ロスティと東トーバ 駐留軍2000名を擁するロスティ。ムーア世界を統べる《亜由香》への忠誠心の強いロスティは、たった4人の異世界人の手によって制圧されることとなる。ロスティ軍内部から策略を仕掛けたフレア・マナ。モンスターバイクによる機動力のジュディ・バーガー、、『対装甲散弾砲』の火力によるアオイ・シャモン。そして、行動迅速にして信頼されるリーダーであるトリスティアによって為されたのである。 この戦いの後、ロスティに残り、トリスティアへの協力を惜しまない兵はおよそ400名。他は、戦意をなくしつつロスティを離れていた。 “リクナビリーダーとして、東トーバとロスティの富国強兵を図る”。それが『ムーアの砦』トリスティアの目標となっていた。その為に、疲弊した東トーバとロスティの復興と統合再編成に着手したトリスティアだった。 「住民が安心して暮らせる場所を作るために必要なのは、十分な食料と防衛力。食事と安全の確保は、平和を維持するに当たって必要不可欠だよ!」 と主張するトリスティア。食料確保については、東トーバとロスティの間を『2都市で共同開発する農業地帯』として開墾することを決めたのだ。また、開墾と防衛の人手については、リクナビを通して人材を募集を開始する。その手助けをすると、リクナビ創始者のリク・ディフィンジャーも約束したという。そして、『壊れた建物の修繕』、『防衛隊が装備する良質な武器の確保』、『良質な農具の確保』など、復興資金として銀貨100枚を私費から投じたトリスティアだった。 また、『これだけ東トーバとロスティが安定に向かっている』ということを、東トーバを脱出した難民たちにも伝えてあげたいトリスティアは、具体的な手段として、北方の街キソロに急いでリクナビの隊員を派遣したという。 「シャモン家の錬金術は世界一イイイイィィィィィィッ!!!!」 が口癖の和服の巨乳少女アオイ・シャモン。アオイは、トリスティアに賛同して東トーバとロスティの復興・再編の手助けをしていた。まず、そこらへんに転がっている石ころで鉄に練成できるかどうか実験したのだが、思ったほどの鉄を得られなかった為、周辺の鉱山の資料を片っ端から調べ、過去の記録などからまだ鉱石が採掘できそうな所、もしくは新たな鉱床になりそうな所へ私費を投じ、手伝ってくれそうな民・兵士を連れて、ダウジングして金銀など貴金属も含めた鉱床の有無を確認、という地道な作業を続けていた。 「ま、ほんまはこういう風に使うのが錬金術の正しい使い方なんやけどな」 鉱床が見つかれば鉄鋼に練成するつもりのアオイであったが、残念ながらめぼしい鉱床はみつからなかった。ただ砂鉄の含有量の多い砂地だけは発見に成功する。 「んー、鉱床やないんかい! 掘るときは一発バスターライフルをかまそ思とったのに!」 アオイにとっては不完全燃焼ではあるけれど、その砂鉄から練成した鉄で農具、剣などを作り、市民・兵士に提供したという。 ダイナマイトバティのヤンキー娘、ジュディ・バーガー。ジュディは、ロスティの街を大型バイクで走っていた。 「フンフフンフンフフ〜ン♪ 双璧の英雄トリスティア嬢&リク嬢、そして弾幕姫アオイ嬢の活躍でロスティは解放されマシタ〜。こんぐらっちゅれーしょん♪」 でも喜んでばかりはいられないとばかりに、この勝利を更なる勝利へと結びつける為、ジュディはある行動に出ようとしていた。ジュディは、たとえ建前でもデモクラシーを大切にするし、実質はトップダウンでも組織全体としての意思統一を図る事は重要と考えるアメリカンなのだ。もちろん残存する神官達の代表や味方に加わった軍人達の代表も招いて話し合いの場を設け、短期的な方針は街の復興と軍隊の再編成、中長期的な方針として両都市間を農業地帯として共同開発する事を決めて実行している中心となるのはトリスティアである。もともとムーア世界は農業に適さない乾燥した土地が多い為、農業開発は困難が予想されるが、理想的な大目標を掲げる事は人々に希望を与える事にもなるのはジュディとしてもサポートしたいところであった。ならば、リクナビを使って人材や物資を集める際、神速の軍事的勝利によるロスティ解放と大袈裟に喧伝し、また農業地帯の共同開発を謳い上げ、とにかくレジスタンス勢力の魅力を最大限にアピールする役こそが自分にあるとジュディは考えたのだ。 リクナビのネットワークを活かし、宣伝効果による情報戦を意識して『レジスタンス勢力=勝ち馬』というイメージをムーア世界に流布するために、レジスタンス勢力が掲げる理想像を『誰もが判りやすいシンボル』で表現する必要性を覚えたジュディ。ジュディは、リクナビ情報の集まる店につくと、自分の有り金を無造作にポケットに入れて店に入る。 「ちょっーっと相談、いいデスカ〜? ムーア世界でコストが安くつく彫刻って、ドンナノがありマスカ〜?」 単刀直入なジュディに、集った行商人たちはジャディが何を彫りたいのか確認する。 「もっちろ〜ん! 『トリスティア嬢とリク嬢が握手する姿』を彫ったものデ〜ス! そのレリーフを解放した各都市の正面広場に飾るのデ〜ス!! デモ、ジュディ、お金少ないデス。大きいものは造れナイのデ〜ス!」 銅像に比べて記念碑的な意味合いが強く、小さくても見栄えの良い石碑のレリーフならコストは安く済むと予想していたジュディ。そのジュディの予算を確認した行商人たちは、数多く造るのならばレリーフの基本デザインだけ作って、あとは各街の石工か彫刻家が完成させれば、運びやすく見栄えもすると教えていた。しかも、集った行商人たちは、かなり大きなものをこの値段で40枚分は彫ろうと約束する。ムーア世界で、街と呼べるほどの場所はその程度であったのだ。喜んだジュディは、早速彼らに発注する。この後、ムーア世界のあちこちの街で、この少女たちの握手する巨大なレリーフが飾られたという。 復興と防衛のための協力関係を結んだ東トーバとロスティ。この二つの街は、反ムーア軍の一大勢力拠点になったという。 旅立つ者たち ポニーテールの異世界の乙女フレア・マナ。裏では、トリスティアたちの奇襲でロスティの開放は成さしめたフレアは、表向きには「敗軍の指揮官」という立場にあった。その責任とケジメをつけ、かつムーアを魔より開放し人の手に返すと言う当初の目的を次の段階に進める為に、敗残兵及び温存していた兵を纏めて宮殿へと転進していた。 「ムーアが人の手に還ろうとしている……これが時の宿命か」 宮殿への行軍中も敢えて兵達の前で等とぼやいてみるフレア。そのフレアのぼやきを聞きつけた兵達は誰もがうなだれる。兵の多くは、作戦失敗による叱責に肩を落としていたのだ。その反応の理由をフレアのスパイでもある「陰」の兵達に探らせると、原因はこの後、どう叱責されるかわからないが、フレアがいるので魔物たちのような無茶な制裁はないだろう、という予測の上で反応なのだとわかる。 『一応、僕はまだ信用されている、というわけか。逆に信用がおけないのは魔物だけということになるな』 そしてぼやきに肯定的な将兵達にはフレア自身が面会し、フレア本来の目的を語り、尚かつ結果的にこれまで騙していた事への謝罪をし、その上で力を貸して欲しいと懇願したのだ。こうして、ムーア宮殿に着くまでに「影」となる兵の規模を大きくすることに成功したフレアであった。 左右のもみ上げの先をゴムで結んでいる青い髪の少女リク・ディフィンジャー。リクは、リクナビの再編成と農業地帯開拓の指示を出すため、新たな道を切り開こうとしていた。 皆を引っ張っていくのがトリスティアだとしたら、リクは皆の背中を押す役になる事を決意したのだ。率先してムーア兵と戦って勝利を勝ち取るよりもリクナビを確かなものにしてそれをトリスティア達に引っ張って貰うのが最前策だと考えたリク。そんなリクは、旅に出る前にロスティに残ってくれた兵や民を説得して回っていた。 「リクナビに協力してくれない? 少しでも状況を変えるには、人の力が必要だから」 そして説得の結果、戦う意志がある人には、歩兵か遊撃に分けて隊員にし、戦いたくない人や力がない人には医療か新しく開設した農業部に入ってもらう等である。この新たに立ち上げた農業部とは、食料難なこの状況を改善すべく立ち上げた部であった。農具は、アオイの協力もあり、調いつつある。あとは水利のよい土地を探して水路を確保を優先していくよう活動していた。 その農業部の活動が軌道に乗るのを見届けて、リクは育てた人材をムーア全体に行き渡らせる計画を胸に、ロスティを出る準備を整える。以前にも作った事がある陸上ヨットがその足であった。 「んー、いい風!」 風力で走る車輪付きの一人用ヨットの帆が、早朝の風にはためく。 「トリスティア、ジュディ、アオイ、頑張ってね。あたしはあたしをもっと成長させるために行くから」 そうして自然の風と風の紋章の力とで、大きく動きだすヨットから、リクは様々なことがあった東トーバ神殿の塔を眺めながら出立する。その神殿には、「リクナビや皆の為また旅に出ます」という置き手紙があったという。 |
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