ブンブンとくねくね

ゲームマスター:田中ざくれろ

【シナリオ参加募集案内】(第1回/全3回)

★★★

 それは蜂の羽音を一〇倍にも大きくした様な騒音と共に王都『パルテノン』の街を馬の倍以上の速度で駆け抜けた。
 駆け抜けた? その言葉はふさわしくないだろう。
 何故ならば、それは地を走ったのではなく、街道の屋根より低い場所をまさしく蜂の様に四枚の翅を透明に振るわせて、飛翔していったからだ。
 以前にもヘリコプターが飛んだ事があるこのパルテノンでは久久の騒音だ。
 一人乗りの機体は、戦車(チャリオット)に似ている。
 ただし、それは馬に引かれるのではなく、台車の左右に生えた二枚ずつの蜂の様な大きな翅を高速震動させて揚力と速度を得ていた。
「〇ピュタは本当にあったんだ……!」
 それが頭上を飛び過ぎるのを見上げていた群衆の内の少年が思わずそんな言葉を呟く。
 それはまるでデモンストレーションを見せつけるみたいにパルテノンの街を飛び抜けた。
 勿論、皆、こんな物を見るの初めてだ。
 それは風力で巻き起こるゴミの嵐を掻き分けて、呆気にとられている街の住民を眼下にし、大通りに入ると王都中央の王城へ向かって一気にスパートをかけた。
 パルテノンの全衛士が緊張した。
 このままでは閉じられている正門の大扉に激突する!
 城を守る衛士達が槍を持ち、銃丸から弩弓を射る準備まで完了していた。
 しかし『それ』は正門の手前で急制動をかけ、激突直前にそりの様なスキッドが付いた腹が前になるほど、身を傾かせながら、空中停止した。本当の蜂の様に飛びながら静止出来るのだ。
「俺は『ゴム・ブロンズ』!」
 振動する機体。操縦していた黒髪のドワーフがゴーグルを外しながら、機上から衛士達に叫んだ。
「直接、この『フライング・ゴート』で乗りつけた非礼はお詫びする! なるべく早く『パッカード・トンデモハット』王に謁見いたしたい!」

★★★
 フライング・ゴートは城壁に囲まれた中庭に駐機され、周囲で衛士達が護衛している。
 謁見の間に通されたゴムはゴーグル付きのヘルメットを小脇に抱え、ひざまずいてパッカード王が玉座に着くのを待った。
「面を上げて構わぬ」
 燃える様な髪のパッカード王は玉座で穏やかに声をかけた。
「失礼ながら、俺の名はゴム・ブロンズ。『ゴルドシュタイン』では発明家として名が通っております」
 立ち上がりながらゴムはドワーフ族が主に住む大鉱山の町の名を口にした。
「フムン」とパッカード王の眼が好奇心に輝き、姿勢が前のめり気味になってきた。「お前が乗ってきた、あのフライング・ゴートとやらはお前の発明なのか」
「そうなのですが……失礼ながら、国王。俺の用件はフライング・ゴートとの関連もあるので、なるべく、こちらの順序で話をさせてもらえないだろうか」
「いいだろう」
 ゴムは王から、望む順序で話をする権利を与えられた。
「まずは俺のある動力機関の研究が、最近、実用ベースに乗った事を報告いたしたい。その動力とは……『ゼンマイ』なのだ」
 ゼンマイバネ。
 金属の薄いベルトを巻く事でエネルギーを蓄え、巻かれたベルトが徐徐に元に戻ろうとする弾力をエネルギーとして利用した動力。
 それはオトギイズム王国でもよく知られている物だが使われるのは主に玩具やドワーフ式懐中時計など小さな品だ。大きくするとその金属バネを巻く為の労力が割に合わず、また巻かれすぎたゼンマイが破断したり、まだエネルギーを解放する力が弱かったりと、動力機関としてはいまいち非実用的だとされてきた。
「それを実用レベルに改良したのが俺の発明なのだ。フライング・ゴートにはその改良ゼンマイ機関が積まれている」
 フライング・ゴートのゼンマイ機関は大型で一回の巻き上げで一日の全力飛行を可能にする。巻き上げにはまだ労力がいるが、水力機関等の補助により、比較的短時間でフルチャージ出来る。
「フライング・ゴートを量産出来れば、空中機動力や戦術は一変する。勿論、戦争に限らず、フライング・ゴートは国の輸送力を大きく向上させるだろう」
「その売り込みが今度のお前の仕事か」
「それだけではありません。その改良ゼンマイ機関に使う新型ゼンマイ、それに関する事が今回、王に直接お話したい事柄なのです」
 ゴムの改良ゼンマイ機関に使われるこれまでのゼンマイに替わる新素材。それが全ての鍵だった。
 彼の話によれば、それは植物だという。
 世間でもよく知られているゼンマイという食べられる植物があるが、この新素材はそのゼンマイとは全く別の『スチール・ゼンマイ』と名を与えられた人の背丈ほどの金属質の大きな植物だという。
 ある秘境冒険で発見されたゼンマイバネそっくり、いやそれ以上の強度と大きさと軽さを持つ、そのスチールゼンマイは、確保されてからすぐに新型ゼンマイ機関の素材の有力候補として挙げられた。
 だが、スチール・ゼンマイは栽培するのがひどく難しい植物だった。
 実はこれまで十何年もスチール・ゼンマイの耕作は試行錯誤されてきたのだが、ずっと残念な結果に終わっていた。
 それがひどく限定的な条件ながら、なんとか量産のめどがたったのがつい最近の事なのだ。
「ゴルドシュタインの一角に作られたスチール・ゼンマイ畑では今年、十分な量のスチール・ゼンマイが実りました。これで実業ペースの新型ゼンマイ機関の開発が出来ると、研究者たちは皆、喜びました」ゴムはちょっと明るい顔をしたが、その顔は思い出したかのようにすぐ厳しくなった。「……しかし、その畑に奇妙な怪物が棲みついてしまったのです」
 ゴムの話によれば、その異常を発見したのは二週間ほど前だという。
 それは畑を見回っていたはずの一人のドワーフの異常、発狂から始まった。
「えへへ……くねくね……」
 その中年ドワーフは幼児退行を起こしたかの様に、痴呆めいた表情でただその身をくねくねと踊らすだけの存在になってしまった。仲間に助けられた時から今までそのドワーフの発狂は治っていない。
 畑の脅威には、他の皆もすぐに気づいた。
 そして、それが思っていた以上に厄介な存在である事も。
「遠方の畑で、何か白い人みたいな形に棒を組み合わせた様なみたいな存在が何か……はっきりとは見えないが『くねくね』と身をよじらせているんだ。俺達はそいつが仲間を発狂させたのだと気がつき、十分な戦闘装備を持って、一〇人以上でそいつを退治する為に近づきました。すると近づいた全員、そいつに何かをされた様子もないのに途中で一斉に倒れました。その怪物がもっと遠くの畑に歩み去ってしまった後に救助すると、皆、最初の犠牲者みたいに痴呆めいてただ身体をくねくねさせるだけの存在になっていた……発狂したんです。そいつのヤバさはそれだけじゃなかった。一体、正体が何なのかを見極めようと望遠鏡で遠くから観察しようとした仲間も、それだけで同じように発狂して倒れた。……そいつは確認、『はっきりと見る』だけで発狂してしまうんです!」
「うむ……」パッカード王がそこまでドワーフに喋らせたところで唸った。「その畑の脅威を取り除かない限り、スチール・ゼンマイは収穫出来ないのじゃな」
「御意」
 パッカード王は難しそうに唸った。「スチール・ゼンマイ機関の優秀さはさきのお前のフライング・ゴートで解った。そいつを倒す事は非常に王国にとって有益なのだな」
「王国の更なる発展をお約束します」
「しかし、無策で挑むには危険すぎる相手の様だな。こちらの衛士をただぶつけるだけでは犠牲者が増えるだけだろう……」王は既に決断をすませていた。「よし、王の名のもとに『冒険者ギルド』に依頼を発注する! ゴルドシュタインのスチール・ゼンマイ畑にいる危険な怪物を退治せよ! 報酬は一人頭、五〇万イズムだ! ただちに王国内の全冒険者ギルドに発布、この王城に参集せよ!」
「ありがとうございます、王よ」
「ゴムよ。お前も依頼に参加という形で冒険者達と同行せよ。出来る限り、冒険者の危難を取り除いてやれ。あと、それと……」
「は、何か?」
「冒険が終わったら、あのフライング・ゴートというヤツの乗り方を教えてくれ。頼むぞ」
 その言葉を最後に謁見の間を去ろうとしたパッカード王だったが、その足が大臣の前でふと止まる。
「クライン・アルメイスの会社にも最優先でこの事を教えてやれ。彼女にとってはいい商機だろう」

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【アクション案内】

z1.冒険の依頼を受ける「謎の怪物は何者か?と推測を述べる」
z2.冒険の依頼を受ける「怪物を倒す方法を提案する」
z3.スチール・ゼンマイの事について詳しく訊く。
z4.フライング・ゴートの事について詳しく訊く。
z5.その他。

【マスターより】

★★★

 (DEVOの『くねくねした世界』を聴きながら)。
 はい。今回は一部怪談で有名な「あの怪物」に登場してもらいました。
 ゲームがゲームなら「あ、君。あの怪物をじかに見た? じゃ正気度チェックね」となる怪物です。
 そして『〇空の城〇ピュタ』で登場したあのマシンも登場です。
 皆、一度はこのマシンに乗ってみたいと思った事があるんじゃないでしょうか。あのイカス奴です。
 このシナリオが成功して『スチール・ゼンマイ機関』が実用化されたら、文明の選択肢がまた一つ増えるんじゃないでしょうか。
 さて、これから三話構成のシナリオです。怪物との戦闘は二話目の予定なので、一話目はとりあえず好き勝手に準備してください。三話目はオマケです。
 今回も皆様によき冒険があります様に。

★★★