ゲームマスター:田中ざくれろ
★★★ 暑い青空の下で、団扇で扇ぐ。 心理学的に分析すれば、運がよいのも、運が悪いのも、遭遇した事象そのものに大差はないケースが多いという。 つまり、どう受け止めるかによって運命に対する認識そのものが変化するらしい。 示唆に富んだ話ではある。 座敷童子という怪異は、幸運を招く妖精種の一つにオカルト界隈では分類される。 しかしその実態は当事者であるビリー・クェンデス(PC0096)にもよく解らない。 おそらく自我が生じた瞬間、神様見習いという立場も自覚したような気がする。 最初から必然。選択の余地はなかったのかもしれない。 それもまた運命といえよう。 「けど暑いなぁ……」 「兄ぃ! 次は抹茶あずきをお願いしやす!」 暇を持て余したビリーは、相棒のレッサーキマイラと王都『パルテノン』を散策中。 『打ち出の小槌F&D専用』でのかき氷の追加を切望する人工魔獣は、空っぽになった硝子の器を石畳に山積みしている。 が、ビリーが意識を逸らした瞬間、硝子の器は霧の様に儚く消えた。小槌による魔法の食物の付属物は、存在自体が夢の如き物なのだ。 座敷童子の眼を奪ったのは、突然に飛んできた巨大な蜂の様な騒騒しい乗り物だった。 本物の蜂は二枚羽、この乗り物は四枚羽と些細な違いはあった。が、王城へと飛び去るその雄姿を見送ったビリーは、思春期の青少年が罹患しやすいロマンチズムが発病していた。 「何や何や何や! アレは!?」 アレは夢の産物などではない。 いや少年の夢による結晶体みたいなものだが、ドワーフを乗せた飛翔体は確かな現実としてビリーの頭上をフライパスしていった。 飛行機械とは浪漫の塊。 「兄ぃには『空荷の宝船』があるやおまへんか」 「あーゆーのとはまた違うんや! ……解らんかなぁ、この浪漫が」 「あ、兄ぃ。待っておくんなせぇ!」 ふと気づけば王城へと駆け出していたビリーの後を、レッサーキマイラの四脚がドタバタと追っていく。 ★★★ パルテノンにある冒険者ギルド。 ジュディ・バーガー(PC0032)がクエスト達成の祝杯をあげるのは、恒例ともいえる自分へのご褒美。 でもこの間は深酔いした挙句、始末書や弁償金を払う羽目に。 周囲から底なしの酒豪と思われていた彼女も、深酒に溺れて大失敗。 そんな反省から彼女は、真剣に禁酒を検討していた。 とはいえ、言うは易し、行うは難し。 「Oh……ヘッドエイクね……」 易易と酒杯に手が届いている現実に、頭を抱えるジュディは架空の痛みさえ覚えていた。 何故だろう。何故、禁酒したはずなのに杯を手に持っているのか。 「テーブルに着かなきゃいいのに……」 冷えた大ジョッキを抱えた狂科研のスティーブが、ちびりとビールを飲む。 その眼線はジュディの愛蛇ラッキーちゃんと同じく冷やか。まるで尖った氷柱の様に痛く心に刺さるのだった。 「無理な完全禁酒よりも、酒を控える節酒を心掛けるべきなのですわ。アルコール摂取量の軽減を目指す所から始めましょう」 同じテーブルの朋友マニフィカ・ストラサローネ(PC0034)は、グレープフルーツジュースを手に、ジュディに優しく語りかける。 ジュディから禁酒したいと相談されたマニフィカは自分の姿を思い重ねて、親身になって応じる事にした。 不本意ながら、人魚姫は酒乱を自覚している。 だから彼女の事は、よーく解るのだ。 ジュディの性格を考えると、いきなり禁酒するのは厳しいはず。 まだアルコール中毒と呼べるレベルではないはずだから、まず節酒から始めるべきと助言した。 自己管理という範囲内ならば大丈夫だろう。 多分。 「……………………」 さり気なく『故事ことわざ辞典』を紐解いてみた。 『同病相憐れむ』という文言が目に入る。 ……なるほど。是非もなし。 やや仏頂面の体で再び頁をめくれば『怪力乱神を語らず』という記述。 「君子は、怪しい物や現象、道理に背いた事、理性で説明がつかないようなものについては敢えて話題にしない」といった意味のはずだが、どう解釈すべきか悩む。 もしや怪異の出現に対する警告だろうか。 いや単なる書物を予言書みたいに扱う事すらが『怪力乱神を語らず』の戒めに触れるのではなかろうか。 でもそれを言ったらこの辞典の存在意義が……。 思考が堂堂巡りに行きかけたマニフィカの前で、ジョッキをまだ半分も飲んでいないスティーブが先ほどの騒ぎを思い返した。 「そういえば、さっきの飛行機に関する依頼が大掲示板に貼り出されたみたいですよ」 その言葉にジュディとマニフィカは、顔を見合わせた。 さっき王城へと飛んでいった謎の飛行機が酒場の人人の話題になっていたが、もう依頼書になるような展開があったのか。 三人は地階の受付ホールへと降りていき、大掲示板に貼り出された「ドワーフのスチール・ゼンマイ畑に出現する危険な怪物退治」という依頼文を読んだ。 「これは……『くねくね』でしょうかね……」 「ウィグリィ、くねくね……?」 「何ですか、それは」 狂科研のスティーブが依頼書を読んで首を捻った言葉に、そんな物は初耳のジュディとマニフィカが軽く驚く。 興味津津な二人の前で、スティーブが自信なさげに説明を続けた。 「いや故郷の都市伝説なんですけどね。田園地帯に出する怪物で、その姿を視認した者が発狂するというシチュエーションは同じですね。妖怪説にドッペルゲンガー説や幻覚説まであるけど、まさに正体不明で」 「で、その弱点は何でしょうか」 怪異とはこれだろうか、と真剣な面持ちで見つめるマニフィカの眼線をよけて、彼は自信なさげな表情を強めた。 「そんなに詳しくないんで知りません。大体こんなのは作り話だと思ってましたから。……今じゃ下手するとこんなのまでUMA扱いされて。でもオトギイズム王国ではファンタジー・クリーチャーが実在しますから、くねくねがいたっておかしくないでしょ」 無責任発言を堂堂とするスティーブ。 マニフィカとジュディは、今自分達が抱いている興味のまま、即座にこの依頼書の受諾に走った。 (……ドワーフといえバ、ダンブルは元気だろうカ) 受付嬢に手続きをしているマニフィカの背中を眺めながら、ジュディはふと思い出す。 自分に勝るとも劣らない大酒飲みの彼の事だ。鯨飲の失敗談を話したらきっと大笑いされてしまうだろう。 懐かしい顔が、胸の内に去来した。 ★★★ 王都パルテノン。 王城。 夏の陽。 フライング・ゴートの開発者が言うのには、その活動に必要な一日分のゼンマイのエネルギー蓄積は、成人男子が固いクランクを三〇分ほど巻き続ける工程が必要らしい。 不便な様に思える動力だが、これでもゼンマイ機器を実用レベルで活用可能にしたスチール・ゼンマイは、類する物に比べると格段に進化した産物なのだ。 「フライング・ゴートはあらゆる意味で魅力的ですわ。怪物退治が終わったらじっくりと打ち合わせをしたいですわね」 『エタニティ』社長・クライン・アルメイス(PC0103)は、自社でフライング・ゴートの開発に参加する為にも怪物退治を決定していた。 そんな彼女は、城の屋上にあたる階上に出したフライング・ゴートを特等席でじっくり眺めている。 「なあなあ! ボクにもちょっと乗せたってや。なあなあ。これで旅して疲れとったんやろ? これで楽にしたるさかい」 ミーハー丸出しでゴムに接しているのは、レッサーキマイラと共に王城へ乗り込んだビリー。 フライング・ゴートに接近すべく、開発者『ゴム・ブロンズ』に接待攻勢を仕掛けている。 このドワーフが心身共に疲労困憊している可能性は極めて高い。 まず『指圧神術』と『鍼灸セット』を組合せて施術。 次に十八番の打ち出の小槌F&D専用で古今東西あらゆる酒が飲み放題という大サービスぶり。 痛飲であらゆる疲労を癒すべし!と繰り出される接待の数数に、ゴムもすっかり気をよくしていた。 「よしよし。気持ちよさに免じて、お前を俺のフライング・ゴートに乗せてやろう」 「聞いたところやと、新型動力機関に必要不可欠な植物の畑に出現した奇妙な怪物に困ってるっちゅーやないか。直訴の為に王都まで来たんやろ。よっしゃ! ボクが乗ったるさかい!」 元気のよさが売りの一つであるビリーは、軽い気分で冒険依頼を安請負した。 それに対してゴムの機嫌はますますよくなっていく。 彼は何十年もずっと『改良ゼンマイ機関』の実用化をめざした研究を行っていた発明家だった。地元では有名らしい。 「本格的な業務は事件解決後としても、今の内から準備はしておきたいですわね」 クラインは羅李朋学園出身の優秀な社員を数名連れて来ていて、開発がスムーズに進むようもう調整と根回しを行っている。 その彼女達の眼の前で、ビリーはフライング・ゴートの試乗をしている。 ロープで石床に繋がれた飛行機械の上で、ビリーは荒馬の手綱を取るのに散散苦労していた。横にも縦にも勢い余って一回転半を何度繰り返している事か。 「うひょひょひょひょ〜! こいつはえらいご機嫌やでぇ〜!」 「兄ぃ! 次はわしも乗せたってぇなぁ!」 「技術の売り込みをしてきたという事は、ゴルドシュタイン側も新技術での更なる発展を期待してるという事ですわね。これはWIN−WINですわ」 ピン!と張られっぱなしのロープ。冷静に見ているクラインの前でビリーは何度死にかけている事か。もっとも神様見習いだからこんな事では物理的にも幸運的にも死なないだろうが。 エタニティからの羅李朋学園技術者はゼンマイ仕掛けのフライング・ゴートが怪力を奮って飛ぶ様子を見て、何たるオーバーテクノロジーかと感嘆している。 「法律の整備については時間がかかりそうですから、この辺りの叩き台を会社の法務部に作ってもらって王国に提出出来るよう準備しましょうか」 クラインは既に、量産前に自分用のフライング・ゴート購入をゴムと相談していた。 購入の暁には広告となるよう機体にゴルドシュタインの文字を入れる事を申し出る。 また事件解決後は会社の経費で会社用に複数台を購入希望していると伝える 「開発の参考となるよう、私のラジコンヘリを譲りますわ」 「……一台、五〇〇万イズムだな」 「高いですわね」 そう言いながらもクラインの当面の予算にはまだ余裕があった。 それを聞きながらドッタンバッタンしているビリーは色めき立った。 「クラインさん、こいつ一台買うの!? そしたらボクを一番に乗せてくれへん!?」 「自分のお金で買いなさい!」 クラインは会社に声をかけていただいた王の心遣いに対して礼状を送るべく文面を考えた。 ★★★ ドワーフ領ゴルドシュタインは、オトギイズム王国北方の山岳地帯にある。 ゴムがゴルドシュタインに帰る旅は、彼がフライング・ゴートに乗って、先に帰還する事になった。 依頼を受けた冒険者達は馬車隊に乗って後から追いかける。 「何や何や。ボクにフライング・ゴート使わせてくれへんのか」 「こいつは一人乗りだ。俺だけ先に帰る。お前達の事は国に伝えとくから、後からゆっくり来い」 そんな事を言いながら、髪を荒荒しくオールバックに撫でつけた浅黒い肌のドワーフは、蜂の羽音の何十倍もの騒がしさで飛行機械を駆る。 出来る限り、スピード優先。 全速力のフライング・ゴートはあっという間に北方へ飛び去った。 「とりあえず、今晩は食べられる方のゼンマイとか山菜の炊き込みごはんですねぇ」 馬車の一つを占拠してかまどを持ち込んだリュリュミア(PC0015)は、ぽやぽや〜とゴムが飛び去った方角を見やりながら鍋をぐつぐつ炊飯する。 街道を行く馬車隊。 夜を徹して街道を進み、次の宿場町に着くのは朝頃と、タイムスケジュールが少少狂っている冒険者達。 こうなったのもゴムのマイペースにつきあわされたせいだった。 「スピード狂ですね」 アンナ・ラクシミリア(PC0046)は鍋が持ち込まれた馬車を見ながら、ドワーフ発明家の評を一言で下す。 その彼女の横で、馬車隊に数人の技術者を乗せたクラインは、自分のサングラスを調整している。 「直接見れないとは危険な相手ですわね。対策を幾つか考えて一通り試してみるしかないかしら」 クラインはサングラスの他に、ハートノエース王子とシンデレラ王女の結婚式の引き出物である『ラブラブトレーナー』と、ドンデラ公の形見である『厚紙製の護符』を外から見えるように身に着けていた。護符はともかくトレーナーは恥ずかしいんじゃないかと思われるが、少しでも精神抵抗力の足しになれば、という事だ。 「待っている怪物は前代未聞の危険な相手らしいですわね」 マニフィカは剣?な雰囲気に息を呑んでいる。 くねくねと呼ばれる怪物だ。 「姿を見れない以上は音か匂いで手がかりを掴みたいですわね。怪物から変な匂いとか奇妙な音がするとかはありましたかしら」ラブラブトレーナーを着たクラインの真剣な面持ち。「ひたすら地面を見て、相手の影を確認出来たら影を頼りに攻撃を仕掛けるとかどうかしら」 「直視した者を石にするというメデューサは、盾に反射させて見る事で退治されたといいます」アンナは『戦闘用モップ』の調子を見る。「こちらの怪物は望遠鏡越しで見ても発狂するそうですね。認識してはいけないという事でしょうか。厄介ですね」 「恐らくヴィジョン、視覚という手段を用いた怪物からの精神攻撃ダワ」と窮屈そうな馬車の中でジュディ。「姿を明確に視認する事が発狂のトリガーなのヨ。発想を逆転すれば、ウィ・シュド・ビー・エイブル・トゥ・ミニマイズ・ザ・ダメージ・ウィ・ドント・クリアリィ・シー・ザ・モンスター、はっきり怪物を視認しなければ被害を抑えられるハズ。形状が不明でも位置が解るなら攻撃可能ヨ」 「戦うとなると色付きのゴーグルで視野を制限した状態で、とかになるでしょうか」とアンナ。クラインのサングラス策を肯定した形になる。「相手に他の攻撃手段があるか解らないので、近距離での戦闘は避けた方がいいですね。遠距離での広範囲攻撃が間違いないですが、後でゼンマイを収獲するのには下策ですね。トリモチで動きを封じて、ネット等でぐるぐる巻きにして捕獲するというのはどうでしょうか」 「もしも科学技術が発展していればレーダー探知機や赤外線暗視装置が活躍するハズ」ジュディは熟考して答を出した。「基本的に中世レベルのオトギイズム王国では難しいデショウケド、意図的に焦点が合わないよう細工を施した狙撃用スコープを注文シ、視認すべき対象にモザイクを被せ、形状を誤魔化すノハどうデショウ」 「なるほど」とクライン。技術者へ眼線を送り「羅李朋学園や我が社の技術で、レーダーやノクトヴィジョンを準備出来ないかしら」 「学園や本社に戻れば応用出来る機材があるかもしれませんが、今ここにいる私達には無理です」 技術者の一人が即答した。 彼らは山菜の炊き込みご飯ではふはふ言っている。 「モザイク・スコープは」 「無理でしょう。それに回りくどいんじゃないですか」 「ドワーフェン・クラフトマンシップ、ドワーフの職人技であれバ、一点物のハンドメイドとして用意出来るんじゃないカシラ」 「幾ら彼らでも電子機器は難しいんじゃないですか」 クラインとジュディはうーん、と唸った。 マニフィカはサングラスの方を見やる。 「今のところ、最善策はサングラスの様ですね」 「サングラスを必要数、用意出来るかしら」 「恐らくドワーフに頼めるでしょう。でもそれが通用するかはまだよく解りませんから、プランBを準備しておくに越した事はありませんね」 「捕まえた上で意思疎通が出来るかどうか確認したいですね。何者なのか、何の目的があっての行動なのか」 そのアンナの言葉に、ビリーは「うえー。敢えて意思疎通したくない怪物に思えるんやけどな」と浮かない顔をする。 クラインはかけたサングラスのフレームを指で弾いた。 「こういう相手には塩が効くという都市伝説を聞いた事がありますわね。塩の塊を幾つか用意しておきますわ」 「そーねぇ。お塩をもう少し利かせた方が味がよくなるかしらねぇ」 リュリュミアは木の杓子を持ちながら、自分の椀にほかほかご飯をよそった。 ジュディは山盛りのライスをチョップスティックスでかっくらう。「仮に問題点があレバ怪物の出現が原因不明のタメ、リカレンス・プレヴェンション、再発防止とはならないコトネ」彼女は唇の横に米粒をつけている。「いわゆる『これが最後のゴ▽ラとは思えない』というコト」 ★★★ 馬車隊はゴルドシュタインに着いた。 山岳地帯の狭い高道を行きながら、皆は何故あれが『フライング・ゴート』と呼ばれるかの理由を納得した。 人間が馬に乗る様に、ドワーフ達は大きな山羊に乗って険しい山地を行き来していた。、 山羊(ゴート)はドワーフ達にとって最も身近な騎乗動物だった。騎乗物にその名がつくのは当然なのだ。 甲冑を着込んだドワーフの衛士達は、岩肌に山羊を跳ねさせながら、国境の大門へと馬車隊を導いた。 山の中腹にある見上げる様な巨大な門は、表面にドワーフの機能美的な美術細工を見る事が出来る。それは機械仕掛けで太く長い鎖を巻き上げ、馬車隊を通すべく雷鳴の如き軋みを挙げて展開した。 ★★★ 山中を縦横無尽に坑道が掘り抜かれている。 その広い坑道は直線的な鉱道であり、都市だった。 平均身長一五〇cmほどのドワーフの生活に合わせた都市ゴルドシュタインは他種族にとっては手狭だ。 冒険者達は外国人用の天井の高いトンネルを通るが、それでも二mを越える身長のジュディにとっては窮屈に感じられる。 外国人向けの大きな居酒屋で、冒険者達はゴムと再会した。 道中でまとめた対くねくね用の作戦案を伝え、必要装備の調達をお願いする。 「サングラスは準備しよう。お前達に合わせたのを作る為に一日待ってくれ。……モザイク・スコープというのはよく解らないな」 「そらとぶ乗り物の動力に植物を使ってるってほんとうですかぁ」 ビールの大ジョッキ片手に円卓を囲んでいるゴム達ドワーフ五人に、リュリュミアは物怖じせずに質問した。 彼女はノンアルコールのビールを一口飲む。 「食べるにはちょっと硬そうだけどおもしろそうですねぇ。どうゆうふうに育ててるか見学させてほしいですぅ。いまは危ないから駄目ですかぁ」 「育ててるのが見たいか……」 ゴムが大ジョッキを一口で飲み干す。 空っぽになったジョッキを口髭の生えた給仕のドワーフ娘が引き取り、代わりのビールを手渡す。 「口外無用を約束いたします」とマニフィカ。 「……本来なら門外不出にしたい秘密だが、お前達ならいいだろう。……スチール・ゼンマイを生育する為には動物の血が大量に必要なんだ」 「血ですか!? 吸血植物!?」 アンナは驚きの声を挙げる。 その驚きを想定内の反応としている様にゴムの表情は平然としていた。 「ああ。吸血植物だ。畑に生えているその根に一日一回、家畜が死ぬ量の血液をこぼさなければならないんだ」 「赤い鮮血……!」 その様子を想像したアンナの顔は白くなった。 ゴムがまたジョッキを一息で飲み干す。 「血を吸うのがスチール・ゼンマイが生育条件だ。元気なスチール・ゼンマイを育てるのに必要不可欠何だ」 「何や。効率悪そーやのう」 自分向けに小槌からノンアルコールの梅酒ソーダを出していたビリーは、ぞっとしない顔をする。 クラインは自分の摘まんでいる濃緑色の枝豆から血の味がした気がして、思わず手を引っ込める。 「鮮血の生贄を捧げる事で育つ植物ですか」マニフィカは真剣な面持ちでドワーフ達を見つめた。「スチール・ゼンマイを栽培可能とする限定的条件と怪物の関係性を考察したいですね。全ての事象は原因と結果が成立します。スチール・ゼンマイ畑と怪物には何らかの因果関係があるかもしれません」 「全ての事象には原因と結果が成立する、ね」 ドワーフの一人が溜息をついた。 ジュディは冷たいジョッキを飲み干した後で、疑問をそのドワーフにぶつけた。 「ホワイ? 何故そんな溜息をつくのデスカ」 「俺達はスチール・ゼンマイと怪物について、あらゆる因果関係を考えたが未だに何も解らないからだ」そのドワーフは赤ら顔で苦虫を?み潰した。「さんざん考えた。……何も解らん」 「あのぉ」とリュリュミア。「怪物を見ておかしくなっちゃった人たちってもとに戻らないんですかぁ」 「治らん」とまた別のドワーフ。「おかしくなったままだ。ずーっと」 「そうですかぁ。患者さんたちは睡眠はとれてますかぁ。なによりも睡眠をとるのが治療の大事ですよぉ。夜はぐっすり眠れるようにリュリュミアの花粉をわけてあげますねぇ」 「優しいな」 その言葉を呟いたドワーフがソーセージを?み切り、ビールを飲み干した。 ★★★ 高級宿屋で一泊。 一日待って、必要分のサングラスがドワーフ達から届いた。他にも作戦に必要な物品があれこれ揃えられている。電子的な物は無理だったが。 スチール・ゼンマイの畑は、山肌に拓かれた広い段段畑になっているという。 ここに岩肌を走る運河があり、太陽をふんだんに浴びる形でスチール・ゼンマイが育てられている。 そこへ至る坑道を長い間歩き、冒険者達は畑へと至る石造りの扉の前までやってきた。 ここを開けば、くねくねは現れるだろう。 直視すれば気が狂う。 奇妙すぎる怪物を前に、冒険者達は気合を入れ直した。 ★★★ |