ロスティの攻防 《亜由香》の影響力が未だ強いロスティ。そのロスティ軍の戦力低下と市民のための無血開放とを目指す異世界人たち。しかし、その思惑が実を結ぶにはまだ時間のかかる状況下にあった。その中の一つの功績は、異世界の少女リクの非公開処刑阻止である。けれど未だ完全に開放されたわれではない“リクナビ”の創始者リク・ディフィンジャー。生死をかけた攻防の渦は終わらない中、リクは、力任せに近くにいる兵士の足を蹴り上げ、兵士の手から一時的に逃れることに成功する。 腕を拘束され、絞首刑を受けるはずであったリク。リクは、逃れてもその場から立ち去らずにもう一度説得を試みる。 「戦う何てもう無しにしないかな? ここで衝突しても最後には何も残らない……ただ戦った跡しか残らないよ」 悲痛な声でリクは言う。 「今気が付いたんだけどね、今まであたしは何の為に頑張ってきたか……それは君達が生きて欲しかったからだったよ。例え立場が敵でもそれは変わらない………」 海を思い起こさせる青い瞳でリクは説得を試みる。 「亜由香に忠誠を誓っていても生き残ってくれればそれでいいと思う。甘い考えだと思うけど、自分の気持ちに嘘は言いたくない。君達が本当に心から望むのだったら亜由香側についていくといいよ。でも、もしあたしに最後のチャンスがあるのだとしたら……ここで教えて欲しい事があるの。今まであたしがしてきた事が本当にムーアを混乱にさせてこの世界の驚異だと言うのであれば、その銃で撃てばいい……でも、あたしがこれからやる事に少しでも望みがあると思って、一緒に来てくれるのであれば銃を降ろしてほしい。二つに一つ……どちらか今ここで決めてほしいの」 これが最後の説得で最後の訴え。 そのつもりでリクは言った。そしてリクの回りにいる10名の兵のうち、すかさず銃を構えたのは8名。残り2名のうち、1人はリクの盾となり、1人がリクの体を床に押し倒す。 響き渡る銃声。その銃声を頼りに、この処刑場に飛び込む少女がいた。 「リク! 無事!?」 建物内への突入路は、熱線銃とヒートナイフで壁に大穴を空けたトリスティア。そしてエアバイクに乗ったまま、邪魔な障害物などは『流星キック』で蹴り壊して前進してきたのだ。 「あ、あたしは無事だけど……た、助けてくれたムーア兵が……」 リクの服の上を守るように広がる血。その血が致死量の兵のものであることがトリスティアにもわかる。 「なら、助けてくれた兵のためにも、あなたが生きなきゃ! 逃げよう、リク!」 ヒートナイフでリクの腕の拘束具を焼ききるトリスティア。今は『ムーアの砦』であるトリスティアが、リクの体をエアバイク『トリックスター』へと引っ張り上げる。この間、銃弾は容赦なくリクたちを狙ったのだが、それはリクが無意識に『精神防御壁』を展開して守る。 「……生きる……? あたしは……」 兵の死のショックから動揺するリクに、機動力を活かして速やかに撤退するトリスティアが言う。 「ロスティは亜由香の影響力が強い土地だから、今までのやり方が通用しないのは仕方ないよ。今回は、アオイたちも協力して攻撃してくれてる。これから合流するからね」 トリスティアが駆るエアバイク『トリックスター』は、高機動と迷彩能力を加えて敵の目をくらませつつ、合流地点へと急いでいた。 ふと気付くと、そこはムーア世界だった。 「Oh、ここはどこデスか〜? ホワッツ!? ジュディ、さっきまで酒場にいたはずデス〜……デモ、愛車のハーレーはエンジン絶好調〜。飼育箱のラッキーちゃんも元気ハツラツ〜デスネ〜。オールOK!問題ナッシング♪」 そんなジュディの前を、息をきらして走る人影がある。 「WHY〜? 重そうな荷物抱えてドシタのデスか〜?」 「そない悠長なこと言うてる場合やないで。あたいら、人の命かかった一大事の真っ最中や。ヒマなんやったら、手伝っとき!」 「Oh、あたいら、というのは複数デスネ〜、他にも誰か急いでる人がいるのデスか〜?」 「ごちゃごちゃ言わんと、あたいを乗せたらええんや! さっさと止まらんかい!」 わけのわからないままアオイを乗せて言われる方向に爆走する二人。酔っ払い運転でもあるジュディはタンデム暴走中に何度も居眠り運転しそうになる。その度に「気合が足らんから眠くなるんやろ!」と、アオイに殴られていたという。 そんな二人の前にまずは混乱するムーア兵の軍団が現れる。 「くー、邪魔や邪魔! このあたいがどかしたる!! ジュディ、このまま直進や!!」 「何だかわからないデスけど〜、アイアイサー♪」 アオイは、この前方を塞ぐ軍団へと、、バスターライフルとガンランチャーを撃ちまくって弾幕を張りつつ突撃する。 「シャモン家の『弾幕姫』のアダ名は伊達やないで!」 「Oh〜、グレイッ!」 こうして彼らは進路を確保してそのまま直進し、やがてリクを助けたトリスティアと合流を果たす。もちろんトリスティアの早さに追撃する軍はなかった。そして異世界では知己のあった者たちは和やかに挨拶を交わし、互いの無事を喜んだいう。 他方、アオイが攻撃した軍団。それは、ロスティヘ向けて進軍していた中央からの増援部隊の先発隊であった。そしてその指揮をとっていたのは、異世界の乙女フレア・マナであった。 この軍隊が混乱していた経緯は兎も角として、フレアはまず状況の整理から始めていた。 『幸い現在もロスティ駐留軍は混乱の最中だ。この状況下の中で反乱軍の方で何らかのアクションがあれば、駐留軍兵士の混乱は更に増大し、その混乱の中で何人かの起こした士気崩壊が他の兵士にも伝播し連鎖する、いわゆるモラルハザード現象を引き起こすだろう』 そう読んだフレアの部隊に向けて、まさにアオイの弾幕が降り注いだのである。 「敵弾の進行方向を確保して散開せよ!!」 アオイの放つ弾丸の雨を見るなり、どんなに勇猛果敢な部隊でも潰走の羽目に遭うのを予測したフレア。フレアは混乱する部隊に新しい指令を下す。 「一時転進! 増援部隊本隊と合流して戦線を立て直す! 増援部隊へは、合流までそのまま待機せよとの伝令を!」 名目上、もっともらしいその指令により、混乱する部隊の指揮系統がフレアに戻る。と同時に彼等をロスティの遙か後方にて展開している本隊まで誘導することで、ロスティへの増援が遅れ、今後反乱軍が作戦を展開するのに有利になる状況を作ったのだった。 |
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