ゲームマスター:田中ざくれろ
★★★ オトギイズム王国。王都パルテノン。 松明を燃やした街灯の並ぶ夜の街に、酔客がたむろする。 風景にある居酒屋の中で少少高級そうな店が一層明るくあり、身なりがよい、いかにも小役人めいた男がその中に吸い込まれていった。 この店は彼のなじみである。 テーブルにはいつもの酒と料理が置かれている。 だが、今夜は彼が予想していなかった興が待っていた。 「あら、いい男☆ どう、ご一緒しない?」 言いながら彼のソファの横に座ったのは、食い込みのきつい桃色のレザーレオタードを素肌に身につけた、色っぽい女性。 桃色の革張りの翼に、逆棘のついた桃色の尾。 彼を挟む様にもう一人のプラチナブロンドの女性も反対側に座る。酒場に出入りするには若すぎ、風体も何処かの教会の清楚な尼僧めいてこの場に不似合いだったが、店内の喧騒に負けない存在感があった。 その慈愛と生命を尊ぶシスター、アンジェ・ルミエール(PC0100)は、この小役人からDrアブラクサスの情報を絞り出すつもりでいた。 先日の冒険者ギルドに現れ、レッサーキマイラ退治を依頼していった奇人、Drアブラクサス。 アンジェはその正体を知りたかった。 (人為的に作り出された獣……? 生命を弄び、人々に迷惑をかけるなんて許せませんわ。ですが、どの様な経緯であろうとも一度、生まれてしまったものは生命に変わりありません)青みがかった薄紫の瞳の少女は思う。(それにDrアブラクサス様の様な、常識に囚われない方の着眼点や行動力が人人を救う事ありますもの。罪人呼ばわりはさせませんわ)それが彼女の真摯な思いだ。 尤もその言葉はアンジェの深層心理に沿って素直に直訳すると、 (訳:悪人発見! 役人の手に渡る前にわたくしがDrアブラクサスの身柄を確保して、教団の地下牢に監禁しなくては! 法や社会なんかには絶対負けない!) という意味になるのだが。 ともかく他の冒険者達からこぼれ聞くに、Drアブラクサスは『国庫』『軍を動かす』等、いかにも地位の高い人物が言いそうな言葉を漏らしていたという。 ならば、正体はその様な人物か、或いはその様な人物に罪をなすりつけたい意図がある人物だと予想出来ると、アンジェは推測した。 前者の場合は彼は隠し事に慣れておらず、普段から不自然な発言をしているはず。 後者の場合は嘘をつく事に慣れすぎていて普段から作意的な言い回しをしている、そして地位の高い人物に罪をなすりつけようとするくらいだから、やはりそれなりの地位なのではと思える。 どちらにせよ、その様なパーソナリティの人物がいれば、周囲の人間は内心で不自然に感じているだろう。 つまり、怪しい人物は普段から怪しいという事だ。 というわけでアンジェは情報収集として、小役人の不満の内から漏れ出ずるDrアブラクサスの情報を聞き出さんと、彼女が召喚したサキュバス(淫魔)に眼をつけた役人を接待させているのだ。 「おお! 今夜はなんと酒が甘美な事か! いいから、お前も飲め!」 オトギイズム王国ではサキュバスはそんなに珍しくない。冒険者ギルドの不健全な地下酒場で見かける事もある。 ただチョビ髭の小役人は彼女が淫魔だと解っていても気にせず、濃密なフェロモンに自らすっかり参っている様子だ。。 「あら。喉が渇きましたの? 酒もよいけれどジュースで一息つきますか?」 すっかりサキュバスの勧める酒杯が止まらない彼に、頃合いを見たアンジェは親切を装って、自分が持ち寄った『女神の聖水』を注いだグラスを飲ませる。 口当たりのよい、女神の聖水。 実はそれは、飲んだ者の口を極端に軽くする自白剤だった。 「酒宴の席ですもの☆ 今夜は無礼講で日頃の不満等を洗いざらいぶちまけるのもいいんじゃない☆」 お色気担当のサキュバスの声が、男の耳たぶをくすぐる。 女神の聖水を一気に飲み干した男が唇をわなわなと震えさせる。何か喋り出したい衝動に捉われているのだ。 「言っちゃえば☆ 自分よりも位の高いお役人、或いは大臣、王家の者達に対する不満とかを☆」サキュバスが耳たぶを甘噛みする。「イッちゃえ、イッちゃえ☆」 小役人が鼻孔と耳から蒸気を噴き出したかの様な勢いで口を開いた。 「大体だな! 現国王『パッカード・トンデモハット三世』様と后の『カシオペア・トンデモハット』様が甘すぎるのだ! 本来なら国軍を出すべきところをギリギリまで冒険者なる風来坊に任せようとする! 今まではそれで何とかすませられたから助かっているが、いざという大事になったらどうするつもりなのだ! 冒険者ギルドも発言権を誇示はしないが、国事に対する役割は自然と大きくなっている! 能天気なのは国王だけではない! 第一王子の『ハートノエース・トンデモハット』様はまだ妻をとるつもりはなく美形ぶりを発揮して無駄にプレイボーイだわ、第二王子の『バラサカセル・トンデモハット』は何事も自分を基準に置く無類のナルシストだわ、末の姫『トゥーランドット・トンデモハット』様はチンチクリンなくせして国事などそっちのけでデザイナー・錬金術師として科学に夢中でいる! しかも国費を使いこんで得体のしれない研究をしているという噂もある! 怪しい生き物を作っているとか! 全く、オトギイズム王国の行く末が心配だ!」 「Drアブラクサスについて何か知りませんの」 「Drアブラクサス?」アンジェの問いに小役人がいかにも初めて聞いたという顔をした。「誰だ、それは」 それからもアンジェは王国内のゴシップ等を聞き出そうとし、Drアブラクサスの正体に迫ろうとしたが、その男からの有益そうな情報はこれ以上なかった。 小役人の顔が喋り疲れたという表情になっている。息も荒い。 ここまでですわ、とアンジェは切り上げる事にした。 席を立とうとするアンジェ。 だがサキュバスが立ち上がろうとしない。 「あのー、今夜はこの男を『食事』にしていいかな☆」サキュバスは桃色の舌で赤い唇を舐めた。「久しぶりにこっちの世界に呼ばれたんだもん☆ 今夜はこの殿方をたっぷり愉しみたいの☆」 淫魔の食事とは房事。今夜はこの小役人と一夜を共にしたいというのだ。 「朝になったら、自分で元の世界に帰るのでしたら」 「話せるわぁ、アンジェ様☆ じゃあ『夕べはお楽しみでしたね』という事で☆」 というわけでアンジェはここでサキュバスと別れた。 サキュバスとこの男はこの酒場の二階の宿にしけこむのだろう。 サキュバスの色っぽい『食事』は彼女が満足するまで何回も何回も行われるはずだ。大穴の開いたバケツに水を汲む様な底無しの欲望のままに。恐らくは夜明けまで。 まあ、死ぬ事はないだろうが。 アンジェは枯れ果てた男の姿を思い浮かべながら、酒場を出た。 無邪気に残酷に相手を責めたてられるサキュバスの性分に、わずかながらのうらやましさを感じながら。 ★★★ 時間は少少巻き戻る。 具体的に言えば、Drアブラクサスが冒険者ギルドに現れた、あの時まで。 正午。パルテノンのギルド二階の酒場で脚のある人魚姫、マニフィカ・ストラサローネ(PC0034)が『故事ことわざ辞典』を今日もたしなんでいた。 本日の一語は『一期一会』。 説明文によると、茶道に由来する四字熟語であり、意味が転じて「もしかしたら二度と会えないかもしれない、という覚悟で人に接しなさい」というアドバイスらしい。 「つまり、他者との出会いを大切にすべし、という事ですのね」 そういう解釈を独り言で述べた彼女は、本にしおりを挟み、酒場からの階段を下りていく。 ふと、一階の受付ホールで注目を集めている男が眼にとまった。 キンキン声。グルグル眼鏡をかけてボサボサ黒髪の白衣を着た、背の低い男。 Drアブラクサスと名乗っているらしい。 生来の好奇心旺盛から、はしたないとは思いつつマニフィカの耳はダンボになる。 『一期一会』。その四文字が墨痕鮮やかな筆文字となり、マニフィカの脳内で躍った。出会い。こんな奇矯な人物は今ここで機を逃せば、二度と会えないかもしれない。 それほどまでに彼女は初見のDrアブラクサスに興味を抱いた。 どうもレッサーキマイラとかいう怪物退治の依頼をしている様だ。 受付窓口に依頼の提出を終えた彼が帰る。 その後を追うのは彼女にとっては当然の、自然の成り行きだった。 マニフィカは彼を尾行した。 パルテノンの雑踏をかき分けて、彼は進む。 人通りの多い街道。 王城もあるパルテノン中心部近くの緑深き公園の方へと歩み去っていく。 そもそも公園というのは元元は貴族の屋敷の庭園だったものが、一般に開放される様になったものというのが歴史的な経緯だ。。 だがこの公園は違う。トンデモハット王家によって元から市民の憩いの場、娯楽として造られたのだという。 公園に王城は近く、壁も接している。 石像の並ぶ池。無数のハトが舞い飛ぶ、パルテノン中央の緑濃き公園。 Drアブラクサスが散歩を楽しむ市民達が行き来する石畳の散策路を外れ、木木の繁みの方へと進んでいく。 (……何処へ行くのでしょう) 彼の怪しさから思わず、ここまで黙って尾行していたマニフィカだったが、ここに来て意を決し、Drアブラクサスの背中を呼び止める事に決めた。礼儀正しく名乗ってから、見識を広めるべくキマイラに関してDrの教えを請うのだ。いわゆる『専門バカ』な傾向が強い人物は、得意とする専門分野について話すのを好む。多分、自分ならば十分に聞く資格を有しているはず。 脳裏には彼とアカデミックな話題で大いに盛り上がり、交友を結ぶ光景が夢想されていた。 マニフィカは白衣の背中に声をかけようとする。 「ちょっと、そこのあなた!」 だが、呼び止めた声はマニフィカのものではなかった。 聴き覚えのある若い女性の声だ。 「何故、喋る怪物なんか造り出したのかしら!?」 マニフィカは公園の木の陰から現れた、知り合いの姿に驚いた。 小型化したモップを携えた茶髪の少女、アンナ・ラクシミリア(PC0046)だ。 もしかしたら彼女もこのDrアブラクサスを尾行していたというのか。尾行者同士が気づかなかったというのは結構間抜けな状況だと、彼女は心中で頭を抱えた。 「何じゃね、君は!?」 Drアブラクサスが突然現れたアンナに甲高い声で訊き返した。心なしかキンキン声は少し低くなった気がする。 「疑問文には疑問形で返せと教わったのでしょうか」とアンナ。「そんな事より最初の質問に答えてもらいましょう。あなたは何者でしょうか? 怪物の強さを確かめる為に喋るキマイラを造りだして、わざと逃がして冒険者と戦わせるつもりではないのかしら」 「ちょっと、アンナさん!」思わずマニフィカは二人の前に姿をさらして叫んだ。「あなたも彼を追っていたのですか!」 「え!? 二人ともこいつを追ってたの!?」 更に新たなる、驚いた声。三人目の尾行者の姿が現れた。何かの陰からではない。二人とDrアブラクサスの中間位置にある宙空から突然に出現したのだ。瞬間移動。テレポートだ。 現れた三人目はミニスカ制服の女子高生エスパー、姫柳未来(PC0023)だった。きっとテレポートで物陰から物陰へと転移して、Drアブラクサスを追っていたのだと彼女をよく知るアンナとマニフィカは確信した。 尾行者三人の鉢合わせ。 何故、ここに来るまでに気づけなかったのか。 三人は一様に頭を抱えた。 「皆さん、Drアブラクサスに直感的な怪しさを感じたのですか……」 「それにしても即、尾行だなんて……わたくしも含めて」 「こんなに怪しいこいつだもん。秘密の研究室を見つけるまで尾行するつもりだったんだけど……」 考える事は同じだというのか。 マニフィカ、アンナ、未来は思わぬ知己との遭遇で公園の空気を呆れた雰囲気に変えた。 間抜けな状況は三人目を迎えてさらに深刻なものになった風に感じられる。 その白けた空気に乗じて、一人、Drアブラクサスがそーっとこの場から逃げ出そうとする。 「待ちなさい!」 気づいたアンナが『サクラ印の手裏剣』を投げる。 それはDrアブラクサスの白衣の裾を、傍らにあった木の幹に縫いつけた。 「何をするの!?」動けなくなったマッドデザイナーが叫ぶ。しかし、その声はキンキンした男の声ではなくなっていた。若い女性の声だ。「あ、しまった! 声変わりの薬が切れてしまったわ」 慌てて振り向いた彼の顔からグルグルした黒縁眼鏡と一緒に大きな鼻、その鼻についていた反り返る黒髭が落ちた。 地面に落ちたそれは一つながりの変装セットだった。 「「「あ、あなたは!?」」」 その正体を見た三人の追跡者の声が見事にハモる。 それはパルテノンで何かの行事がある度、王城のバルコニーから臣民を見下ろして挨拶するロイヤル・ファミリーの中に見た顔だった。 オトギイズム王国トンデモハット王家の王女、『白衣の姫』というニックネームでも呼ばれる『トゥーランドット・トンデモハット』その人だったのだ。 ★★★ いつもの如く、冒険者ギルド二階の居酒屋で英気を養っていたジュディ・バーガー(PC0032)は、ほろ酔い気分で一階の掲示板の前へと足を運ぶ。 そして貼りだされた依頼にふと、眼を止める。 脳裏にちょっとした稲妻が走った。 野生の勘、もしくは第六感が働いた時は、それに素直に従うのが吉と彼女は経験的に知っていた。 某漫画風に言うなら「そう囁くのよ、私のゴーストが 」というところか。 「つまりエスケープしたキマイラを山狩り、マウンテン・ハントするワケですネ? OK! だいじょーぶ、ジュディに任せなサーイ♪」 脳味噌にアルコールが染み込んだジュディは、難しく考える事が億劫になっている。 それでもとりあえずの計画を立て、Drアブラクサスの依頼を受ける事にした。 手続きをすませたら二階に戻って飲み直す事にする。 と、階段を上がる途中で、知り合いに出会った。 「あ、ジュディさん〜」 ぽやぽやした雰囲気の光合成淑女、リュリュミア(PC0015)だ。 「ジュディさん、面白そうな依頼があるんだけどぉ、一緒にやりませんかぁ」 「うーん、リュリュミアの言いたい事がアンダスタンド・トゥー・マッチ、解りすぎる気がスルネ」 目的は同じなのだろう。 二人は二階へと連れだって上っていく。 そんな酔っぱらい達を、ジュディの首に巻かれた愛蛇ラッキーちゃんが無言で見守っていた。 ★★★ 「本当はいざという時の脱出口だから、王家の人間以外に知られるは不味いんだけど仕方ないわ」 公園の林の奥に置かれていた石像の前にトゥーランドットは立った。 その女神像の左右の乳房に同時に手をかけて押すと、草に覆われていた公園の地面がくぼんだ。 隠されていた秘密の出入り口の石扉がそこにある。 中へと奥深く続く通路は暗いが、彼女は躊躇なく入っていく。 石壁の地下通廊へとアンナ、未来、マニフィカも続く。背後の入り口はトゥーランドットが壁で何かの操作をすると閉まった。 四人はしばらく歩く。 恐らく、頭上にあったはずの城壁を地下でくぐって城内へと進入出来たのだろう。 地下通廊の行き止まりにあった壁をトゥーランドットが操作すると、そこは開閉する扉へと変わった。 四人が扉をくぐると、そこは地下の広い研究室だった。 所狭しと薬品の瓶やら何か器具やらが置かれているテーブルが幾つもあり、一方の壁には大小様様なケージが積まれている。ケージの中には実験用の動物が動き回る音を立てていた。 壁際の大きな本棚には、オトギイズム王国では見た事のない文字で書かれた分厚い背表紙が並んでいる。 「私の事はトゥールと呼んでちょうだい」 Drアブラクサスだったトゥーランドット姫が後ろで縛っていた黒髪をほどき、机に置いてあった新しいド近眼用のグルグル眼鏡をかける。彼女が秘密の出入り口を閉めると、扉は石壁の模様と区別がつかなくなった。 三人の客人はそこらに適当に散らばっていた椅子を並べて、座らされた。 「で、トゥール」天井からの魔法の照明を見上げながらアンナは訊く。「レッサーキマイラが逃げたのは、本当にわざとではないのですね」 「檻の錠をうっかり閉め忘れたのよ。あいつ、この地下通廊の開閉の仕方を、私がやっていたのを見てて憶えたのね。知能を高くするのも考え物だわ」トゥールが儀礼用ではない、日常生活で身につける簡易冠を頭に載せる。これが王家の人間である証だ。 尤も王家の人間として公式の場に出る時は眼鏡もかけないのだが。 「えと、トゥール」未来は、もくもくとした蒸気を低く這わせている薬品の入ったフラスコを数えてみた。「ここで悪事を企てていたわけじゃないのね」 「悪事? 悪事ね。まぁ、そう見たい人がいれば、これは悪事になるんでしょうね。科学の発展には、人が禁忌としている領域まで踏み込まなければならない事が多いのよ」 外見は未来よりトゥールの方がちょっと年上に見える。しかし会話の内容はそれ以上の年齢の開きがあるのではないかと思わせる。 それにしても実験生物の檻の錠を閉め忘れるとは。冒険者ギルドでの失言といい、彼女は思った以上のドジっ子でもある様だ。会話の大人っぽさが台無しになるほどの。 未来は当初考えていた様に、この話の内容を国民に知らしめるべきかどうかを迷った。 もしかしたら核兵器の如く、取り扱いが難しい少女なのかもしれない。 「とにかく、レッサーキマイラは、あなたが身分を隠して冒険者に退治を依頼しなければならないほどの、色色と危うい存在である事は自覚しているのですね」マニフィカはきっぱりとした態度を見せる。「……しかし、それにしてもこれほどの実験施設とは……正直に言って、素晴らしいですわ」 その言葉にトゥールの眼が光ったのはマニフィカに解った。 「解るのかしら? ……実はこの装置はね、重鎖化合物を加えてゲル状にした有酸素燃焼剤を撹拌して……界面活性化を……」 手に手を取ってトゥールの眼がギラギラと輝く。マニフィカを自分の興味対象が理解出来る人間だと思ったらしく、専門用語を多量に含んだ研究内容を嬉嬉として説明しだした。それはもうまるで堰を切ったみたいに。 きっと自分を理解してくれる存在に出会った事が嬉しいのだろう。 マニフィカは理解している風に見えたが、アンナと未来は、自分によく解らない言葉が一気に多量に流れ込んでくるのに全くついていけなかった。 まるで午後の昼下がりに、退屈な学校の授業を受けているかの様な気分になる。 または寝不足の朝に聞く、朝礼か。耳から入る言葉が咀嚼もされずに、もう片側から抜けていく。 興味津津のマニフィカとは対照的に、欠伸を噛み殺す二人を見たトゥーランドットがきつい眼をして言い放った。 「誰も寝てはならぬ」 ★★★ 「歌はいいね。歌は心を潤してくれる。リリンの生み出した文化の極みだよ……」 何処かおぼつかない標準語。 青空の下の、バークレー山山中。 蝶が舞い、小鳥がさえずる山道をビリー・クェンデス(PC0096)が行く。 ペットの金鶏『ランマル』をお供に連れたビリーは、ハイキングを楽しんでいた。 晴天に恵まれてポカポカな陽差し、さわやかな風が吹き抜ける。 実に清清しい気分だ。 「景色もエエし、空気も美味い! ほんま最高なピクニック日和やねん」 口調を関西弁に戻す。テクテクと山道を歩き、ちょうど小腹も空いてきた。 物の本によれば『ハイキング』とは散策、歩く事自体を楽しむ徒歩旅行をいい、『ピクニック』とは屋外で昼食、おやつを食べる事を楽しみのメインにした遠足の事をいう。 つまり今日のビリーは散策を楽しみつつ、昼食もがっつり楽しめるのだから、一石二鳥状態だ。これで勝ったも同然だ。 ビリーは少し早めの昼食をとるべく道端に座り、十八番の『打ち出の小槌F&D専用』を取り出した。 一振りすると塩昆布入りの俵型おにぎりが三個、ランチョンマットの上にころころと転がり出でた。 すると背後で大きな腹の虫。 「何やねん?」 ビリーは振り返った。 何も異常はない。 初夏の風はさわやかで、草花は白く赤く美しく咲き、アゲハチョウが舞い踊り、大きな木にしがみついたセミが「すい―っちょん♪ すいーっちょん♪」と声を立てている。 「って、何でセミがすいーっちょん♪って鳴くねん!」 ビリーは叫ぶが、そう言われても鳴いてるのだから仕方がない。 木にしがみつくセミの身の丈は三メートル、毒蛇の尾を入れれば四メートルほどで、ライオンの身体にライオンとヤギの二つの頭を生やしている。何処に出しても遜色のない、立派なセミだ。 「何処がセミやねん!」 「兄貴ぃ、ばれてまっせ」とヤギの頭が関西弁で口を利く。 「ほら見ろぃ。やっぱセミの鳴き声はミーン♪ ミーン♪にしておきゃぁ無難だったんでぃ」とライオンの頭。 「けど、俺達は可能性を試してみたがる、冒険したいお年頃なんだって言ったのは兄貴でっせ」 「正直すまんかった。反省はしていない」 「そういう問題やないねん!」 ビリーの振り下ろした白いハリセンがライオンとヤギの頭にスパーン! スパーン!と小気味良い音を立てる。 『伝説のハリセン』。伝説の芸人『チャン・バラトリオ』が使っていたのと同じで、折り目がついているのは持ち手側のみ、打撃側は波打たせるだけで折り目がついていない。コシがよく、大きな小気味よい音がするという逸品だ。 『神足通』で間合いを詰めたビリーは、同じ瞬間移動で元の位置に戻った。 ともかく、ばれたのならば仕方ないとセミのふりをしていた怪物は木から降りる。 大股でビリーへと歩み寄った。 「おお、邪魔するでー」 「邪魔すんやったら帰ってやー」 「あいよー」 怪物はそのまま大股でくるりとUターンする。 「いや、帰ってどうすんでぃ。俺達ゃこの可愛げあふれる男の子に、熱い腹の虫を伝えたいんじゃないのかい」 「あ、そうやね、兄貴」 怪物は更にUターンして、ビリーと向き直る。 「特に名乗る必要もないが、俺達はレッサーキマイラというチームだ。正式名称は『烈鎖亜輝舞羅 クレイジー・ストリート・パフォーマンス』という」 「そのクレイジーさんがボクに何の用や」 ビリーが訊くと、レッサーキマイラは「んっん〜」と喉の調子を整えて歌い始めた。 「とあるひ〜♪ やまのなか〜♪ キマイラにぃ♪ であったんでぃ〜♪」と江戸弁。 「ひるどき♪ やまのみち〜♪ キマイラに♪ でおうたぁ〜♪」と関西弁。 「キマイラの♪ ゆうことにゃ♪ おにぎりぃ♪ わけてください♪」 「しろいたわらがたの〜♪ あじつけのりのいかすやつ〜♪」 レッサーキマイラはそこまで歌うとコホンと右前脚をビリーに差し出した。 「というわけで、おひとつ」 「何でやねん!」 スパパーン! スパパーン!とヤギとライオンの顔面に伝説のハリセンが連続炸裂する。 「あっつぅ、あっつぅ〜!」 キマイラは叩かれたそれぞれの顔面を前足で熱そうにさすった。 「おにぎり分けてもらえまへんかなー。……おにぎりやなかったら、そこにいる鶏でもよろしおまんけど」 ヤギの頭がビリーのペットのランマルを見つめて、よだれを垂らした。 ランマルは慌てて、ビリーの後ろに隠れる。 「何で可愛いランマルを見ず知らずのあんさん達にあげなきゃならんのや! ……そんなにご飯食べたいなら、この山中でウサギとかキツネとか野生の生き物を捕ったらええねん」 「いやー、俺達ゃ、生まれた時から箱入り息子だったんで、狩りの仕方とかさっぱり解らないんで」とライオンの頭。「ここはひとつ、芸を披露しますんでその見返りにおにぎりをいただけるとか、そういうシステムにならないっすかねー」 「芸か……」ビリーは興味を示した。「おもろい。ここで天下取れるほどの芸を観せてもらおうやないか。お代は観てのお帰りや」 「よっ、さっすが、大将。話が解るねぇ」 「兄貴、これでわいらの空腹はランナウェイでおますね」 「言っとくけど、ボクはお笑いにうるさいで〜」 ★★★ 「ふー、動きがスローすぎて思わず寝てまうところやったで」 そんな事を言ったりするが、神様見習いであるビリーは睡眠の習慣がない。 「ジュンでーす!」とライオン。 「チョウサクでーす!」とヤギ。 「…………」と尻尾のヘビ ライオン&ヤギが「そこはミナミ〇ルオでございますって言うとこだろ!」と無口のヘビにツッコミを入れようとするが、前脚が届かない。 「レツ〇ー三匹か! しばくで!」と代わりに座敷童子は怪物にハリセンでツッコむ。ちなみにこのハリセンは音の大きさの割にそんなに痛くない。 レッサーキマイラがビリーの前で三十分以上、漫才やコントを繰り広げた。 しかし、つまらないのだ。 さわやかな風とポカポカ陽射しと相まって、ビリーが普通の人間だったらとっくの昔に爆睡していたところだ。 (……そういえばレ〇ゴー三匹の真ん中の奴って、ホンマは何て名前やったっけ?) そんな事に気が逸れてしまうくらい、レッサーキマイラのギャグはつまらなかった。 『上流階級アホレース』『押すなよ! 押すなよ!』『インド人を右に』『サムライ・デリカテッセン』『ドリルすんのかい、せんのかい』『保毛太郎侍』等、何処かで観たネタが連発されるのだが、どれもがウケやオチとは別の明後日の方向へ何処までも飛んでいってしまう。 「ええかげんにしいや、ほんまに!」 ギャグが不発に終わる度にビリーはツッコミに入るが、そうしないとコントに一区切りつかないのだ。 「えーと……」 そうこうしている内に、ライオンの頭が申し訳なさそうな声を出した。 「若い俺達の芸はこれで終わりで。楽しんでいただけやしたかい?」 「ほな、よろしければ、おにぎりいただきたいんやけど」 「ふう。今日のところは、これくらいで勘弁したる……って、ちゃうやろ!」 伝説のハリセンが今日一番、大きな音を立てた。 「空腹抱えて芸に精進せいや! ……と言いたいとこやけど、仕方ない。商人(あきんど)の情けや。おにぎり出したる。おかかでええか?」 ビリーは打ち出の小槌を振って、十数個ばかりおにぎりを出した。ついでに麦茶も出す。 「えろう、すんません。おぼっちゃん」 「この御恩は一生忘れやしねぇよ。ありがてぇこってす」 おにぎりに一斉にパクつくレッサーキマイラ。 「まあ、芸道に貴賤はないけど、食べ物を粗末にして笑いを取りに行くのは出来るだけやらんとってや」言いながら、ビリーもおにぎりを食べる。「よくある『この食べ物は後でスタッフが美味しくいたただきました』ってテロップも嘘やてゆう話やさかいな」 山の中でそんな食事の光景が繰り広げられる。 のどかに飛ぶ小鳥の声。 「あのぉ〜」 そんな一柱と一匹に突然、ぽやぽや〜と声をかける者が現れた。 「あれ、リュリュミアさん」 ビリーは山の風景には保護色めいているダークグリーンの髪、若草色のワンピース、タンポポ色の帽子といった姿の知己、リュリュミア嬢が現れたのに驚いた。 「何だ、この娘は」 「おぼっちゃんのお知り合いでっか」 「うん。すっごい知り合いや」 「お久しぶりぃ」リュリュミアがビリーに挨拶する。身の丈四メートルの怪物に全く臆する様子がない。「あのぉ〜。レッサーキマイラですよねぇ」 「俺達の事を知っているのか」 「意外と有名人やったりするんかな、わいら。よっしゃ、サインの一つでもやったろか」 彼女をはるかに上回る巨体は照れもなく、彼女に接する。 「レッサー・キマイラですかぁ、一人でも退屈しなさそうですねぇ」リュリュミアも怖気がない。「江戸弁と関西弁っていうんですかぁ、ビリーさんとすっかり意気投合してるみたいですねぇ。リュリュミアはヘビさんが気になるんですけどぉ、他の二人と比べたら無口なんですかねぇ、お話してみたいですぅ」 リュリュミアはキマイラの尻尾のヘビをじっと見つめる。 視線を合わせて、動かないヘビ。 一分ほどするとヘビは無言のまま、ぷいっと顔を反らした。 「お嬢ちゃん、すまねぇな。こいつは徹底的に無口な質なんで」とライオン。 「えぇー、でもぉ、お喋りした方が楽しいわよぉ。あなた達は何をしに外へ出てきたんですかぁ。もしかしたら、お散歩したかっただけですかぁ。やっぱり一人暮らししたかったのかもしれないしぃ。折角、喋れるんだから、ちゃんと相談した方がいいですよぉ。Drアブラクサスとぉ」 「一人暮らしや言うても、基本的にわいらはライオンヘッド、ゴートヘッド、スネークヘッドの三体で三位一体ワンセットやしなあ」さりげなくDrの名前が出た事に驚かず、ヤギが答える。 「ええぇ、じゃあ、何で脱走してきたのぉ」 「それは青春を縛る鎖を引きちぎって、自由という荒野にさまよい出る反抗心、ってヤツかねぇ……」とライオン。「檻の中で与えられたレールを走り続けるよりも、脱線した勢いで星空へと駆け登る、そんなワンチャンスを手に入れてぇ……みたいなもんかもしれねぇな」 「そうなのぉ……」 「すまねぇな、お嬢ちゃん。ご期待に沿えねぇで」 「いいんですよぉ。これでジュディさんが死角からこっそり近寄る時間稼ぎが出来たのでぇ」 そのリュリュミアの言葉に、ハァ?とレッサーキマイラとビリーが声をそろえた。 と、突然、銃声がしてレッサーキマイラは「しびびび!?」と声を挙げた。 その様子を感電による一時麻痺だとビリーは気づく。 そして雲をかぶったわけでもないのに陽が陰った。 ビリーが空を見上げると、視界に広がった大きな網が自分達を覆いながら、落ちてくるところだった。 不意打ちに驚きの声を挙げる一柱と一匹はその投網の中に完全に包みこまれた。 「イエス! キャプチャー・ネット、投網のスローイングは成功ネ!」 木陰から現れた者。それは二メートルを超える女性、ジュディだった。 リュリュミアとの会話に相手が気を取られている隙に近づき、『イースタン・レボルバー』を先制射して大型投網を投げかけたのだ。 この投網はドワーフ達に特急で作らせた新型だった。そのせいで扱いに不慣れだったが、前に投網を投げかけた要領を思い出しながら、至近まで忍び寄れたので何とか成功したのだ。 レッサーキマイラとビリーは網の中で身動きが出来ずにもがいていた。 と、ビリーの姿が消える。 次の瞬間、ビリーは網の外へ神足通で瞬間移動していた。 「しもた! キマイラも一緒にテレポートさせればよかったわ!」 「出せー! 放せー! 官憲横暴ー!」 「わいらの青春を返せやー!」 網の中で爪で引っかき、牙を立てるレッサーキマイラ。 しかし熊三匹を一度に敵に回せる巨体にも、頑丈な網は破れない。 「念の為に、更に上からブルーローズで捕縛しますねぇ。ほら、グールグルぅ」 リュリュミアの手から濃緑の蔓が太い奔流と化し、ネットの上から更にレッサーキマイラの全身を拘束する。 「ビー・サイレント、静かにナサイ! 獅子ちゃン、山羊ちゃン、蛇ちゃン!」腰に手を当て、聞きわけのない子供に言い聞かす様にジュディはポーズをとる。「ジュディはトロフィー・ハンティングはディスライク、嫌いなので、レッサーキマイラは生け捕りにする事にしマシタ。これ以上、ラフ・アクション、手荒な真似はしたくナイので暴れナイデ! ドゥ・ユー・アンダスタン?」 「リュリュミアさん、ジュディさん! こいつらをほどいてやってや! 話を聞いてると、どうもこいつら、何処かから逃げ出して、あんさん達が捕まえに来とるみたいやけど、ボクの見てる前やったら、こいつら、暴れんようにさせるから」 ビリーはジュディとリュリュミアを見上げて懇願した。 一息つく。ジュディはレボルバーをホルスターに戻し、リュリュミアはブルーローズの蔓を収めた。 「もう抵抗しないのネ」 ジュディはネット越しにレッサーキマイラを見つめる。 「わいの心は無抵抗非暴力主義やさかい。……どうか、このわいの純真で奇麗な瞳を見つめてえや」 ヤギの頭が関西弁で言い、そのジュディの眼を自分の眼で見つめ返した。 まっすぐ結ばれた視線。 するとジュディの頭の中がグルグル混乱してきた。 「ムキー!」 突然、ジュディが暴れ始めた。二メートル超の引き締まった筋肉は、周囲の木を引き抜き、折り始める。まるで某エヴァン〇リオンの初号機暴走だ。 「あ、うっかり『狂気の眼』の能力、使っちゃった。てへぺろ!」 全然可愛くないヤギの愛嬌に、ビリーとリュリュミアはただただ呆れる。 「今の能力はもう使わんといてや。話がややこしゅうなるさかい」 ビリーが山羊に釘を刺した。 やがてジュディは元に戻った。自分がしていた事を思い出しながら、しばし放心する。 とにかく、リュリュミアとジュディは、Drアブラクサスからの依頼の件をあらためてビリーに説明し、ビリーも「こいつらに酷い事をしないんやったら」とレッサーキマイラを補導する事を納得した。 金鶏のランマルがコケーと鳴く。 風になびくバークレー山の草むらを一匹のバッタが跳ねていった。 ★★★ 「……あれは何でしょうか」 アンジェは王都パルテノンの冒険者ギルドを訪れた時、奇妙な物を見つけた。 周囲は既に人だかりである。 冒険者ギルド内の馬小屋に馬よりも一回りほど大きな動物がいた。 動物だとは解るのだが、大きな毛布が全身に掛けられていて、シルエットがよく解らない。 下の裾から覗いている足先から大型猫類の類だとは想像はついた。 人だかりの冒険者達の様子からうかがい知るに、どうやらDrアブラクサスが依頼したレッサーキマイラが捕獲されたらしい。この毛布をかぶった姿のまま、町中を連れてこられたのだろう。まあ、猛獣をそのまま、市民の眼にさらすよりはこちらの方がまだいいはずだ。 その至近にいて、毛布から伸びるロープを握っているのは、その怪物を捕縛した人物か。 茶色の肌の金髪のキューピー人形の様な子供。 二メートルを超す、アメフトのプロテクターを身にまとった白人の女性。 タンポポ色の帽子をかぶった、髪も服装も緑色の光合成をしそうな女性。 皆、冒険者だろう。 アンジェは人だかりの中で彼らを詳細に観察した。 すると、馬小屋の外から新たなるざわめきが起きた。 振り返ると四人の人物がこちらへやってくる。 先頭の、グルグル眼鏡でヒゲで白衣の人物はDrアブラクサスだと解る。 もう一人はミニスカ制服のショートヘアの少女、女子高生。 そして、古代ローマ風の貫頭衣を身につけた、高貴な雰囲気の女性、 ふわっとしたピンクのスカートから伸びる足に、ローラースケートを履いた少女。 この三人と四人は出会った時は互いに少し驚いていたが、すぐに状況を整理して納得した様だった。 レッサーキマイラの受け渡しは速やかに完了した。 「じゃあ、報酬の十五万イズムはギルドの方から受け取ってくれ」 Drアブラクサスのおなじみのキンキン声が響く。 「そうそう、私から次回たな依頼もあるのじゃ。このレッサーキマイラの上位に当たる『グレーターキマイラ』が既に出来上がって、私の研究室でスタンバイしている。グレーターキマイラは会話や反逆する知性がない代わりに凄まじく強力じゃ。五メートルに及ぶ身体はライオン。頭はライオン、雄山羊、ドラゴンの三つが並んで生え、背にはドラゴンの翼があり、鷲ほどの速度で空を飛べる。山羊の眼には眼を合わせた相手を混乱状態にさせる『狂気の眼』能力があり、ドラゴンの頭は射程五メートルの炎を吐ける。熊十頭を同時に相手にし、倒す事が出来るパワーを持っている計算じゃ。……このグレーターキマイラとレッサーキマイラを公園に付属した直径三十メートルの闘技場で戦わせる。恐らくどちらかが死ぬまで、まあ、やられるのはレッサーキマイラの方じゃろうがな、の死闘じゃ」 Drアブラクサスの宣言を聞いた冒険者達がざわめき立つ。 「今回、レッサーキマイラにはハンデをやろうと思うのじゃ。レッサーキマイラに助太刀して戦う者を募集する。報酬は一人、十五万イズムじゃ」Drアブラクサス=トゥーランドットは叫ぶ様に言い放った。「私が欲しいのは科学的デザインのより完璧な完成体じゃ! 二頭の生物の死闘は言ってみれば実験、検証! 果たして劣るものは勝るものの『絶対』をはねのける事が出来るか!? 友情パワーとかでそれが出来るとかいう幻想を持っている奴は、ここでチャレンジの意思を伝えるのじゃ! 尤も助っ人の命も保証出来ないがな!」 狂気の影を帯びた白衣のマッドデザイナーは笑っているかの様だ。 ……死闘。 慈愛と生命の女神に仕えるアンジェは彼(彼女)の声を聴きながら、その残酷な言葉を心の中で繰り返していた。 ★★★ |