『セントウ開始』

ゲームマスター:田中ざくれろ

【シナリオ参加募集案内】(第1回/全4回)

★★★
 青空の下。波立つ、白い湯気。ほのかな湯の花の香。
 湖一つが温泉だという風景を想像してほしい。
 イーユダナ湖。
 中央に緑濃き火山島があり、そこからの地熱で遠浅の湖一つが湯気を立てて沸いている。
 お湯の温度は大概の人が気持ちいいと体感出来るほど。極楽だ。勿論、一様でなく、そこかしこに湯温にむらはある。
 濡れた黒い砂浜もある水辺には宿屋や海の家ならぬ温泉の家、土産物屋や屋台が軒を連ね、大勢の人人がむらがっている。
 ある人は水着を着て、ある人は全裸である。赤裸の子供が犬とじゃれながら走る光景もある。温かそうな砂浜に埋まる老人もいる。湯面で船を漕ぐ者もいる。その大勢が観光客だ。地元の人間はそんな彼らを接待して暮らしている。
 ただ、残念ながらというべきか、この温泉湖は露天でありながら混浴ではない。
 ほぼ円形のこの湖は、火山島を中央に東側と西側にブイとロープと立ち込める湯気で二つに区切られている。
 西側が男湯。
 東側が女湯。
 このオトギイズム王国にいる種族は男と女ばかりではなく、両性や無性もいるのだが、そんな事はお構いなしにこの区切りは絶対だ。
 唯一、区切りの境界の中に入ってない例外は中央の火山島のみ。
 浜から一時間も泳げばその島に着く。
 だが、そこに上陸する酔狂はいない。
 何故ならば、噂では身の丈が七メートルもある『盲目の守護者(ブラインド・ガーディアン)』という精霊とも悪夢ともつかぬ白い肌の怪物がその火山島に居座るからだ。太古のデザイナーに召喚されたという盲いたこの怪物は契約した時のならいに従って、男は男湯、女は女湯と強制的に分け、上陸者をそれぞれの湯へ放り込んで戻すという。まあ、お風呂屋の番人というところだ。
 果たしてこの白い怪物が両性や無性の者と出会った時、どの様な反応を示すのか? それを興味深く思う者も多いのだが、そのシチュエーションは今まで起こる事はなかった。
 先に述べた様にこの温泉湖は昔から人を男湯と女湯に分ける事に固執しており、それに当てはまらない両性の者や無性の者には厳格に『入浴お断り』を貫いているからだ。
 それを差別だとも時代遅れだとも、捉える人は少なくない。その当人であれば、尚更だ。
 その性差解放の為に活動している反抗組織があるという話も聞く。
 かくして絶好のレクリエーションの場であるこの観光施設は、この世の極楽とも思える別天地でありながら、性差による差別をなくすべきと考えるレジスタンスが秘密裏に活動する、ちょっち、現実的でデンジャラスな一面も持っているのだった。

★★★
「サメが出たぞー!」
 だが最近、イーユダナ湖を特に騒がしているのはそれらではなかった。
 鐘が鳴らされ、先触れの声を聴いた湯治客が我先へと必死に湯から上がって、砂浜に避難する、
 人影がなくなった湯面を割って、滑らかに走る黒く三角の背びれの群。
 温泉湖にも生態系というものがある。それは主に湯出ダコ等、温水に適応した生物達によって構成されたものなのだが、その中で『湯ザメ』と呼ばれる海のサメによく似た体長二メートルほどの肉食魚が食物連鎖の王者の地位にいた。
 恐らくはこの湖から海へと流れ出る川を遡行してやってきたのだろうが、推定で五十匹はいると思われるその脅威はまだ死傷者こそないものの観光客を恐れさせ、地元に大打撃を与えていた。
「このままでは町の観光が大変な事に……」
 イーユダナの町の町民はひしひしと不安を感じていた。
 サメが現れてからずっと観光客が少なくなってきている。もう少しすれば、例年の半数を切ってしまうのではないだろうか。
 町はこれに対して、冒険者ギルドにサメ退治の依頼を出す事にした。
 ギルドの受付に湯ザメ一匹に対し、十万ギルドの報酬が出る、と契約を交わす。
 温泉中での湯ザメは強敵だ。
 何故か、特にイーユダナ湖の湯ザメは軍隊の様に規律正しく、連携の取れた行動をとる。
 例え、船に乗っていたとしても油断は出来ない。
 イーユダナの存亡は冒険者達の肩にかかっていると言っても、過言ではないのだ。

★★★
「このままでは、火山島に渡る事も出来ないのか……」
 沖合を三角の背びれの群が泳ぐのを見つめながら、赤とオレンジと白の衣をまとった枯れた老人がイーユダナ湖の浜辺で一人、呟いた。
「このままでは私の命は……」

★★★

【アクション案内】

z1.湯ザメと戦う。
z2.レジスタンスを調べる。
z3.イーユダナ湖を楽しむ。
z4.その他。

【マスターより】


「ここではきものをぬいでください」
温泉、いいですよね。
今回、PCには温泉に入りつつ(入らなくてもよいですが)冒険をしてもらいます。
男湯に入るか、女湯に入るか、選択して下さい。
水着は着ても着なくてもいいですよ。
今回「私には性別はないですよー」「私は両性ですよー」という方は残念ながらイーユダナ湖に入る事は出来ません。じゃあ、どうなるのかって? どうなるんでしょうね? レジスタンスと行動を共にするという手もありますね。
では、皆様によき冒険があります様に。