ゲームマスター:田中ざくれろ
【シナリオ参加募集案内】(第1回/全3回)
★★★ 色とりどりの放物線。 練り歩く数百人の兵隊達の手によって、赤、青、黄、桃、花が紺碧の空へとまき散らされる。 太陽と白い雲は都市のマーチングを祝福しているかの様だった。 豪勢で華やかなパレード。 高らかに鳴り渡るラッパ、腹底を打つ様にドラムが響く楽隊。 大通りの中央を、四人の力丈夫な家臣に支えられた豪華な輿(こし)が進んでいく。 老若男女。沿道の観衆は声を挙げて沸き、眼の前に歩く者を歓声で迎える。 ……いや『歓迎』しているのか……? 大声を張り上げてその輿を称えるこのデリカッテッセン領の領民達は、その派手な喝采の陰に戸惑いの表情を隠していた。 この違和感を感じているのは自分だけだろうか? そうではないはずだ。だが……。そんな疑念が大観衆の歓声に飲み込まれる。皆、喜びの声を挙げている。心の底からかどうかはともかく。 これはデリカテッセン領領主『フローレンス・デリカテッセン』女公爵の新作ドレスのお披露目パレードなのだ。 しかし、どう見ても……。 熟女ヌード その輿に乗った豊満なベージュの色は全裸の熟女のものだった。 美女だ。 だが、年季の入った、美女だ。 長い黒髪。その見せつけて恍惚としている美顔。 超巨乳の胸元をピンクの羽根扇で扇ぎ、輿に据えられたビロード張りの豪勢な椅子の上で、太腿が重なるまで脚を深く組んでいる。 裸だ。限りなく裸だ。扇情的に裸だ。 ただコルセットのみが腹を締めつけている。 「なあ、おい」見物人の一人の若者が自分の横に立つ、兄を肘で小突く。 「何だよ」 「俺、女公爵様がすっぱだかに見えるんだけど、俺っておかしいのな?」 「そんなわけねえだろ……と、言いたいが俺もだ」 兄弟は周りを見回した。 観衆は熱狂しているかの様に声を上げ、女公爵に歓声を送っている。 綺麗だとか。 素晴らしいとか。 そんな褒め称える言葉があちこちから聞こえる。 兄弟はそんな彼らを見つめた。 彼らの祝福の声には何か戸惑いはないか? そうとも見えるし、そうでないとも見える。 「なあ、兄ちゃん。女領主様はどんな服を新調したって言ってたっけ?」 「伝令官の発表によれば、流れの服飾デザイナーに作らせた、魔法のデザインの服だって話だ。どうも『美しすぎて馬鹿には見えないってドレス』だって話だ。……俺達、馬鹿なのかな?」 「そんな事はあるわけない! 俺達が馬鹿だなんて!」 兄弟は悩んだ顔をつき合わせた。 すぐ隣に近所に住む老人が立っているを見つけ、兄は肘で小突く。 『町の賢者』とも呼ばれ、町内の難しい案件をスバズバ解決する事で有名な爺様が振り向く。 「なあ、ご隠居さん」 「なんじゃ! 人がせっかく女公爵様の美しいドレスを堪能してるというのに」 「ご隠居さんには見えるのかい!?」 「当たり前じゃ。あの玉虫色のゆったりしたワンピース。膨らんだスカートは左右が大きく割れ、豪勢な赤いフリルで飾られている。もしかしてお前達、見えないのか?」確信的な口調。老人の杖の先で、足元の石畳がカッと鳴った。 「お、おう! 見えないはずないじゃないか! なあ、兄さん。周りの人間も誰も不審がっていない様だし」 「お、おうよ。そうだよな。いやー、玉虫色のドレスがすんごく綺麗だよなぁ」 兄弟の声は少少うわずりながら、女公爵様を褒め称える大声となった。 女公爵を乗せた輿は兄弟の眼の前をゆったりと通り過ぎていく。 大通りに沿う群集の饗声は兄弟や老人と同じ調子。皆、領主様に賞賛を送る。 花がまき散らされる大通りを裸の婦人を乗せた輿が行く。 このデリカテッセン領は豊かな領地だ。女公爵様がこのドレスの為に服飾デザイナーに高額報酬を払って尚、余りある。 女公爵様はこの新作ドレスの事がすっかり気に入った様で、そのデザイナーに次々と新作を作らせ、週に一回、今日の様なお披露目パレードをすると発表した。 馬鹿には見えないという、これらの服を。 ★★★ 冒険者ギルドの酒場のテーブルで、一人の中年女が自分の両こめかみに人差し指を当て、眼を閉じて押し黙っていた。 大勢の見物人が見守るテーブルに置かれた大きな水晶球が曇り、やがて明るい像を結び始めた。水晶球は震え、その映像に音を足していく。 中年女の超能力は『過去認知』。過去の情景を見る能力だ。 水晶球に映し出された映像は、デリカテッセン女公爵の館内の光景だった。 五人の人物が機織り機の置かれた室内で談話している光景。機織り機の隣には金張りの大きな姿見鏡が置かれている。鏡は魔法の道具めいた見事なデザインだった。 「本当にドレス製作は進んでいるのかしら」 フローレンス・デリカテッセン女公爵は裸ではなく高価そうな衣装を着ている。領民が知る、いつもの姿だ。 「ちゃんと進んでおりますよ」 男が答えた。身なりからすると彼は流れの服飾デザイナーらしい。 「ただ、もう少し資金の方が必要で……あと三百万イズムほど」 もう一人の男も同じく服飾デザイナーらしい。流れのデザイナーは二人のコンビなのだ。 「ジョン、アレックスとやら、資金は言う通りに追加するから早くドレスを完成させなさい」 婦人は桃色の羽根扇で口元を覆う。待ちきれないじれったさがその仕草の中に見えた。 機織り機には何の織物も置かれていない様に見える。 「それにしても見事な玉虫色の布でございますな」 老人が何もかかっていない機織り機を見やる。このデリカテッセン領の内務大臣だ。 「そうなのかしらー?」やたらに胸のでかい絶世の美少女が小首をかしげた。「私には何も見えないのだけれどー」雪の様な白い肌に血の様に赤い唇。フローレンスの美しい娘、スノーホワイト・デリカテッセン、十八歳。服の上からでも形がはっきりと解る、自分の頭ほどに大きい超巨乳だ。 「これは頭の悪い者の眼には見えない布でございます」ジョンと呼ばれた男がぬけぬけと言う。 「まさか貴女様達には見えていないなんて事はないでしょうね?」アレックスと呼ばれた男が言葉を継いだ。 「も、勿論、見えていないなんて事はないわ。なんて素敵な玉虫色の織物でしょう!」女公爵夫人の言葉は何処か慌てている風。 「その通り、素敵な玉虫色でございます」声を出して答えたのは人間ではなかった。大きな姿見鏡が声を出して答えたのだ。「私は嘘は申しません。頭の悪い者には見えないこの織物は玉虫色であり、私の持ち主である素敵な服飾デザイナー達の手で見事な燃える如くのフリルやプリーツにも変化いたします。きっと素敵なワンピースドレスとして仕上がる事でしょう。デリカテッセン女公爵様は安心してコルセットの紐をお締め下さい」 姿見の鏡面には機織り機が映りこんでいた。その道具にかけられた見事なまでに美しい玉虫色の織物も。 「全く完成が楽しみでございますな……」内務大臣が感心した声を漏らす。 「やっぱり見えないけどなー。でもスノーホワイトには難しい事はよく解んないやー」スノーホワイト嬢は指をくわえて機織り機を眺めていた。 と、ここまでを映していた酒場の水晶球はまた曇り始めた。 そして館内の光景は完全に消えてしまう。 「はい、無料バージョンはここまでだよ」『過去認知』を使っていた中年女はマグカップに残っていた酒を仰いだ。 「今のが本当だって証拠があるの?」見物人の一人が疑わしげな声を投げる。「あんたの魔法で作った映像でなく」 「信じようと信じまいとこれが真実さ」女はあっさりと返す。 「おい。続きを見せてくれよ」見物人の一人がそう言うと周りの者も「そうだ、そうだ」と同調した。 「これからは商売さ」過去見の中年女は水晶玉をバッグにしまう。「この件について、もっと水晶球で見てほしい事があったら五万イズム払いな、出歯亀ども」 ★★★ その日、オトギイズム王国の冒険者ギルドの依頼広告ボードに興味深い二つの依頼が貼り出された。 一つ目は、デリカテッセン領にある『モンマイの森』に領主の娘・スノーホワイトが迷い込んで一週間たつので、探し出して救出してほしいという依頼。フローレンス・デリカテッセン女公爵が提出した依頼で報酬は『二十万ニズム』。これは公爵の使者だという者が受付で契約していた。 二つ目は剣呑な依頼だ。 モンマイの森に迷い込んだある女性を探し出して暗殺してほしいという依頼。 この依頼にはターゲットになった女性の名前は書かれていない。ただ身体特徴のみが書かれている。 曰く十八歳ほどで、雪の様な白い肌、血の様に赤い唇。 服の上からでも形がはっきりと解る、自分の頭ほどに大きい超巨乳。見れば一発で解る、特に二つの胸のふくらみは他の女性にはない見事な物だと。 報酬は『五百万イズム』。 暗殺理由等、委細不問の事。 二つ目を依頼しに来たのはフードを深くかぶった黒いマントで全身を隠した者だったという。 モンマイの森は質のいい小さな鉱洞がある以外は、深くはあれど平凡な森だ。 その鉱洞に通うドワーフ兄弟の家が一軒あるらしい。 モンマイの森で何が起こっているのか、何が起こるのか。 その推測がつくものは今、この冒険者ギルドにはいなかった。 ★★★ |
【アクション案内】
z1.冒険の依頼を受ける「スノーホワイトを救出に行く」。 z2.冒険の依頼を受ける「美少女暗殺に行く」。 z3.デリカテッセン女公爵の見えないドレスに関わる。 z4.その他 |
【マスターより】
さて、新シナリオ。連続物であります。 元ネタは多分お解りの通り、『白雪姫』&『裸の王様』です。 『白雪姫』に関わるか、『裸の王様』に関わるかはあなたのPCの意思次第。 推理、探索、コメディ、微エロ……。 様様なアクションをこのシナリオは募集します。 では、よき冒険があなたにあらん事を。 |