『違和感の色彩』

ゲームマスター:田中ざくれろ

【シナリオ参加募集案内】(第1回/全3回)

★★★
 それは知る人ぞ知るというレベルの噂だった。
 ある地方に夜空から一閃の流星が落ち、平地のかぼちゃ畑を小さく穿った。
 くぼんだ地面より堀り起こされたその隕石は握り拳ほどだったが、なんともいえない不思議で気味の悪い色味を帯びていたという。
 やがて、一人の男が現れ、農民達からそれを高値で買い取った。
 その男はシルエットこそローブに身を包んだ魔術師の様だが、その服装の色やアクセサリー、身体のあちこちに付けられた鈴は奇矯でまるでサーカスにいるピエロか宮廷の道化師の風であった。
 その男が何処に去ったのかは誰も知らない。
 収穫の季節。その畑のかぼちゃには味に何とも言えないえぐみがあり、とても売りに出せる物ではなかったという。

★★★
 オトギイズム王国、デリカテッセン領。
 ここの女領主に召し抱えられた有名な服飾デザイナー、仕立て人のジョンとアレックスが冒険者ギルドを訪れた(参照:シナリオ『スノーホワイト』)。
 仕立てのいい服を着て、ポマードでべたべたと塗り固められた艶やかな黒髪をした彼らは、気障ながら丁寧な口調で冒険依頼の受付嬢に語った。
「いや何、私達が取引をしているアシガラ地方からの上質な布地が最近、手に入らなくて困っているのでございます」ジョンの舌が滑らかに回る。
「アシガラのある呉服問屋の扱っている反物が、非常に高価であると同時にとても質のいい品だったのでございますが、その入荷が突然、途切れたのであります」アレックスの奇麗な眼は言葉に真摯な属性を帯びさせている。
 アシガラは王国東方の牧歌的な独自の雰囲気を持った地方だ。
 東洋風だ。純和風、といえる。
 そこからジョンとアレックスの伝(つて)を使って、女領主フローレンス・デリカテッセンの為の高級なドレスを作る為の白と黒がまばらの反物が購入されていた。まるで美鳥の羽根の様に美しく軽く強い布地はすっかり夫人のお気に入りとなり、ジョンとアレックスも腕の振るい甲斐のある仕事を行える大事な品、欠かせない素材となっていた。
 それが突然、入手出来なくなったのだ。
 問屋の言によれば、それは山沿いの村に住んでいる若者が月に一反や二反とかたまに売りに来るものらしい。勿論、それには高い値をつけ買っていた。
 その若者が最近、来なくなったのだ。
 入手出来なければ、無い物は売れない。
「あれは今まで扱った中では文句なしの最上級品でございます」
「あれの代わりになる物はありません。是非とも購入を再開したい、と、これは領主様直直の言でもあります」
 そう言ってジョンとアレックスはギルドの冒険依頼の書類に要件を書き込んだ。
 アシガラ地方のその若者を捜して訪ねて、何故、反物を売らなくなったのか?を訊きに行き、出来る事ならその障害となっている事柄を取り除いて、反物の流通を復活させる事。これが依頼の概要だった。
 報酬は一人、十万イズム。
 この依頼書は印刷ギルドの手によって複製されて飛脚に運ばれ、各町の冒険者ギルドの受付広間に貼り出される事になった。

★★★
 ところでアシガラには実話か寓話か、よく解らない噂話が広がっていた。
 山のふもとで薪売りを生業としていたある優しい若者が、雪の日、猟師の罠に足を取られていた一羽の鶴を逃してやった。
 するとそれから数日し、若者の家に一人の白い着物を着た美女が訪れ、そのまま男の押しかけ女房となった。
 その女房は「決して覗いてはいけません」と家の奥の障子を閉ざして、彼の母が亡くなるまで使っていた機(はた)織り機で反物を織り始めた。
 出来上がった反物はとても見事な物で町の呉服問屋に売ると大層な値がついた。
 女房はそれからも反物を作り続け、若者の暮らしはとても楽になった。
 だが、ある日、若者は好奇心に負け、機を織っている最中の奥の部屋を覗いてしまった。
 するとそこには一羽の鶴が自分の羽根を抜いて、反物に織りこんでいる光景があった。
 その時、家の中に突然、白虎やペンギンやパンダ、ダチョウやシマウマやシャチやシベリアン・ハスキーという動物の集団が押しかけてきて、若者の手から女房をさらうと何処ともなく逃げてしまった。
 女房に逃げられ、機を織れなくなった若者は元の貧乏な薪売りに戻ってしまったとさ。
 どっとはらい。
★★★

【アクション案内】

z1.反物入手の冒険の依頼を受ける。
z2.隕石とそれを買い取った魔術師についての噂を調べる。
z3.『鶴の恩返し』の噂を調べる。
z4.その他。

【マスターより】


 ほとんどの人には久しぶりの事だと思いますが、シナリオ『スノーホワイト』で出演した仕立て人のNPC、ジョン&アレックスがこのシナリオの発案人となります。
 今回のシナリオはアシガラ地方が舞台となります。
 といってもNPC金太郎は出る予定ではありません。もしかしたら会うかもしれませんが、メインにはならないでしょう。
 ところで今回のシナリオタイトルを見て「あれっ?」と思った人がいるかもしれません。
 思った人は多分、当たりです。
 このシナリオの素地はその小説が元になっています。と言ってもかなり改変した物になっていますので、その原作を知っていても特に有利や不利が生じるわけではありません。
 まあH・P・ラブクラフト等のその小説は読んでおいて損はないでしょう。
 どうせコメディになるでしょうしね(笑)。
 と、いうわけでまた。
 では、次回もよき冒険があります様に。