ゲームマスター:田中ざくれろ
【シナリオ参加募集案内】(第1回/全3回)
★★★ 『オトギイズム王国』の最新の噂にこんなものがある。 ある冒険者達が既に攻略されたダンジョンの地図を見つけて、まだ見つけられていない部屋があるのではないかと考え、パーティを組んでそこに潜ってみた。 邪悪な魔法使い(つまりこの世界で言えばデザイナー)の根城だったそのダンジョンは隠し扉の奥に部屋が見つかり、そこにあった大きな宝箱を開けてみた。 しかし、冒険者達は宝箱に仕掛けてあった罠の解除に失敗し、宝箱は爆発、中身がボロボロになって周囲に飛び散った。 その飛び散った大量の布地はどれも女性用下着だった。色色な地方や時代の物があったが、ボロボロになったそれに価値が、いやボロボロにならずともそれに価値があるとは女性を除いて一部のマニアにしか考えられず、結局、この宝箱を開けた冒険者達は骨折り損のくたびれ儲けとなったのだ。 この爆発の時、宝箱の中から金色に光るヒラヒラした物が一枚だけ、爆風に逆らって、開けた隠し扉を抜けて部屋から出ていったと主張する冒険者がいたが、またダンジョンを再探索してもそんな物は見つからなかったので、幻か見間違えだったのだろうという結論になった。 とにかく冒険者達は自分達が女性の下着を見つけにダンジョンを潜ったという話など恥ずかしくて誰にも言えず、彼らの記憶の底にのみしまわれるはずだった。しかし、ある酒の席でうっかり口の端からこぼした者がいたから真贋解らぬ噂話として皆の間で広まったという。 他愛もない女性用下着の話である。 ★★★ この『ビッグサム』の町は、東西の要衝。大きな丘を掘削して出来た段差を利用した階段状の町。まるでジグラットの様だ。 頂上に領主館があり、上の段へ行くほど貧める者が住んでいる様になっていた。例外なのは丘のふもとの正門から入って、直通で領主館へと登っていく表通り沿道のきらびやかさ、にぎわしさだ。 交通の要所であるこの町にも深夜の静けさはやってくる。 今夜の青い月は群雲に隠れがちで、街道に沿って建てられた灯台のかがり火も幾らか熱の色が薄い。 そして犯罪は、その灯台の明かりから外れた裏通りで起こっていた。 街のあちこちで階層をつないでいる階段を若い女性が駆け下りている。一人だ。不幸にもこの付近の衛兵の巡回時間から外れていた、 逃げる女性を追いかけているのは、一目でクズと解る五人の男達だった。不案内な夜の街に出てくる旅行者などを襲う強盗の類であり、手に手にナイフを持っている。 「へっへっへ〜! お嬢ちゃ〜ん!」 最後尾を走るクズのリーダーと思しき革ジャン男が下品な声で追い立てる。 下層の貧民街に下りた女は悲鳴を挙げられない息苦しさで街道を逃げた。 女と強盗以外の誰もいない貧民街で女は今、転んだ。膝がすりむけ、血のにじむ傷を作る。 追いついたクズ男達が余裕をもって倒れた女を取り囲む、そんな下衆な時間の始まりを夜気が悟った時。 塗りこめられたぬばたまの闇の中を金色のコウモリが一匹、無音で飛んだ。 それは一時、女性とクズ達の眼を奪ったが、すぐに街角の一角に消え、あまりの儚さに皆、すぐに元の光景へとたち戻った。つまり犯罪は依然、変わりなく行われようとしたのだ。 だが、次の瞬間、その通りを響き渡ったたからかな笑い声が制止をかけた。 「ぅわはははははははははははははははははははははははは……!」 痛快ささえ感じるその哄笑の主を思わず探したクズ達は、貧民街に連なる屋根の上を照らす薄い月光を浴びて輝く、一人の怪人を目撃した。 その怪人はまさに全身、黄金色だった。。 すっくと屋根に立ったその怪人は黒いマントを翻しながら、ひと飛びで屋根から舞い下り、クズ達の前に立ちはだかった。 男は異様だった。 全身が輝く黄金色の男は頭が髑髏であり、筋肉質な身はやはり黄金色のビキニパンツと黒マントを身に着けている以外は全裸だった。右手には銀色に光る長い棍棒を持っている。 いや、その棍棒は、羅李朋学園の生徒達がこの世界に持ち込んだ最新のスポーツである『野球』の用具、『金属バット』だとこの場の者達は知識を持っていた。 「てめえ! 何者だ!」 あまりにも変態めいたヒーローの登場にクズのリーダーは少し怯みながら叫んだ。 「ぅわはははははははははははははははははははははははは……!」その怪ヒーローは再びたからかに笑って、クズ達を更に怯ませた。「うるさい。これでもくらえ」 金属バットが打者のフォームで繰り出され、それをくらったクズリーダーは快音と共に宙を飛び、傍らの家の二階にぶつかり、頭から道路に落ちた。 「てめえ! 噂のあいつだな! 」 クズの中で二番目に強いらしいモヒカンザコがナイフを腰だめに怪人に突撃したが、再びの快音と共にリーダーと同じ運命を辿った。 こうなるとクズは弱いものだ。 「てめえ! 憶えていやがれ!」 残りの男達は倒れているリーダー達に肩を貸し、意識朦朧としている彼らと一緒に走りながら夜の貧民街を逃げ去った。 膝をすりむいた女が一人、地面に倒れながらぼーっとしていた。それはクズ達に覆われた恐怖のせいであったが、何よりも自分を助けに現れたこの怪人が変態すぎて声をかける事さえためらわれたからだった。 「……あの……ありがと……」 やっと口を開いた女がそれしか言えなかったのは、黄金の変態の笑い声があまりにも大きすぎて、貧民街の窓や戸が開き、何よりも聞きつけた衛士が警笛を鳴らしながらこちらへ向かってくるからだった。 「ぅわはははははははははははははははははははははははは……!」黄金の変態は笑いながらジャンプする。「真面目に生きろ」 黒マントを翻したその跳躍力は、軽く貧民街の屋根の上へと黄金の身体を運んだ。 更に跳躍。階層の町の上へ上へと跳んでいく。 そして黒マントは保護色で闇の中へと彼が消え去るのを助けたのだ。 こうして正義の黄金怪人は現場より逃げ去った。 女は衛士達に助けられた。十人ほど集まった衛士の残りは逃げた者を追いかけたが、クズ達をすぐ捕えたのはともかく、黄金の怪人を見つける事は出来なかった。 この事件の検証と女性の保護の為に十数人の衛士が集まった夜の現場に、遅れてハンティングコートを着た一人の男が到着した。 「しまった! また後手に回ったか! このマックス様とした事が!」 立派な体格の若者が駆けつけた現場で虫眼鏡を片手に、オーバーなポーズで自分の不運を表現した。 衛士達は彼を知っていた。最近、この黄金怪人の事を調べている冒険者、自称探偵『マックス・ウェイター』だ。 「そろそろ彼を捕まえなければ、依頼の前金が尽きてしまう! 早く彼を捕まえて賞金の残りを……!」 手で顔を覆って、夜空を仰いで嘆くマックス。長髪の役者めいて、行動がいちいち大げさだ。 最近『冒険者ギルド』に「この黄金の黒マント男を捕まえてください」という依頼が掲示されている。 捕まえて、といっても退治してくれという意味ではない。 夜のビッグサムに出没して、様様な悪事から女性を守っている神出鬼没の男へと「直接、お礼を言いたい」と彼に助けられた女性達の有志十数人が共同で提出した依頼なのだ。報酬三万イズム。 この金属バット男の出没がまるで都市伝説の様に語られ出したのはここ一ヶ月の事だ。 表通りのきらびやかさに安心した旅人の女性達がうっかり裏通りに迷い込むという事件が多発してたビッグサムだが、金属バット男の突然の登場により、犯罪は必ず未然に終わるようになった。 この黄金怪人が何処の誰かは解らない。何故に正義の味方をしているのかも。 マックスは衛士達に混じって、現場を虫眼鏡でつぶさに調べ始めた。しかし、それは今夜も徒労に終わるだろう。 「金属バット男、今夜も被害者女性を助ける……と。明日も新聞が売れるザンスよ」 いつの間にか現場に現れた小柄な女性が上等な万年筆で小さなメモ帳に書きつけている。 ドワーフ製の眼鏡をかけた彼女は『ストロベリー・アンウェイン』。この街で日報に記事を売っている新聞記者で、子供に見えるが顔つきをよく観察すれば成人と解る。出っ歯だ。よい仕立ての服を着ている。 この夜の黄金怪人出没はこの事件一件だった。 その日のビッグサムで他に事件らしい事件は起こっていない。 黄金怪人にはいつのまにか『金属バット一号』という通称がつけられていた。由来は勿論、その得物からだ。 ビッグサムは治安がよく守られているとも守られていないとも言える、微妙な状態にある。 そして、今夜も夜の街に高笑いが響き渡るのだった。 ★★★ 一人が『金属バット一号』と名付けられるだったら『金属バット二号』がいてもおかしくないという推測も成り立つ。 そして、それは確かにいた。 一号と同じ頃に二号は現れた。 ビッグサムの町に新たな高笑いが響き渡るが、それは聞き比べていた者がいたとしたら、黄金髑髏の怪人よりは太い声だった。 それはジグラットの街で昼夜問わず目撃される黒い姿だった。 黒マントをなびかせる、金属バットを持った黒い髑髏の顔の立派な体格。全裸までは同じだったが、その黒い怪人はやる事が金色の怪人とまるで真逆だった。 窓の外に吊るされ、乾かされている洗濯物を盗んで回っているのだ。いわば、こちらも異形の変態だった。しかも正義でなく悪事を行う。 ある時は街の通りの上を張り渡されている幾重ものの洗濯紐に並んだ何十もの洗濯物をまとめてやられた。 「ぅわはははははははははははははははははははははははは……!」 黒い変態は黄金の変態と同じ様に笑いながらジャンプする。街の通りを壁から壁へとジグザグにキックをして、器用に空中を移動する。 この理不尽な黒い変態はビキニパンツまでも黒だったが、黒マントなのは同じだ。 ある時は若い女性を路地の袋小路に追い込んで、金属バットを突きつけ「下着を見せろ」と要求を行うなどと非道を行った。 そしてその恐怖に負けた女性が羞恥の姿勢でスカートをまくって見せると「むう、違う」とだけ言い、それ以上は何もせずに高笑いで去っていくのだった。この様な事は今までに五件もあった。 金属バット二号も神出鬼没だった。 勿論、衛士達が追ったが何処の誰かは勿論、解らない。いつのまにか現れ、いつの間にか何処へともなく去っていく。 「ぅわはははははははははははははははははははははははは……!」 笑い声がドップラー効果を起こしながら消えていく。 やってる事は小悪党だが、ビッグサム全体の評判を落とす大迷惑な存在だった。 とうとうビッグサムの冒険者ギルドの大掲示板に『金属バット二号捕獲依頼。生死問わず二十万イズム』の依頼が掲示された。生死問わずは大げさだが、街の評判を急落させている存在だからと納得も出来る。 黄金と暗闇。 正義と性悪。 一号と二号。 「どうやら二人は恋人同士らしいぞ」 青騎士が面頬を開けずに推測を語る。 「宇宙創成の時に一つだった存在が、善と悪の対極に分かれたという話だよ」 セーラー服の熟女が集まった女達に持論を聞かせる。 「また絶対、羅李朋学園の元学生達が関わっているんだよ、きっと」 子供の様な種族の若者が強い酒を片手に、テーブルの仲間に得意げな顔をする。 二人の黒マントの変態捕獲依頼を同時に抱えた冒険者ギルドで、今日も彼らの話題が冒険者達の口端にのぼる。 一体、ビッグサムと二人の怪人はどうなってしまうのか。 ★★★ |
【アクション案内】
z1.金属バット一号を捕まえる依頼を受ける/正体を探る。 z2.金属バット二号を捕まえる依頼を受ける/正体を探る。 z3.女性用下着が隠されていたダンジョンの噂を調べる。 z4.その他。 |
【マスターより】
★★★ 田中ざくれろです。 さて、高らかな笑い声とともに始まるこのシナリオ。皆様は金属バット一号OR二号、どちらを追うでしょうか? 女性の味方と女性の敵、どちらに絡むかは皆様次第です。 まあ、元ネタはあれです。あれですね。 では次回によき冒険があります様に。 ★★★ |