半額)
武神鈴 5、000万円(デッドアーマーを次元の狭間に封印する)
ジュディ・バーガー 2、000万円(アメリカ軍の原爆投下を阻止する)
エルンスト・ハウアー 2、000万円(崩壊しかかった世界をフルメタルの力で修復する)

【マスターより】

 最後の最後で遅れまくってしまいました。すみません。そして、いままでありがとうございました。ですが、最後まで明かされなかったいろんな謎、そしてガーディアンたちの今後を描く後日談シナリオを1回運営して、物語の終わりとさせて頂こうと思います。もう少しおつきあい下さい。よろしくです。