ゲームマスター:田中ざくれろ
【シナリオ参加募集案内】(第1回/全3回)
| ★★★ 銃声が響いた。 羅李朋学園自治領の映画喫茶店『シネマパラダイス』の建物の奥にある従業員個室から聴こえた炸裂音。 ドアは開かない。その場にいた従業員達は、客の助けも借りて錠の閉まった頑丈なドアを破壊した。三分ほどかかった。 中で従業員の一人『崎山多吉(さきやま・たきち)』が死んでいた。 異様な死体だった。仕事着としてのエプロンを身に着けた彼は椅子に座ったまま、自分の頭を銃で撃ち抜いていた。 その彼の対面にあるのはラックの中にあるTV。その下のスペースにはVHSのビデオデッキがある。 TV画面は電源が入っていたが黒く、何も映していない。ビデオデッキの電源も入っていて、TVはビデオを映す状態になっている。 しかしビデオカセットはない。 部屋は密室だった。崎山の自室。五m×五mの広さ。閉まっていたドアの他に窓はなく、エアコン以外には天井近くに高さ一〇cm×幅八cmほどのスリットしかない。このエアダクトの向こうは他の従業員自室とつながる通気口だが、人が通れる広さではない。 照明は白いLEDが煌煌と輝いている。 崎山が握っている自殺に用いられた拳銃は奇妙な物だった。何処のメーカーの物かはっきりしない。まるで有機物に見える外見は濡れた様に黒く光り、そこから伸びた幾つかの小さな触手が、自殺者の手に食い込んでいた。 その拳銃は利き手である右手に握り、銃口を右側頭部に当てて引き金を引いていた。 弾丸は貫通し、左側頭部の頭蓋骨を破壊して脳みそを盛大に飛び散らせている。即死に間違いない。 「この拳銃……」 「崎山が逝っちまうなんて……」 「これで五人目の『連続自殺事件』か……」 従業員達が無残な死体を見ながら口口に呟く。 「学園警察だ! 通報があった!」そうしていると羅李朋学園制服をビシッと着こなした恰幅のいい男女が、映画喫茶に入り込んでくる。 学園警察官達が規制の為のテープを張って仕切り、それから五分ほど遅れて鑑識と探偵達が到着した。 ★★★ 「崎山多吉、二七歳。映画鑑賞研究会所属、役職なし。独身。趣味は映画鑑賞、特にカルトムービーと呼ばれる分野を好む。……最近はスナッフムービーを捜し求めていた」 「スナッフムービー? 何それ」 「『殺人』を映した動画ですよ。SFXやCGでははない、モノホンの。……あと、それと崎山は劇作家としての一面がありますね」 「劇作家?」 「この街の劇場で次次とヒットを飛ばしていた不条理舞台劇『プリンセスのはらわた』シリーズの作者『内臓ヶ埼切作(ないぞうがさき・きりさく)』は、実は彼なんですよ」 「ゲロゲロ〜……」 女探偵『西城喜姫(さいじょう・きき)』はその劇の内容を知らなかったが、探偵部の同僚から告げられた劇と作者のネーミングから内容を察した。 気を取り直してピンクの眼鏡の位置を直す。 喜姫は探偵としてこの連続自殺事件を初件から追う形になっていた。 最初の犠牲者、いや自殺者『獏田一成(ばくだ・かずなり)』がこの崎山と同じ様な状況で死んだのはもう六か月も前になる。 密室。 ビデオを観ながらの拳銃自殺。 不可解な謎の拳銃。 室内からビデオテープは発見されず。 全員いわゆるクリエイターと呼ばれる人間だった。 それがこの五人目の崎山までの共通項だった。 一人目『獏田一成』四二歳。『映画監督』。 二人目『相原美枝(あいはら・みえ)』三六歳。『BL推理作家』。 三人目『権藤太郎兵衛(ごんどう・たろうべえ)』二九歳。『ゲームデザイナー』。 四人目『ピエール斎藤(ぴえーる・さいとう)』三三歳。『漫画家』。 五人目『崎山多吉』二七歳。『劇作家』。 皆サブカルチャーに興味津津の自殺者だった。 「後は結構永いスランプに悩んでいたのが、自殺直前に会心の一作を発表して自殺後にそれが発表されるのも共通ね」喜姫はタブレットの画面をスクロールさせてメモを読む。「崎山の『会心の一作』は?」 「デスクの上に置かれていました」鑑識の一員である『駅作純作(えきさく・じゅんさく)』がビニールパックに入れられたUSBを見せる。「もっともデータは既に出版社の方へ送られていましたが」 「それは私が受け取りました」林檎が齧られたマークのあるタブレットを持った三十歳ほどのビジネススーツ姿の女性は、喫茶店の椅子には座っていなかった。「内臓ヶ埼切作の遺作はこの中に」 「また貴女ね」と喜姫。「それは公表されるのかしら」 「どの様な形でも、今回の作品は発表される。それが契約なので」と編集者兼プロデューサーのメリッサ仁藤(めりっさ・にとう)が答えた。重要参考人になる彼女は自分からこの現場に赴いていた。 「アングラ劇にね」 「アンダーグラウンドではありません。内臓ヶ崎の作品は世間一般に高評価で受け止められています」 「……高評価ね」 喜姫はさっきやったゲロゲロ〜という表情をした。 「ビデオテープは?」 「やはりありませんでした」駅作が答える。「私がエアダクトを調べてみましたがありませんでした」 密室でエアダクトは真っ先に調べられる所だ。 これまでも駅作が調べているがビデオカセットは痕跡もない。 「どうぞ。鑑識の調査が終了しました。入場出来ますよ」 ようやく鑑識のリーダーが探偵達に自殺現場の入場を許可した。 捜査をする探偵達は、最初に現場入場を許可される鑑識より早く現場へは入れない。鑑識全員による現場の徹底的な調査が終わってから、捜査員は入場を許可される。 羅李朋学園では、学園警察は暴徒鎮圧など学園社会の治安を守るのが主任務であり、基本的に捜査はしない。 学園で捜査を受け持つのは探偵部、推理小説研究会、奇術部などの有志の探偵であり、鑑識を行うのも探偵部、鑑識研究会、科学部、路上観察研究会どの有志達だ。 その中で巷で『連続自殺事件』と呼ばれているこれら一連の自殺事件を初件から追っているのは探偵では西城喜姫、鑑識では駅作純作だけという形になっている。他の者は参加したりしなかったりとまちまちだ。 喜姫は既に遺体は移動させられ、血痕と人型をかたどった白線がある現場へ乗り込んだ。 タブレットにコピーされた現場情報を見て、概要を掴む。これまでの自殺事件とほぼ同じだ。 モルグ(死体安置所)に移動した遺体には、更なるこれまでとの共通項があった。 腹部のおおきな裂傷だ。 いやそれは裂傷などではない。 巨大な女性器が腹部に鎮座しているのだ。長さ三〇cmほどの異様なサイズの物だ。 タブレットの画面ではVR(仮想現実)によって遺体の画像が重なった現場写真が見られる。飛び出した脳がリアルだった。 探偵達は現場を歩き回ったり、様様な場所をあらためて調べたりしているが成果はない。 「崎山の最近の動向はどう?」 「やはりこれまでの自殺者達と同じっすね。スランプになった後、人付き合いが悪くなってます。部屋にこもる事が多くなって、そこで何か特別なビデオを鑑賞してるらしいと噂がたってます」 喜姫の同僚の探偵が、関係者から聴取した情報を報告する。 「特別なビデオ、というと例の……」 「ええ。『ヴィデオストーム』……」 そのビデオの存在は都市伝説ではないかと疑われている。 詳細は知られていない、謎の不可解な映画だ。一説にはその不条理な幻想めいた映像は観た者に多大なるインスピレーションを与えると言われている。 そして観た者を発狂させるとも。 探偵達がこの現場で推理を巡らせる。 しかし、この連続自殺事件をすっきり解決させる様な思索には辿り着く事はない様だ。 ヴィデオストーム。その映画の存在も虚とも実とも結論を出せないままに。 警察や探偵、鑑識達はやがて現場を引き上げた。 連続自殺事件はこれ以降も続くのではないかと思われる不気味な推測だけを空気に残して。 ★★★ オトギイズム王国王都『パルテノン』。 冒険者ギルドの受付に入ってきたのは、冒険小説作家として著名な『ターキッシュ・ザッハトルテ』氏(シナリオ『ターキッシュの備忘録』参照)。 「私の親友、内臓ヶ崎切作の自殺について捜査していただきたい」 「ここは冒険者の斡旋が主であって警察署ではありませんよ」受付のトレーシ・ホワイトが事務的な調子で答を返した。 「解っている。しかし、切作が死んだ町・羅李朋学園自治領の警察は信用出来ん。あいつらはろくに捜査もしない」 「その為に探偵が稼働していると聞きますが」 「信用出来ん。噂によればとっくに匙を投げたというではないか」 「それは噂ですわ」 「切作は自殺をする様な男ではない」 意見には聞く耳持たないという風でターキッシュは静かに憤っている。 「私は探偵とかいう奴らより、冒険者の方に絶大なる信頼を寄せている。いいか。成功報酬は二〇万イズムだ。自殺の真相を調べてくれ」 ターキッシュは冒険依頼の書類を作ると帽子をかぶり直して、ギルドの玄関から帰っていった。 トレーシはその依頼を受付ホールに張り出す様に手配しながらその背中を見送った。 この依頼が、羅李朋学園自治領の捜査員達の手をわずらわせる様な事にならなければいいが。 ターキッシュ自身は小説執筆がまたスランプに陥っていると聞いている。 この依頼は彼のスランプ脱出の為の取材なのではないか、とトレーシはふと思った。 パルテノンにはまだ連続自殺事件の影はない。しかし伝染病の様な不吉さを彼女は感じ取っていた。 ★★★ |
【アクション案内】
| z1.連続自殺事件を調べてみる。 z2.探偵・西城喜姫に話を訊く。 z3.鑑識・駅作純作に話を訊く。 z4.メリッサ仁藤に話を訊く。 z5.ターキッシュ・ザッハトルテに話を訊く。 z6.その他。 |
【マスターより】
| ★★★ さて、ミステリーです。 これは……ホラーにもあたるのかな。 もしかしたらピンとくる人もいるかもしれませんが、某映画の本歌取りとなっております。不条理な世界をお楽しみください。 ミイラ取りがミイラにならないようにお気をつけを。 さて、次回も皆さんによき冒険の風が吹きますように。 ★★★ |