ゲームマスター:田中ざくれろ
★★★ ドワーフ国『ゴルドシュタイン王国』。 スチール・ゼンマイの畑は、山肌に拓かれた広い段段畑になっているという。 ここに岩肌を走る運河があり、太陽をふんだんに浴びる形でスチール・ゼンマイが育てられている。 そこへ至る坑道を長い間歩き、冒険者達は畑へと至る石造りの扉の前までやってきた。 ここを開けば『くねくね』は現れるだろう。 直視すれば気が狂う。 奇妙すぎる怪物を前に、冒険者達は気合を入れ直した。 両開きの扉は音を立てて開かれた。 雨上がりの濡れた空気と共に、太陽の光が射しこんでくる。 冒険者達は遠目にかろうじて輪郭を見た。 いや、見ていない。 全員がかけたドワーフ製『高級サングラス』の曇りガラス越しに、組細工の様な生物とは思えない、薄らぼんやりとした『何か』を見た気がしているだけだ。 風の流れとは無関係に誘う様にのたうつ、あやふやな格子状の身体手足。 その構成に意味があると思えない。 ジュディ・バーガー(PC0032)は何故か嘔吐感を覚え、それを胸下に沈めた。 くねくね。 そもそもスチール・ゼンマイ畑に出現するこの危険な怪物の正体とは何か。 生き物なのか。それとも自然物とは次元が違うものなのか。 単体の怪物とは限らない。 複数の出現を想定し、油断しない事が肝心。 出現する原因が不明な為、再発防止も予見出来ない。 対処する為に考える事が山積みのモンスターではないのか。 実に難解な対象だが、怪物退治というクエストを受けた以上は、冒険者達はベストを尽くすのみだ。 一気に解決出来れば嬉しいが、簡単にすむなら苦労しない。 とにかく地道に一つずつ対処していく合理性が大切。 小さな事からコツコツと、だ。 ざわわ……ざわわ……ざわわ……。 畑には今まで見た事ないような不気味な植物が群生している。 丈の高さ三mほど。形は確かにゼンマイなのだが、表面が金蔵光沢を帯びた血の様に赤い巨大シダ系植物だ。 「装備のおかげで一瞬視認するくらいなら大丈夫かしら、……いえ、むしろうっかり視認してしまった場合の視線を外す時間を稼げる程度と考えた方がよさそうね」サングラスをかけたクライン・アルメイス(PC0103)は扉から一歩を踏み出した。「村人が発狂して倒れ、精神攻撃以外の外傷はなかったという事は、他の攻撃はそれほど警戒しなくてもよさそうかしら」 濃霧色の翳りに視界を閉ざしたクラインは、桃色の『ラブラブトレーナー』を着込んで大胆に歩を詰める。 くねくねに近づく。 断崖絶壁に向かって無防備に歩んでいく気分に捉われる。 「情報も足りませんし各自で色色やるのがよさそうですわね。わたくしは地面を見ながらくねくねの影を目標としようと思いますわ」 彼女は血で赤黒く湿った土から立ち昇る臭気に包まれていると怪物と対峙。 正面でなく、足下を見つめる。 胸がむかむかしてきた。 心が落ち着かない。 気持ちが刺刺しく騒いできた。 「視認出来ない以上は、ブラスターよりも鞭で足元を広く攻撃するのがよいかしら、捕らえた後は、鞭で捕らえた先を目標に攻撃するだけですわ」 それでも『雷撃の鞭』を手に近づくクラインは、その内におかしな事に気がついた。 輝く太陽が逆光になる様に、くねくねの背景を晴天の光景にして進んでいる。 しかし、何処まで近づいてもくねくねの影が見つからない。 くねくねに影はないのだ。 「馬鹿な!? 太陽に影を落とさない生き物なんて!?」 畑にはくっきりとスチール・ゼンマイの影が焼きついている。 しかし奇妙な事にくねくねの影が全くなかった。 「クラインさん!」 鞭を手にした彼女の背後より飛来する手裏剣。 高級サングラスを装着し、視線を下げて怪物を直接見ないようにしていたアンナ・ラクシミリア(PC0046)は『サクラ印の手裏剣』を投擲。 眼で狙わずに当てずっぽうで投げた手裏剣は、幾つかがくねくねの細い枝の如き身体を掠めて切り裂いた。 くねくねが無言で苦悶した如くのくねりを見せた。 しかし大胆に身体を動かしても周囲の風は動かない。 そこまで相対して、冒険者達は解像度が極端に低いこの戦場で、くねくねの輪郭はスチール・ゼンマイのそれと大きく重なっているのに気がついた。 まるで二重写しだ。 「何これ……幽霊!?」 アンナの呻きが漏れる。 果たして晴天の下でさんさんとした太陽を浴びて平気な幽霊がいるのか? 日向にさらした、くらげ。 ふと、くねくねを見ていた者達の脳裏にそんな連想が浮かぶ。 よくない傾向だ。 連想が浮かぶという事は認知レベルが一段階進んだからだ。 「ぐらり」とアンナの心が身体の内ではかなく歪んだ。 身の内側から狂気が手を伸ばし、彼女の意識をしっかり捕まえたのだ。 そしてそれはクラインとジュディも。 ジュディはくねくねの狂気は対象から放たれる精神魔法の類だと考えていたが、これは違う。 くねくねという存在自体が常識に対する冒涜のようなものであり、見た者の精神はその認知に耐え切れずに「歪み、狂う」のだ。 狂気は内側から湧いてくる。 己の心の影。 絶対に逃れられない。 吐き気さえ催す。 「……ならばっ!」 クラインは手の内に隠し持っていた塩塊を投げつけた。 それは空気中で分散し、くねくねがいると思しき空間に散布させるのに成功した。 しかし何も起こらない。 塩が効かない。 これは相手が霊体ではないからか。それとも霊体に塩が効くという情報が間違いなのか。 ジュディは『ゴ−スト・ブレイカー』を発動した。 しかし、やはり効果がないようだ。 これは雑霊レベルの霊体を消滅させ、そうでなくとも霊力を大幅に削ぐ事が出来る。相手が霊体でなければ効果はない。それが効かない。 二人はくねくねが何の感情も見せずに身を揺動させるのを背景に、速やかに狂っていくのだった。 その時、アンナは自分達の後方に控えていたリュリュミア(PC0015)に聞こえる様に指を鳴らした。 「ええぇいぃっ」 リュリュミアは合図に応じて、自分の黄色い帽子から大量の花粉の雲を撒き散らした。 広い畑で、睡眠の効力を持つ彼女の花粉がくねくねを覆い隠す。 しかし、くねくねの動きに鈍ったところはない。黄色い雲の中でその肢体は冒涜的に揺れ続ける。 くねくねには睡眠効果も効かない。 だがアンナが、リュリュミアの力に託したのはそれだけではなかった。 花粉を使ったのには二つの意味があって、一つはリュリュミアの花粉で怪物が眠るかどうか。 もう一つは怪物が花粉まみれの姿になれば、認識率が下がるのではないのか。 つまり花粉まみれの姿を見るのは、実態よりも認知レベルがワンクッション下がるのではないかという事だ。 サングラスの視界に、更にサングラスをかける様なものだ。 「今ですわ!」 少なくともこれにはクラインに効果があった。 彼女は意識が遠くなった時は、鞭の電撃で自分の足に打つと共に『厚紙製の護符』で勇気を振り絞るというルーチンワークを自分に仕込んでいた。 「わたくしは『エタニティ』を世界一の会社にするまで死ねませんのよ!」 かろうじて狂気の縁に指一本引っかけた女社長は、自己暗示による力で正気の世界へ復帰する。胸では『ラブラブトレーナー』の場違いに明るいカップル(略してバカップル)のプリントが満面大笑で輝いている。 この復帰は、ジュディに対しても呼び水となった。 クラインの真似をしてラブラブトレーナーを着込んでいたジュディもその力を借りて、かろうじての正気を取り戻す。 即座に『イースタン・レボルバー』の粘着ゴム弾を連射。 その弾丸は枝の様に細い怪物に命中したが、直撃なのに通過した。 「WOOOOOOOO!」 サングラスの視界で、構わずそれでも粘着弾を全弾連射。 背後にあるスチール・ゼンマイに弾が命中した時のみ、怪物はちょっとした苦悶らしき様子を見せる。 アンナもスモーク・スクリーンの助けを借りて、復帰。 ローラーブレードを滑走させてくねくねに接近したアンナは『戦闘用モップ』で怪物の足下を薙ぎ払った。 これで横倒しに出来れば、勝機はある。 しかしくねくねの足(?)を薙ぎ払ってもモップは素通りし、倒れる事はない。 それでもジュディは巨体に物を言わせ、大きな布袋を抱えて突進した。 アンナも考えていた策なのだが、ジュディは濃黄色の霧中にあるくねくねに布袋をかぶせて袋詰めにした。 「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ……イピカイエーッ!!」 ジュディは布地の上からめいっぱいの殴打を食らわせる。 その光景を見ながら、アンナはあまり攻撃するのも考えものだと眉をひそめる。 もし意思疎通が出来るなら、何故現れたのか、どうすれば立ち去ってくれるのか、おかしくなった人たちを元に戻せるのか、と訊く事は色色ある。 要は怪物が畑からいなくなるなら、必ずしも退治する必要はないのではないか。 話し合う余地を想定していたアンナはそこまで思い切った攻撃には出れなかったが、それでも一撃を、とモップを振り上げた。 その瞬間。 殴打の手応えがない。 ジュディの上半身が跳ねる様にのけぞった。 モノクロームの風景の中、くねくねの身体は、まるで布袋など存在しないかの様に厚い布地を通過していた。 細い木を注ぎ合わせた如くふらふらした身体は、その手でジュディの白い顔に触れていた。 ジュディの眼からサングラスが力なくずり落ちかけている。 「ヘヘヘ……KUNEKUNE…………」 その瞳には知性がない。 直に触られた感触が宇宙的狂気を加速させたのか、ジュディの身体は弛緩して膝から崩れ落ちる。 その姿態にくねくねが更にのしかかろうとする。 「ジュディさん!」 アンナが叫んだ瞬間、その両脇を後方からの蔓の流れがかすめて過ぎた。 リュリュミアの両手が育てた二色の巨蔓の内、赤い蔓は空気を掴む様にくねくねを通過したが、魔力のこもった青い蔓はくねくねを縛り上げた。 「これ気持ち悪いですぅ」 リュリュミアは直接触ったわけでないのに、その不快さにすぐ『ブルーローズ』の蔓をくねくねから放してしまった。あとちょっとでも触れていたらジュディの二の舞だっただろうか。 その二人を追おうとしたくねくねを撃ったのは、クラインの手から放たれた紫電の鞭だった。 痛みを感じたのか、くねくねが激しく身を引っ込める。 「ジュディさんを連れて戦略的転進ですわ」 隙を逃さぬクラインの指示で、皆はこの畑から撤退に移る。 ジュディの巨体は、リュリュミアがブルーローズの力で支えて運ぶ。 出来る限り急ぐが、彼女が無力となった今、撤退に手こずる。 追いかけてこようと思えば追いつけるペースだが、くねくねの身体はスチール・ゼンマイの畑を離れなかった。 背後の石扉。 冒険者達が飛び込むと重い音を立てて、畑と安全なる坑道を隔絶する。 坑道の空間で、皆は石壁を背後に着きながら、荒い息をした。 サングラスを外しながら、冒険者達は身の安全をあらためて確認した。 そして、負けた、という事実も。 「大丈夫? ジュディ……?」 アンナは頬を軽く平手でたたく。 しかしジュディの瞳から知性は戻っていない。 「ヘヘヘ……KUNEKUNE…………」 まるで自らがくねくねに同化した様に手足をくねくねと動かし、へらへらと笑い続ける。 幼児退行した様なジュディの姿は、思わず皆に直視を許さないものだった。 「早くビリーとマニフィカへ……!」 クラインは、怪物に発狂させられた人間の治療方法を探している仲間達の所へジュディを送るよう指示を出し、自らを先頭に坑道を引き返した。 ★★★ ジュディを横たえられる寝台はドワーフの町にはなく、急遽、複数の寝台を突貫工事で組み合わせた大寝台が作り上げられた。 現在リュリュミアの花粉をたっぷり吸引させられたジュディは穏やかな顔で寝息を立てている。 この広い医院の一角にある、くねくね被害者の隔離病棟では大勢いるドワーフ達が安静に寝息を立てている。彼らは皆リュリュミアの花粉で安息していた。 「……いやー、ジュディさんが返り討ちにおうてしまうとは……」 ビリー・クェンデス(PC0096)は濡らした手拭いを絞って、ジュディの額に載せた。 怪物退治には参加しなかった神様見習いは患者達の救護にあたっていた。 先日、居酒屋で怪物対策を話し合っている最中にリュリュミア嬢が睡眠の重要性を説き、花粉の提供を申し出た彼女の言葉に、ドワーフの一人が「優しいな」と呟いた。 ビリーは何気なくその会話を聞いていて感動を覚え、はっと眼が醒める思いがした。 そのような救済こそ神様見習いとして自分の本分では。 すっかり怪物の犠牲者を失念していた落ち度に彼は愕然となった。 「こらアカンわ……ボクは何しとるんやろ?」 ミーハー気分でフライング・ゴートに浮かれていた自分が急に恥ずかしくなってしまう。 今胸に手を当て先人の言葉を思い出す。曰く「過ちては則ち改むるに憚ること勿れ」 今ビリーは何をすべきか。 答が犠牲者の治療に専念する事だというのは明白だった。 そして、この医療室での救護に専念していたのだ。 怪物を視認すると発狂してしまう現象は、おそらく視覚による精神攻撃だと考えていたが、実際にくねくねと戦ってきた者達の話を聞くにそうとは言い切れないらしい。 現時点では自然回復したケースが見当たらない。 精神異常は継続する。 中世レベルの医療水準では手の打ちようがなく、奇跡を願って患者を放置するしかなかったはず。 だが、まだ若葉マークな見習い中とはいえ、このビリーも神様の端くれである。 遥かなる未来の救世主として奇跡の一つでも披露すべし! 幸いにも『催眠療法』という技術を習得していた。 発狂している犠牲者を、心理系の状態異常と認識できるなら、施術によっての回復は充分に可能と思える。 「よっしゃ! ほな、気張ったるわ!」 成功すれば、まさに大金星。 勿論『催眠療法』一本に絞らず、他の治療法も併用し、より最適解な治療法を模索するつもりだ。 十八番な『指圧神術』と『鍼灸セット』の組合せも有効かもしれない。 リュリュミアの花粉も麻酔薬や鎮痛剤として活用出来そうだ。 「リュリュミアはお医者さんじゃないから治療できませんけどぉ、おかしくなった人たちには体力が落ちないように薬膳スープを飲ませてあげてぇ、心安らかに眠れるよう子守歌代わりに『平和の歌』を歌ってあげますぅ」 当のリュリュミアは自分で速成栽培した薬草を料理し、平和の歌を歌って患者達の心を癒していた。 普段の患者達に食事を摂らせるのも一苦労だったが、安らかに眠っている今ならスープを飲ませるのは難しくはない。琥珀色の液体をすくったスプーンは、その唇にふくませれば自然に嚥下される。 「すちいるぜんまいが丈夫なのは血液の鉄分に由来するんですねぇ。野生ではなかなかそこまで硬くはならないでしょう。血の代わりになるものを見つけないとリュリュミアが育てるのは難しそうですぅ」 歌の合間にそんな感想を漏らすリュリュミアの横で、マニフィカ・ストラサローネ(PC0034)は口外無用という約束で教わったスチール・ゼンマイ栽培法の特殊条件に今も驚きを隠せていない。 (吸血植物だったとは!?) 彼女の脳裏には血の生贄という言葉が浮かび、どうしてもネガディブな印象を強く感じてしまう。 直観にすぎないが、やはり状況は血とは無関係と思えない。 彼女はスチール・ゼンマイ栽培と怪物の関係性を改めて考察している。 『故事ことわざ辞典』を紐解いてみた。 すると『心血を注ぐ』という文言が眼に入る。 この特殊な栽培法を発見するまで、開発者『ゴム・ブロンズ』は試行錯誤の連続だったと聞く。 ふむふむ、さもありなん。と肯きながらも再びページをめくれば『血路を開く』という記述が。 現状を打破し、困難から抜け出す方法を模索せよ、という天の示唆か?と思う。 いずれも血に関連している事が重要なヒントかもしれない。 血の生贄を捧げる行為は、いわゆる儀式魔術を連想させる。召喚術が特に有名だろう。 もしかしたらたまたま偶然が重なった結果、スチール・ゼンマイの栽培が知らずに怪物を召喚している可能性も。 「生態学的に考えると、野生のスチール・ゼンマイはどうやって必要な血液を入手しているのでしょう」 きっと鋭い葉や棘といった動物から採血する為の進化があるはずだ。 また動物を誘き寄せる工夫も必要だろう。 「もしや怪物の正体は、スチール・ゼンマイとの共生体でしょうか」 いずれにせよ大量の血液を与えるのが栽培法と理解出来ている。 血液を供給する為、家畜を処分する事になるのは試験的栽培では許容範囲内でも、規模を拡大する際は問題化するかもしれない。 将来的な展望も踏まえ、いわゆる人工血液での代替は可能だろうか。 赤血球等の細胞成分と、栄養素を豊富に含む液体成分によって血液は成り立っていると聞いた事がある。 植物にヘモグロビンは不用だから、液体成分のみが栽培に必要なはず。 タンパク質やビタミン等を加えた生理食塩水なら、クラインのエタニティ社や羅李朋学園化学部で安価な大量生産も可能ではないだろうか。 つまり沢山の家畜を犠牲としなくてすむし、生産コストも大幅に削減出来る! ……いや、リュリュミアはスチール・ゼンマイの頑丈さは、鉄分に由来するのでは、と言っていた。 するとやはりヘモグロビンは必要なのでは……。 考えよう。ではザクロやプルーンの様に鉄分をふんだんに含んだ植物ではどうだろう。 これはいい線を行っているかもしれない。 ザクロジュース。プルーンジュース。ご婦人の身体にもイイ感じの健康ジュースがスチール・ゼンマイ開発の二次的要素になるかもしれない。 「血液の代替品? どうだろうな。俺達はスチール・ゼンマイは意味的に血液その物を必要とすると見ていたんだが」 とはマニフィカの思いつきを聞いたゴム・ブロンズの言葉。 と、ここまでマニフィカが考えていたところで、隣の給湯室であーでもないこーでもないと薬膳スープをいじっていたビリーから閃きの声が届いた。 「そうや! 精神異常といえば毒キノコ! 幻覚キノコの成分と組み合わせて薬膳料理を作るのはどうやろ!」 催眠療法やら色色試してみてなかなか上手くいかなかったビリーだが、ここで逆襲安打のアイデアを思いつく。 薬膳スープの内、キノコを材料に使っている物が効き目が高そうに思えたビリーは、それを自分の催眠療法と組み合わせ、一気に全快状態まで持っていける様なアイデアを閃かせた。 キノコはドワーフの町でも広く栽培されているらしい。 「うーん。キノコか。市場に行けば色色な物を入手出来るだろうけど……効くかなぁ」 「絶対効くはずや。毒キノコにある効能で犠牲者の恐怖の記憶を消去するんや。ボクのアンテナがビンビン来てるで!」 赤ひげのドワーフである医者の言葉を、ビリーは笑顔で自己肯定する。 それを聞いていたリュリュミアの顔が輝く。「キノコはげんみつには植物じゃないからリュリュミアのいまいち専門外だけどぉ、用意してくれたらおいしいなべを作るわよぉ」 「これで決まりや!」福の神見習いはフィンガークラップ。「市場でも何処からでもいいから、幻覚キノコを集めるんや! ボクの催眠療法と合わせて、患者を食事療法で治療するで!」 「でも、どのキノコがどんなふうに効くか、わからないんじゃないかしらぁ」 「だからてっとり早く片っ端から試すんや」 ビリーはキノコの組み合わせを色色と試す気でいる。 くねくねとの再戦を考えていたアンナは彼の考えを聞いて、ふと呟いた。 「今度はキノコ鍋パーティですか」 皆がそう話合っていると、看護されていたジュディに回復の兆しが現れた。 彼女はラブラブトレーナーを着ていた事が狂気に対する抵抗力を上げていたのかもしれない。 「アウ……ムゥ……あれ、ホエア・アム・アイ? フー・アム・アイ?」 「ジュディ、気がついたのね」 嬉しい声を挙げたアンナに、ジュディは邪気のない瞳を向けた。 きょとんとした円い瞳だ。 「アレ……フー・アー・ユー? グランパ、ゼアーズ・サムワン・アイ・ドント・ノウー!?」 「ジュディさん……?」 舌足らずな声で泣き出したジュディに、医療室にいる皆の眼が集中する。 今やすっかり気丈夫な彼女ではない。 「あらあらぁ。まるでちいさな女の子みたいねぇ」 「もしかして幼児退行起こしてるんとちゃうん?」 リュリュミアとビリーはすっかり子供じみてしまった彼女の様子に慌てる。 「彼女を癒せるキノコも用意する必要もありますかしら」 マニフィカは心だけ少女に戻ってしまった親友に対し、ショールを肩にかけてあげながら他人事でない心配の気持ちになった。 ★★★ 「優秀な貴方達でしたら、細かく指示されるまでもなく動けるとは思いますが、よろしくお願いしますわね」 クラインはゴルドシュタインに連れてきたエタニティ技術者達に、フライング・ゴートの量産についてのゴルドシュタインとの連携と調整を指示している。 技術者達が試作機の青写真を見ながら首を捻っている。 「量産に必要な資材については、適宜調達してかまいませんわ」 彼女は時折、時間を作ってはゴムから借りたフライング・ゴート試作機で飛行練習を行っていた。 ロープで繋がれていなければ何処かへ飛んで行ってしまいそうなじゃじゃ馬は、さんざんに彼女を振り回した。 これは習熟に時間がかかりそうだ。 勿論、幼児退行してしまったジュディへの心配は胸にある。 しかし、未だ正体が確かならざる怪物との再戦が控えている。 その前に身体に余計な痣を作ってしまわないか、専らクラインの関心はそこにあった。 鍋パーティ。 くねくねとの再戦。 どちらが先になるか解らない。だが、放っておいてもその時はやがてやってくるのだ。 ★★★ |