ゲームマスター:田中ざくれろ
【シナリオ参加募集案内】(第1回/全2回)
★★★ 腹の出た『サンチョ・パンサ』は今日は一人珍しく酒場で飲んでいた。(参考シナリオ:『ドンデラの男』) たっぷりのキャベツとソーセージを煮込んだスープと一緒に、エールを飲む夕食。 久しぶりに休みの取れた今日は、昼はさんざん遊んで、これをシメとしてシューペイン領主館へ戻る。 町の酒場女達とは名残り惜しいが、明日からまたあの老人の相手をする生活が始まるのだ。 どうせ、あの自分を騎士だと信じ込んでいる前シューペイン領主『ドンデラ・オンド』公は旅に出かけるとか駄駄をこねるだろう。 何かと理由をつけて家族はあの老人を思いとどまらせていたが、もう限界だ。それをサンチョは今までの経験から解っていた。 もうすぐドンデラ公の従者として、馬にも乗れない騎士の足音をココナッツの殻で鳴らす荷物持ちの旅が始まるのだ。 料理を食べ終えたサンチョはエールをもう一杯注文しようかと思ったが、明日の事を考え、勘定を払おうと財布である革袋を懐から出した。 「そこの人」 若い男の声に呼び止められた。名を呼ばれたわけではないが自分だと解る。 振り向くと酒場の奥の壁際にあるテーブルに灰色のローブを着た男が座っている。 卓上にあるのはワインの壺とグラス。 そして散らばった、三つの大きな動物の指の骨らしき物。 占い師だ。 サンチョは解った。 「何だい。おいらを勝手に占っても金なんか払わないでげすよ」 財布を固く握りしめながら近づく。 「いや、すまない。手慰みに占っていたら、骨が全部、お前を指さしたのでな」 占い師のテーブルの上に散らばった三つの指の骨は全て、今までサンチョが座っていたテーブルを指さす形になっていた。 男は三つの骨を全て手の内に入れ、再度テーブルの上に転がした。 今度はサンチョを指す形にならなかったが、その転がった配置を見て、占い師は難しい顔をした。 「近近、お前の近辺で決定的な不幸が起きるな」 サンチョはちょっとだけゾッとした。 占い師は長い袖の内から一組のカードを取り出した。その枚数を見るとタロットカードから大アルカナだけを抜き出したものらしい。 そのアルカナがテーブルの上で並べられていく。 「過去の位置……『法王』」 伏せられていたカードが一枚めくられる。 「現在の位置……『愚者』」 サンチョはごくりと唾を飲んだ。自然と主人のドンデラ公を連想したからだ。 「未来の位置……」 占い師は伏せられていた最後のカードを表向きに返した。 「『死』」 それは長い鎌を担いだ骸骨の絵が描かれていた。 「いつでげす!?」サンチョは革袋の中身であるコインを卓上に全て広げながら占い師に詰め寄った。「旦那様が死ぬのはいつでげす!?」 必死な中年の叫びに酒場の注目が集まる。 占い師は敷かれたタロットカードの上で三つの指の骨を転がした。 乾いた音と共に転がったそれらの配置を青い瞳が見る。 「三日後。……運命のままなら老衰で」 ★★★ 領主館に飛ぶ様に帰ったサンチョによって、その日の夜の内に『ゴメス・オンド』現領主と『ペネローペ』領主夫人、そして彼らの娘である『ミキトーカ』によって、その占い師の言葉が届けられる事になった。 「あと三日待てば、義父は神聖宗教の戒律を全う出来るのね」ペネローペの言葉は冷たくもあり、安堵もあった。 「そういえば父は最近、妙に眠たくて困ると言っていたが」あくまでも「放浪の騎士を泊めている」という体裁をとらされているゴメス領主が呟く様に思い返した。 「…………」ミキトーカは何も言わなかったが、安堵もあり、寂しそうでもあった。 ★★★ 「サンチョ……そこにいるか、サンチョ」 「ええ。何でごぜえますか、旦那様」 次の日の朝。 ドンデラ公の部屋で主人が起きるのを椅子に座って待っていたサンチョは、ベッドの上で眼を開けた老人に答えた。 勿論、公があと三日の命だなどと伝えてはいない。 「サンチョ。ここ数日だるかったが、今朝は久方ぶりにシャキッと眼が醒めた。ちょうどいい。今日はこのまま、また遍歴の旅に出るぞ」 「え! ちょっと待ってくれでげす、旦那様」 「いい日旅立ちじゃ、サンチョ」 言うが早いか、ドンデラ公は寝間着を着替え、厚紙の鎧を身に着け始める。高齢を思わせぬテキパキさだ。 止めようとするが、その理由をまさか明後日には寿命を迎えるからなどと言うわけにはいかない。 それからすぐ家族との朝食もとらずにドンデラ公は館を出立した。 勢いのままにサンチョもついていくしか出来ない。 かくして従者の鳴らすココナッツの蹄音も高らかに、老騎士ドンデラ・オンドは家族に別れも告げずに旅に出たのだった。 ★★★ 崖の縁に沿って細く荒れた道が続き、ここは荷馬車がすれ違えばそれで道は塞がれてしまう。 深い谷をまたぐのは一本の長い吊り橋。 この橋を通らなければ谷が終わるまでを迂回して、荒野を二日も余計に旅しなければならない。 まことに吊り橋はそれを渡った所にあるガーズの村の生命線といってよかった。 だが、最近、異様な障害が棲みついてしまった。 「また来たぞ!」 吊り橋の途中で立ち往生した荷を積んだ馬の周りで、四人の男達が身構えた。 橋はまるで嵐の船の様に大きく揺れ動く。 谷底から急上昇してきたのは、腹の白い、空色の飛竜だった。 ワイバーン。 正しくは竜ではないというが、その腕がコウモリの様な皮張りの翼となり、長い尾を曳いてまるで遠目には十字架の如く見える鱗肌の巨獣。 それは上昇時の気流によって吊り橋を大きく波打たせ、太陽を背にする様に上空で一時止まった。 「来るぞ! 撃て!」 四人の男達は一斉につがえた弓矢を放った。 しかし、上空で狙いを定めた流線型のワイバーンには一本しか刺さらなかった。それも深い傷ではない。 一腕の翼長が三mもあるワイバーンは、まるでヒット&アウェイをする如く吊り橋をかすめて高速で谷底へと飛び込んだ。 その一瞬の交差で十メートルはあると思われる長い尾の先にある鉤針型の棘で馬を引っかける。 馬は鉤爪に引っかけられる形で吊り橋からこぼれ落ち、棘の先端を肉に食い込ませて悲鳴を挙げながら、再び上昇に移ったワイバーンの尾の先で哀れに躍った。馬に乗せられていた荷物が谷底へと落ちていく。 またもやワイバーンは太陽を背にして一時停止し、そこでしならせた尾の先にある馬に食いついた。肉食の牙が並んだ顎で首を一噛みし、暴れる馬の息の根を止める。 そして馬をくわえたまま、急降下。 四人はまたも矢をつがえるが、今度は一本も当たらなかった。 高速で飛び込んだワイバーンはまたも橋を踊らせながら、谷底深くへと戻っていった。 荷と馬を失った四人は頑丈だけが取り柄の吊り橋につかまり、谷底の霧に消えたワイバーンに恨み言を叫び続けた。 「畜生! 呪われやがれ!」 「また馬を失い、荷を届けるのも失敗したか……」 「谷底の山羊でも食ってりゃいいのに……牛や馬が好物ときやがる……! 奴が人間の味を好きじゃないのが唯一の幸運か……」 「でも、それを知ってるのも奴が人を食った事があるからだぞ」 こうして何度目かの荷をガーズの村へ届ける試みは失敗した。 『冒険者ギルド』へ「ガーズ村のワイバーン退治」の依頼が出るのは当然の流れと言えた。 不安定な吊り橋の上で、高速のヒット&アウェイを待ち受ける戦いに一人頭四十万イズムの賞金がかけられるのは値相応の難しさが予想出来るからだ。 ★★★ 「吊り橋を襲うドラゴンだと!? それを聞いては放ってはおけん!」 町で市井へとこぼれ落ちたワイバーンの噂を聞いたドンデラ公は義憤に憤った。 「何、色めきたってるんでげすか! それよりも館に戻りやしょう! だって明後日には……!」 思わず真相を口走りそうになったサンチョは慌てて口をふさぐ。 年に似合わない興奮をしたドンデラ公はガーズ―村傍の谷のある方角へと走り始め、サンチョはココナッツ殻の蹄を高らかに鳴らすしか出来なかった。 谷への到着は明日になるだろう。 ここに三日後に死ぬ騎士の、最後の冒険が始まったのだ。 ★★★ |
【アクション案内】
z1.ワイバーン退治の依頼を受ける。 z2.嫌な予感がしてドンデラ公に会いに行く。 z3.その他。 |
【マスターより】
★★★ ドンデラ公の過去シナリオ『ドンデラの男』の続編となります。 マスターから明言しておきます。 ドンデラ公は三日後には必ず死にます。もしかしたらそれよりも早く死ぬかもしれません。 皆様にはドンデラ公の最期につきあってもらう事になります。 では、皆様によき冒険があります様に。 ★★★ |