東トーバへの集結
ムーア兵によって占領されている東トーバ。東トーバの村人たちは兵に搾取され、食料を差し出せない者は徴兵されていた。また神殿に押し込められていた神官たちは、これからムーア各地へ連れていかれるという。
その東トーバにおいて、一人の少女が捕らえられる。捕らえられたのは、“ロスティにトリスティアあり”と、商人の情報網“リクナビ”によりムーア世界中に名を轟かせた少女トリスティアである。修羅族と呼ばれる魔物の長まで倒した少女トリスティアは、見せしめの為に東トーバで再度の公開処刑対象となっていた。
−−トリスティアの公開処刑−−
しかしその東トーバ神殿では、ムーア兵の隊長とロスティより引き返して来た修羅族たちが、トリスティアの殺し方で意見が分かれていた。
「公開なんぞ面倒ダァ! すぐ殺しちまぇェ!!」
すでに長である邪鬼をトリスティアによって葬られた修羅族たちが息をまく。
「ですが亜由香様の命で、東トーバに関わる者は公開処刑にせよと言われております」
押し問答の末トリスティアの処刑は、亜由香への報告後に八つ裂きなるという事で決着した。もちろん処刑の執行は修羅族によって行われるという。
金色の髪をツインテールにした乙女リリエル・オーガナは、長きに渡って神官と共に神殿に囚われていた異世界人である。この状況下でリリエルは、自分が神官ではない事をムーア兵に主張していた。
「あたしは、神官じゃないわ! たまたまここに来た異世界人よ! ここにいてもおいしい食事もできないから、ムーア兵になって稼がせてくれないかしら?」
そのリリエルと同じく場所に閉じ込められてきた女神官たちは、その通りだとムーア兵に伝える。服装からして神官とはあきらかに違うリリエル。その主張が認められて、リリエルがムーア兵となるまでは相当の時間を要したのだった。やがて晴れて正式なムーア兵となる事ができたリリエル。その最初の任務は、トリスティアの公開処刑準備であったのだった。
ポニーテールの髪に大きなリボンを飾る乙女フレアは、トリスティアのムーア突入に先立って東トーバ神殿に成功していた乙女である。トリスティアとの連携攻撃には失敗したフレアは、一つのゆるがぬ決意を固めていた。
『ムーア世界での反抗の旗頭、希望の星である「ロスティのトリスティア」を失う事は、今後の抵抗運動を行うにあたり多大な影響が出てしまう! 何としても救出しなければならないよ!!』
そして神殿に潜むフレアが、ムーア兵の中にリリエルの姿を見つけるのには時間はかからなかった。
−−トリスティアの公開処刑−−
この情報を、自ら広めた“リクナビ”で遠方より得たのは、 リク・ディフィンジャーだった。そしてリクは、商人に変装していた道具一式をとりあえず商人に預けると、祈りに近いメッセージを“リクナビ”に載せた。
「近く、されど遠い場所に住んでる民……互い同士の溝が深く互い同士だと反発しあう。そんな民よ。一つの言葉に耳を傾け、一つの言葉に集まれ立ち上がれ。『ムーアに平和を人に幸せを』」
街同士は過去の戦いにより協力するのが難しいムーア世界。ならば無理に協力させるのではなく、一つの言葉を合言葉・中心にしてそれを口実として間接的に協力し合うようにしたいとリクは願ったのだ。この願いの応えは未だないが、いつか成る時を信じるリクであった。
これまで乗って来た馬車から馬を出すリクは思う。
『あたしに全員倒せる体力も力もないの。それに殺すってなんだか嫌だし後味悪いじゃん。ま、あたしなりのやり方で頑張るから』
そんなリクは、自分の世界から持ってきた『速の紋章』を馬にはる。すると、馬の走行が飛躍的に速くなる。
「行こう!」
紋章の力を最大限に引き出し、全力で東トーバに戻るリクだった。
北方へと進む東トーバ脱出組。その物資調達の仲間ディックからトリスティア処刑情報を得てよりすぐ、東トーバに戻る事を決めたのは、ラティールであった。
『距離はあるけれど、自分であればぎりぎり間に合うかもしれない……!』
背に二枚の羽を持つラティール。しかし大勢で動けば相手の思う壺になる恐れを予見して、現地へは単身で向かうことにする。出立するラティールは、これまで剣術を教えて来た若者たちに告げる。
「日々の鍛錬は重要だから、それだけは怠らないようにね」
ラティールの言葉に、150名の若者たちが頷いて送り出していた。また他の村人、神官、そして異世界人たちも、ラティールの成功を期待して手を振っていた。
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