『酔狂スペシャル』

ゲームマスター:田中ざくれろ

【シナリオ参加募集案内】(第1回/全2回)

★★★
 オトギイズム王国には「一体、どういう経路でここまで来たんだろう?」という疑問符を抱かせる者が突然、やってきたりする。
「私は『酔狂スペシャル』探検隊リーダー、カワオカ・ヒロシテンだ! よろしく!」
 東洋の黒髪と陽に焼けた頑健な筋肉を持った中年男は、冒険者ギルドの受付ホールで、そこにいた冒険者達にさわやかに自己紹介した。腹の底から声が出ている。彼の服装はオトギイズム王国の基本的な文化の産物に比べれば、とても未来的で、ぶっちゃけて言えば21世紀レベルにテクノロジーが発達した世界の探検ルックなのだった。そして、腰に日本刀を帯刀。
 彼らは21世紀の『地球』からやってきたという。
 カワオカ・ヒロシテン。
 その自己紹介によれば、彼はオトギイズム王国よりも文明が発達した世界よりやってきた『てれび』タレントだ。『てれび』というのは各家庭に加工された映像、音声を同時転送出来る機械らしい。
 彼は『酔狂スペシャル』という『てれび』番組によって、お茶の間の人気者だという。番組は基本的に二時間スペシャルで、彼のチームが身体を張って世界の謎を追う『冒険ドキュメンタリー』が主流だ。
 これまで彼が作成した番組タイトルの例を挙げれば、
『アフリカの洞窟で、足のある怪蛇『アイダガギオギオ』をついに捕らえた!?」
『西アジアの砂漠に、火星の人面岩を見た!』
『アマゾンの秘境に、野人化したナチス残党の影を追う!』
『911同時多発テロは、チベットの奥地に棲むアポロ月面着陸否定派の陰謀だった!?』
『マリアナ海溝に金星からのUFO!? 暴いておやりよ、アダムスキー!』
 等等。
 番組の基本は決まっている。肉体を駆使したフィールドワークで過酷なジャングルや砂漠、無人島など非文明的な危険地帯の奥深くへ分け入り、そこにある謎とロマンに挑戦するのである。それに滅多にお眼にかかれない様な壮大な映像を視聴者に提供するのだ。
 尤も真相まであと一歩というところでいつも、食料が切れたり、対象に逃げられたり、謎のゲリラに追い払われたりして、涙を飲んで撤退せざるをえなくなるのがお約束だが、そのお約束こそが大好きで観ている視聴者も少なくないという。固定ファンが多い番組なのだ。
 今、この冒険者ギルドの受付ホールにはヒロシテン以外に、彼と同じ服装をした二十人ほどのチームメンバーがいる。カメラや照明、メイク等の撮影スタッフも含めた、様様な装備の、彼の探検チームだ。
「このオトギイズム王国で一つ、冒険ドキュメンタリー番組を一本撮ろうかと考えているんだ。ここでは仕事の依頼を受けて、私達を助けてくれる冒険者達を紹介してもらえるのだろう?」
 ヒロシテンは受付嬢に自分の構想を語りだした。
「この国で番組を一本、作り上げる! 『秘境ファンタジー次元の奥地に、伝説の巨大ドラゴン『ババババーン』を見た!!』 これで行こう!」
 これで行こう!と言っても……と、受付ホールにいる冒険者の群衆は呆気にとられた。
 『ババババーン』という名のドラゴンの話など、オトギイズム王国では聞いた事がない。
「何処かに秘境っぽい森とかジャングルとかとないかな? あと、その近場に深い洞窟があるといいのだが」
 ヒロシテンは受付嬢に熱っぽく語る。
「この国の冒険者にはセッティングと案内、そしてファンタジー考証に協力してもらおう。勿論、チームの一員として出演してもらってもいい。……探検には底なし沼と上から降ってくる毒蛇は欠かせないな。それも含めて、この国の冒険者にこの国の探検ならではアクシデントを設定してもらおう。『ババババーン』は大道具係にデザインしてもらいたいが、大きなフィギュアを仕上げる機材、素材がこの国で用意出来るかな……最悪、トカゲの顔アップ画像で何とか間に合わせるか」
 一応ノンフィクションらしいのに……。
 異世界からの訪問者達の作品作りの裏側をいきなり見せられ、ヒロシテンへの冒険者達の注目はしらけた顔が多くなる。
「森ならば近くに『モンマイの森』というのがありますが。そこには確か、そんなに大きくはありませんが、ドワーフ達が採掘している鉱洞もありますわ」
 真面目に応対する受付嬢。しかし彼女も言葉の何処かに呆れている感じが含まれている。
「モンマイの森か。そこがいいな。
 とりあえず番組の流れは、
 モンマイノ森からの出発、
 森でのアクシデント、
 洞窟到着、
 洞窟内部のアクシデント、
 洞窟奥でババババーンに遭遇。
 倒そうと……、いや捕まえようとするが、惜しくも逃げられる。
 エンディング、でいいだろう」
「冒険の依頼は、とりあえず前払いで冒険者ギルドへ納めていただかないと……」
「むう。ここではエンやドルやクレジットは役に立ちそうにないな。……そうだ、これならどうだ」
 ヒロシテンは窓口越しに自分の手首の銀色の腕時計を受付嬢へ渡した。
「これは……小さな時計ですね。この精巧さはドワーフ達へ売れば、いい資料として扱ってもらえそうですわね」眼の色が変わった受付嬢はざっと値踏みする。「ちょっと待って下さい」
 彼女は腕時計を引き取って、依頼窓口のスペースを出てきて階段を昇っていった。
 ギルドのお偉いさんか、ドワーフの文化に対して知識がある人か、デザインに造詣が深い人にでも相談に行ったのだろうか? 結構、長い時間が経ってから彼女は受付に戻ってきた。
「タフそうで、それでいて高級的なデザイン。いいですわ。冒険者が何人集まるかは解りませんが、とりあえず一人頭、十万イズムまでの報酬に相当すると、判断が出ましたわ。この依頼を仲介しましょう」
 そして、受付ホールの大掲示板にカワオカ・ヒロシテンの依頼が貼り出された。
 見守る冒険者達は、胡散臭く思っている様子を隠してはいない。
『秘境ファンタジー次元の奥地に、伝説の巨大ドラゴン『ババババーン』を見た!!』
 この番組が無事完成するかは依頼を受ける貴方次第かもしれない。
★★★

【アクション案内】

z1.カワオカ・ヒロシテンと一緒に冒険する。
z2,酔狂スペシャルの裏方をする。
z3.その他

【マスターより】

 田中ざくれろです。
 さて、今回は有名なあの人、あの冒険ドキュメンタリー番組のパロディです。
 基本的に途中のアクシデントや怪物遭遇等のピンチはPC達に作ってもらいます。アクション次第です。ハプニング性の高いシナリオです。
 たとえば、道に迷った所にサソリが頭上から降ってくるとか。
 底なし沼でピラニアに襲われるとか。
 半裸の美少女原住民に木陰から不意打ちを食らうとか。
 喉がひどく乾いたところに食べたら変な幻覚を見る木の実を見つけるとか。
 『ゆけ! ゆけ! 川〇浩!!』をBGMにでもしながら、存分にお考え下さい(笑)。
 もし、このシナリオがPLに受けたなら、続編があるかもしれません。
 では、次回もよき冒険があります様に。