ゲームマスター:田中ざくれろ
【シナリオ参加募集案内】(第1回/全4回)
★★★ 「想像してみるんじゃ。この世界に最初から人間なんていなくても『魔法』というものは存在したじゃろうか、と」 『デザイン』が魔力の域まで高まり、その特性が造形に応じて力を持つデザイン至上の『オトギイズム王国』。 速そうなデザインは速く、力強そうなデザインの物は強い。 ある意味、それは極端な『人間原理』ともいえる。 果たしてそれは使用者、観察者である人間がいなくても自然に効力が創成されただろうか。それが問われたのだ。 だが、この魔導師『ギリアム・加藤』の問いかけは、彼の故郷『地球』でいうアラブ出身で、独自の超能力である『スタンド』を操って超常の力を発揮する『アル・ハサン』にとってはあまり意味のないものだった。 アルは一生の罪を償いきれない重罪人だった。 私立『羅李朋学園』では偶像崇拝禁止教団、通称『グスキキ』という宗教テロ組織を率いて数多の偶像を破壊し、無辜(むこ)の一般生徒を大勢、殺戮した。 逮捕された彼はスタンドの能力を封じる呪いをギリアムよりかけられ、ほぼ無力な状態で巨大飛行船である羅李朋学園より追放された。(シナリオ『出現! 私立らりほう学園!』参照) アルは現在、一介の『冒険者』としてオトギイズム王国の野で現地人や元羅李朋学園生徒達と中規模のパーティを組んでいた。 宿屋や洞窟を根城とし『冒険者ギルド』からの依頼を遂行する為に野を駆ける日日。 得意であるスタンド『バビロン・ズー』による味方達との交信ネットワーク能力を封じられた彼は、今はただの浅黒い肌のちょっと強い戦士にすぎなかった。 彼は孤独になりたかったが、戦友であると同時に監視役である仲間達から離れる事は許されなかった。 冒険者として生きる事が一生課せられた懲役だった。裏切れば、今度こそ問答無用で殺されるだろう。 不良セントールの集団を駆逐し逮捕するという依頼を完了し、王都『パルテノン』の冒険者ギルド上階の宿屋に泊まっていたアル達を、ギリアムが訪ねてきたのはその日の夜だった。 ギリアムはヘリコプターに乗って学園からこの王都に訪れた様だ。その騒音は町でちょっとした騒ぎになっていた。。 魔導師は一人の幼女を連れて、アルに会いに来た。 羅李朋学園の制服によく似た洋服をまとった彼女の名はアネカというらしい。 六歳ほどのこまっしゃくれた、吊り眼のガキだ、というのがアルのアネカに対する第一印象だった。今でもアルはへジャブを着ていない女は苦手だ。女は男に守られるべきだという彼の考えはいまだに変わっていない。女は大人しく社会の奥で男に守られてつつましく生きるべきなのだ。 「本日よりお前はアネカの監視対象になる」と見た目が老人のギリアムがアルと対面した個室で告げた。「本日よりお前のスタンドを拘束していた我が呪いは解ける。その代わりにアネカのスタンド能力によって、お前のスタンドは拘束される」 「俺のスタンドが解放されるというのか」アルはそれが自分の罪が許されたのだとは考えなかった。「そのガキもスタンド使いなのか。……そのスタンドが俺のバビロン・ズーを新しく拘束する?」 「まあ、そういう事じゃ。呪いというのは施行者の格を下げる。わしも徳を下げたままではいられん重役を仰せつかっているからな」 「あなたがアル・ハサンね」アネカは大人びた声でアルを見上げた。「あたちの『ラブ・ラビット』であんたのスタンドを拘束してそばにつきそえ、というのが学園からあたちがおおせつかった指令よ」 アルは、チ!と横を向いて息を鋭く吐いた。 アルのスタンド、バビロン・ズーは人間大のメタリックな球形が一対の大きな翼を持っているデザインだ。今はその表面に禍禍しいムカデに似た鎖が這いまわり、全体を拘束していた。この鎖こそギリアムの『呪い』で、バビロン・ズーの交信能力と動きを抑制していた。 アルは、自身を縛っているこの呪いが消えた一瞬にバビロン・ズーを暴れさせられないかと考えた。スタンドのダッシュ的な運動能力には自信があった。 この隙を突いて逃げて、自由になる。グスキキの様な組織をもう一度作り、この王国で革命を起こすのだ。 そして再び、羅李朋学園に返り咲く。 自分の思想を実現する為に学園と王国の統治者となるのだ。自分はそうなるべき人間なのだ。 「あんた、なにかんがえてるかしらないけど」アネカは下から覗き込む様にアルの顔を見上げた。まるで何もかもお見通しという風に。「あたちのラブ・ラビットはすばやいわよ」 小娘が、とアルは内心笑った。 「では、行くぞ」 そうギリアムが言った時、バビロン・ズーから禍禍しい鎖が外れた。それは透明化して部屋の空気に消える。 今だ! アルのスタンドは二人の障害を打ちのめす為に金属質の翼を広げた。 「ラブ・ラビット!」 次の瞬間、スタンド使いにしか見えないはずのパワーあるビジョンがアネカの身体から弾け出た。 それは手足が妙にひょろ長い、白いウサギのポップなぬいぐるみだとアルには見えた。いかにも子供っぽいデザインだ。 アルに誤算があった。 それは彼のスタンドに接触してそれを拘束するのだと思っていたが、あのベルトの様な手足は直接、アル本体に巻きついてきた。ウサギはアルの身体表面を滑る様に背中まで素早く移動する。 ラブ・ラビットはまるで子供用のバックパックみたいにアルに背負われる形となり、長い手足を彼の身体に巻きつけた。 「くっ!」 アルの身体がそれで動けなくなるというようにはならなかったが、スタンドの方がそれで金縛りになってしまった。開こうとした翼は見えないロープに縛り上げられた様に無理やり閉じられる。 反射的にバビロン・ズーの交信能力を使おうとしたがそれも出来ない。 肌の浅黒い青年は絶好の機を逃し、再び虜囚のポジションに戻ってしまった。 アルはラブ・ラビットの手足を力任せに身から剥がそうとしたが、スタンドに触れられるスタンド使いでもそれは叶わなかった。凄い力、というより能力だ。 スタンドを見られる能力者が傍から彼を見れば、それはずいぶん滑稽なものに見えるだろう。大の男がノマド風な衣装の上から幼児向けのウサギ型バックパックを背負っているのだ。 「無理じゃ。アネカの能力は一度しがみついた相手から離れるものではない」 「いっておくけど、あたちのスタンドののうりょくは『自爆』よ」アネカはS気味に笑った。「あたちのいしであなたをドッカンとバラバラにできるわ。むりやりひきはがそうとしても自爆する。あたちからさんびゃくメートル以上はなれると自爆する。あたちをころしてもしぬまぎわにじどうてきに自爆する」 なんて厄介なスタンドだ。このメスガキは強い。アルは素直にそう観念した。 ★★★ ややたるんだ電線につながった街灯の列が一斉に光を点し、薄暗かった街に夜の熱気が現れた。 水霧が上がる川と交差した石橋。 固い路面を踏んで、馬のない馬車が行く。馬のない馬車は電気仕掛け。まさに旧態然とした形から馬のみを外したワゴンが大通りの中央を走る。 その馬車はアニメキャラのラッピングがされていた。 一年前の旧市街にはなかった人ごみ。その服装は、王国一般の中世風の衣装とは別の進歩を遂げている。 『地球』の現代めいた立体縫製からなる洋服。 普段着として着こなされている羅李朋学園の制服。そしてアニメ漫画ゲームなどのコスプレ。 夜を渡る領民達はまるでコスチューム・プレイヤーの撮影会の如く、様様な彩をこの夜の街に煌めき、放っている。 走る市電につば広の帽子をさらわれるリボンの騎士めいた男装の剣士。 木箱を見事に特撮ロボットの造形に加工して、それを着ている背の高い青年。 円盤型お掃除ロボットを両足にはめ、並んで滑走している黒い三連星。 カラフルなチームを組んで映える綿あめを舐めている魔法美少女戦隊。 褐色の肌も露わな年少のサキュバスコスプレ軍団。 ガンガンと鳴らされ響いている街頭スピーカーからのアニメBGM。 この『羅李朋学園自治領』は蛍光塗料とゲーミング電飾に彩られたソドムの街の様であった。 「アキバッパラというのはこの様な街だったかな」 袖がダルンダルンにたるんだ白衣を学園制服の上にまとったちんちくりんの少女がコスプレだらけの街を駆け抜ける。 その姿は暗い路地へと入り込み、迷宮の様な道なりに進んで扉が固く閉ざされた看板のない裏酒場に辿り着く。 ノックを五回すると覗き窓であるスリットが開き、三白眼が現れた。 「モグラ」少女が言う。 「蝶」と三白眼。 「井戸の水」 「……よし。入れ」 閉ざされていたドアが軋み音と共に開いた。 三白眼の用心棒の脇をすりぬけた少女は、明るい光があふれ出るピアノの演奏の中に入っていった。 毒毒しく着飾った男女の酔客を尻目にすぐ対面の壁にある部屋の扉を開ける。 扉を閉めると酒場の喧騒も消えた。 「来たか、姫様」 「来てやったよ。面白そうな事に私も混ぜれ」 「白衣の袖がいつにもましてダルンダルンじゃのう」 白衣の『トゥーランドット・トンデモハット姫』を待っていたギリアム・加藤は老人めいた皺だらけの顔に笑みを浮かばせた。 「ああ。なんかこっちの方がウケがいいのよ。それにしてもわざわざこんな所まで来たのよ。実物はあるじゃろうな」」 トゥーランドットはギリアムから届けられた紫色の封筒をつまんでブラブラさせる。 それは彼からの呼び出しの手紙。 飛行船内の羅李朋学園で会えばいいものをわざわざ地上の町での密会を求めた書簡だ。 「これじゃ」 銀糸織りの灰色のローブの裾からギリアムは小さなガラス瓶を取り出した。 グルグル眼鏡をかけてトゥーランドットが覗くが、固くコルクの蓋が閉じられたそれには何も入ってない様に見える。 「空っぽか」 「無色無味無臭じゃ」 「これを『現実』にしろというのか」 「絶対にそうしなければならない。そうしなければ後がない」 「勝算はあるのか」 「あるぞ。これが勝利の鍵じゃ」 ギリアムがローブの裾から出したもう一つの物。 それは小さなスマホだった。 『わーい! オクだよー!』 スマホの画面でジャパニメ調の3?少女キャラが踊った。 それはトゥーランドットもよく知る、ありふれたコンピュータのマスコットキャラ。音声インタフェースのAIだ。 「亜里音オク(ありね −)か」 「そうじゃ」 「それは本物か」 「そうじゃ」 いささか奇妙な会話を交わした二人は、ズズッと木の椅子を引き出して部屋のテーブルの対面に座った。 天板にガラス瓶とスマホを置く。ガラス瓶はまるであやふやな存在の様にふわんふわんと天板に弾んでいた。 「今、本物の亜里音オクはこのスマホの中にしかいない」 「それを使うという事は……洗脳か」 「ああ。非合法手段をとる」 「それでこちらはどうすればいいんじゃ」 「ガスの量産システムの確立と、本物の亜里音オクの最適化を……」 『オクが出来る事なら何でもするよー』スマホの中の元学園ナンバーワンアイドルが明るく笑った。『とりあえず歌おうかー』 その時、ドアの外の酒場から喧騒が響き渡った。 「何じゃ!?」 さすがにギリアムが驚きの顔を見せる。突然の大喧騒は男女の悲鳴と共に部屋に届く。 「学園警察だっ! 魔導師と姫を捜している!」 「尾けられた!?」 姫が叫んだと同時にこの部屋のドアが蹴られたかの勢いで開いた。 「学園警察だ!」羅李朋学園制服をビシッと着こなした恰幅のいい男女が入り込んでくる。 「マスター・加藤! 逮捕させていただきます」 金髪の学園警察官が黄金のナイフを放った。その刃は紫電をまとっている。 ギリアムの手。虎の眼を模した指輪が輝き、魔導師を光の壁で守る。ナイフの刃は跳ね返った。 「真田! 何の罪でこの加藤を捕らえるつもりか!?」 「役目です! 御免!」 真田と呼ばれた男は今度はワイヤーを付けた手錠を放った。 今度は手錠がギリアムの右手を捕らえた。力強くそれを引っ張るとギリアムは容易く屈服した。 残りの警官達が白衣の少女を捕らえるのは簡単だと思われたが。 「バイちゃ! なのじゃ!」 トゥーランドットは白衣のポケットから何かを取り出すと、それを足元に力いっぱい投げつけた。 室内にいる者全ての耳を聾する爆発音。大量の白煙が膨れ上がる。 白煙は部屋の中にいる者達、全ての姿を包み隠す。白煙のあちこちでストロボの様な眩しいフラッシュがしつこく輝く。 警察官達は白煙と光に翻弄される。煙にはむせる成分が入っていた。 「何がありましたか!?」 ドアの外から大勢の警察官達が駆けつけるタイミングでテーブルをひっくり返して驚かせた直後、白衣の姫が小柄さを活かしてその脇を走り抜けた。この部屋にほぼ全員が釘づけになったそのタイミングだ。 やがて煙にむせる皆がようやく落ち着いた頃、白煙は薄れて晴れた。 「逮捕対象がいません!」 「馬鹿! 酒場を手隙にしてどうする! ヤツは外に逃げた! 追いかけろ!」 捕縛された三白眼の用心棒の横、酒場のドアは開け放たれている。酒場の中は身柄を拘束された男女でいっぱいだ。 大勢の警察官がドアから外へと駆け出していく。 「マスター・加藤。不本意でありましょうが我らと共に来ていただきます」 真田が手錠に付いたワイヤーを引き、加藤を歩かせる。 加藤はひっくり返されたテーブルを見た。 「何を?」 「いや」 加藤は、真田に引き立てるままに歩く。それ以上の抵抗はしなかった。 ★★★ この闇酒場での羅李朋学園警察の強行逮捕劇はすぐ町の噂となった。 しかし、それ以上の事情は皆が追っても知りえなかった。 トゥーランドット姫は当日から行方不明になったらしいが……。 ★★★ 「……ったく! 厄介なっ!」 アル・ハサンは夜の野原を走っていた。 全くドジな話だ。 今度のアル達、冒険者のパーティは冒険者ギルドからの『児童誘拐組織』退治の依頼を受けていた。 どうせチンケな仕事だ、と侮っていたアルだが、誘拐組織のギャング達は予想に反して凄まじく強い奴らだった。 敵アジトに乗り込んだ七人からいた冒険者グループは戦闘で殺害、或いは戦闘不能にされ、全滅の憂き目にあっていた。 アルは後ろから頭を殴られ、前後不覚になったところをアネカをさらわれて逃げられたのだ。 アネカをさらった男女を追って、アルはズキズキ痛む頭を意識しながら夜の野原を走る。 三〇〇mもアルから離れたら、自動的にスタンドが自爆する。 そうしたらアルは死ぬだろう。 それ以外に何の理由も情もない。 アルは男女が逃げた方向の暗闇を走る。 銀の月はまだ低い位置にある。 と、重い駆動音が聞こえてきた。何らかの機械がアルの追う先にある。 銀の月を背景に、丘の上にある硬質なシルエットが浮かび上がった。 それは一両の戦車だった。 アルは戦車に詳しくないがそれは現代の最新式の物ではなく、第二次世界大戦当時の物らしい事は即理解した。 いや、それも違う。 あの戦車は旧態然とした雰囲気はあってもそんな昔に作られたものではない。 何故ならばその大きさだ。 恐らくその大きさは前後長が五〇mはある。砲塔の高さは五mも上にある。巨人の様な巨体だ。キャタピラの幅だけでも家一軒をペシャンコに出来るだろう。 大砲塔一基と小砲塔五基。多砲塔。 丸みを帯びたシルエット。その装甲。 超巨大戦車。 その移動する要塞は、戦車主義軍人の妄想かアニメ映画の中でしか存在しないはずの物だった。 「羅李朋学園のテクノロジーか……!」 アルは苦苦しく言葉を噛みしめた。 今、砲塔上にあるハッチが閉まった事はシルエットと音で解った。 逃走していた奴らがこの戦車に乗り込んだのだ。アネカはこの戦車の中だ。 しまった! この戦車が逃走に移ったらアルの追跡速度では追いつけない。 そしたら三〇〇m以上離れて、アルは死ぬ。間違いなく死ぬだろう。 岩陰に隠れ、前に出るべきかを迷う。 だが、戦車は逃げなかった。 それどころかエンジン音が高まると小砲塔の一つが旋回し、アルの方に向いた。 撃たれる! そう覚悟したアルだったが射撃は小砲塔の副砲ではなく、機関銃から来た。 SPITZ! SPITZ! SPITZ! 銃弾がアルの周囲の地面を削り、岩を撃ち砕いた。 完全に彼の位置は把握されている。 小砲塔の副砲も今や完全にアルを睨んでいる。 「出てこい! アル・ハサン!」 スピーカーから男の声が響き渡った。 戦車の中の連中は追っている者が誰なのかを把握しているのだ。 そして、すぐ殺すつもりはない。 アルは唸るが、このままでは降伏しかない。 今の彼には頼もしい仲間はいないのだ。 ……いないのか? ★★★ |
【アクション案内】
z1.学園警察隊の逮捕劇があった闇酒場からトゥーランドット姫の行方を追う。 z2.学園警察隊の逮捕劇があった闇酒場で何かをさぐる。 z3.(PCはたまたま現場に出くわした!)アル・ハサンのピンチを救い、超巨大戦車と戦う。 z4.その他。 |
【マスターより】
★★★ アル・ハサンとギリアム・加藤にトゥーランドット・トンデモハット。彼らに何が起こったのか? 今回のオープニングはPCが知りえないシーンも入っておりますが、そこはプレイヤーの知識として、こっそりと活用していただければと思っております。 オープニングを読んでもらって解るように今回羅李朋学園には大きな動きがあります。 もしかしたら羅李朋学園領がなくなってしまうかも?的な動きです。 あと、このままでは金銭的な報酬は発生しないので、ボランティアで終わりたくない方は頭を絞って、金銭的なもうけに結びつけてください。 宮〇駿的な戦車もいますが戦おうと思っている方は頑張ってください(無責任)。 では次回も皆様によき冒険があります様に。 ★★★ |