『都市伝説をぶっちぎれ』

ゲームマスター:田中ざくれろ


【シナリオ参加募集案内】(第1回/全2回)

 月のない、風の寒い夜。
 二頭の馬が騎手を載せて、暗闇のエイトゥズィ山の荒れた坂道を駆け下り始めた。
 馬の頭に固定された二つのカンテラが、前方の夜闇を大きく穿つ。蹄鉄の音を打ち鳴らし、可能な限りの速さで馬は疾駆していた。
 エイトゥズィ山の道は頂上の村からふもとまで、長い道を折り畳むかの様に右へ左への26の急カーブがある。それらは頂きからA、B、C……と地元の人間に名づけられ、最後のZカーブを曲がれば、ふもとの街道へ合流出来た。
 山はそのワインディングした道以外は木が茂る地肌だ。ショートカットは出来ず、勿論、ガードレール等という文明の産物もなかった。
 この危険な坂道を暗い夜、騎馬で猛スピードで駆け下り、速さを競い、度胸を試すのが、近辺に住む若者達の娯楽になっている。
 今夜も、二人の騎手が猛速度でカンテラの明かりでカーブを確かめながら、走っていた。
 彼らは自慢の馬で深夜の公道レースをしているのだ。
 騎馬が四頭も並べば、ふさがってしまう道の広さだ。当然、事故も時折、起こっていた。
 馬を巧みに御し、ヘアピン状のAカーブを駆け抜ける。
「へっへ、今夜も俺の勝ちだな」
 一馬身の差をつけながら、戦闘の騎手が後方へ叫んだ。
「そうは行かないぜ!」
 後方の騎手が叫んで加速し、Bカーブで巧みに馬首を並ばせてみせる。
 二人は頂上の村のありふれた若者だったが、両雄、優劣のつけがたいレース序盤を展開している。
「そういえば」先頭を走る若者が風が生温かくなるのを感じる。「今夜もあれらが現れるんじゃねえのか」
「おいおい、よせよ。ありゃ、単なる臆病者の戯言だろ」
「でも、セナを最初に、もう何人もこの坂で連続して事故ってるんだぜ」
「そういや、セナは打ち所が悪かったのか、もう何日も眼醒めねえな」
「畜生ー。でもうらやましいぜ。アーシャの看護を受けているんだからな」
「本当にアーシャとつきあってるとか妬ましいな」
 二人は馬を並ばせる勢いでEカーブをクリアしていく。
 ストレートを駆け抜けようとしている、その時だ。
 二人とも異様な気配を感じて、前を見つめた。
 前方を何かが猛スピードで走っている。
 それは一つではない。
 大小様様に四つだ。
「……おい、マジかよ!?」
「噂は本当だったのか……!」
 何処から現れたのか、全力疾走する馬の前を行く四つのもの。
 それはカンテラの照明に照らされ、暗闇の中ではっきりと細部が解った。
 闇夜は吠える様な轟音に塗り潰された。
 まず一番、小さい物。それは犬だった。振り返るのを見ると中年じみた人間の頭を持つ、中型犬なのが解る。
 次は真っ赤なコートを来た長い黒髪の女性。右手に鎌を持つ。振り返る様を見ると口元は白い風邪用マスクで覆っている。
 そして、白い着物を着た、四つんばいの老女。白い背中には『ターボ』と書かれた大きな貼り紙がある。
 最後に並んだのは最も不可解なものだった。全身を黒いライダースーツに包んだ、しかし、頭部が何処にも見当たらない人間の男。その首なし男がまたがっている物が出す轟音が、それ以外の一切の音を打ち消していた。またがっているのは鋼鉄のパイプが絡まった大きな金属部品の構成物で、高速で回る前後二つの黒い車輪が荒れた路面にしっかりと噛みついていた。
 それらが騎馬の二人の前方をふさぐ。
「あの首なしの男……」震える声で村の若者の一人が言った。「ありゃ『バイク』って奴だ……冒険者ギルドを覗きに行った時、異世界から来たってゆう女冒険者が乗ってるのを見た事がある……。バイクに乗る奴はライダーってゆうんだ」
「俺もあの真っ赤なコートの女の噂は知ってる……ありゃ『口裂け女』だ。猛スピードで走る女の化け物だって話だ……。本当だったのか……この坂に奴らが出るってのは……」
 首なしライダー。
 口裂け女。
 ターボ婆ちゃん。
 人面犬。
 四つの怪異がエイトゥズィの夜道を高速で疾走している。足元が霞むほどの猛速の疾駆だ。
「俺はこんなのにつきあえねえよ!」
 若者の一人は馬に急制動をかけた。彼の馬はいななきながら、後脚で立ち上がるほどの荒荒しさで疾走を中止した。馬にかなり負担がかかったのではないか。そう心配になる制動だった。
「臆病者め!」
 後方へ消えた友人の姿を見送り、残る一人の若者は馬を加速させた。
 一頭の騎馬と、四つの怪異はほとんどスピードを落とさず、Fカーブに突入した。
 ハングオンする首なしライダーが先頭でカーブを抜ける。
 それに続く三つの怪異だが、人面犬が足をスリップさせて軌道がアウトへと大きく膨らむ。
「今だ!」
 若者の騎馬が人面犬の走路の隙を突いて、鋭くインをさす様に追い抜いた。
 追い抜く瞬間に人面犬が、人間の顔に悔しそうな表情をさせるのが見える。
 そして人面犬は闇の中に溶ける如く、消えた。
「こいつらは追い抜かされると消えるのか」
 手綱をしっかりと握りながら騎手は呟いた。
 急角度のGカーブへと突入。
 続く口裂け女をこのカーブで追い抜かんとした時、騎馬の動きが乱れた。
 スピードをほとんど落とさなかった判断ミスもあるかもしれない。いや、それだけではない。口裂け女は手の鎌でこちらを切りつけようとしたのだ。それをよけようとして手綱さばきを誤った。
 疾走していた馬の脚が大きく乱れ、馬体が浮いた。
 そのまま、ガードレールのないカーブ外側の闇へ遠心力で放り出された。
 騎手は馬ごと木立の中に突っ込み、斜面を転がった。全身をしたたかに打ちつけた。
 幸い、命は助かったが、身体のあちこちの骨を何本か折った痛みがあり、起き上がれない。
 離れた所から馬の苦しそうないななきが聴こえる。馬も生き残ったらしい。
 あの怪異達はどうなったのか。
 レースをリタイアした若者には知る余地はなかった。
 どれだけ時間が経ったか解らないが、やがて、レースを降りた若者の友人が村人達をつれて、助けにやってきた。この彼らがやってくる時には怪異は現れなかったという。
「夜中に無茶な事をしなければ、あれら化け物は現れない様じゃが、このまま、放っておくわけにはいかんのう。一つ、ここは冒険者ギルドに相談してみるか……」
 エイトゥズィ村の村長は松明をかざし、担架で若者が運ばれていくのを見ながら呟いた。

★★★
「それからも猛スピードでエイトゥズィの坂道を駆け下りていく度胸試しの若者はいたんだけど、皆、四人の化け物を追い抜けなかったんだったよ」
「怪我人続出だそうじゃないか」
「夜中にレースやタイムアタックをしている様な連中の前でしか、怪異は現れない様だぜ」
「セナっていう奴が最初の犠牲者らしいぜ。一か月前の夜中に一人でタイムアタックしていて、Aカーブの外で事故ってるのを朝、見つかったって。そいつはそれで気を失ったまま、今まで一度も眼が醒めてないらしい」
「化け物を見ただけで寿命が縮むって聞いたぜ」
「それからは事故を起こした奴らは意識がはっきりしていて、四体の化け物が原因だって解ったんだよな」
「たまに全裸の美女が混じって、走ってくる事もあるそうだ」
「一度は追い抜かれて消えた人面犬も、次のレースから復活しているというじゃないか」
 冒険者ギルド。
 受付前ホール。
 受付嬢トレーシ・ホワイトがエイトゥズィ村村長の依頼を受託し、大掲示板にその依頼書が貼り出される事になった。
『至急、冒険者求む。エイトゥズィ山の怪物退治。報酬、一人、五万イズム』
 同じ依頼が印刷ギルドに回され、飛脚によって、各町の冒険者ギルドで閲覧される事になるだろう。
 赤い斧を背負った筋骨隆隆たる男。
 蜘蛛の巣の意象を縫いつけた、紫ローブの魔導士風の女。
 そんな者達も様様に冒険者はその新しい依頼を見ながら、蜂の羽音の様な騒がしさで意見を交わしていた。
「どうやって退治すればいいんだ?」
「下の道に着くまでに全員追い抜けば消せれるんじゃねえか? なんちゅーか、高速戦? 俺はロバに乗るのも怖いからそんな事は出来ねえけどな」
★★★

【アクション案内】

z1.都市伝説の怪異にレースを挑む。
z2.エイトゥズィ村について調べる。
z3.その他

【マスターより】

「夏だから怪談」というわけではありませんが、それっぽいシナリオです。
 今回、怪異達との高速レースに挑む方は何かしらの「走る」手段を入手して下さい。
 『人面犬:最高時速100キロ』『口裂け女:最高時速60キロ(ただしすれ違いざまに鎌で攻撃してくる)』『ターボ婆ちゃん:最高時速140キロ』『首なしライダー:最高時速200キロ』と非常に強敵です。
 徒競走で参加しても構いませんが、まず普通には勝てないでしょう。
 『瞬間移動』や『空を飛んでいる』のでは追い抜いた事にならないので、地面に足をつけて走る様にお願いします。
 走行手段がない人は、事前に馬でも借りるか購入した方が無難です(馬の速度は60〜70キロ)。
 それでは貴女の好きなBGMをかけて気分を盛り上げながら、アクションを考えましょう。
 個人的におすすめはDEEP PUR〇LEの『HIGH〇AY STAR』か、ダイナ〇イト・シゲの『I’VE GOT TO R〇DE』かロー〇マリー・バトラーの『汚れた〇雄』で。〇様の『高速〇路の星』でも可。
 では皆様によき冒険があります様に。