「英雄復活リベンジ・オブ・ジャスティス」

第3部「宇宙編」第1回

サブタイトル「祈るでしゅ」

執筆:燃えるいたちゅう
出演者:熱きガーディアンのみなさま

1.デッド413の脅威

 ちゅどーん! ちゅどーん!
 デッド星人の円盤が次々に東京のビルを破壊してゆく。
「撃てー!」
 在日米軍の戦闘機や戦車が攻撃を円盤に与えるが、全くきいていない。
「おのれ!」
 ローリー司令がゴッドクロスを装着して上空にあがる。
「とあー!」
 ローリーの拳が円盤を打った。
「うっ、硬い! これは」
 ローリーは辟易した。

「デッド星人の円盤は、デッド413という、宇宙で最も硬い金属でつくられている。デッド星人は、デッド413の生産と加工の技術を独占しているのだ! 宇宙平和維持軍も、あの金属にはなすすべもなかった」
 電脳空間で戦闘をモニターしながら、ミスター・ゼットが呟く。

 地球の月の間にある、デッド星人の宇宙艦隊。
「デドデドデド〜! 地球人どもを見殺しにしろ! 遠い昔に我らの先祖が『扉』をとおってあの星にゆき、とっくの昔に征服したと思っていたのだが! 救援の知らせがきて、やっとわかったぞ。この星には何か、我らを駆逐する技術があるのかもしれない。だが、その技術ごと焼き払ってくれよう!」
 地球襲撃部隊の総司令官、デドン将軍は自信満々だ。

「うわー、攻撃がきかない! くそー!」
 ガーディアンたちも苦戦していた。
 そんな中。
「あはははははは〜!」
 円盤の上から、高らかな笑い声が。
「トリスティアだ! どうやってあんなところに!?」
 ガーディアンたちは驚愕の叫びをあげた。

「むう? 何だ、あの小娘は? どうやってあそこに? いくつもの星を滅ぼしてきたが、こんなのははじめてだ! うーむ、やはり未知のテクノロジーがあるな!」
 デドン将軍もまた、トリスティアの登場にびっくりしていた。

「あははははははは〜」
 トリスティアは笑いながら、くるくるまわる円盤の上に立って、攻撃を仕掛けようとした。
 そのとき。
「は〜目がまわる〜」
 トリスティアは円盤の高速回転に耐えられず、ことりと倒れて、地上に落下してゆく。
「何だったんだ?」
 ガーディアンたちはただ唖然とするのみだった。

「そろそろ、私もいきますよ」
 高田澪がシークレット・アーツを発動する。
「メタトロン召還!」
 澪によって、大天使メタトロンが召還される。白を基調に金色の装飾をあしらった巨大なロボットである。
「サイキックウェイブ! リフレクション!」
 ウェイブの力で敵のレーダーを妨害し、リフレクションで攻撃を弾きながら、メタトロンは円盤たちの背後にまわりこんで攻撃しようとする。
 だが。
「くっ、硬い!」
 澪は舌打ちした。
「それに、数が多すぎる。他のガーディアンは役にたたないし、ここはビル群への攻撃がなるべく減るように、攻撃を防いでいくべきでしょうか」
 澪はメタトロンをどう動かすべきか考えあぐねた。
 宇宙一硬い金属、デッド413。
 果たして、突破の方法はあるのか?


2.宇宙斬り

「でっど〜!」
 円盤たちの攻撃に混じって、スペースデッドカマキリがビル群を破壊する。
「ああ……なんてこと。私があいつを宇宙へテレポートさせたせいで、こんなことに」
 姫柳未来は涙をためた目で宇宙怪獣を見上げていた。
 未来のテレポートによって、宇宙空間の彼方に飛ばされた超甲人機デッドカマキリ。
 そのなれのはてが、目の前の宇宙怪獣スペースデッドカマキリであった。
「どうすればいいの? 円盤にも、私たちはダメージを与えることができない。このまま私たちは滅びてしまうの? 半分は私のせいで? そんな!」
 未来は、いつになくうちしおれていた。
「いまの私にできること……それは、祈ること!」
 未来は、一心不乱に祈り始めた。
 日本の神々に。
 円盤を砕き、宇宙怪獣を倒し、この日本に、世界に平和を取り戻せるようにと。
「くるくる〜!」
 スペースデッドカマキリの目からビームがほとばしり、未来の周辺を焼いたが、それでも少女はひるまない。
 煙とすすで顔を真っ黒にしながら、それでも祈り続ける。
「おぬし、何をしておる? 死ぬ気か?」
 マニフィカ・ストラサローネが未来のかたわらにたった。
「神さま!」
 未来は祈り続けている。
「祈るより、闘うときじゃ! ギガンティック・モード!」
 マニフィカはスペシャルテクニックを発動し、巨大化した。
 ビル群の中にぬっと立つマニフィカ。
 だが、スペースデッドカマキリはマニフィカよりも大きい。
「相手にとって不足はない! いくぞえ、ファイアーボール!」
 マニフィカの放った火球が宇宙怪獣を焼く。
「でっど〜」
「こっちへこい!」
 マニフィカに誘導されて、スペースデッドカマキリは飛んでゆく。
 東京湾に、マニフィカは入った。
「さあ、海へこい。お前の最後ぞえ」
「でっど〜」
 カマキリは宙に浮かんだまま、カマでマニフィカに斬りつける。
 ガキッ!
 マニフィカの三叉槍が、巨大なカマを受けた。
 ぎりぎりぎり
 両者とも、そのまま固まっている。
 力と力がせめぎあった。
 そこに。
「いや〜、こういうの一度やってみたかったんじゃよ〜」
 エルンスト・ハウアーがフルメタルに乗ってやってきた。
「いくぞ! 暗黒全鋼流殺虫拳!」
 フルメタルが空中で変形し、ロボットの形状になる。
「落ちろ! 蚊トンボ〜!」
 バシッ
 フルメタルの平手打ちが、カマキリを撃った。
「でっど〜ぶくぶくぶくおえ〜」
 カマキリは吹っ飛ばされ、東京湾の水につかる。
「いまじゃ!」
 マニフィカは三叉槍をカマキリの腹部に突き立てた。
「ぐわ〜」
 うめくスペースデッドカマキリ。
「全ミサイル・発射!」
 エルンストはフルメタルのミサイルを次々に発射!
 ちゅどーん!
 巨大な水柱があがった。
「このカマキリは、魚のエサにするとしようかの。たまには、海の女王らしく施しをせぬとな」
 マニフィカは、バラバラになったカマキリを海に沈め、多くの魚たちにわけあたえた。
「ぴぎゃ〜! ぴぎゃ〜!」
 従者ではる半魚人のギルマンたちが水面に顔を出し、口々に女王の偉大な勝利をたたえるのだった。

 一方、未来は、円盤によって破壊されるビル群の中でただ一人祈り続けていた。
 びびびびびびび!
 ついに、円盤の放つビームが未来を直撃した。
 どごーん!
「ああ〜!」
 未来のレッドクロスが破壊され、生身になった少女の身体が投げ出される。
「うう……神さま……私は……日本を守りたいんです」
 うめく少女の身体が、不思議な光に包まれて、消えていった。

3.デッド対戦格闘

 多摩丘陵。
「ここか、デッドクラッシャーズの日本支部は」
 佐々木甚八は、義体ソラとともに悪の秘密基地の前に立っていた。
 甚八以外にも、多数のガーディアンの姿が。
「俺は、いや俺たちはいまは亡きグレイト・リーダーに敬意を表し、とりあえずアーマードピジョンに参加することにした。だが、ガーディアンを信用したわけではないし、このレッドクロスもなるべく使わないつもりだ。こんなものに頼っていたら、もともとの肉体が弱くなるからな」
 甚八は、ボール状のレッドクロスを掌の中で握りつぶすようにした。
「突入するぞ〜!」
「おお〜!」
 ガーディアンたちは威勢のいいときの声をあげて、いっせいに秘密基地に攻め入っていく。
「何だ、こいつら? 作戦らしい作戦もなく、そのまま正面から突入か? くるときも姿を隠していないから、敵に存在を知られているぞ。全く、どこの軍隊にもこんな兵士は存在しないぞ!」
 甚八は呆れながら、ガーディアンたちとともに突入していく。
 基地の超甲人たちが、マシンガンを連射して応戦してくる。
 だだだだだ! だだだだだ!
 だが、ガーディアンたちのレッドクロスは弾丸を弾いた。
 ガーディアンたちの攻撃をくらって、次々に爆発・炎上する超甲人たち。
「火を放てー!」
 ガーディアンたちは基地のコンピュータなどを次々に破壊してゆく。
「て、敵の持つ重要な資料をそこまで完膚なきまでに破壊していいのか? 後の戦闘のことは考えていないのか、こいつらは?」
「甚八、いちいち呆れていたら身がもたないよ」
 ソラが甚八に忠告する。
「わかっている。わかっているが、しかし、こういう連中は、決して結社に迎えられることはないだろうな」
 爆発の煙の中を進む甚八。
「ここが、司令室か?」
 一番奥の部屋に入ったとき。
「ほあたあああああああ」
 気合とともに、ドラゴン総統のまわし蹴りが甚八の首根を襲う。
「危ない!」
 ソラが攻撃を弾いた。
「現れたな、総統。潔くここで待っているとは!」
「ここが我らの基地。逃げるような真似はせん! ファイアー!」
 ドラゴン総統の口がかっと開き、高熱の火炎を放射する。
「むうっ」
 甚八とソラは攻撃を避ける。
 炎は司令室の床をなめ、煙と熱が吹きあがる。
「この基地はもう捨てるつもりだな」
 高熱の中で額に汗を玉のように浮かべながら、甚八はソラに指示を出して総統と闘う。
「ほあああああ、かもんかもん〜」
「くっ! 確かにカンフーの達人だね!」
 拳闘にすぐれるソラも、総統には押され気味だ。
「うわ〜ごほ、ごほ!
「うん、どうした?」
 ガーディアンたちが司令室の入り口に押し寄せてきたので、甚八が声をかける。
「それが、あちこち破壊しながら奥に進んでいったら、基地の入り口付近が崩れちゃって、出られなくなっちゃったんだ。ここまできたのはいいけど、ここも炎が〜ごほごほ」
「ア、アホか〜! 普通は退路をちゃんと残しておくだろうが! 何も考えないで破壊してるからそうなるんだ、お前たちは!」
 甚八は思わず声を荒げていた。
「どうするんだ? このままこの基地と心中するつもりか?」
「生命の心配はしてないよ。このクロスが身体を守ってくれるもん」
 ガーディアンたちは咳こみながらも、余裕があった。
「ええーい、だからそういう便利な鎧に頼っていると、腑抜けになるんだ!」
 甚八がガーディアンたちとの会話に気をとられている間に、ソラは総統の拳と蹴りを受け、くずおれていた。
「ううっ」
「し、しまった。ソラ! クロスを……いや、こういうものを使うのはもう少し控えたいが」
 甚八は躊躇した。
「ハハハ! お前もアホだな! 何であろうと、闘いに使えるものはどんどん使っていかなければ死ぬぞ!」
 総統は笑いながらソラを転がし、甚八に向かっていく。
 その足を、這っているソラがつかんだ。
「ぐっ! しぶとい奴め!」
 総統はソラの背骨を蹴りで砕こうとする。
「甚八! いまよ、こいつを!」
「ぐっ。もういいんだ、ソラ! 蒼着! アルティメットドレス!」
 甚八はついにレッドクロスを発動した。
 ソラの身体が光に包まれ、クロスを装着して、ショートスカートの強化ドレスの姿から、ロングスカートの姿へと変わってゆく。
「力が戻ったよ! たあああああ」
 ソラはドラゴン総統の足首をつかむ手に力を入れ、相手を引き倒して起き上がる。
「甘いわ!」
 総統は倒れながらも蹴りを放ってくる。
「ふんっ、はっ」
 ソラと総統の闘いが続く。
「死ねー! ほあー!」
 総統が手刀でソラの頭部を割ろうとした。
「シークレット・アーツ、見切り発動!」
 シークレット・アーツ、というよりクロスをまとっているのでスペシャルテクニックだったが、ソラは総統の鬼のように速い攻撃を見切って、ボディに拳を入れることに成功した。
「ぐっ」
 総統の身体がくの字に折れ曲がる。
「やったか!?」
 甚八が歓声をあげかかったとき、炎に包まれている司令室の天井がガラガラと崩れ落ちてきた。
「うわー!」
 瓦礫に押しつぶされる、甚八とソラ、そしてガーディアンたち。
「ふん! この程度の瓦礫で倒れるか!」
 総統は笑いながら、甚八の首根をつかんで、力強く跳躍。
 ガシャーン
 崩れた天井を突き破り、多摩丘陵の山肌に踊り出た。
「このまま死ね!」
「うっ、くそー!」
 総統は甚八の首をしめあげた。
 そのとき。
「甚八、なぜ一人で闘おうとする?」
 フレア・マナが総統の後ろから斬りつけた。
「ぐあっ! おのれ」
 甚八を放り出して、総統はフレアを睨む。
「大丈夫か」
 アクア・マナも現れて、甚八の肩に手を置いた。
「ええい、氷のように冷たい手で触るな! お前たちのようなアホな連中の手を借りるつもりはない!」
 甚八が手を払いのけた、そのとき。
「ぎゃああああああ!」
 総統の悲鳴があがった。
「何だ? 何が起きた?」
「フレアが、総統の逆鱗に触れたのだ。逆鱗は、ドラゴンの弱点。お前は気づかなかったのか?」
「逆鱗! そうか」
「炎に包まれたあの基地には、私の水氷の術で鎮火を施しておいた。じきにソラが回復するだろう」
「むう。お前は!?」
 甚八は驚いたような顔でアクアをみる。
「ぬ、ぬおおおお! 貴様、触れてはならないものに触れたなー!」
 総統は激痛に顔をしかめながら、フレアに対峙する。
「もう許さん! 死ねー!」
 怒りに我を忘れた総統が、ハイキックをフレアに放つ。
「ジ・エンドだ。メルトダウン・フィニッシャー!」
 フレアの伸縮警棒が炎をまとい、剣のような形状となった。
 そのまま、フレアはハイキックをかわしながら炎の剣を総統の顎下、逆鱗の部分に突き入れる。
 ずぶっ
「ぐ……あああああああ、熱い〜!」
 総統の体内に炎がほとばしり、大爆発を引き起こした。
 ちゅどーん!
「これで奴らの日本支部は壊滅だ。さあ、立て」
 アクアは、甚八の片腕を取った。
「だから、冷たいって! むう。なぜ、俺を助ける?」
「お前は、もう僕たちの仲間だからだ」
 フレアもまた、甚八のもう片方の腕をとる。
「甚八ー!」
 火のしずまった瓦礫の中からソラが身を起こし、駆け寄ってくる。
「仲間? お前たちガーディアンが? ふふふ」
 甚八は苦笑しながら、二人のガーディアンに身を預けていた。

4.司令倒れるとき

「え〜い、何をしている! かくなるうえは、ガーディアンのレッドクロスを奪って我らの武器とするのだ! 何としてでもあの円盤を止める!」
 ローリーはゴッドクロスを着用して東京の上空に浮かんだ状態で、部下の兵たちに檄を飛ばしていた。
「なるべく、女の、そう、若い女のガーディアンを捕獲するのだ! 捕獲したら、衣は全て剥いで、私のところへ連れてこい。私が直接監禁しよう。フフフ」
 ローリーは思わず妄想を抱きながら、地上に降りてゆく。
「どこにいるのだ、未来? お前が、私の前にひざまずくときがきたのだ」
 ローリーは、未来を探した。
 だが、未来の姿はみえない。
 代わりに、ナース姿のレッドクロスを身にまとって市民の救助活動にあたる、レスキューチームの女性ガーディアンをみかけた。
「よーし!」
 ローリーは、よだれを垂らしながら駆けた。
「えっ? キャー!」
 女性ガーディアンが悲鳴をあげる。
「すまんな。実は私も市民なのだ。ケガをしてな。手当てしてくれんか?」
 いいながら、ローリーは女性ガーディアンの衣の中に手を差し入れる。
 そのとき。
 ポンポン
 誰かが、ローリーの肩を叩いた。
「うん、何だ? 私は忙しいのだ。この女を監禁して……うわー!」
 ボゴーン
 ローリーの横面を、熱い拳が殴り飛ばしていた。
「ジーザス! ユー・アー・アット・ザ・ボトム! サイテーデス! アメリカノハジナノデス!」
 怒りに顔を上気させたジュディ・バーガーが、拳を握りしめてローリを睨みつけていた。
 対アーマードピジョン法案の撤回を求めてローリーにタイマンを申込むつもりだったジュディ。
 だが、ローリーが女性に対して行う狼藉を目のあたりにして、彼女の義憤が爆発したのだ。
「うう……貴様、私を誰だと思っている?」
 唇から流れる血を吹きながら、ローリーは起き上がる。
「ローリー・コンドラチェフ! ワタシトショウブデス! マケタラ、ホウアンヲテッカイシテ、ニンゲントシテ、クイアラタメナサイ」
 ジュディは、ファイティングポーズをとった。
「ほう、面白いことをいう。では、お前が負けたら、私の欲望の奴隷になってくれるか? もっとも、お前のような筋肉質の女は好みではないが、な」
 ローリーは笑った。
 そのとき。
「お待ちなさい!」
 イングリット・リードが蠅たちとともに現れた。
「ふあ〜。待ちなさい〜」
 イングリットの義体ヴァネッサも寝ぼけまなこをこすりながらやってくる。
「お前たちは、いつだったか司令部にやってきたな!」
 ローリーは拳を構えると、イングリットに突進。
 司令のゴッドクロスが、光を放つ。
 ぶーん
 蠅たちがイングリットの前に壁のようにたちこめた。
 どごっ
 ローリーの拳が、蠅の壁にめりこむ。
 ダメージの和らいだ一撃が、イングリットの頬を打った。
「痛っ! やってくれましたね。それでは、正当防衛として、反撃させてもらいましょう」
 イングリットは邪悪な笑みを浮かべる。
「フン、正当防衛などと、法律を気にするタマかね? お前は要らんが、そこのあくびしている女はなかなか可愛いな。お前を倒して、私がもらうとしよう」
 ローリーは笑いながら、イングリットにうちかかる。
「はあ〜? ワタシが欲しいの〜? バカ?」
 ヴァネッサが間の抜けた声でローリーを嘲る。
「変態はもうやめなさい!」
 イングリットは叫び、ローリーに攻撃を仕掛ける。
 争う二人が、人気のない場所へと徐々に移動してゆく。
 そのとき。
「ハ〜イ、本日の音激トラップ! いってみよう〜」
 カミッラ・ロッシーニが義体アリアとともにものかげから現れた。
「それでは、シークレットアーツを発動! 音の牢獄・プリズナスアヴォルト!!」
 アリアは口を目一杯開けて、お腹にいっぱい息を吸い込むと、すさまじい音激をほとばしらせた。
「あああああああ〜!」
「なに!? うわー」
 カミッラの身体が空気が震えてできた球体に包まれ、球体の中で低周波音激が飛びかう。
「うおおおおおお〜これは耐えられん! 耳せんを持ってくればよかった! うが〜がくっ」
 ローリーは失神した。
「よし、ゴッドクロスを奪うわ」
 イングリットが踏み出したとき。
「ノー! サキニショウブヲモウシコンダノハ、ワタシデス!」
 ジュディが駆けてきて、すさまじい拳の一撃を音激の球体に突き入れた。
 バチーン!
 球体が破裂し、ローリーが投げ出される。
「うっ? 音激が終わった?」
 意識を回復するローリー。
「ヘイ、ショウブデス!」
「いいだろう。やけくそだ! うがー」
 ローリーはゴッドクロスの力を全開させ、ジュディに突進。
「カモーン! スペシャルテクニック! トルネードスピン・ハイパワータックル!」
 ジュディはハーレーにまたがって、アクセルを吹かす。
 突進するローリーと、ジュディのハーレーが激突する。
 ブオン、ブオン!
 ジュディのハーレーは、高速で回転しながらローリーに激突した。
「うわー!」
 ローリーの身体が宙にまきあげられる。
 ひゅるるるるるる
 どごーん!
 200メートル上空までいってから、ローリーの身体が急降下して地面に激突。
「ぐぶっ……負けた」
 パリーン!
 ゴッドクロスが粉々に砕け散り、ローリーは血を吐いて倒れた。
「オー! ビクトリー! イェー! コレガシンノ、アメリカンスピリッツデス!」
 ジュディは天に向かって雄叫びをあげた。
「ちょっと、何をするの! 私たちの邪魔をして、せっかく奪えるところだったゴッドクロスを破壊するなんて!」
 イングリットは立腹してジュディに詰め寄った。
「ジャマヲシタノハ、アナタタチデス! ソレニ、アナタタチハ、ヒキョウナテヲツカイマシタ! アメリカンスピリッツガ、カンジラレマセン!」
「アメリカンスピリッツなんて、欧州生まれの私にあるわけないでしょう。だいたい貴女だって、バイクに乗って闘うなんて卑怯じゃないの?」
 イングリットはブチキレ寸前だ。
「本当に腹がたつわ。ねえ、ヴァネッサ? カミッラ?」
「はあ〜眠い〜寝ていい?」
「仕事終わったよ。帰ろー!」
 ヴァネッサとカミッラが口々にぼやく。
「ボク、音激やって、疲れましたー!」
 アリアも、ゼイゼイ息を荒げてカミッラに同調する。
「はあ……全く」
 イングリットはため息をついた。
「まあ、よいではないか。ゴッドクロスはないが、ローリーを手に入れることができた。続いて、作戦の第2段階に入る」
 マリアルージュ・ローゼンベルグが倒れたローリーを抱えていう。
「オッケーベイベ! アイム・ヒーロー! バイバ〜イ」
 勝利に満足したジュディは、法案撤回の件は忘れて、ハーレーで走り去っていた。

5.セクハラ都市・東京

 デッド星人に襲われる東京では、逃げ惑う人々の混乱に乗じて、性犯罪者部隊が暗躍していた。
「きゃー! やめてー!」
 円盤の攻撃から逃げようとして、無防備になっていた女性たちを、次々に性犯罪者が襲う。
 痴漢、ストーカー、レイプ犯。
 東京の恥部が、そこに露呈していた。
「デッド〜、もっとやれ!」
 デッドキンギョが満足げに女性たちの悲劇をみている。
 デッドキンギョは、人間だったころ、連続強姦魔として有名だった。
 警察に捕まって死刑判決を受け、脱獄してなおも婦女暴行を繰り返していたときに、デッドクラッシャーズにスカウトされ、超甲人機に改造されたのだ。
「俺は、ただ、欲望に忠実に振る舞っているだけだ。女どもは、嫌なら抵抗して、俺たちを殺してもよいのだ。でも、そうしないから、ありがたく身体をちょうだいしているわけだ。フハハハ、デッド〜!」
 デッドキンギョは笑った。
「みんな、早く私の周囲にきて下さい!」
 クレハ・シャモンは逃げ惑う女性たちを招き寄せた。
「夢想結界!」
 クレハの張った結界が女性たちを包み込み、性犯罪者たちをシャットアウトする。
「うっ、あうう〜」
 ケダモノの男たちは、結界に張りついて、腰をカクカクさせている。
「ああ、世間一般の男性は、何て汚らわしい存在なんでしょう。やはり男性はお兄様が一番です」
 クレハは精神を集中させ、結界を張り続ける。
「デッドキンギョ、そこまでだ!」
 ホウユウ・シャモンがデッドキンギョに斬りかかった。
「およっ? すいすい〜」
 キンギョは宙を泳いで逃げ惑う。
「ちっ、不思議な動きを!」
 ホウユウは悪態をついて追う。
「捕まえられるなら、捕まえてみよ! ストーカーは、逃げるのがうまいのじゃ! およ? あそこに、女の匂いがするぞ。結界には入っておらんようじゃの。ふひょひょ〜」
 キンギョは、女性の匂いを追った。
「お兄様、どこに?」
 ミズキ・シャモンは兄を探していた。
 そこに、デッドキンギョが襲いかかってきた。
「ほほほ、うまそうな獲物じゃ!」
「きゃー!」
 驚きのあまりミズキは陰陽術を使うのが遅れる。
 ガブッ!
 キンギョの口が、ミズキの太ももに噛みついた。
「おお〜若い女の太ももは、おいちーのー」
 キンギョは尾をひらめかせて喜んだ。
「やめなさい!」
 ミズキはキンギョを叩いた。
「無駄じゃ! さ〜て、次はどこを頂こうかのう?」
 キンギョの口が、ミズキの衣の中に潜りこんでゆく。
「ほほほ、秘密のスポットはここか〜」
 そのとき。
 がしっ
 キンギョの尾がものすごい力でつかまれて、引き上げられてゆく。
「な!? 何をする?」
 抗議するキンギョの横面に、すさまじい拳の一撃が炸裂する。
 どごおっ
「ぐああああ!」
「て、てめえ、もう許さねえ! 俺の妹を、よくも!」
 怒りに我を忘れたホウユウの姿があった。
「お兄様!」
 ミズキは涙を拭って、歓声をあげる。
「死ね、死ね! この野郎!」
 ホウユウは拳でキンギョをボコボコにして、剣を振りあげる。
「くっ、このまま死ぬわしではない! いくぞ、デッドストーカーアタック!」
 キンギョはくるくるとまわって、ホウユウの背後から攻撃を仕掛けようとした。
「お兄様、援助です! 四神将来! 朱雀の力!」
 ミズキの陰陽術が、ホウユウの剣に力を与えた。
「死ね! 沙門一刀流最終秘剣・絶刀狼牙!」
 ホウユウの斬神刀がうなり、超神速の突きを入れる。
 ズバアア!
「うっ……なぜだ、完璧なタイミングで背後にまわったはずなのに」
 突きをくらったデッドキンギョは、泡を吹いてうめく。
「なんぴとたりとも、この突きから逃れることはできん! 邪悪な者であれば、この切っ先が勝手に追う!」
「ストーカーをストーカーする剣、か。よこしまじゃ、のう」
 それが、デッドキンギョの最後の言葉だった。
 ちゅどーん!
 キンギョは爆発する。
「よし、次は性犯罪者たちを始末する! もう二度と、ミズキを襲わせたりはしないぞ! うわー!」
 ホウユウはまだ顔を紅潮させたまま、狂ったように刀を振り回して、性犯罪者たちを追い回した。
 悲鳴をあげながら、性犯罪者たちは次々に斬られていった。

6.光の老人

「ここは……?」
 姫柳未来は目を覚ました。
 デッド星人の円盤の攻撃を受け、未来のレッドクロスは無惨に破壊されたはずだった。
 それなのに。
 いま、未来のレッドクロスは元通りに修復され、静かに光を放っている。
「どういうこと? ここは東京なの?」
 未来は身体を起こした。
 青い空。
 緑豊かな庭園。
 未来は、そこが東京の一部であると直感したが、そのわりにはデッド星人の円盤による破壊の音は聞こえず、静かな空間であった。
 デッドクラッシャーズによって日本が一時的に占拠され、超甲人が各都市を破壊してまわった際の傷跡も、そこにはみいだされない。
「感じるわ……この場所は、霊的な力で守られている」
 未来は庭園の中を進んでいった。
 奥に、宮殿のような建物がある。
 宮殿の前にある池のほとりに、一人の老人が立っていた。
 その老人を目にした瞬間、未来の背筋にビリビリッという不思議な戦慄がはしった。
 恐怖ではなかったが、未来は何ともいえぬ威厳をその老人に感じた。
「気がついたようだね」
 じっと空を見上げていた老人が、近づいてくる未来に声をかける。
「私を助けてくれたんですか? どうして? それに、あなたはレッドクロスを修復できるんですか?」
 老人は、未来の質問には答えずに、語りだした。
「私は、きみたちがその鎧を手に入れたとき、本当に驚いたのだよ。私は、いや私たちは、その鎧のことをよく知っているし、その鎧の危険性についてもよくわかっていたのだからね」
 老人は、遠くをみつめ続けている。
 しばらくの沈黙の後、老人はたずねた。
「きみは、自分たちがなぜあの円盤を倒せないと思う?」
「えっ……硬い、から?」
 未来はしどろもどろに答える。
「そう、あれは硬い。だが、硬いということと、きみたちがあの円盤を砕けないということとは、関係あるようで、ないのだ。きみは、あらゆる強さの源は何だと思う?」
「えっ……わかりません。何なんですか?」
「精神力だよ」
「せいしんりょく?」
「そう、精神力だ。わかるかな」
 またしても沈黙が流れる。
 未来はきょとんとしていた。
「で、でも、レッドクロスの力をどんなに高めても、あの円盤を傷つけることはできませんでした」
「精神力の方向性が違うからだ」
 老人はいった。
「方向性が?」
「そうだ。目の前にあるものをただ破壊したいというだけでは、精神力は伸びていかない。きみたちが理解するのは難しいかもしれない。だが、精神力を真に高めるにはどうすればよいか、きみに教えておこう。祈ることだ」
「祈る?」
「そう、きみがちょうどやっていたように。さあ、時間だ。私は、おおっぴらにきみたちを助けることはできないのだよ。だが、あの円盤は非常に厄介なものだ。いけないとは思うが、きみたちの鎧の力をほんの少しだけ伸ばそう」
 老人は、一本の剣を未来に渡した。
「これは……布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)!? 三大剣の最後の一本だわ。あなたはいったい!?」
 未来は目を丸くした。
 老人は、やはり質問に答えなかった。
「日本を守って欲しい。私はいつも見守っている」
 老人がそういった瞬間。
 目もくらむような光が地面からわきあがり、未来を包みこんでいった。
 視力を奪われる刹那、未来はみた。
 光の中を、宮殿へと去ってゆく老人。
 その老人に従ってゆく、鎧と兜に身を固めた無数の戦士たちの姿を。
 あの戦士たちは、ずっと未来たちの周囲にいたが、姿を消していたのだ。
「あなたは……あなたは……!?」
 問いながら消えゆく意識の中で、未来は、自分がいまいた場所には、決してテレポートなどでは移動できないだろうと感じていた。

7.神の光

「お兄様!」
「お兄様ぁ!」
 ミズキとクレハが、子犬のようにホウユウに寄ってくる。
「うん。二人とも、よくやったな。おかげで、デッドキンギョと性犯罪者部隊を倒し、東京の街をだいぶきれいにすることができた」
 ホウユウは二人の妹の頭を撫でて、優しい口調でいった。
「お兄様のお役にたてて嬉しいです!」
 クレハが上気した声でいった。
「私もです。あら、あれは……未来さん?」
 ミズキが、光に包まれて現れた、未来の姿に気づいていった。
「おや、本当だ。未来、お前はレッドクロスを破壊されたと思ったが? 何とか助かって、テレポートしてきたのか」
 ホウユウが未来に声をかける。
「ううん、違うんです」
 未来は首を振る。
「違う? じゃあ、何が?」
「それが……説明しにくいんです。これをみて下さい」
 未来は布都御魂剣の入った鞘を差し出した。
「この剣は!?」
 ホウユウと妹二人は目を丸くする。
「どこで手に入れたんですか?」
 クレハが尋ねる。
「私もよくわからないんです。それより、三大剣をいますぐ合わせて下さい。早く!」
 未来にせかされて、ホウユウが十拳剣を取り出す。
「これも三大剣だな。そして、もう一本は……」
「おう、ここにあるぜ! ミスター・ゼットがどこかで未来のいったことを聞いていたのか、俺たちをにこの剣を持っていくようにいったんだ」
 すぐ近くにいたガーディアンたちが草薙の剣を持ってきた。
「姫柳未来、きみはなぜ助かった? そして、レッドクロスは誰が修復したのだ?」
 ガーディアンたちの携帯端末に光がともり、ミスター・ゼットの姿が浮かびあがって、未来に問うた。
「後でお話します。いまは、この剣を!」
 未来は、三本の剣を一緒に持って、天高く掲げた。
 光が、三つの切っ先に宿る。
「日本を、守りたいんです。神さま、力を貸して下さい」
 未来は祈りを捧げた。
「おお、これは!」
 ミスター・ゼットが驚愕の叫び声をあげる。
 三つの剣が未来の手を離れ、宙に浮き上がってひとつに溶け合い、まばゆい光を発して輝いた。
 そして。
 まばゆい光が無数の細片にわかれ、四方八方に飛び散ってゆく。
「これは、光の剣!?」
 目を丸くするホウユウの胸に、光の剣の一本が溶けいってゆく。
「あ……」
「ああ〜」
 クレハとミズキの胸にも、光の剣はそれぞれ溶けいっていった。
「これは……千光太刀(せんのひかりのたち)。人々の胸に希望の力を宿す、不思議な神の剣です」
 ミズキが恍惚とした表情で語る。
「おお〜」
 千光太刀は、周囲のガーディアンたち、そして日本中で活躍する他のガーディアンたちのもとにも高速で飛んでいき、その身体に溶けいっていく。
「うわ〜」
「は〜」
 円盤と闘う、トリスティアとアオイの胸にも光の剣は溶けいっていった。
「みんな、祈って。日本を守るため、あの円盤を倒すために!」
 未来のかけ声で、ガーディアンたちは一心に祈りを捧げた。
 頭を垂れ、大地に、神々に祈りを捧げる。
「日本には、八百万(やおよろず)の神々の信仰があります。日本人は、自然の草木、そして身近な家具に至るまで、ありとあらゆるものに神が宿ると信じていたんです。そして、その神は、私たちのレッドクロスにも宿っているのです」
 未来の声を、一番よく聞いていたのはトリスティアとアオイ・シャモンだった。
 非常に素直な性格をしている二人は、未来のいった言葉を全て信じ、一心に祈った。
「神さま〜。ああ、これは!」
 アオイが叫びをあげる。
 アオイのレッドクロスから、それまでは存在していなかった砲門が突き出ていた。
 砲口に、青白い火花が飛び散っている。
「神の雷が、砲口に宿りました。アオイ、それを撃つのです」
 ミズキがいった。
「うん、やるで。くらえ、ハイパーゴッドキャノン!」
 アオイは新しくできた砲口を天に向ける。
 バチバチバチ
 砲口の奥から、青白い火花を放つ、巨大な光の弾丸がせりあがってくる。
 ドゴーン!
 光の弾丸が天高く放たれ、我が者顔で飛びまわる円盤のひとつにぶち当たった。
 ずずーん
 弾丸をくらった円盤にヒビが入り、地上に落ちて爆発。
 ちゅどーん!
「なに!?」
 デドン将軍はうめいた。
「よーし、ボクも! 神さま〜」
 トリスティアは祈りを捧げながら、高速で身体を回転させた。
 バチバチバチ
 回転するトリスティアの全身に、青白い火花がまといつく。
「トリスティア・ゴッドヘディングタイフーン!」
 トリスティアは跳躍した。
 青白い火花をまきちらしながら、回転するトリスティアの頭部が円盤に炸裂する。
 ちゅどーん!
 円盤にヒビが入り、爆発が起きる。
「どういうことだ? この星には、我らの兵器に対抗する力があるというのか?」
 デドン将軍は、目の前の光景が信じられなかった。
「これはすごい。姫柳未来のレッドクロスが修復されたというのも信じられないが、デッド413を砕く力があるとは。宇宙的にみてもすごいことだあの光の剣がレッドクロスの力を高めたのか? だが、それだけではないように思える。レッドクロスに作用する精神力の方向性を変えることで、真の力が生まれるというのか? これがROJ? いや、ROJのように危険なものではないようだ」
 宇宙史上に残る偉大な瞬間を眼前にして、普段は沈着冷静なミスター・ゼットの口調も熱っぽいものとなる。
「さあ、みんな、闘いましょう! 光の力で、神の雷の力で!」
 姫柳が円盤と闘う全ガーディアンに呼びかける。
「よし、いくぞー!」
「うおりゃー!」
 ガーディアンたちのレッドクロスが青白い火花をおびた光を放ち、それぞれがそれぞれのやり方で、次々に円盤に攻撃を仕掛けてゆく。
 ちゅどーん、ちゅどーん!
 デッド星人の円盤が次々に爆発し、東京の空が真っ白になった。
「くそ、異世界のテクノロジーだな。我々の先祖が地球にきたとき撃退されたのと同じ力とみた。ものども、ひとまず撤退だ! デドデドデド〜!」
 デドン将軍の号令で、残っていた円盤が次々に大空の彼方へ撤退してゆく。
「それにしても、不思議だわ。あの老人は、いったい……。すごく高貴な感じがして、なぜか私は、かしずきたい気持ちになったわ。何だったのかしら」
 感慨深げに語る未来。
 ガーディアンたちは、神の光を手に入れたのである。

8.謎の王

 富士の樹海。
 地球とデッド星をつなぐ『扉』は、いまもひっそりと樹海の奥に存在していた。
 びくびくと、空間の亀裂がうごめく。
 まるで、女性性器のようである。
 ゴゴゴゴゴ
 樹海の上空に巨大な戦艦が現れ、『扉』の付近まできて、止まった。
 戦艦タイタンのブリッジには、リーフェ・シャルマールの姿が。
「もうすぐ、あの扉が、一瞬だけ開く。デッド星人の円盤による攻撃で多数の人々が死亡し、肉親を失った人々の哀しみの心、嘆きの心が日本中に満ちている。そのマイナスエネルギーのせいで、この扉はまた開くのよ。そのとき、私はエリカ救出のため、扉の奥にこのタイタンで突入する。エリカは、私がレッドクロスを着用させ、アーマードピジョンに引き込んだようなもの。私なりに責任をとるわ」
 リーフェは、扉を見守った。
 ブルブルブル
 亀裂に大きな震えがはしり、少しずつ開いて、空間に巨大な闇のホールをうがってゆく。
「よし、いまよ!」
 リーフェはタイタンを発進させ、『扉』の奥に突入する。
 同時に、何人かの戦士がいっせいに『扉』に突入した。
「お掃除、お掃除〜まあ、汚れてますの!」
 アンナ・ラクシミリアがモップをかついで、『扉』の中へ。
「エリカ、いまいくぜ」
 サイドカーに乗ったグレイズ・ガーナーも『扉』の中へ。
 そして。
 再び扉が閉まろうとしたそのとき、タイタンよりも巨大な戦闘母艦が、樹海の上空を疾駆してきた。
「開いたな。いくぞ。フフフ」
 武神鈴のアーマードベースである。
 武神のベースを飲み込んでから、『扉』は完全に閉まった。
 もう、二度と開かないかもしれないのに、戦士たちはエリカ救出に赴くのだ。
 そして、『扉』の奥の空間連絡通路をとおって、ガーディアンたちは一瞬にしてデッド星に到着していた。
 だが。
「ついたわ。ここがデッド星なの? 暗くてよくみえないわ。というより、光がないのかしら、この星には?」
 タイタンの外部モニタに何も映し出されないのをみて、リーフェは悪態をついた。
 音波探索装置のおかげで周囲にゴツゴツとした岩山があることがわかっているが、タイタンのライトをつけても一寸先しかみえない。
「ただの闇ではないわね。光を吸収してその力を弱める、異様な闇の物質とでもいうべきものがこの星を覆っているんだわ。このような星で生まれ育つ生物とはどのようなものか?」
 考えただけで、リーフェはゾッとした。
「は〜、みえないですわ〜、でも汚れてますの。お掃除、お掃除」
 アンナは、胸の奥からもれる不思議な光でデッド星の地表にある埃を認識し、せっせとモップをかけている。
「本当にみえないな。エリカ、どこだ?」
 グレイズも、サイドカーをどう走らせたらよいかわからない。
「フフフ。俺にはみえるぞ。闇のクリスタルの力でな! すごいぞ、ここは。闇の物質から強力なエネルギーが俺に注がれてくる。まるで、自分の故郷に帰ってきたかのようだ」
 武神はほくそ笑んで、アーマードベースに宙を疾駆させる。
 1キロほど先のところに、闇の眷属たちに囲まれた場所に倒れているエリカの姿があった。
「う、うう……」
 気を失っていて、ときおりうめき声をあげるエリカ。
 彼女の生命力は、周囲にたれこめる闇の物質によって徐々に吸収され、衰えているところだった。
「あの闇の眷属たちは、なぜエリカをすぐに襲わないんだ? まあいい。エリカ、なぜ俺はお前を助けるのか、自分で自分がわからない。まあ、俺をかばってここに引き込まれたわけだからな。俺も完全に非情に徹することはできないようだが、その弱さをみせるのは、お前に対してだけだ。エリカ」
 武神は、デッド星の地表に降り立つと、エリカを抱きあげた。
 周囲の闇の眷属たちは、武神をじっとみつめているだけで、何もしない。
 それらの眷属たちの中には、先日地球上に姿をみせた、人間たちが『闇の王』と呼んだ存在もいた。
 闇の王といっても、人間たちが勝手にそう呼んだだけで、デッド星ではありふれた生物のひとつに過ぎなかったのである。
「エリカ、お前の体内を侵している闇の物質は、俺が吸い取ってやるぞ」
 武神は、エリカ体内の闇のエネルギーを、自身の闇のクリスタルの中に吸収していった。
「うう……た、武神さん……きてくれたんですね」
 エリカは意識を回復した。
「勘違いするな。俺は、改心したわけではない。うん?」
 武神は、強力な殺気を感じた。
 しゅっ
 空を裂いて、何かがほとばしる音。
「危ない!」
 武神はエリカを抱いたまま駆け出す。
 ずぶっ
 武神のいた地表に、巨大な槍が突き刺さっていた。
「やはりそうだ。いまの動き、他のガーディアンに比べれば鈍い。もともとは非戦闘員、そう、語り口を聞いた感じでは、科学者のようだな」
 不気味な声が、闇の奥からわきあがってくる。
「何者だ!? 俺の素性を読むために、いまの槍を投げつけたというのか?」
 武神はエリカをアーマードベースに収容して、攻撃を仕掛けた存在に怒鳴りつける。
「フフフ。そのままそのおもちゃに乗り込んで帰還すればよいのに、そうやってくってかかるのは、仕掛けてきた相手から逃げるような真似をするのが気にくわないからだ。科学者はみなそうだが、プライドの高い男のようだな」
 乾いた笑いが響く。
 何だ、この相手は!?
 武神は、ゾッとするような気配を感じていた。
 なぜ、闇のクリスタルを持つ自分がこのような畏怖を持たされるのだ?
 ざくっ
 不意に、武神の頭部に巨大な剣の切っ先がくいこんできた。
「ぐっ」
 武神はうめいた。
「うん? 義体、か。遠隔操作か? 違うな。意識そのものを移し入れているようだ。フッ、本当に、おもちゃをつくるのが好きな男だ」
 武神の頭部のほとんどにくいこんだ剣を揺らしながら、恐るべき声が吟味するようにいう。
「なぜだ? ここに入ったとき形成した、闇の防御結界が全く役にたたない!」
 武神はパニックになりそうな感情をおさえるのがやっとだった。
「ほう、それがお前の余裕の理由だったのか。残念だが、この星で最も強大な闇の力を持つことになった私に、こけおどしの結界は通じない」
「ちくしょう! さっきから、おもちゃだの、こけおどしだの、人を馬鹿にするようなことばかり!」
 頭部から剣を引き抜こうとする武神の顔色が真っ赤になっていた。
「女を追ってきて、ご苦労だったな。死ね!」
 馬のひづめのようなものが、武神の胸を打った。
「ぐっ、闇のクリスタルで強化されているんだ。攻撃はくらっても、死ぬもんか」
 武神は必死でみえない相手に組みつこうとしたが、かわされた。
「力は確かに増大しているようだが、速さがいまひとつだ。そんなことで白兵戦は乗りきれんな」
 ひゅっ、ひゅっ
 声の主は武神の頭部から剣を引き抜くと、続けざまに何度も振り下ろした。
「うわ〜」
 義体である武神の両腕が切断され、地表に転がる。
「こ、この野郎! いいぜ、みせてやる! 闇のクリスタルの真の力を!」
 武神は、義体の心臓部分にある闇のクリスタルの力を解放した。

9.帰還

「武神が襲われている!? 攻撃するわ」
 タイタンの音波探索モニタで武神らしき影と、正体不明の巨大な武人の姿をとらえたリーフェは、武人に向けてミサイルを放った。
 ちゅどーん、ちゅどーん!
 だが、ミサイルの爆発をものともせずに、武人は武神を翻弄している。
「撃つな、俺もやられるだろうが! って、俺もあいつらにとっては敵か。よし、クリスタルの力で、スペシャルテクニック発動だ。ダークブランド、闇の左手!」
 うめきながら、武神は闇のクリスタルの力で切断された両腕を修復し、左手の篭手にはまった闇のクリスタルから、クリスタルの劣化版である『闇の欠片』を精製し、周囲にまきちらす。
 もりもりもり
 地表に落ちた『闇の欠片』が土くれや岩と融合し、擬似生命体を生み出す。
「かかれー!」
 武神の合図で、擬似生命体の群れが武人に襲いかかった。
「おやおや。久しぶりにこの技を使わせてもらおう。デッド一閃!」
 暗黒の剣が闇に閃き、擬似生命体を次々に斬り裂いていく。
「よし、アーマードベース、いまのうちにこいつを分析するんだ!」
 武神の指示で、ベースが敵を解析。
 闇の中でよくみえないその姿は、人間と馬が融合した、半人半馬のケンタウルスのような姿であることがわかった。
「何者かはわからんが、科学者としての頭脳は、お前に負けないぞ。戦闘力分析! な、何だこの数値は!」
 武神は目を丸くした。
「ほう? お前は、それで賢いつもりか? さっきからずっと私の誘いに乗っているのだが?」
 武人は笑いながら、剣を武神に一閃させる。
「うっ」
 左手の篭手が破壊され、闇のクリスタルが宙を移動して武人の手に。
「みたか、いまのを? このクリスタルは、お前に愛想を尽かし、よりふさわしい者の手に自ら移ったのだ。お前は、しょせん人間。闇に染まりきれない、不完全な存在なのだ」
「ま、まさかお前は、俺がスペシャルテクニックを発動して、闇のクリスタルを現すのを待っていたというのか!? くそっ、どこまで人をバカにするつもりだ。返せ!」
 武人に向かって手を伸ばした武神を、馬のひづめが蹴り上げ、地面に転がす。
「これが欲しいか? お前の強さは、結局このクリスタルに依存していたものだったのだ。無様なものだ」
 ひづめが、地に伏した武神の背をぐりぐりとえぐる。
「ちくしょう! ちくしょう! ゆ、許さん! お前だけは、お前だけは絶対許さん!」
 武神はデッド星の土に汚れた顔を悔し涙で濡らして、すさまじい恨みの声をあげた。
 そのとき。
「武神! 無事かー!」
 サイドカーに乗ったグレイズ・ガーナーが駆けつけてきた。
 脳内に仕込んだエネルギーレーダーの力で、グレイズはデッド星の闇の中でも武神たちを感知できたのだ。
「今回に限り、エリカを助けてくれたお前を援護しよう。くらえ、銀のバンカーバスター!」
 サイドカーの砲門から、銀の弾丸が発射される。
 ちゅどーん!
「むっ、こざかしい真似を」
 武人は武神を捨てて、グレイズに向かう。
「あなたサマ、名前は何とおっしゃって? 死ぬ前に聞かせて下さいな!」
 グレイズの義体レベッカが銃を撃つ。
 高位のエクソシストによって聖別を施された銀の弾丸が、武人の鎧をかする。
「我が名はデッドロード。デッド星の新たな王だ」
「王ですって!?」
 レベッカが驚いて叫んだとき、デッドロードがサイドカーに突進した。
「なんて速さだ!」
 グレイズは目を丸くしながら、マシンを旋回させる。
「レベッカ、至近距離から撃て」
「わかりましたわ!」
 デッドロードとサイドカーが接触した瞬間、レベッカはロードの胸に銃口を押し当て、引き金をひいた。
 その瞬間。
 馬のひづめがサイドカーをひっくり返し、グレイズとレベッカは地表に投げ出される。
「じゅ、銃口が!」
 レベッカが押し当てていた銃はロードの手によって握りつぶされていた。
「まだ銃はある! 撃て!」
 グレイズの指示で、レベッカは残りの銃をたて続けに撃った。
「狙いは正確だな。だが!」
 ロードは高く上げたひづめで弾丸を弾き返してしまう。
「転がりこめ、さっきひづめが地面を削った穴に!」
 グレイズとレベッカはかすかなくぼみに転がる。
 グレイズは手榴弾を投げた。
 ちゅどーん!
 爆発で土くれが吹きあがり、ロードの視界をふさぐ。
 同時に。
「よし、今度こそ。ミサイル発射!」
 リーフェのタイタンが再びミサイルを発射する。
 音波探索装置によって、ロードの正確な位置はわかっていた。
「アーマードベースよ、いまのうちに避難するんだ! エリカを乗せて、地球へ!」
 爆発の中で、武神がうめく。
「エリカ? そうだ、彼女がいたな。あの女を殺せば、お前はもっと強くなれるかな?」
 空中から、ロードの声が響く。
「な!? 浮上できるのか?」
 武神はロードが爆発を逃れていたことを知った。
 デッドロードが空中を移動してアーマードベースに斬りかかろうとする。
「攻撃されるポイントは……うっ、動力炉の位置を把握されているのか? 退避速度が間に合わない! エリカ、エリカー! う、うわー、やめろー!」
 武神は、大絶叫をあげながら、デッドロードを必死で追った。
 そのとき。
 武神のレッドクロスが光を放ち、彼の身体を宙へ浮かびあがらせる。
 右手の篭手にはめられたレンズが、光を放つ。
「ライト・ブランドの力が回復している!? よーし、くらえー!」
 武神は、レンズの中心に「消」の文字を浮かび上がらせ、デッドロードの背中に押しつけた。
「なに!? どうやって追いついた? クロスの力か。ぐっ」
 デッドロードの身体が歪み、地表に落下する。
「この世から消えろ!」
 ロードの身体が徐々に空間の中でちりぢりになってゆき、消滅するかと思われた。
 だが。
 ロードの目が不気味な光を放ち、消滅しかかった身体が再生してゆく。
「どういうことだ!?
「私には、一度肉体を消滅させられ、そこから回復した経験がある。そのときに、肉体を再生する力を手に入れたのだ。これこそが、デッド星で私が得たものなのだ!」
 デッドロードは、槍を構えて、武神に突進する。
「死ね!」
「ぐっ……もうダメか。アーマードベース、エリカをいまのうちに地球へ!」
 武神が死を覚悟した、そのとき。
「あー、もう、埃ばかりまきあげて! お掃除の邪魔ですわ」
 ロードと武神の真下で、デッド星の地表にモップをかけていたアンナが、光のクリスタルを掲げた。
 ピカッ、バシーン!
 クリスタルが光を放ち、巨大な力場で、上空のデッドロードの身体を弾いた。
「ぐうっ……それも持ってきていたか! また逢おう」
 力場に大きく弾かれたデッドロードの身体が、デッド星の地平線の彼方に消えてゆく。
「よし、みんな、戻るわ。グレイズとアンナはタイタンに!」
 リーフェが、タイタンにグレイズとアンナを収容する。
 そして。
 一同は、何とか『扉』を抜けて、再び地球に戻ってきた。
「武神さん! 私は待っていました。あなたはきっときて下さると信じて。嬉しいです!」
 意識を回復したエリカが、武神に抱きつき、その唇に口づけした。
「エリカ……」
 武神は思わずエリカを抱きしめ、自分からも唇を押しつける。
「よくやったわ、武神。もういいでしょう。これからは、闘いの世界ではなく、エリカとの愛の世界に生きて欲しいわ」
 リーフェが、エリカを抱きしめている武神の肩に手をかける。
「武神、生命がけでエリカを助けようとしたお前の姿に、俺はちょっとだけ感動させられたぞ。闇に生きることを捨て、光の世界に戻るなら、結社もお前を殺す命令を取り消すだろう」
 グレイズも、武神の肩に手をかける。
 だが。
 ばしっ!
 武神は、リーフェとグレイズの手を払いのけた。
「武神!」
「武神さん!」
 リーフェとグレイズ、そしてエリカが武神を悲痛なまなざしでみる。
「エリカは助かった。それはいい。だが、あいつだけは、あいつだけは許さない! あいつだけは……」
 武神は『扉』を睨みつけて、血の涙を流していた。
「なめるなよ。俺は闇のクリスタルのデータは取っている! 必ず復讐してやるからな!」
「武神さん、もうやめて下さい。恨みの世界で生きないで! 私と、どこか暖かい、南の国で暮らしましょう。お願いします!」
 歯ぎしりして叫ぶ武神に、エリカもまた涙を流して哀願するのだった。
「あのデッドロードという奴、何をたくらんでいるのか。本当に王なら、闇の眷属たちを使ってすぐに私たちを殺せたのに。あえて一人でたちまわって、どういうつもりなのかしら。武神は利用されるかもしれないわね」
 リーフェは、武神の行く末に不安を感じていた。

10.さらばロリコン

 東京上空。
「待てー!」
 撤退してゆく円盤を追って、アオイ・シャモンは大気圏の限界まで上昇してゆく。
「もっともっと高く! ほら!」
 アオイの背中につかまっているトリスティアが、しきりにせかす。
「アオイ、帰還しろ! 深追いは禁物だ! それ以上いくと大気圏を突破して危険なことになるぞ!」
 ミスター・ゼットの通信も、アオイの耳には入らないかのようだ。
「くそー、発射ー! きっとどれか当たるでー!」
 アオイは、虚空の中で持てる砲から全弾丸を発射する。
「よせ! 流れ弾が地上に落ちるぞ」
 ミスター・ゼットの声が切迫感をおびる。
 ひゅるるるるるる
 アオイの放った弾丸が地上に落下してゆき、ビル群を破壊かにするかにみえた。
 そのとき。
「ひょひょひょ。しょうがない人たちじゃのう」
 地上に不気味な霊柩車が現れたかと思うと、その中から御影玄斎が顔を出した。
「悪い子にはおしおきじゃ。御影流・狐祟り! こーん、こーん!」
 御影がおどけたような声で狐の鳴き声を真似ると、空間に不気味な波動がはしった。
「な、なんや!? 急に高度が下がってきたで」
 高空にいたアオイは、クロスが飛翔能力を失い、降下してゆくのを感じた。
「どういうことや? うわー!」
「うわわーあはははは」
 アオイは悲鳴をあげながら落下。
 アオイにつかまっているトリスティアも、どこか嬉しそうな笑いをあげながら落下してゆく。
 どどーん
 二人の身体が地上に激突し、アスファルトの道路に深い穴を開けた。
「ちーん、ご臨終ですかのう。お葬式なら結社公認・御影葬儀屋で! お安くしておくぞ」
 御影の運転する霊柩車が、二人の開けた穴の脇に停車する。
「ぷはー! 殺すなー!」
 アオイとトリスティアが、深い穴の底からやっとの思いで這い上がってくる。
「狐祟りは、何らかの悪行を行った人間に、相応の報いを与えるのじゃ。これから先、むやみな破壊につながる行為は控えるのじゃぞ。こーん!」
 御影は、天に向かって鳴いた。
「ち・な・み・に、さっきの流れ弾はガーディアンのレスキューチームがシールドで防いでくれたので、ビル群は無事じゃ。ふぉっふぉっふぉっ、若いというのは罪なものじゃのう」
 御影は、霊柩車を運転して去ってゆく。
「あいつ、何や!? お兄ちゃんにいいつけたるで!」
 アオイは歯をむいてカンカンだ。
「バイバイ〜! ああ、面白かった〜。そしてお腹空いた! ラーメン食べよっと」
 トリスティアは霊柩車に手を振り、何事もなかったかのような無邪気な笑顔を浮かべて、ラーメンの屋台に向かってゆくのだった。

 在日米軍、司令官室。
「さあ、これからローリーをフェロモンで洗脳するとしよう。これで、対アーマードピジョン法を廃案にできるぞ」
 マリアルージュ・ローゼンベルグは、茫然とした表情のローリー司令官を前に、ほくそ笑んでいた。
 そこに。
「ローリー司令、いるな? 入るぞ」
 星条旗を掲げた、アメリカ政府の役人と警官たちが踏みこんできた。
「うん、何だ?」
 マリアルージュは慌ててものかげに隠れる。
「貴様はアメリカ内外で少女を誘拐し、別荘に監禁して定期的にレイプしていることが明らかになったのだ。大統領はもはやお前を見捨てている。本国にて、貴様は裁判を受けねばならん。死刑になるかどうかはわからんが、軍人としてのお前はもう終わったのだ」
「あ〜う〜」
 ローリー司令は言葉にならないうめきをあげた。
「ショックのあまり気が狂ったか? 全く、新兵器ゴッドクロスも破壊されてしまっているのだからな! おぬしの輝かしい軍歴も、末路は無惨だ」
 警官たちは両脇からローリーの腕をとって、手錠をはめ、連行した。
「くっ。ローリーが更迭、というより逮捕されてしまった。せっかくいろいろやれるチャンスだったのに、残念だ。彼がいなくなっても、代わりにくる司令官はやはり対アーマードピジョン法を成立させようとするだろうな。アメリカ政府に直接はたらきかけなきゃダメか?」
 マリアルージュは肩をすくめて、ローリーがいなくなった後の司令官室から退出していった。

 アーマードピジョンのスタッフが集う、電脳チャット空間。
「例の謎の資金が、アーマードピジョンへの援助を再開した模様です」
「うむ。ガーディアンたちが千光太刀を使いこなすのをみて、信頼をあらたにしたようだな。しかし、いまだに私自身に連絡がないところをみると、私のことは信頼していないようだな、その資金を操る存在は」
 ミスター・ゼットは淡々といった。
「しかし、未来を助けたという老人は何者なのだ? やはり、地球人、いや日本人の中に、バウムの秘密を知る者がいるとみて、間違いないな」
「はっ?」
 スタッフが怪訝な口調になる。
「いや、いまのは忘れてくれ」
 ミスター・ゼットはチャット空間から姿を消した。
 そして。
「母艦、ブライトへ。例の女性ガーディアンが瞬間移動させられた際の状況は分析できたか?」
 ミスター・ゼットは驚くほど高度な通信技術を用いて、宇宙の彼方の戦艦に照会を行った。
「いえ、分析は全くできませんでした。我々の技術をもってしても、女性ガーディアンを移動させた光の群体と、例の光の剣が引き起こした現象を正確に解明することはとてもできそうにありません」
「そうか。我々の技術をもっとしても、か。信じられないことだ! しかし、これで全宇宙をおびやかすデッド星人を駆逐するヒントがみつかったわけだ」
 ミスター・ゼットはほくそ笑んだ。
「しかし、ピジョンの最大の援助者は、おそらく未来を助けた老人ではないかと思われるが、まさか私の素性を見抜いているのではあるまいな? だとしたら……いや、そんなはずはない」
 ミスター・ゼットは、恐るべき可能性を否定した。
「さて、奴らは次に、どう出るか? 例のカノン砲を使われたら大変だが」

 地球付近の宇宙空間に控える、デッド星人の戦艦デッドダゴン。
「おのれ、地球人どもめ! あのような隠し技術を持っていようとは!」
 デドン将軍はいまいましげな口調でいった。
「この件は、新しい王に報告した方がよいのでは?」
 ゲロン参謀が助言する。
「もう、したさ。ところが、あの王ときたら、そんなことは最初から予想していたといわんばかりの口調だ。『攻撃は続けろ』とさ。まさか、我らに地球を襲撃させることでガーディアンたちを緊張させ、あの秘密の技術を使わざるをえない状況にわざと追い込んだのか? いや、そんなことをするはずはないが、あの王には、何だか利用されているような気がしてならん」
 デッド星のそれまでの王を倒して、新たに王に就任した、黒ずくめの騎士のことを思い浮かべて、ゲドン将軍は戦慄した。
 何をたくらんでいようが、自分が失敗すれば、あの王は自分をためらいなく処分するだろう。
 将軍は、あとにひけないのだ。
「やってやるさ。地球人ども、宇宙の藻屑と消えるがいい! デドデドデド〜」
「飲みましょう! ゲロゲロゲロ〜」
 将軍と参謀は、威勢のいい雄叫びをあげた。

 再び東京。
「オヤジ、ラーメンひとつ!」
「ヘイ、お待ち!」
「わ〜おいしそう〜ずず。ああ、闘い終わった後のラーメンはおいしいな〜」
 うまそうにラーメンをすするトリスティア。
 自分たちとデッド星人の闘いが宇宙全体の平和維持にとって大きな鍵になるなどとは、当のガーディアンたちはゆめにも思っていないのだった。


(第3部第1回・完)

【報酬一覧】

マニフィカ・ストラサローネ 1、000万円(スペースデッドカマキリを倒す。エルンストと一緒に受賞)
エルンスト・ハウアー 1、000万円(スペースデッドカマキリを倒す。マニフィカと一緒に受賞)
フレア・マナ 5,000万円(ドラゴン総統を倒す)
ジュディ・バーガー 1、000万円(ローリー司令のゴッドクロスを破壊する)
クレハ・シャモン 1,000万円(性犯罪者から女性たちを結界で守る)
ホウユウ・シャモン 1、000万円(デッドキンギョを倒す)
姫柳未来 5、000万円(千光太刀を手に入れる)
アオイ・シャモン 1、000万円(円盤を追い払う。トリスティアと一緒に受賞
トリスティア 1、000万円(円盤を追い払う。アオイと一緒に受賞
武神鈴 5、000万円(エリカを救出する)
御影玄斎 1、000万円(ガーディアンの破壊活動を止める)

【マスターより】

 今回も遅れてしまって申し訳ありません。お詫びといってはなんですが、報酬をいろいろ奮発してます。疲れているので、サブタイトルも適当ですが、とりあえず光の老人の正体は!? デッド〜! デドデドデド〜! ゲロゲロゲロ〜! (以下発狂していて意味をなさない語の連続)