東トーバ奪還!

 リクナビは、すでに各所の異世界人によって有効に機能し始めていた。その一つは、ムーア兵と修羅族とに蹂躙される東トーバであった。
「このまま魔や修羅族の横暴に屈しちゃいけないよ!」
 そう声を上げたのは、ムーア中に“ロスティにトリスティアあり”とその名を知られた少女トリスティアである。修羅族によって負傷した右腕は、リクナビ医療班に治療してもらったトリスティア。トリスティアは、痛々しく包帯を巻いた腕を前にして、高らかに宣言する。
「ボクたちと一緒に戦おう!」
 東トーバの民衆やムーア軍の兵士にと呼びかけながら、自分が先頭に立って進むトリスティア。静止するムーア兵には、
「ムーアはこのままでいいと思ってるの? 修羅族や他の魔物の言いなりで本当に、いいの?」
 トリスティアの問いかけを聞いたムーア兵は、誰もがその切っ先をおろしてしまう。
「……いいわけはない……けれど逆らうわけには……」
 逡巡する兵には、トリスティアが陽気な声をかけてゆく。
「ボクは、いままでムーア軍に従っていた兵士や、虐げられてきた民衆たちとも協力して、皆と一緒に東トーバの開放を目指すことができればいいと思ってるんだ。迷っているなら、邪魔しないでくれればそれでいいよ!」
 ムーアの為に傷ついてもなお、諦めないトリスティアの姿勢。その姿に多くの兵がトリスティアに続き、残った兵は無言で彼らを見送っていた。
 そんなトリスティアが目指す先は、ムーア宮殿。
 その地に駐屯するムーア側司令官は、すでにトリスティアの呼びかけをうけて戦意を喪失していた。これまでもムーア側司令官は、修羅族の横暴に辟易してきたせいもある。司令官は、副官に命令する。
「神殿の門を開けなさい……そして伝えるといい。この東トーバに残っている修羅族三体は今、神殿の中庭で食事をしている、と」
 こうして東トーバ民衆はもとより、東トーバに駐屯するムーア司令官を含めた多くの兵を味方につけたトリスティア。トリスティア一行の前に、神殿の門は静かに開かれることとなっていた。
 この後、神殿の中庭で昼間から酒に興じていた修羅族たちは、先頭に立って戦うトリスティアによって、蹴散らされることとなる。蹂躙され続けてきた東トーバの開放される時が迫っていた。

続ける