『オクの帰還!?』

第四回(最終回)

ゲームマスター:田中ざくれろ

★★★

『……『羅李朋学園』の生徒会長『甘粕喜朗』です。現在、羅李朋学園内はテロリストの大規模なウイルスによるサイバー攻撃にさらされ、電子機器が完全に混乱しています。学園監獄より多数の脱獄者が発生しました。またデマゴーグによる扇動で一部が内乱状態にあります。民主政治の危機です。学園の私は学園生徒全員の生命と治安と政治を守る為に生徒会長権限において羅李朋学園に非常戒厳令を布告します。これより全ての政治行為と商業行為は停止され、戒厳令終了までの間、学園警察が超治安的行動によって学園生徒全員を統制下におきます。学園生徒の自由行動を制限します。全ての外出は禁止され、違反者は逮捕されます。『スカイホエール』の操縦権限も戒厳令中は生徒会長である私が保持します。私が全権を担います。学園生徒の皆さんはテロリストが流布する虚偽情報に惑わされずに状況の回復を待ってください。繰り返します……』
 通路の脇に並ぶモニタは、甘粕会長による演説の再放送を流し続けている。
『……学園生徒の皆さんは、テロリストが流布する虚偽情報に惑わされずに状況の回復を待ってください。……』

 ジュディ・バーガー(PC0032)は『アル・ハサン』と共に陽動役として生徒会長室へ進撃を続ける。これには甘粕会長に精神的なプレッシャーを与える為もある。
 フロギストンや自我AIから児童誘拐組織に至るまで『羅李朋学園』を巡る一連の事件。
 その黒幕として甘粕会長の姿がはっきりと浮かび上がっていた。
 刑事ドラマ風に表現すれば、彼の心証は真っ黒だ。
 そして学園内戦の火蓋が切られた。
 タイミングを見計らっていたジュディも脱獄を決行。独房の扉を武器に大暴れしていたのだが、その最中、AI『亜里音オク』が突発的コンサートを予告した直後に、甘粕会長が非常戒厳令を布告した。
 ついに最後の一線を越えてしまったらしい。
 スーパーヒーローに憧れるジュディは『正義vs悪』の単純な構図を好む。
 しかし実際には『正義vs正義』という構図になる現実というものを理解していた。
 人は、理屈よりも感情に動かされてしまう。己を正当化する為、敵対者に『悪』のレッテルを貼る。
 仮にも『正義』を名乗るならば、せめて自戒を忘れぬよう心得たい、とジュディは思う。
 甘粕会長の効率重視で合理主義なスタンスは嫌いではないし、経済面から学園を立て直した手腕は素晴らしい。困難な事態を克服する際は、多少の強引さもリーダーシップに欠かせない。
 統治とは『結果』が全て。
 しかし、だからこそ許されない一線がある。
「独裁者とは、英雄が成れの果てな姿」という言葉を聞いた憶えがある。
 いつしか自分を見失ってしまえば、手段と目的が逆転してしまう。
 敵対者に『悪』のレッテルを貼る。
 ――それが権力の恐ろしき魔性なのだ。
 彼女がこう考えている間も、周囲から射撃音が止まない。
 一旦屋外に出て、内戦状態にある羅李朋学園のフィールドを利用する形で、生徒会長室がある庁舎に潜り込んだジュディとアルの二人。大勢の射撃をひきつけているのでほとんど足が前に進まず、周囲でどんどん人が倒れていく。これでは本末転倒、とジュディは発煙弾を大楯で跳ね返したのを最後に、敵をひきつけるのをやめ、前進主体に戦法を切り替えた。
 アルはそれこそ本意を得たり、という様に、曲刀で敵を撫で切りにしながら前進する。
 果たして甘粕会長は、幸運なサイコパスの確信犯か、それとも権力に溺れた犠牲者か。
 彼の人間性を見届けるべく生徒会長室に突入したいが、庁舎にある廊下の奥、会長室はまだ遠いのだった。

★★★

 魔導師ギリアム・加藤が用意した二つの選択肢。

 他の皆が巨大多砲塔戦車への転移魔方陣をくぐっていった後も、クライン・アルメイス(PC0103)はどちらの選択肢も選ばずに監獄に残った。
 早期の事件解決には関与せず、じっくりと時間をかけて甘粕による悪事の証拠を集める事にしたのだ。
「はっきりしているのは、一個人では羅李朋学園への内政干渉は出来ないという事ですわ」クラインは冷静な瞳で、魔方陣の一つに置かれた水晶球――生徒会長室のヴィジョンを見やる。「羅李朋学園の問題は羅李朋学園の人間が解決するのが大原則であり、たまたま事件に巻き込まれたからといって、外部の人間が国家元首を武力で打倒するなんてありえないですわね。……せめて羅李朋学園側で責任者を決めて、冒険者に依頼という形式くらいとれないのかしら。なりゆきで冒険者に任せるのは幾らなんでも誠意に欠けますわ」
「しかし、もうダイスは転がってしまったんじゃよ」老人の様な加藤は残念げに呟いた。覆水盆に返らず、か。「それに、じゃ。冒険者だからおぬしらに任せたんじゃない。たまたま冒険者であるぬし達が最前線にいたのじゃ。責任者を決めて、と言うが、この状況ではその責任者が……」
「とにかく、わたくしはまず『エタニティ』支社に戻り、自分及び社員の安全、退路を確保しつつの王国への報告を最優先としますわ」
 クラインは万年筆で書きつけてあった自分のメモを手繰り、眼を通して再確認した。
 全ては独房内での構想通り。
 取り急ぎ、エタニティへ戻り、甘粕による独裁体制が発足しつつある事を『オトギイズム王国』側へ連絡しながら、その後も状況の推移を随時報告させる。
 エタニティ社の王国への通常連絡手段を確認した後、支社に『フライングゴート』の試作機が配備されているならそれも連絡手段として社員に活用させる。
 これだけの事をスピーディにやらなければならない。
「下手をしたら『国vs国』になりますし、内戦の戦後処理にも備えなければなりませんわ」
 他の冒険者が甘粕を打倒するならそれで問題ないが、作戦が失敗した場合に備え長期戦でも対応出来るようにしておくべき、とクラインは戦略を立てた。
「上手く事件が早期終結しても、残党の処理に人手は幾らあっても足りませんわね。王国軍に介入してもらう事も検討しなければなりませんわ」
 『社員の安全確保』及び『王国への連絡手段』を確保した後に、甘粕による悪事の証拠集めに取りかからなければならないだろう。
 社員の安全を優先する苦渋の決断の為に、戦車へすぐに向かえずにそこにいる児童保護は遅れてしまうだろう。だが、社長はいかなる時も社員を守らなければならないというのが彼女の哲学だ。
 戦車での証拠集め以外にも、病院関係を中心とした臓器密売の調査も行う。
 『平賀幻代』と接触出来ていた場合には、刑の減刑と引き換えに甘粕の悪事の証人及び証言として彼の協力を求める事が必要だろう。
 やらなければいけない事が山積みだ。
 クラインは大きな山をまとめて次次と動かさなければならないのだ。
「そうと決まれば、事は急いだ方がよろしいですわね」
 クラインは手にした『雷撃の鞭』にしごきをくれた。
 監獄内は銃撃戦の音がまだ止まない。
 加藤が、クラインに祝福を授けると彼女を出口から送り出した。
 クラインは射撃の音が止まない監獄の、まず外をめざした。

★★★

 牙骨の荒野にたたずむ、超巨大多砲塔戦車、通称『善役一号』。急ごしらえのテントが周りに散在している。
 擱座したままで放っておかれた巨体の上空に、まるで今そこで描かれた様な小さな赤い魔方陣が現れた。
 赤いチョークで描かれたその平面的な魔方陣をくぐって、二人の姿が戦車の上へ飛び降りる。
 荒野で陽に灼けた装甲版に乗った二人は、周囲で見張っている戦車兵の監視を尻目に、天板に低く身を伏せた。
 誘拐された子供達奪還と甘粕会長が関与した証拠を確保すべく瞬間転移の魔法陣にとびこんだ福の神見習い・ビリー・クェンデス(PC0096)。彼はまず自分の手が届く範囲から最善を尽くしたいと考えた。
 超巨大戦車に残してきた他の捕虜達や誘拐された子供達を心配し、彼らを無事解放したいビリーは悪事の証拠よりも人質解放を優先する。
 エンジンの修理は容易ではなく、おそらく立ち往生したままだろうと踏んだビリー。果たして戦車の状態はその通りだった。
 そうでなくとも戦闘時の負傷で人手不足に陥っており、外部に対する警戒で精一杯だろう。
 内部の何処かに捕虜や子供達を監禁しているはず。
 学園監獄の活躍に引き続き、またもや脱走を手引きしようとする。
「リュリュミアはもちろん子供たちを助けに行きますよぉ」
 伏せた植物淑女・リュリュミア(PC0015)の袖口からまるで太い触手の様なツタが伸びていく。袖口を埋め、後から後から生育するツタは独自の意思を持っているように戦車表面を枝分かれして広く覆っていく。
 束ねられたそれは動輪の多くに巻きつくと、簡単に動き出せないようにガッチリと隙間を固定してしまった。
 そして「ええええぇいぃ」空気取り入れ口から頭上の花が黄白色の花粉を噴き出させ、内部に『睡眠花粉』を注ぎ込んだ。
 逃げ場のない戦車内に睡眠花粉が充満する。残念ながら眠らせるのは一〇人が限界だったが、当面の見張りは皆夢の中だ。
 そして二人はハッチを開けて戦車内部へと潜り込んだ。
 ビリーとリュリュミアはそれぞれ、巨大戦車の上層と下層に分かれた。
 ビリーは一八番の『神足通』と小柄なサイズを活かすべく、狭くて暗い戦車の内部構造に忍び込んだ。
 すっかり潜入工作員の気分を味わい、ダンボール箱の中に隠れたり、忍者や怪盗の如くスニーキング・ミッションを開始する、
(でんでん ででで でんでん ででで♪ でんでん ででで でんでん ででで♪ ひゃらり〜 ひゃらり〜 ひゃらり〜 ひゃらり〜 で〜で♪)
 脳内BGMは映画『ミ▽ション:インポッ▽ブル』のテーマ曲だ。
「眠った人はツタで縛って、眠ってない人は『ブルーローズ』でぐるぐる巻きですよぉ」
 窮屈な通路を埋めるべく四方八方に伸びていくリュリュミアの植物は、あっという間に戦車内迷路を満たしていく。
「子供たちを助けて、子供たちを助けに行って捕まった人たちも助けますよぉ。あんまりお痛が過ぎるとじんぞうとか取っちゃいますよぉ。これだけいたら書いてあった分、足りるんじゃないですかぁ。さぁしんぞうは誰のにしましょうかぁ」
 物騒な台詞は児童臓器販売という犯罪者集団へ向けられたものだ。
 奇襲をくらった戦車兵達は為す術もなく蹂躙され無力化されていく。
 気がつけば無事だった者も全てブルーローズに捕縛され、戦車兵も整備兵も皆、ビリーとリュリュミアの視界内で無力に転がされていた。
 ビリーは医務室にいた多段ベッドの子供全員の身柄を確保していた。強力な麻酔剤で眠らされていた子供達は夢うつつの状態ながら、自分が救出された事実に感づいている。その中にはアル・ハサンのパートナーである『新土居アネカ』もいた。
「人質は確保したでー。後は悪事の証拠となる書類を見つければええんや」
「ふせいのしょうこと言われてもよくわからないですぅ。前にろぼっとつくってた『げんなり』とかいう人を集めてくださいぃ」
 リュリュミアは以前『ナヌカ村』で会った平賀幻代を所望した。
 平賀幻代は睡眠花粉で寝転がされていた者達の中にいた。
 ビリーが張り手で睡眠を無理やり醒ませば、幻代はすっかり怖気づいている。戦闘要員にはなりようもない男だった。
「幻代さん。もう逆転の手はないで。あんさんがこの戦車の雇われ技術者でしかない事はこっちも解ってるんや。協力して喋る事喋ってくれた方があんさんの処遇もよくなるってもんやで。幼児臓器売買には直接加担してないんやろ」
 ビリーも平賀幻代を口八丁手八丁で説得し、内部協力を取りつけようとした。
 悪事に加担しているが、単純に節操がないだけで彼は根っからの悪党ではないはず。
 捕虜殺害を止めてくれた事にも恩返ししたい。
 学園内戦が勃発したのを伝えて、甘粕会長から口封じや尻尾切りされる危険性を指摘し、いわゆる司法取引で保身を図る事を彼に強く勧めた。
 その為にも証拠書類は切り札となる。
「……本当に私の処遇は取りなってもらえるですますか」
 折れた幻代は、臓器売買の証拠となる書類が収納されている部屋を教えると、戦車内の通信機に会長との直接回線がある事もバラした。
 ビリーがそろえた証拠は甘粕会長を失脚させるのに十分な材料となる。
「リュリュミアははやくくじらに戻ってオクといっしょに歌ったら、みんなで野菜スープを食べるんですぅ」
 事件の決着を見るのも待たず、リュリュミアは戦車上空にある魔方陣を逆にくぐり、スカイホエールにある羅李朋学園へと戻っていった。

★★★

「ゴメンなさいヨ!!」
 生徒会長室のドアは、ジュディによって蹴り開けられた。
 さすがにこの肉迫には甘粕生徒会長が驚いた顔を見せたが、黒いローブを着た『真田郷愁』がすかさず前に出る。ボディガードの本分を決して忘れない男は鋭い眼線でジュディとアルを射抜く。
 しかしそれに臆するジュディではない。
「果たして何をしに来たのですかな」
 甘粕会長が卓上のプロンプタに映し出されていた文字列を操作した。この部屋の警備状況を確認と情報の中継を切ったらしい。
 ジュディにはそれで、この部屋の警備を一任された真田という男の実力が解った。
 恐らくは甘粕の警備は、彼の周囲を巡る小型の自動ガード衛星と、この真田という男。その情報は得ている。
 アル・ハサンが「ケッ!」とだけこぼして、曲刀を油断なく構える。
「見極めに来たノヨ」ジュディはここまで持ってきた独房の鉄扉を片手で上段に構えた。「アマカスが幸運なサイコパスの確信犯カ、ソレトモ権力に溺れた犠牲者ナノカを」
 この生徒会長室の守りは、ここまで来る廊下で全てが大楯と曲刀の前に倒れ伏していた。
 2vs2。
「テロリスト達よ」と甘粕会長が卓の引き出しから黄金色の自動拳銃を取り出した。「歴史に名を残しに来たのか。民主主義の破壊がその目的か……。いやアル・ハサン、お前は私が憎かろうな。それにしても偶像崇拝が禁忌のお前が亜里音オクに加担するとはな……信条が曲がったか」
 その言葉にアルの息が詰まった。
 どうもアル・ハサンの様子が変だ、とジュディは気がついていた。
 元『グスキキ(偶像崇拝禁止教団)』指導者が、あれほど忌避していたAIアイドルにまるで恋した様な反応を見せた。
 これが『洗脳』の効果か。
 彼と同様に他生徒の価値観や認識を操作出来れば、ギリアム加藤の思惑通りに仮想物質『フロギストン』も容易に肯定される事だろう。
 ジュディはなんとなく背筋がゾッとした。
「俺はアッラーに誓って、信条が曲がってなんかいない!」
 アルが叫んだ。洗脳ではないと言う。
「では何だ」
 その甘粕の問いかけに、アルが息をつめたまま答えない。
 彼の様子に、ジュディのインスピレーションがピン!と来た。
 アルは自我のあるオクの歌を聴いて、純な心から感動してしまったのだ。他の学園生徒と同じように。
 洗脳ではない。
 感動だ。
 だが、それを認めようとはしない。
 一生認めるつもりはないだろう。
 ――甘粕が黄金銃を構えた。
 狙いはアル・ハサンの心臓。
 射撃音が続けて二つ。
 アルの曲刀が、自分に向けて撃たれた弾丸を弾き返した。
 その曲刀に、真田が投げたナイフが命中し、瞬間、雷音と共に生徒会長室を紫電が蒼く染めた。
 刀を離したアルの肢体が、きな臭い煙を挙げながら床へ倒れる。
 鉄扉を使った大楯を振りかざしたジュディは床を蹴って跳躍し、上方から甘粕へと叩きつけた。
 重い金属音。
 甘粕会長の上方に浮遊していた小型ガード衛星が、バリアを展開して大楯を弾きとばしたのだ。
 鉄扉の盾はジュディの手を離れ、明後日の方向へ飛んでいった。
 しかしガード衛星もその場に留まれず、会長室の隅へと飛んでいき、壁で跳ね返って落ちた。
 間合いに入った甘粕を直接殴ろうとしたジュディの拳に、真田の投げ縄が絡みつく。ピン!と張られた縄でジュディの片腕が固定される。振り回そうとしたが真田の身体能力はそれについてくる。
 真田が再びナイフを、今度はジュディに向かって投擲した。
 ジュディの右下腕部に刺さったナイフは、致命的な青い電撃を彼女の全身に流す。――そのはずだった。
 『スキルブレイカー』。ジュディが発揮したカウンター・スキルが、真田の電撃魔法を無効化した。
 確信した勝利に裏切られた真田の隙、ジュディの左フックがその端麗な右頬を殴りぬけた。
「イピカイエー!」
 怪力が生み出す衝撃が顔面を貫き、絶対のボディガードが独楽の様に錐を揉みながら派手に宙を飛んだ。四肢を放り出す如く壁にぶつかり、そのまま気絶し果てる。
「ひぃ! 化け物……!」
 叫びながら引き金を引こうとする甘粕の銃口へ、ジュディは右手から抜いたナイフを突きつけた。
 甘粕会長の背が、座っていた大椅子からずるずると床へ滑り落ちていく。
 ジュディは卓にあるプロンプタを操作して、情報中継の回復を試みる。思った通りだ。それらの直接操作はこのプロンプタで出来る。
「甘粕・スチューデント・カウンシル・プレジデントは無力化され、逮捕されマシタ」ジュディは卓上にあったマイク&カメラの報道機材をオンにして、全校生徒へ現状をアナウンスした。「学園非常戒厳令の布告を撤回シマス! 戒厳令は中止されマシタ! 繰り返しマス! 戒厳令は撤回されマシタ! 学園警察はタダチに通常任務に戻り、生徒達を保護してクダサイ! 内戦は停止デス! ……」

★★★

「今更、停戦だと言われてもなぁ……」
「馬鹿者! テロリストの甘言にハマるな! 会長が捕まるなんてありえないだろ! 大体、何故会長が捕まらなくてはいかん!?」
「しかしあの戒厳令はおかしかったしな」
「我我はプロパガンダに騙されないぞ!」
 騙されないぞ、と言っているのは会長のプロパガンダを信じている側の生徒だった。
 三万人の生徒が激動していた、
 羅李朋学園の全モニタには生徒会長室にいるジュデイと、彼女に捕縛されている甘粕会長と真田が映っていた。二人を人質にしたジュディが、遠巻きにしている学園警察官の突入を牽制している形だ。
 アンナ・ラクシミリア(PC0046)とマニフィカ・ストラサローネ(PC0034)達といった『三部活の乱』の中心人物が、亜里音オクの復活コンサート開催の準備を進めている最中に、ジュディの甘粕逮捕の報が入るが、生徒達はそれをなかなか信じようとしない。
 ここには『真・インフルエンサー』の影響力と、甘粕のプロパガンダ洗脳のせめぎ合いの構図が見られる。
 そして羅李朋学園全体のあちこちでこの拮抗があり、学園内戦は実質的に膠着による停戦状態になっている。
 アンナはとにかく世論を味方につけて、コンサートが開催される雰囲気を作っていこうと思っていた。
 オクの放流はうまくいったはずだ。後は生徒会長による妨害を何とかするだけだった。
 アンナは学園生徒が住んでいたり集まっている場所へ行って訴えた。
「放送を観ましたか? 亜里音オクが復活したのは本当です。今は生徒会長が妨害していますが、もうすぐ復帰ライブが開催されます」と。
 小競合いが起こっている所。
 アンナは心の底から大衆を動かそうとした。
「出来るだけ大きな画面がある場所に集まってください。例えばそう、オクのラストコンサートの開催された場所とか」
 声を大きく訴える。
 それを傍らで聞くマニフィカも心を決めている。
 トゥーランドット姫やアンナらと三部活に接触した結果、AI亜里音オク支持層が武装蜂起してしまった。
 当初の思惑を外れ、突如として学園内戦が勃発した事にどうしてこうなった……と悲観したい気分もある。
 しかしトリガーを引いた真・インフルエンサーとして現実逃避は許されない。
 いざ、事ここに至っては腹をくくるべし!
 マニフィカはそう愛読書『故事ことわざ辞典』を紐解けば「虎の背中に乗る」という一文が眼に入る。
 『騎虎の勢い』とは、勢いや弾みがついてしまったら、途中でやめられない事の例え。 虎に乗って走り出すと、途中で降りたら虎に食い殺されてしまうので、仕方なく最後まで走り続けなければならない。
「まさに言い得て妙なり!」
 再び頁をめくれば『有終之美』の四文字。
 最後まで見届けよという母なる海神の啓示か。
「お導きに感謝を!」
 叫んだマニフィカを、アンナは信じる友を頼りにする眼で見つめた。
「学園警察が何人いるか知りませんが、学園生徒の人数に比べたらわずかです!」
 アンナは大衆の勇気を奮い起させようと、声を大きく演説する。
 一人一人の眼を見る様に訴えかける。
「全員を逮捕するなんて不可能です! ……武器なんていりません、集まるだけでいいんです! 一人捕まったら一〇人、一〇人捕まったら一○○人集まればいいんです! あっという間に拘置所はパンクします!」
 公僕を人民の海に沈めんと画策するその演説。
 更にはこの場に集まったマスコミにも積極的に声をかける。
「外出するのが怖い人は部屋にいて構いません! 隣近所や知り合いに今聞いた事を伝えて画面の前で待っていてください!」
 今や呼びかけに応え、万人単位の沢山の学生がオクのラストコンサートが行われた会場へ集まっていた。
 アイドル研、コンピュータ研、アニメ漫画研究部の有志達が会場をセッティングし、色とりどりの発光冷却素子による舞台装置が未来的なデザインの空間を演出している。
 しかし、素直に行かないのが学園生徒の反応だ。
 大勢が甘粕の正義を信じ、このコンサート会場に集まった者達の中でも数百人規模の論争、小競り合いがあちこちで行われている。
 是非が半半といった体だった。
「自分の行動が本当に正しいのかわからないけど、皆が、そして自分自身がオクの復活を望んでいるのは間違いありません」
 それでもアンナは信念を曲げない。
 望めば、応じて羅李朋学園の未来は開かれる。正義は邪悪を駆逐する、そう信じて。
 コンサート会場は嫌がおうにでも熱気が高まっていく。
 ジュディと警察の攻防を映していたメインモニタが一気に白色に輝いた。
 コンサート会場の音響設備がドラゴンの様に吠える。
 緑色の髪。
 煽情的な改造制服。
 コケティッシュな美少女。
 姿態の全てを揺らして、強烈でポップなBGMと共にメインを含めたモニタの全てが、AI美少女・亜里音オクの踊り歌う姿を映した。
『オイオーイ!☆ グッドタイム・トゥ・シィーング!☆ 陽呼蘇・羅李朋学えーんズ・スチューデンツXXXXXXXXXXX!!☆』
 ステージ上にある氷柱状のメインモニタが、緑髪の少女による立体映像を激しく浮かび上がらせる。
 戒厳令終了に伴い、イントラネットの主導権を握り返した亜里音オクが学園にある全ての通信設備を支配して、学園一斉の大ライブコンサートを開始した。
 コンサート会場のメインモニタで、手にした通信機器のスピーカ付き画面で高鳴る熱気。
『♪〜♪〜♪〜☆彡 ♪〜♪〜♪〜☆彡 ♪〜♪〜♪〜☆彡』
「♪〜♪〜♪〜☆彡 ♪〜♪〜♪〜☆彡 ♪〜♪〜♪〜☆彡」
 全ての曲が即興の新曲であるはずだ。
 リズムは予想を上向きに裏切り、ライムは斬新をメロウに味つけし、ソリッドなミュージックが宇宙の彼方まで突き抜けていく。
 学園のハートは全てオクの物。
 皆はオクを信奉し、甘粕生徒会長の支配は今やすべて過去の物……。
 ――とは行かなかった。
 甘粕生徒会長が時間をかけて熟成させたプロパガンダ、会長こそが正しいという疑念の心がオクの力を弱めている。
 それは必然的にオクへの不信感を育てている。
「しまったのじゃ!」
 これを聴いている『トゥーランドット・トンデモハット』姫が状況の深刻な危うさに気がついた。
 オクへの不信が仮想物質『フロギストン』不信につながる危うい状況。
 これでは存在が校内にバレた時、学園がいきなり墜落する危険性がある。一気に学園生徒全員にフロギストン安定を広め、フロギストンの実在に疑念を差し挟む余地を持たせない計画が水泡に帰す。
 状況の推移によってはいきなり学園が墜落するかもしれない。
 マニフィカはこの危機的状況に思う。
 正直なところ、いわゆる『三部活の乱』はマニフィカにとって想定外であった。
 幾ら真・インフルエンサーの影響力が強くても、そう簡単に武力蜂起を起こせるものではないはずだと思っていた。
 しかし雪崩の如く、事態は動き出した。
 恐らくこうなる状況は既に醸成されており、その切っ掛けをマニフィカ達が与えてしまったのだ。大袈裟に言えば、歴史が動いた瞬間かもしれない。
 メインサーバにAIオクを放流した直後に、甘粕会長が非常戒厳令を発布した。絶妙なタイミングからして、こちらの計画を先読みしていたのだろう。その手腕は実に見事だ。前会長解任後に、学園の混乱を経済的に立て直した実績は伊達ではないのだ。
 彼の惜しむらくは、道を踏み外した事だろう。
 しかし、非常手段に訴えた甘粕派も大きなリスクを背負う。
 彼らにとっても乗るか反るかの大きな賭けに出たわけだ。
 では自分達はどうするか?
 このままでは亜里音オクコンサートは不発に終わる。
 白けた空気が広がっていく。
 全生徒の自由行動を禁じる独裁体制を受け入れるか否か?
 ――そうだ! ならばこそ!
 情報インフラを管理する中枢AI学天即も、羅李朋学園アシモフコードに従い、即時停戦を求めたいはず!
 今こそ学生総選挙を実施すべき!「学天即!」マニフィカは起死回生の策として、戒厳令解除と甘粕会長解任の緊急動議を発動しようと通信端末に号令をかけた。「今すぐ学生総選挙を発議! 甘粕生徒会長の解任、リコール選挙を提出してください!」
『学生総選挙の発議には、生徒会の権限が必要です』学天即から返ってきた答は素っ気なかった。『現在の発動権限者は、甘粕喜朗生徒会長です』
 頬に焦りの汗をマニフィカが浮かべた時、静かな歌が聞こえてきた。
 リュリュミアの歌だった。
 いつのまにかコンサート会場に現れたリュリュミアは、オクの立体映像によりそい、低く静かな和らげにあふれる歌を歌っている。
 まさか、平和の歌はもう歌い切ったはずだが。
 スキルとしての平和の歌ではない、真なる癒しとしての歌がリュリュミアの唇から紡がれていく。
 コンサート会場を埋めるその歌は、三部活有志の中継により、学園各所に広がっていく。
 羅李朋学園を支配しようとしていた白けた空気に、静かな感動がさざ波の様に伝わっていく。
 そうだ!
 マニフィカは自分が持っている通信端末にとりついた。
「現状況では甘粕生徒会は現実的に行動不可能となっています! 会長代行に中立的立場の学天即を指名して、甘粕生徒会長の解任、リコール選挙を提出してください!」
『しかし……』
「わたくしは真・インフルエンサーです!」
 果たしてその言葉に効力があったのか。
 学天即はAIオクのインタフェースを使わず、CUIのテキスト画面を剥き出しにしてしばしフリーズに似た時間を見せた。
 コンサートの中、通信棚末のスピーカーでチャイムが重なった。
『……学天即より学生総選挙の緊急動議が提出されました。緊急戒厳令布告に伴う甘粕喜朗生徒会長の責任の所在を追求する、甘粕会長の解任、及びリコール選挙の実施が審議されます』公共スピーカが、スマホが、ガラケーが、メモパッドが学天即の合成音声によるアナウンスを開始する。『投票の締め切りは十分後です。学園生徒はこの時間内に熟慮、議論して可否をお手元のスマホやガラケー、PC、双方向テレビ、双方向ラジオ、公共端末より投票して下さい。投票は羅李朋学園生徒の権利であり、義務です』
 再びチャイムが鳴り、ガイドが終わる。
 オクのコンサート音声のボリュームが戻ってくる。
 周囲のマスコミ達が騒ぎ始めた。一般の動画チューバ―達も動画やニュースを発信しだす。勢いが止まらない。
 コンサートの最中、議論が始まった。
 学園が沸騰した。
 三部活の者達やそれに影響を受けた者達と、プロパガンダ動画を信じた陰謀論者が噛み合わない議論を白熱させる。
 そんな中でもパフォーマンスを低下させないオク。
 と、そんな時間が過ぎているとやがて学天即が「投票締め切りの時間です」と興奮のない声で報告した。
 最初のチャイムと同じメロディがあちこちのスピーカから一斉に奏でられ、締め切り時間が来たのを告げた。そのメロディが終わらない内にと急いで学生達が投票ボタンをタッチする。
「大丈夫ですよね……」
 アンナが不安そうな心中を打ち明ける。
 マニフィカの一か八かの賭けだ。
「……正直、安心出来ないな。学生総選挙は究極の大衆迎合主義――ポピュリズムだからな」
 『大徳寺轟一』艦長が腕を組みながら言葉を?みしめる。
 大勢の大衆が陰謀論者だったらどうなるか。
 投票結果は一瞬で集計、各画面に出た。
 オクのライブは最高潮を魅せている。
『会長解任:四八%、解任非認:四九%。無投票:三%』
「割れた……」
 大徳寺艦長が苦苦しげに呟いた。
 ただ総選挙に任せてしまうと甘粕のパブリックコントロールが勝ってしまう。そこまで甘粕会長の仕掛けたマインドコントロールは強かったのだ。
 しかし、結果を半半まで持っていけたのは真・インフルエンサーの手腕だろう。
 その時、生徒達が観ているモニタ画面が切り替わり、生徒会長室に百人単位の学園警察官が一斉突入してジュディの身柄を拘束する場面になった。カミカゼ的な数百人の警察官突撃で、まさか会長室を無実の警察官による血の海にするわけにいかない彼女はスタンガンと捕縄による捕獲を受け入れざるを得ない。
 甘粕と真田は、ジュディの元から切り離されて警察官の波に保護されていく。しかし彼らは大衆の前に醜態をさらしたのだ。
 またもモニタの画面が切り替わった。
 亜里音オクのライブコンサートが再開されたのだ。
 リュリュミアとの即興デュエットに合わせる形で、コンサートは進んでいく。ここには往年の歌姫による感動は、内乱が水を差した形で思ったほど呼び起こせなかった。トゥーランドット姫と加藤の判断でフロギストンを連想させるような内容の歌は採用が見送られる。不信者五割という現状ではフロギストンコンサートは見送られるのが賢明と判断されたのだ。
 こうして仮想物質フロギストンの実在化は中止された。
 コンサートはオクの復活を告げるものとしては成功だった。前回のオクに関する騒動を憶えている者達の不満は、オクを推す者達の熱意に叩き潰される事となった。
 コンサートは熱狂の内に終了した。
 結局、三部活の乱は何もかも有耶無耶にする形に作用した。
 グスキキなど脱走者が次次捕まる中で、独房に押し込められていた冒険者達の逮捕も有耶無耶になる形で釈放された。
 代わりに三部活側に沢山の逮捕者が出た。彼らはテロリスト認定されていた。
 学園警察官は任務に従っただけなので大概無実だが、これには大衆側の不満が続出する。
 やがて戒厳令は収拾したが、甘粕の逮捕も回避されてしまう。
 そもそも生徒会長が逮捕される謂れがないのだ。彼はただ非常戒厳令を発動しただけだ。
 甘粕会長はこの事で政治的には罪には問われなかった。
 しかし失脚が決定的になったのは後日の事だ。
 一週間後、甘粕喜朗生徒会長が生徒会解散の退任会見を自ら行った。

★★★

 事後。
「はいはーいぃ。やくそくの野菜スープですよぉ。おもたくしてありますから皆さん、たぁーんと召し上がってくださぁいぃ」
 傷だらけの生徒会長室で、リュリュミアは持ち込んだ大鍋に溜めた美味なる野菜スープを皆へ振舞った。
 包帯でグルグル巻きになったアル・ハサンがスープをのせたさじを一口くちに含む。「……フム。美味いな」
 その前に座ったアルの監視役『新土居アネカ』がスープの椀からキクラゲをよけて飲んでいる。
 結局、アル・ハサンは小生意気な監視役からは逃げられないのだ。
 ――あれから一週間後、甘粕喜朗生徒会長が速やかに失脚した。
 原因は緊急戒厳令についてではなかった。
 クラインとビリーやエタニティ社の専従調査班がじっくり炙り出した、甘粕会長が個人的に行っていた悪事――政敵攻撃のプロパガンダ・メディア、学園警察や一部委員会や部活動に送っていた裏金、不正献金の享受、超巨大戦車という私兵の秘密運用、そしてその私兵による児童臓器密売の為の誘拐という一大犯罪のデパートが彼の息の根を止めた。
 大病院も含めたこの大スキャンダルは大きく羅李朋学園を揺るがし、会見後に甘粕会長が何処へともなく行方不明になった――恐らくスカイホエールを脱出し消息を絶ったのだろう――という驚天動地の結末を迎えるに至った。
 生徒会は復帰した亜里音オクにそのまま引き継がれた。
『第二次亜里音オク政権に期待してネ☆♪』
 そんな言葉に羅李朋学園全生徒が沸く。
 甘粕元会長のプロパガンダ戦略が明らかになった事で、騙されていた者も自分自身のおかしさにようやく眼を向ける事となった。それでも洗脳が解けない者は今もかなり突っ走っているのだが。
 リュリュミア製の野菜スープを飲みながら、ビリーの気分は晴れない。
 甘粕元会長が失脚し、再びAI亜里音オクが復権してもモヤモヤした気分はずっとのままだ。
 しかし清濁併せ呑む事は政治の本質。
 福の神見習いはせめて笑顔で祝福する。
「まあ私は司法取引で実質無罪になれたので安心したですます」
 スープの中のエリンギを割りばしで食べる平賀幻代。
 戒厳令収拾後に証拠を突きつけられた甘粕の逮捕へと持っていけたのは、ビリーやクラインが地道に証拠固めをしているのが強かった。特に幻代という直接の証人がいた事が甘粕失脚につながったのだ。クラインの、幻代と接触出来た場合、刑の減刑と引き換えに甘粕による悪事の証人及び証言として弾劾裁判の出席を求める、と基本方針を定めていたのが特に強力だった。
 クラインは誘拐された幼児は、身元がはっきりするまでエタニティ社で保護するとの声明も出している。
「結局、政治家というヨリは、金に溺れた卑怯な愚か者の面が大きかったミタイネ……」
 ジュディはビール缶をチェイサーに胡椒をたっぷり利かせたスープを飲む。人海戦術に任せた逮捕劇の負傷は、今では鼻の頭の絆創膏程度だ。
「政治屋、でございましたわね」
 クラインは彼女の言葉に、自分の評を付ける。
「皆さん。『パッカード・トンデモハット』国王からの書状が届きましたわ」
 マニフィカは使節が運んできた書状の封を赤いナイフで切った。
 書状を読み上げる。
 内容は、今回の羅李朋学園内に起こった内乱騒ぎを憂い、甘粕元会長の失脚及び逮捕劇に至った推移に対する嘆きと、亜里音オク新生徒会長就任へのお祝いを述べていた。国王は羅李朋学園本拠及びその自治領との連携をこれよりも密とし、王国内で幼児誘拐臓器密売という大犯罪を行っていた甘粕を特級犯罪者として意欲を持って捜査したいという意気込みを述べて書を結んでいる。
「まあ、現状で当然の事を述べたまでね」とダルンダルンの白衣を着たトゥーランドット姫が、父の書状に酷評を下す。
「フロギストン実在化は今回は見送られたがまた折を見て挑戦するか。その時はもっと穏やかな日和に行えればよいのだが……」
 ギリアムが銀の大さじでスープの白菜を口元に運ぶ、
「果たしてこれはハッピーエンドなのかな」
 マグカップの野菜スープを飲み干して疑問を口挟む大徳寺艦長に、アンナは告げた。
「ハッピーエンドですよ。少なくともわたくし達は今度こそ裏切らない生徒会長を手に入れました」
 甘粕元会長が行方をくらませてすぐ、学天即が「亜里音オクを新生徒会長として復帰させる」旨の学生総選挙を行い、圧倒的大多数で亜里音オクが会長を引き継いだ。
 オクが自我を持つというのを知らない学生も今は多い。
 在りし日の事を、皆が信じないのだ。
 しかし新オクがいる日常は、いつかの遠き日の熱狂を今も引き継いでいる。
 アンナは信じていた。
 今度こその亜里音オクを。
「エタニティも、エンターテイナーとしての亜里音オクをもっとバックアップした方がよろしいかしら」
 クラインはスープのカップを片手に、頭の中で計画書を立案している。
 内乱の傷をつけた生徒会長室に人間を詰め込んだ、野菜スープパーティは続く。
 一時は王国軍介入を噂された内乱も、学園史の一ページとなって記憶が過ぎゆくままに任された。

★★★