アマラカンへの道程
北方の山岳地帯アマラカンにある神官の隠れ里を目指していた東トーバ脱出組。彼らは、ムーアからの追撃を受ける。このムーア追撃部隊の司令官にされたのは、東トーバ神官長ラハ。異世界人たちは、そのラハ拉致に成功し、追撃部隊の包囲を突破して逃走をはかっていた。 全身がツルリとした体を持つ乙女リュリュミア。リュリュミアは、濃い霧の中で叫ぶ。 「神官さんを迎えに来たのに邪魔するなんてひどいですぅ。おまけに神官長さんまでさらっていっちゃうなんてぇ。リュリュミアも怒っちゃいますよぉ、ぷんぷん」 そして、まずは自分を修羅族さんに担いでもらう。 「んっとお、彼らの進路はぁ、まっすぐ北に向かってましたねぇ。よおし、みんなには後から追いかけてきてもらってぇ、リュリュミアは先回りしますぅ」 そしてリュリュミアを肩に乗せた修羅族の姿は北方向に消えた。 他方、霧と探査戦闘機とを連動させた撹乱により、ムーア兵から逃げおおせたのは680名の民と105名の神官たち。だが、この逃走中に4名の子供たちが隊を抜け出した事までは気づけないでいた。そして落ち着きを取り戻しつつあった民たちは、すぐに子供が足りない事に気づいてしまう。 「うちの子がいないわ!」 「俺の妹もいないぞ!! 逃げ遅れたんじゃないのか?」 騒ぎ出し、戻ろうとする家族たち。そんな彼らの騒ぎを笑顔で収めたのは、尖りぎみの耳を持つ少女リューナだった。 「それなら心配ないわ。子供達がこっそり行動しようとするのをディックが見つけて、彼が保護しているのよ」 しれっと応えるリューナは、実はその様子を確認していたわけではなかった。ただ、想定以上に合流が遅れていたディックにわずかな望みをかけたのである。何より、ディックや子供達が心配だとしても、同じ場所に留まり続けていては 追っ手から身を守るのも難しくなると考えたのである。そのリューナと同調して言い聞かせたのは、青いドレス姿の乙女アクア・マナだった。 「そうです〜。子供達はディックさんが面倒見つつ別行動中、だから安心して下さい〜」 リューナと同じ意見を持つアクアは言う。 「今は少しでも早くアマラカンに向かうことです〜。せっかく突破したのを追いつかれては、元も子もありません〜」 アクアの再度の主張を受けて、脱出組本隊が動き出す。すべての物資を失いつつも、神官長ラハ拉致に成功して包囲を突破した東トーバ脱出組本隊。今は防寒服をまとっている隊を眺めて、リューナが息をつく。 「一応、今着てるだけの防寒具は大体揃っているけど、足りない分の物資の再調達もしなくちゃ、ね」 食料は神官の力で得るとしても、その後のダメージを考えると、神官の力だけに頼っては進行が遅れてしまう事も考えられるのだ。また寝るにも休むにも毛布の類は必要だろう。様々に考え込むリューナに、神官長補佐役のルニエが己の不甲斐なさを恥じつつ言った。 「最後に寄るとすれば、キソロであるな……苦労をかけるの」 一方、隊の出立する中、白い翼で飛び立つアクアは言う。 「それでは、私はわずかでも追っ手を撒く為に、行軍跡は今まで通りに消しながら進んでいきます〜」 アクアが扱う技は水と氷の温度差を利用したブリザード。跡を消すというよりは、周囲一体の土が水分を得て盛り上がって変形するので、どちらかというと足跡だらけに見えるものだった。 「では〜、私はこの方法で、別のルートに消しきらない足跡風の痕跡とかをワザと残して、追っ手を其方に誘導させるようにします〜」 そして適度に痕跡残したら空を飛んでスタートに戻って再度痕跡を残していくアクア。このアクアの方法によって、リュリュミアの指示に従わなかったムーア兵たちは皆、崖や谷など、危険な場所へと誘導されたのだった。 鷲塚拓哉(わしづか たくや)は、すらりとしたやや長身の青年である。異世界では宇宙艦隊の艦長でもある拓哉は、気絶している神官長ラハの側にあってその精神の葛藤を知ろうとしていた。 「この世界でこの力を使うにはあまり気分は良くないし,下手したらダークサイドに飲み込まれる可能性あるが……ラハの精神にサイコダイブしてみようか」 拓哉が自分の世界では使えた力は、リリエルが使うフェアリーフォースほどには安定していないのを感じていたのだ。それを聞きつけたリューナが声をかける。 「ラハ自身に何か仕掛けられていないかしら?」 「洗脳されていると言う可能性も否定できないけど、俺はむしろ、ラハには何か葛藤みたいな物があるんじゃないか、って思ってる、その有無も知りたいし。そしてラハの精神に触れられて、いわゆるラハの夢の中でコンタクトを取れたら、本当に亜由香の下で恐怖に震えながら過ごす事が幸せなのか、今一度考えるように言いたいしな」 その時、気絶していたはずのラハの瞳から涙の粒が転がり落ちた。 「……それほどまでに……皆様には申し訳ないことを致しました……」 ラハがゆっくりと体を起こす。そこには、かつての穏やかだったラハの姿があったのだった。 亜由香との邂逅時より、ラハは自己の精神を守る為に、『精神防御壁』を使っていたのだ。この力を使えば、心的ダメージが抑えられる他、程度の差はあれ非情になることもできたのだ。結局は力に頼ってしまっていた神官長ラハ。そのラハに、拓哉は静かに言う。 「葛藤があるのは、ラハ一人だけじゃなくてみんながそれに匹敵する葛藤があるんじゃないのか? そもそも人間なんてモノは葛藤なくしては成長はせん」 拓哉は、まずは己の精神を守ろうとするラハに言った。 「葛藤するからこそ人間だ。……だから共に俺達と歩め」 最後に締めくくられた言葉に、ラハが涙を流す。 「……ありがたく……そう……させていただきましょう……君主マハも今のその言葉があったら……世界は違っていたのかも……しれません……」 神官長ラハが加わった脱出組み本隊。ただラハは、自分が同行することを亜由香に知られては民の命が危うい為、村人に変装しての同行を希望していた。 |
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