『オクの帰還!?』

第二回

ゲームマスター:田中ざくれろ

★★★

 羅李朋学園自治領。
 事態には、疑惑の霧が常につきまとっていた。
 Drアブラクサスに変装した『トゥーランドット・トンデモハット』姫に接触成功した、マニフィカ・ストラサローネ(PC0034)とアンナ・ラクシミリア(PC0046)。
 自我を持つ高性能AI『亜里音オク』が入ったスマホを持っていた姫は、秘密の裏酒場で仮想物質フロギストンの小瓶を『ギリアム加藤』から預かり、それをなくしたという。マニフィカとアンナはその回収を頼まれた。
「おそらく密会に使った小部屋にまだあるはずですわ」
 トゥーランドット姫から小瓶を紛失した状況を訊き出したマニフィカは、小瓶が部屋から動いていないと判断。
 とりあえず二人はトゥーランドット姫を、自治領と領境を接する『デリカテッセン領』のデリカテッセン侯爵家へ保護を求め、匿ってもらう事にした。
 『シルバ−筆先』からも釘を刺されたが、Drアブラクサスの保護クエストが最優先だ。
 近隣の安全な場所に身柄を匿いたい。姫はあくまでも変装した姿Drアブラクサスとして侯爵家に預かってもらう。学園警察も越境は難しいはず。

★★★

「Drアブラクサス? トゥーランドットだろう? また妹が何かやったのか」
 グリングラス領の荘厳で豪奢な領主館。
 領主の『ハートノエース・トンデモハット』王子は、けったいなおじさんに変装したままの妹を見て、苦苦しげな笑顔を浮かべた。
 応接室の赤いサテンのソファに腰かけたマニフィカとアンナは、紅茶の入った温かいカップをそれぞれの手に、王子の言を聞く。
 豪華な乳児服を着た女児を抱いた『シンデレラ』夫人が少少困った様な顔をしていた。乳母はこの部屋にはいない。
「何かやったと言いますか……巻き込まれたと言いますか」
 王子に言葉を返したのはアンナだった。
 二人はデリカテッセン領でトゥーランドットを預かってもらうつもりだったが、姫のわがままで「どうせ預かってもらうなら長兄の所がいい!」とグリングラス領に予定変更させられたのだ。
 茶菓子を載せたテーブルの天板には、トゥーランドット姫が持ってきたスマホが置かれている。
 その有機ELの画面には、アニメ絵の美少女インタフェースがまるで外世界を覗く様な表情で緑髪を揺らしていた。
 羅李朋学園の制服。
 亜里音オクだ。
 その表情にある生命の躍動。
 アンナは、これが自我のあるオクかと感動した。
「オク。わたくしは 機会があれば謝罪したいとずっと思っていました」
 伏せた睫毛を持ち上げ。画面を見つめる。
 ともすれば涙が落ちそうなのをこらえる。
「あの時は生徒会長の座から降ろす為の断罪でしたが、結果的に自我の削除という死刑にも等しい処分になってしまったのですから」
『あの時って言っても、オクはその事を憶えてないやー』
 オクはアンナを真正面から見て、美少女声で困り眉。
 これはアンナの思った通りだった。自我があるといっても生徒会長だった前のオクと同一とは限らないし、過去の記憶(データ)があるかどうかも定かではない。
「今のオクに過去の記憶はないけど、学園のクラウド本体と接続すればきっと思い出すわよ」
 ドクターの顔をしたトゥーランドット姫が付け髭を撫でる。
 アンナの顔が明るくなる。
 オクが完全復活するのか……。
「その為には羅李朋学園に侵入して、メインサーバーに有線で直接接続してオクを放流する必要があるけど」
 姫が涼しい顔で言ってのけるのを、アンナとマニフィカはその難易度の高さに驚く。
 羅李朋学園は、空中にある飛行船都市だ。
 しかも姫と加藤を捕まえた学園警察がうようよしている。
 敵地の真っただ中に飛び込めというのか。
「……オクの存在は守りたいと思います」アンナは決心の表情をした。
「それは羅李朋学園・現政権に喧嘩を売る事になるのよ。解ってる?」
「解ってます。とにかくごめんなさい、オク……。トゥールやギリアムがオクに何をさせようとしているのか解りませんから、もし悪事に加担させるのなら阻止しますが」
 アンナの言葉に、トゥーランドット姫が口笛を吹く様な顔をする。
 そんな二人の前で、マニフィカはオクが入っているスマホをつぶさに観察する。
 亜里音オクが宿るスマホがハートノエース王子の結婚式で甘粕会長が披露した物と同一ならば、ギリアム加藤が勝手に持ち出した事になる。
 ……どうやら違うらしい。
 最新式らしいが、あの時の会長の私物とは全く違う。
「このスマホは、ギリアム加藤の持ち物ですのね」
「恐らくそうね」とトゥーランドットが、マニフィカに説明する。「学園内部のスマホの一つに、たまたま自我が眼醒めたオクを見つけて、持ってきたらしいわ」
「これがフロギストンにも関わる事で、彼ほどの人物が非合法な手段を選んだ……」マニフィカは赤い眼を細めて、小さく唸る。「会長が絡むとすれば、恐らく甘粕会長は不賛同もしくは反対の立場。会長の手足として学園警察が妨害に動いた……そう考えれば筋が通りますわ」
 人魚姫の好奇心が疼いた。
 だが、もしここで『故事ことわざ辞典』を開いていれば『好奇心、猫を殺す』という言葉が示されている。そんな気がする。
 アンナは紅茶を飲み干し、カップをソーサーに置いた。
「ギリアムの処遇も気になるところですが、まずはフロギストンの量産化の目処でしょうか。……トゥールはギリアムに何を頼まれたんですの。オクを使ってフロギストンを具体的にどうするつもりですの」
『歌だよ』オクが即答した。『学園生徒全員がフロギストンを信じ、その存在を仮想物質から実在物質へと安定的に転換させるのを、オクの歌のパワーで羅李朋学園全体に浸透させようとしているんだよ』
「それを可能にするのは、自我を持った本物の亜里音オクの洗脳力でなくてはならないと……」アンナは呟いた。「フロギストンの量産を阻止しようとする者がいるとすれば、羅李朋学園の技術や利権を手放したくない者の可能性があります。かなりの権力者と思われるので注意が必要でしょう」
「それが甘粕会長の本意に沿わない、というのですね……」
 マニフィカもカップを飲み干す。
「その為にはまずはフロギストンを回収して、研究させてもらわないとな」
 トゥーランドット姫がグルグル眼鏡の奥で眼を輝かす。
 恐らく領主館で与えられる自室を実験器具だらけにするつもりなのだろう。
 そんな何処かウキウキした表情の姫に、マニフィカは告げた。
「トゥーランドット姫。フロギストン回収の為に、まず小瓶をなくした裏酒場の合言葉を教えてもらいたいの」

★★★

 夕暮れの巨大な夕陽を飲み込んでいく地平線。
 秋風が吹きすさぶ牙骨の荒野。
 ビリー・クェンデス(PC0096)の『空荷の宝船』は大勢の人間を乗せて、紫色の雲を飛んでいた。
 地上をギクシャク大雑把に走る超巨大多砲塔戦車。
 真に遺憾ながらカルト教団グスキキの元リーダー『アル・ハサン』を助けてしまい、児童誘拐組織に属す超巨大戦車と交戦したビリー。
 神出鬼没なリュリュミア(PC0015)の助力も得て、人質にされていた『新土居アネカ』の奪回に成功した福の神見習いは、アネカの他にも二〇人ほど眠らされた子供達を目撃したが、状況によって仕方なく置き去りにせざるを得なかった。
 もちろん子供達を見捨てたままにする事など出来ない。脱出する際に「後で絶対また助けに来るさかいな!」と誓った以上、万難を排しても約束を守るべきだ。
 ビリーは応急手当を施していた怪我人の冒険者達と再合流し、最寄りの村まで『空荷の宝船』に乗せて運んだ。
 村で彼らを降ろした後、村長に事情を話し、人手を集めての再出撃を試みていた。
 冒険者や衛士、街の自警団に村の若い衆まで寄り合い所帯な臨時編成。
 彼らはビリーが雇った形になっているのだから後の出費が恐ろしいが、とにかく人は集めた。
 あの戦車を追う。
 一部キャタピラが損傷したまま無理やり前進したところで、あの巨体では限界も早いだろう。何処かで修理せねばなるまい。
 少なくとも移動した痕跡を隠せず、キャタピラ跡は上空から丸見えだった。
 そして現在、荒野を走る超巨大戦車を発見、追いついてからの再接触を試みていた。
「アルは空飛ぶくじらに乗っていたんですねぇ」
 風がつば広の帽子をさらおうとする。船の縁に腰かけたリュリュミアは、同じく船に乗っているアル・ハサンに何の忌避もなく話しかけていた。
「リュリュミアもくじらでは畑を作ったりオクと歌ったりして楽しかったですぅ。……オクはどうしてるかなぁ」
 羅李朋学園の母体である超弩級硬質飛行船『スカイホエール』での思い出を語るリュリュミアに、包帯だらけのアルが「けっ!」という表情でそっぽを向く。
 リュリュミアは、アルが背負っているウサギの可愛いリュックが気になったが、特にそこには触れない。
「にんげんはからだの中にいろんなものが入っているんですねぇ。でもこどもから勝手に盗るのは駄目ですよぉ。接ぎ木だったらリュリュミアがいくらでもしてあげるのにぃ」
 彼女は、戦車内にあった子供の寝台に貼られていた、奇妙なメモについて喋っていた。
『腎臓・一〇 肝臓・四 膵臓・六 脾臓・二 心臓・二』等と記され、まるで注文伝票の様な印象を受けた物だ。
 船を操縦するビリーは彼女の声を聞きながら、嫌な連想を浮かべる。
 あの児童誘拐組織は営利誘拐にしては規模が大きすぎる。
 児童誘拐……人身売買……もしや臓器密売!?
 リュリュミアはその事について語っているのか!?
 でも前提として、臓器移植を可能とする医療水準がその犯罪には不可欠だ。
 たとえ魔術が使えるとしてもオトギイズム世界では……。
「そうか。羅李朋学園のネガティブな影響力や!」
 羅李朋学園の科学力から波及した、この王国での新しい犯罪なのだ。
 超巨大戦車も根っこは一緒だ。
 ビリーは思わず、元羅李朋学園生徒であるアルの方へ振り向いた。
 すると彼の横にいるアネカと眼が合う。
 彼女は自分がさらわれそうになったと気づいてから怯えている。気が強そうだと思った第一印象からの随分な変化だ。
 自分が臓器を抜き取られる対象となったのだから無理もないかもしれない。涙を見せるのは必死にこらえているが。
 あれが臓器売買の注文メモだと、アルも気づいていた様だ。彼はらしからぬ義憤に駆られて憤っていた。元は無差別大量殺人のテロリストだというのに、随分と自分勝手な義憤だった。
「無力な子供達を誘拐して臓器を奪うなどとは、何という卑劣な輩だ! アッラーの裁きにかけても許しておけん! 皆殺しにしてくれる!」
 曲刀を風に向かって振るうアルを、少少冷めた眼線でビリーは見やる。
 それにしても何故こやつは似合わぬウサギのリュックを背負っているんや、とビリーも思う。
「こどもたちを助けるにはあの大きいのを止める必要があるんですねぇ」リュリュミアは眼下の戦車が眺めながら呟く。「だったら周りに菜の花やごまにひまわり、とうもろこしややしの木を生やしちゃいますぅ。植物を押しつぶして動けば、油がにじみ出て空回りしますからそのうちに助け出してくださいぃ」
「え、何やて」
 その発言に思わずビリーが聞き返した時、彼女は既に行動に移していた。
 上空五〇mほどに接近していた空荷の宝船から、リュリュミアは掌の植物の種を次次に大量投下した。
 ばらまかれたそれらは彼女の力で生長しながら戦車の前方へ落ちていく。
「やったか!?」
 ビリーは浮かれ調子で声を挙げたが、残念ながらリュリュミアが期待したほどの効果はなかった。
 さすがに幾ら大量でも超巨大戦車のキャタピラを空回りさせるほどの油量は得られなかった。ヤシの木は種が大きすぎて彼女には持ち運び出来なかったせいもある。
 前方に突然落ちてきた植物群に驚いて速度を落とした超巨大戦車は、頭上を飛ぶ空荷の宝船にこの時気づいたらしい。
 車体のあちこちにある機銃座が上を向き、対空砲火の閃光が上空へ撃ち上がり始めた。
 旧態然とした対空装備なら余裕で回避出来る、と楽観視していたビリーも、この弾幕にはビビらざるを得なかった。眼に見える曳光弾の十倍はあろう量の機銃弾が船を襲った。命中した弾丸に船体を削られる。
「こうなったら無理やり行くっきゃないやん! 皆、船に掴まりや!」
 半ばヤケクソになった空荷の宝船が急降下。
 完全な垂直方向には向けない機銃座の一つに体当たりする調子で突撃する。
 激突音と共に、船は機銃座に突っ込んだ。乗っていた者達が破片と一緒に外へ飛び散る。
「皆、怪我はないか!?」
 眼前で閃光が明滅しているビリーが周囲に問う。
 死人はいないらしい。
 アルがクッションになってかばったらしく、アネカの身はほぼ無傷だ。
 その他の者もリュリュミアが急速生長させたツタがクッションになった形で致命傷を避けていた。ただし怪我人続出だ。
 早く次の行動を起こさなければ、戦車の乗員達がここに殺到してくる。
 空荷の宝船はへたっている。
「皆、ここでくいとめてや!」
 ビリーは単独で『神足通』を使い、瞬間移動で戦車内部へ飛び込んだ。
 前回の大雑把な内部把握だけを頼りに次次と転移を繰り返す。
「しまった! ここはトイレや!」
 何度も乗員の戦車兵と遭遇して拳銃弾を危うくよけながら、やっと目当ての場所へ辿り着く。
 エンジンルームだ。
 見上げるほどの巨大なガソリンエンジンが騒がしい駆動音を挙げている油臭い場所へ、ビリーは到着した。
「えーと、燃料タンクはこれでええんかな」
 計画通り、燃料タンクへ投入しようと『打ち出の小槌F&D専用』から大量の砂糖を出したところで、室内にいた大量の技師達がレンチ片手に集まってきた。
 エンジンに高カロリーの砂糖を大量投入すれば、異常燃焼で動力源が強制停止するはずである。
 砂糖を投入するのとレンチが頭に振り下ろされるのは同時だった。
「きゅ〜☆彡(あかん。神足通が間に合わんかった……)」
 暗くなる視界で技師達が大騒ぎする声を聞きながら、ビリーは失神した。

★★★

 再び羅李朋学園自治領。
 マニフィカは目立つ容姿を『沙漠用戦闘服(女性用)』と『高級サングラス』でアラブ風に変装し、裏路地を通って、アンナと共に地下酒場の隠された入り口を訪れた。
 トゥーランドット姫から教わった通りに、扉を素早く五回ノックする。
 スリットが開いて、医療用眼帯を付けた三白眼が覗いた。
「モグラ」マニフィカが言う。
「蝶」と三白眼。
「井戸の水」
「……よし。入れ」
 トゥーランドット姫に教わった合言葉は合っていた。閉ざされていたドアが軋み音と共に開いた。
 酒場の中は明るかった。
 ジャズめいたピアノの音。
 いかがわしいコスプレをした給仕が働いている。
 マニフィカとアンナは景気よく酒場にチップを払い、逮捕された二人が密会で使った小部屋に入る。
「フロギストンの入った小瓶探し、つまりは酒場の大掃除という事ですね」
 メイド姿のアンナは、携帯したモップで小部屋の清掃を始めた。
 大した広さのない小部屋は、彼女が思っていたよりも埃だらけだった。
「学園警察が後片付けに熱心とは思えず、裏酒場の掃除が行き届いているわけもない、とすると……」
 マニフィカはひっくり返されたテーブルから飛び出した極めて軽い小瓶の行方を追い、物陰から片隅まで丁寧に探す。
 しかし見当たらない。
「闇酒場など隅隅まで日日の手入れが行き届いているはずもなく、かといって床に落ちていればすぐに見つかるはず」アンナは床に顔を近づけているマニフィカの肩を叩き、天井を指さした。「探しているのは負の質量を持った気体入りの小瓶……」
 彼女は愛用のモップで椅子や机の裏側、天井に張った蜘蛛の巣を掃っていく。
 ……すると。
 あった。
 天井付近にあった蜘蛛の巣に、中身が空に見えるガラスの小瓶が引っかかっていた。
 人は自分の視点より上にあった物は死角になる。
 空気より軽い小瓶は天井へ上がっていたから、これまでの捜索者の眼を逃れていたのだ。
 ここが天井のない外だったら、見つけ出すのは超困難だっただろう。
 フロギストン入りの小瓶を回収した二人は、トゥーランドット姫に渡すべくただちにグリングラス領へと引き返した。

★★★

 天空に浮かぶ私立羅李朋学園。
 クライン・アルメイス(PC0103)は事件の黒幕は『甘粕喜朗』会長だと想定し、証拠を集める為に日夜奔走した。
「浅く質問したとはいえ、ここまで情報を隠されるとは想定外でしたわね。……情報を隠すのはやましい事があると自白してるようなものですわ」
 表向きはトゥーランドット姫の捜索と見せかけつつ甘粕会長の情報を集めようとしたが、状況的に姫の捜索と見せかけるのは無理があった。
 それでも自力で『エタニティ』の助けを借りつつ、情報収集する。
 今夜はホテルで情報収集の成果を吟味する。
「正直、表向きには王国に協力的なスタンスを柔軟に見せてくると思っていたのですが……ここまで強硬的な態度をとるのは、既に王国と敵対しても問題ないほどの準備が出来ているという事かしら。……甘粕会長の目的が解りませんわね。選民思想による学園支配の確立辺りもあんまりしっくりきませんし、『ウィズ』絡みなのかしら」
 学園での甘粕会長の評判や影響力、それと力を入れている施策辺りから調べてみた。
 すると知られているのは、甘粕会長は経済関係に強く、経済関係の復興に力を注ぎ、その方面に大きな躍進がある事だった。
 甘粕は与党『経済学会』(保守系)党首。
 羅李朋学園の知的財産をパテントとし、オトギイズム王国へ貸し出す事で外貨を稼ぎ、経済面から学園を立て直そうとしている。消費税導入。緊縮財政。働かざる者は食うべからず派。機材は外部に持ち出さず、パテントのみを王国に貸し出そうとする事で、知的優位に立とうとしている。
 また働けない者、問題がある者を実質追放し、王国に移住させようとしている。
 ただし、その利権に対する薄暗い噂が陰で囁かれている。
 経済に力を入れているのは結局自分の財産を増やす為だとも。
 甘粕の政治は、商売人の為の政治。
 無駄を切り落とす事と経費のシェイプアップに力を入れている。
 政権の長期化を望み、部活上層部に金を配って身内にしているとも言われるが、それらはあくまでも噂の域を出ない情報だ。
 混沌のウィズとの繋がりは見えてこなかった。というか解らない。
「学園警察は既に姫の逮捕という強行手段にも出ていますし、こちらも相手に口実を与えないよう保身には十分に注意する必要がありますわ」
 クラインは学園に来てから行動を共にしているジュディ・バーガー(PC0032)にも念を押した。
 バーボンのグラス片手のジュディはテイク・イット・イージーな居住いを崩さなかったが、彼女なりに真剣にその意見を尊重する。
 クラインはあらためて手元のノートパッドに眼を通す。
「警察上層部が甘粕会長とグルだとするともう手がつけられないくらいの腐敗です。そうなると王国による自治領の自治権剥奪まで考えられますが、まがりなりにも末端まで規律が行き届いていますし、そこまで考えたくはありませんわね」
 書面を指でスクロールさせながら、呟く。
「姫とギリアムがやっていた事が、甘粕会長に都合が悪いのは間違いないですわね。追放された非生産者もしくはその候補を探して話を聞きたいですわね。非生産者が何故、甘粕会長を殺したいほど憎んでいるのか、その辺りに甘粕会長の目的を調べる手がかりがありそうですわ。……甘粕会長に対抗出来る穏健派としたら、やはり大徳寺艦長でしょうね。艦長から甘粕会長の話を聞きつつ、反甘粕体制の旗印になってもらうよう説得してみましょうか」
 クラインの思考は次次と閃くが、正直なところ実行するにはやりたい事が多すぎた。
 エタニティの者に任せるにもどう割り振るか。
 そんなクラインを見ながら、ジュディは自分の意見を頭の中で反芻する。
 裏酒場の用心棒と肉体言語による健全な(?)コミュニケーションを交わしたジュディは、以前に面識を得た甘粕生徒会長と接触すべくスカイホエールを訪れたのだ。
 都合よくクラインに便乗させてもらったが、まるで取りつく島もなかった。
 拘束されているギリアム加藤との面会は拒否されてしまう。
 ……さて、これからどうしたものか?
 加藤の嫌疑は、部費の私的流用と聞かされたが、強引な捜査活動には不釣合いにしか見えない。
 ジュディの第六感もこれに『否!』と告げている。
 恐らく甘粕会長にとって不都合な、何か別の理由があるはずだ。
 クラインの方は内部情報を求めて学園警察の隊員と接触してみたが、ガードが固く空振りに終わった。
 ……という事は末端は真相を知らされてない?
 一般論として、知る人数が少なければ少ないほど秘密は守りやすい。
 真相を知っているなら、それは幹部クラスだろう。
 甘粕会長が統治する学園で何が起きているのだろう。
 生徒間における貧富の格差拡大?
 学園が有する求心力低下?
 いずれにせよ、学園の現状に対する見解を訊きたかった。
 という訳で、スカイホエール運営の最高責任者である大徳寺轟一艦長に接触してみる結論は、クラインと同じだった。
 ただ、ジュディは学園の闇に深く関与していそうな『甘粕喜朗』という個人を直観的に理解したかった。
 もしや世間で『サイコパス』と呼ばれるような人物では。
 正直なところ、第一王子の結婚式から彼には疑問を感じていた。
 あの時は『真インフルエンサー』達の意見を集約していたが、いわゆる都合の好悪という感想にすぎなかった。
 生徒会長として何を目指しているのか。
 彼が機会主義者でも構わないと思う。
 チャンスを最大限に活かす考え方も合理的な判断と言える。
 しかし手段の目的化という陥穽に注意すべきだ。建前や理想を軽視する傾向はもはや警報物にも等しいものだ……。
「……ジュディ?」
 クラインは、グラス片手に上の空になっていたジュディの注意を引き戻した。
 ジュディの青い瞳に光が戻る。
「OK、OK。明日、早速キャプテン・ダイトクジに会いに行きまショ。そうと決まったら今夜はもう寝とくベキネ」
「大徳寺艦長の情報が入手出来なければ、ダメ元で甘粕会長にも訊いてみましょうか」
 ジュディも彼女なりに現状を理解した上であらためて甘粕会長と会見するつもりでいたが、クラインの言葉に「それは考えものだ」と思いながらバーボンのキャップを固く閉めた。

★★★

 睡眠というものに無縁なビリーにとって、意識を失うというのは貴重な経験だった。
 視界が明るくなり意識がはっきりしてくると、空荷の宝船に乗り込んでいたビリー達と寄せ集め冒険者達二〇人は皆巨大な戦車内の船倉に集められていた。
 全員が縄できつく縛られて、周囲から戦車兵達に機関銃を突きつけられている。
 皆は武装解除させられていた。あらかたの装備は全て剥がされ、近くの床に山積みにされている。
「あかん。打ち出の小槌も剥がされとる」
「リュリュミアの種袋もですぅ。あのぉ〜返してくれないかしらぁ」
 ビリーとリュリュミアは肝心な物を失っていた。空荷の宝船は言うに及ばずである。
 アルの方は捕まる際にさんざん暴れたらしく、自分に負わされた分の怪我を相手にも与えていた。この状態でウサギのリュックが?がされていないのは多少間抜けだ。
 アネカが縛られた状態で怯えていた。それでも気丈に涙は見せない。
 超巨大戦車内は静かだった。何の振動も感じない。
 ビリーの砂糖投入によって全機関が停止しているのに違いない。
「こいつらをどうします。リーダー」
「この『善役一号』を機動不可能にしてくれた礼だ。……皆殺しにしろ!」
 リーダーと呼ばれたヒゲもじゃの男があっさりと非情な決断をした。
 囲んだ戦車兵達が機関銃のコックを引く。
 ビリーだけは神足通で逃げる事が出来たが、この状態で一人だけ逃走して何につながるだろう。
 リュリュミアも『ヨガ』で縄抜けが出来たが敢えて様子を見る。
「ちょっと待ってほしいですます!」
 そこで一人の白衣の男が仲間を止めに走った。猫背気味の円いサングラス。
 間違いない。以前、暴走ロボット騒ぎでナヌカ村で会った『平賀幻代』だ。
 手にはゲーム機のコントローラーの様な物を持っている。
「こいつらは腕のいい冒険者ですます! 殺すよりもスポンサーに懐柔してもらって仲間に引き入れるですます! 冒険者は金で動きますです!」
「あんさんは平賀幻代やな!」ビリーはその男に対して大声を張り上げた。
「やっぱり憶えていてくれましたですますな」
「夢はでっかくと見せかけて、こんなつまらん所に仕官してたんかい! スポンサーっちゃ誰の事や!?」
「スポンサーはあまかすかい……おっと、仲間になってくれたら教えますです」
「あまかす……もしかして羅李朋学園の甘粕生徒会長か!?」
「それは……違いますですな」
 その答がとっさにとりつくろった嘘なのはビリーにお見通しだ。戦車兵達は大した装備に見えない『鱗型のアミュレット』は回収していなかったのだ。肌に触れるこの振動が?発見器になる。
「甘粕会長が児童誘拐組織とつながっとったんかい! ましてや臓器密売をや!」
「ど、何処でそれを!? ですますか!?」
「あんさんがこの戦車と組織を作ったんやな!?」
「せ、戦車は作ったが、組織は違いますです! 私は雇われエンジニア兼操縦士ですます!」
 ビリーはそれらの言葉が嘘ではないと振動で見抜く。
 と、その時、戦車の外から思い切りに騒騒しい音が響いてきた。
 これは振動翼……いやヘリコプターの様な回転翼の音だ。とびきり大きい。
「どうやら、やっと来たようだぜ」
 ヒゲもじゃのリーダーが銃口を下げながら、装甲に覆われていた小さな窓を開けた。
 外からライトの光が射しこんでくる。
 超巨大多砲塔戦車『善役一号』の外には、大きな輸送ヘリが駐機していた。
 さすがにこの戦車を運ぶのは無理だが、大勢の人間を連れていく事は出来る。冒険者達全員は楽勝だ。
 戦車にあるハッチが開き、大勢のヘリの乗組員達が乗車してきた。
 彼らは羅李朋学園の学園警察官の制服を着ていた。
「真田先輩。戦車はこいつらに行動不能にされてしまいましたですます。修理するにはドックに入れるか作業車両を連れてくる必要がありますです」
「修理については、私は上から何も言われていない。ビリー・クェンデスとリュリュミアとアル・ハサンという人間を、羅李朋学園の加藤ギリアム師匠と同じ監獄に収監しろと命令されただけです」
 真田と呼ばれた黒いローブを着た三〇歳代の東洋人が、この警察メンバーの統率の様だ。
 ビリーとリュリュミアとアルだけが立たされ、学園警察による連行を受けた。
 三人は超巨大戦車から外へ引き出された。
 太陽もなくすっかり暗くなった荒野。
 荒野の真っただ中にきな臭い空気と共に停止している超巨大多砲塔戦車。
 その近くに駐機している貨客ヘリ。地面に降りている間もローターは回り続けている。
 ビリー達はヘリに載せられた。学園警察も乗り込んでくる。
 真田を最後にヘリのハッチは閉じた。
 離陸する。
 ヘリは戦車から離れるべく上昇する。
「らりほう学園につれてかれるみたいですねぇ」
 騒音と上昇感の中、縛られたままのリュリュミアが窓の下に小さくなっていく戦車を見下ろす。
 同じくに見下ろすビリーは、ここは一人だけ脱出するのではなく行くところまで状況につき合った方がいいと思い、神足通による脱出はしない。
 二人は機を待つつもりで学園警察に逆らわないでいた。
 一人慌てているのはアルだった。
「馬鹿! 戻せ! 俺とアネカを引き離すな! 爆発する!」
 縛られたままで暴れまわり、自動小銃の銃床に殴られる。
 ビリーとリュリュミアは、彼が何故ここまで暴れるかが解らない。
「もう二〇〇mは離れた! すぐに爆発する! ……もう駄目だ!! 限界だ!!」
 ウサギのリュックを背負ったアルが、眼を固く閉じて身を縮こまらせた。
 それから一秒。
 五秒。
 一〇秒。
 何も起こらない。
「あれ……爆発しないのか……」
 アル一人が大騒ぎしていたのを、周囲の冷めた眼が注視する。
 大型ヘリは地上の巨大戦車が見えなくなってもずっと飛び続けた。

★★★

 大徳寺轟一艦長が椅子に座り、チワワの背を撫でていた。撫でると癒されるらしい。
 ジュディとクラインは、甘粕会長の話を訊きに直接スカイホエールの大徳寺艦長の私室を訪れていた。
 旧友との再会を喜びつつも、大徳寺艦長は会長に対する新鮮な情報を与えてくれなかった。
「俺はあくまでもスカイホエールの艦長であって、羅李朋学園の政治とは一線を画すからな」
 胸の前で腕を組んで大徳寺艦長が唸る。
 そんな彼をクラインは説得しようとする。
「甘粕会長からは危険な匂いがプンプンします。いざとなったら甘粕会長に対抗出来る穏健派としたらやはり大徳寺艦長でしょう。状況次第では反甘粕体制の旗印になってもらうよう、お願い出来ないでしょうか」
「おいおい。俺は羅李朋学園の政治には関わるつもりはないぜ。そんな派閥もない。それに俺が甘粕に対抗する事になったら内紛という形になるんだろうが、出来る事といったらせいぜいスカイホエールの操縦権を人質にとるくらいだ」
「そうですか……」
 クラインは少少意気消沈する。
 大徳寺艦長がトリプルチーズバーガーを一口頬張った。
「この『学天即』が自我を持っていた時なら、奴はこの状況をどうしただろうな」
 彼は片手に持ったスマホの画面を見やる。
 画面ではAIインタフェース・亜里音オクがいつでも命令を受け取れるようにスタンバイしていた。
「……もしかしたら会長は、自分以上のカリスマである亜里音オクの復活を恐れているのかもしれんな」
「ホワッツ? どういう事ですカ」
 ジュディは疑問を持って訊いたが、艦長はいや大した意味はないんだが、と前置きした。
 チーズバーガーに残った歯形を見つめる。
「もし学天即に何かの拍子で自我が復活したら、自我のあるオクは甘粕にとっては最大の政敵だろうからな。それを含めて自我のあるAIは人類にとって脅威、と甘粕は考えているかもしれない。……もしオクが帰還したら甘粕は学園内戦を起こすかも」
「ホワット・ディド・ユー・セイ、一体何を言い出すんですカ。キャプテン・ダイトクジ」
「いや大した意味はないんだ。羅李朋学園の政治の危機だと聞いて、亜里音オクだったらどう動いただろうと思ってな」
「きっとピース・プレイヤー、平和祈願コンサートでもヘルド、開催するんじゃないカナ」
 言いながらテーブル上のフライドポテトを手につまんだジュディは、大徳寺艦長が難しい顔をしているのに気づく。
 その時、艦長のスマホにいるオクが美少女声で緊急メッセージを読み上げた。
『大徳寺轟一艦長! 外部からこのスマホの動作状況が探知されているよー! 学園警察の上位命令でスマホの位置情報が開示されてるよ! この部屋の警報装置が外部からの操作で切断されたよ! ドアの外に武装した学園警察官が七人集合してるよ!』
「なっ!?」
 クラインは焦りの声を挙げたが、その時、艦長のスマホ画面にドアに設置されている警備カメラの風景が映った。
 数人の学園警察がサブマシンガンを持って、玄関を開ける瞬間だった。
「ワッツ!?」
「しまった!」
 ジュディとクラインは最低限武装しているものの、荷物の大部分はホテルに置いてきた。
 九mmのサブマシンガンを持って飛び込んできた先頭の警察官を、クラインの『雷撃の鞭』が打った。
 二番目と三番目の警察官は、ジュディの両腕によって頭をぶつけあう。
 だが、残り四人がサブマシンガンの銃口によって、彼女達の動きを封じた。狡猾なのは彼女達が更なる反撃に出れば大徳寺艦長が蜂の巣になる様に戦術ポジションを布いた事だ。
「大徳寺轟一艦長! 横領とスパイ容疑で逮捕状が出ています! 我我に従ってください! ジュディ・バーガーとクライン・アルメイス。公務執行妨害で現行犯逮捕します。あ、現在スパイの嫌疑がかかりました」
 インカムで通信をしながら警察官が命令する。
 ジュデイとクラインは武器を捨てて、逮捕命令に従うしかなかった。
 保身には注意する必要があると思っていたクラインだったが、敵は思った以上の強引さで手を打ってきたのだ。
 テーブル上に放り出された艦長のスマホでは、オクが慌て顔でうろたえている。
『どーしようかー。学園内のSNSに今の音声画像を拡散しよ―かー。あ、駄目だ。この区画に電波規制がかかっちゃった』
 学園警察の手によって、大徳寺艦長のスマホのスイッチが切られた。

★★★

 羅李朋学園監獄。
 重重しい静寂だったこの区画で、現在は声がよく響く。
 ギリアム加藤を含め、囚人服を着せられたビリー、アル、リュリュミア、大徳寺、ジュディ、クラインの七人がそれぞれ横並びの独房に入れられた。
「とうとう皆、わしの所へやってきたか……」
「あ、おいちゃん。久しぶりやんか。何でこんな牢獄へ入れられてるんや」
「やい! ギリアム! アネカのスタンドが自爆すると言ったのはハッタリだな! 俺の『バビロン・ズー』の能力を解除しろ!」
「植物のたねさえあればツルをのばして鍵開けするのにぃ。……みなさん、げんきでなによりですねぇ」
「いきなり収監とは。甘粕の手だとすれば、彼は一体何を考えているんだ……」
「プリンセス・トゥーランドットはまだ無事みたいネ。それにしてもミスター・アマカスはジュディ達をここに集めて何を考えているのカシラ」
「身内で喋るだけ喋らせて、情報収集というつもりらしいですわよ」
 クラインは正面の廊下に置かれた、オーディオ装置の様な機械へ皆の注目を促す。
 それはこれら独房全ての音響と映像を収集し、何処かへ記録配信する為の装置だった。
 恐らく甘粕会長の手元へと送信されるのだろう。
「アル・ハサン」とギリアム。「アネカの自爆能力はハッタリじゃ。ただお前の力を封じ込める能力は三○○m離れても消えん」
 それを聞いたアルが「けっ!」と独房の檻から背を向ける。
 期せずして一ケ所へ集合した冒険者達。
 ここなら議論会議はやり放題だ。
 しかし、その全ては甘粕会長へ筒抜けになってしまう。
 看守は見える場所にはいない。
 一刻も早く脱出を考えなければならないが、さてどうすればいいだろう。

★★★

「私が呼ばれるとは思わなかったな。頼まれた通り、フロギストンの分析データをそのオクのプログラムに組み込んでおいたぞ」
「よし。そのオクのプログラムを羅李朋学園のメインサーバーに放流するぞ」
 Drアブラクサスの格好をしたトゥーランドット姫が、エタニティ社員であるコンピュータの専門家『鷺州数雄』からスマホを受け取った。
 亜里音オクは、フロギストン研究の為にも非常に役立つツールだった。そのおかげで分析が成功したようなところもある。
 羅李朋学園自治領から定期的にスカイホエールへ上がる乗り合いヘリがある、小さなエアポート。
 アンナとマニフィカは二人について、羅李朋学園に進入する事になっていた。
「私も一緒に行かねばならんのか……」
「コンピュータプログラムは私の専門ではないからの。それにギリアムがフロギストン安定の為に最後のひと手間を加える必要があると言う。念の為じゃ」
 鷺州もトゥーランドット姫に雇われる形で同行する事になっていた。
 今、アンナとマニフィカの手元には、自我を持った亜里音オク本体の入ったスマホと、フロギストンの入った小瓶がある。
 他の乗客達と一緒に四人も乗り込み、浮上の為にローターが回り出した大型ヘリ。
 汚れた白衣を羽織ったドクターと鷺州。
 Drアブラクサスは正体が割れていないから、姫は学園内でも安全なはずだ。
「これも生徒会の陰謀か……」
 痩せた白衣の中年男の方は、羅李朋学園内に支社を持つエタニティ社員から、クライン社長がジュディと一緒に学園警察に捕まったという報を聴いて、ずっと怯えている。
「ジュディとクラインさんも学園について調べていたのね……」
 マニフィカは自分の知らぬ所で動いていた親友達に、無事でいてほしいと念を送る。
 まさかビリーとリュリュミアも一緒だとはこの段階では知らない事実だった。
 ヘリが浮上。
 騒音を立てて飛行した。
「ちなみに言っておくと、学園に着いてからオクの放流については出たとこ任せ、ノープランじゃ」トゥーランドットがこの期に及んで無責任な事をほざいた。「アンナ、マニフィカ。お前達に期待しておるからな」
 アンナはスマホの中にいるオクをじっと見つめた。
「オクさん。今度は守り抜きます。なくし……死なせませんからね」
『オクも死にたくないよ』
 自我のあるオクが死を拒んだ。
 やがて大型ヘリは超弩級硬式飛行船の本体後部にぱっくり開いたエアポートに、無事進入した。

★★★