ゲームマスター:田中ざくれろ
【シナリオ参加募集案内】(第1回/全2回)
★★★ 昔、昔の昨日の晩。 『オトギイズム王国』東方の、東洋的水彩画的風景にある『アシガラ』地方にある山の中に年老いた夫婦が住んでいた。 質素な和服の装いがよく似合う老夫婦だが、その性格には問題があった。 正直者であるおじいさんはいい。素直すぎるほどに正直で善人だが、それはいい。 問題は嫉妬深くて欲も深いお婆さんの方である。 お婆さんは専業主婦なのだが、事あるごとにもうけ話に手を出そうとする。 何故、こんな二人が夫婦として今まで破たんせずにやってこれたのか、お爺さんがあらゆる妬みを生まないくらいに善人すぎるとか、お婆さんは若い頃は美人だったのをお爺さんが惚れて猛アタックの末にようやく夫婦になれたとか色色な背景があるが、ここではそれを詳しくは語らない。 これより数日さかのぼるある日、工芸品作りの為に竹を刈っていたお爺さんは猛禽に襲われて手負いの一羽の雀を懐に入れた。雀の傷は浅かったが飛べず、その数日をお爺さんにかくまわれ、ご飯粒を餌として与えられて丁寧に飼われる事になった。その日日の中で傷は治り、飛べるようになった。 「おお、嬉しそうにチュンチュン鳴くか。よし、お前の名前はおチュンにしよう」 お爺さんにそう名前を与えられた雀のおチュンは、いっそう懐いて嬉しそうにするのだった。 ところがこの雀、お爺さんが竹やぶに出かけた時に、お婆さんが井戸端で障子の張替えをするのに使っていた糊を眼を盗んでこっそり全て舐めてしまった。糊の材料はご飯粒。おチュンは餌のつもりで食べてしまったのだ。 それに気づいたお婆さんは烈火の如く怒った。 「なんじゃ、この雀は! 飼ってやってる恩を忘れて、何という仕打ちじゃ!」 飼っているのはお爺さんなのだが、叫んだお婆さんは雀をむんずと捕まえると、持っていたハサミであろう事か雀の小さな舌を「チョキン!」と切ってしまった。 舌を切られた雀は鳴く事も出来ず、お婆さんの指を振りほどくと竹やぶの方へと飛び去り逃げてしまった。 お婆さんはそれで気がすんだが、帰ってきたお爺さんは事の顛末を聞き、たいそう嘆いた。 そして「おチュンに会って、謝る」とお婆さんが止めるのも聞かず、竹やぶへと着の身着のままで竹やぶへ出かけてしまったのだ。 竹やぶは広い。普段出入りしているお爺さんも知らない場所がたんとあるのだ。 「おーい、おチュン! 何処にいる!?」 お爺さんは迷うのを覚悟で竹やぶへ深く分け入った。 すると何時間経っただろう。 チュンチュンと数多の雀が鳴く声がお爺さんを導いた。 お爺さんが導かれたその先にあったのは竹やぶ深くの小さな集落、立派な一軒の宿だった。 そこで待っていたのは雀の羽根によく似た色合いの着物をそろえた何十人もの若い衆だった。 お爺さんはすぐに全てを理解するほど頭の回る人ではなかったが、それでも彼彼女らの正体に気がついた。 「お爺さん、おチュンを助けて下さってありがとうございます。わたしらはこの竹やぶに隠れ住む『ワー雀』の一族です。あなたを歓迎したいと思います」若衆の中で一番年かさ、といっても二十代後半ほどの貫禄溢れる美形の男がお爺さんに挨拶した。ワー雀、つまり人間でありながら雀にも変身出来る種族である。 「助けても何も、わしはおチュンを助けてあげられなかったのじゃぞ」 「最初に猛禽から助けて下さいました。そうでなければおチュンは生きていません。それに名をいただきました。おチュンはとても気にいっているのです」 その男の後ろから彼の着物の袖をつまんだ少女が顔を出した。お爺さんと顔を合わせるのも恥ずかしげな素朴な美少女は喋らない。それは舌がないからだとお爺さんは気づいた。 「おお……おチュンや」 お爺さんは再会に感涙した。 「我が一族は全員がお爺さんをもてなそうと待っておりました。さあさ、このお宿に入って下さい」 お爺さんは宿屋の中でワー雀達の豪勢な宴を歓待として受けた。 山菜料理。猪鹿の肉。趣向の凝らされた盃に美酒。宿に通されたお爺さんは上手い料理や酒をたんと味わったのだが、しばらくすると「帰りたい」と言い出した。 「わしばかりもてなされても、うちには婆さんが待っている。早く帰ってあげたいじゃ」 それを聞くとワー雀の統領らしき男は顔を曇らせた。 「ここまで歓待を尽くしてもあの意地悪なお婆さんの元に帰りたいという……。いえ、でもそれならお土産としてつづらをお受け取り下さい」 雀娘達が宴の間の奥にあったふすまを開ける。 するとそこには大きさの違う二つのつづらが置かれていた。 「持って帰れるのはどちらか一つ。大きいつづらか、小さいつづらか、お選び下さい」 「中身を教えてもくれぬのか。なら、その小さなつづらにしよう。大きくて重いのはわしの身一つでは背負って帰れぬ」 「小さい方はそれなりに重量がありますが、大きい方は中身が軽いですよ」 「それでも小さい方がいい。この身で竹やぶを抜けるには小さい方が」 「そうですか。それではこのつづらをどうぞ」 そうしてお爺さんは小さなつづらを背負って、大勢のワー雀に見送られて集落を後にした。 帰り道は竹やぶで迷う事もなく、ほどよい時間で自分の見知った道を見つけ、お爺さんは自分の家に着いたのだった。 お婆さんと一緒に土間でつづらの蓋を開けると、そこには立派な反物や金銀珊瑚、水晶の玉などが少量ながらも詰まっていた。 「いやいや、これはどうした事じゃ」 お婆さんが訊くので、お爺さんは竹やぶの中で迷って、ついには雀達の集落に辿り着き、宿で歓待を受けた事を素直に話した。大きなつづらと小さなつづら、二つに一つを選んだ事も。 「何故、小さなつづらを選んだのじゃ! 小さなつづらでこれなら大きなつづらはもっとお宝があっただろうに!」 「でも大きなつづらは軽いとも言っておったぞ」 「この世には軽くて高価なお宝などたんとある! どけ! わしが行って、大きなつづらと小さなつづらを両方とも持って帰ってきてやる!」 烈火の如き業欲にとりつかれたお婆さんは老人にしては健脚の速さで竹やぶへと走っていった。 それを見送るしか出来なかったお爺さん。お婆さんは雀のお宿まで辿り着けないのではないか。頭にはそんな思いが浮かんだ。 そして、それから何日経ってもお婆さんが家に帰ってくる事はなかった。 お爺さんはたいそう落ち込んだ。 だが、ある日、思い立った。 近所の人に頼んで、アシガラの一番近くの町にある『冒険者ギルド』にお婆さんを見つけ出してくれと、冒険依頼を出してもらうようにと頼んだ。報酬は小さなつづらに入っていたお宝全てだ。 「これは面白そうな話ね」 冒険者ギルドの受付ホールで一人の女性がその依頼書を見て呟いたのを、すぐ傍にいた冒険者達は憶えている。 ライトブラウンの肩までの髪。そして少し痩せ、眉がきりっとして気が強そうな美少女 頭に赤頭巾。手にはバスケット。服装は赤いレザーボンテージ風のハイレグ、Tバック。 『サンドラ・コーラル』という、今では名の売れた美少女冒険家だ。 何せ、Tバック。依頼を吟味していた冒険者達は彼女の登場にざわついた。 「おい。あの『見せたがりのサンドラ』だぜ」 「ああ。あの『頭にチューリップ事件』のサンドラか」 「別に本人は見せたがりのつもりはねえんじゃねえか。多少、頭のねじはぶっ飛んでる様だが」 「でもセクシーだよな。あのヒップ」 「セクシーといえば、最近、町に来ている『見世物小屋』集団のあの見世物見たか。あのすげえセクシー美女を縛り上げて吊るしたりする奴」 「ああ、あれだろ。若い美女をSM風に縛り上げて、金を払った客に鞭を振るわせたりする」 「三角木馬に乗せたりね。でも美女は鞭を振るわれれても悲鳴一つ挙げないっていうわ。本人も楽しんでるんじゃないの。そういう性癖で」 ギルドの話題が逸れて、別の方向に流れている中、最初からそれに気づいていないらしいサンドラは一息ついて、受付へと向かった。 そして依頼を受ける旨を受付嬢に伝えた。 ★★★ |
【アクション案内】
z1お婆さんを探しに竹やぶに行く z2.気になる『見世物小屋』集団を調べに行く。 z3.その他。 |
【マスターより】
★★★ 君はロボットが演じる『舌切り雀』の演劇を見た事があるか!? 私はある! というわけでこのシナリオの元ネタは解っていると思いますが「田中ざくれろのおとぎ話はまともに扱われるわけがない」という、物語学学会発表の論文が諸学者達による追実験で続続再現されている最中、やはりこのシナリオもトンデモない方面に行くのは自明の理となっております。 何を言いたいかというと、このシナリオもイロモノです。いつもの通りに。 夢と希望は抱いて下さい。それすらぶっ壊すかもしれませんが。 では、参加する皆様によき冒険があらん事を。 ★★★ |