『サーカスがやってくる』

ゲームマスター:田中ざくれろ

【シナリオ参加募集案内】(第1回/全3回)

★★★
 君は夢を見ている。
 眠りながら見る『夢』をだ。
 君は普段、夢で五感や痛覚を感じるだろうか。
 もし感じた事のないなら、これが初めてのその夢だ。
 雲海だろうか。足元に雲ともいえぬ、霧ともいえぬ、白くあやふやな感触を感じながら君は歩いている。
 地平線までその乳白色が広がっている。頭上の空はやや薄みな青が混じったやはり白だ。空と雲海はやたら平たく引き伸ばされ、視界の果ての地平線で閉じている。
 その他に何もない。
 ここへ来たのは初めてだろうか。それは解らない。記憶にある気がするし、ない気もする。
 何もかもあやふやな状況だが、君に不安はなかった。
「やあ、君と出会うのは初めてだね」
 いきなり背後から声をかけられた。
 振り返ると『彼』がいた。
 彼の顔は一度、見た記憶がある。しかし、直接ではない。肖像画だ、エッチングされた彼の手配書を見たのだ。
 とても太い眉の中年だ。眼、口は大きく、黒髪の生え際は後退している。
 一度見たら忘れられない印象を持っている。
「私はディス・マン」彼は名乗った。「ここで君に会ったのは偶然じゃない。君は私を『見た』からこの夢で出会ったんだ。今回はこれで終わりだが、また夢で会うかもね。もしかしたら、先に私の本体に出会うかもしれない」
 それだけ言うと彼の姿が薄れ始めた。
 いや彼だけではない。夢の風景そのものが薄れ始めたのだ。
 一様に白くなる景色。
 ふと、君は眼を開けた。夢の中ではない、ベッドに横たわる現実の眼を。
 真夜中の寝室。鎧戸が閉められた窓の外から夜の虫の音が聴こえてくる。
 君はランプに火を灯すと、ベッドの横にある棚を見、昨日の昼に町の風景から剥がしてきた一枚のポスターを手にした。
 特徴的な面構えの肖像画。
 ディス・マンの手配書だ。妙に気になるから一枚を壁から剥がし、持ってきたのだ。
『この男が夢の中に現れた事はありませんか? 情報を求めています。エスマ・サーカスのエスマ・アーティ』
 ポスターにはそう文章が添えられていた。
 今、ディス・マンはオトギイズム王国でもちきりの噂だった。
 ある者は軽やかに空を飛んでいる時の夢に見て、ある人は火事の現場で立ちすくんでいる夢の中で彼を見る。
 都市伝説。
 この夢を見たのは君だけではない。
 彼はとても大勢の夢の中に現れていた。

★★★
 エスマ・サーカスがオトギイズム王国王都『パルテノン』にやってきたのはそれからすぐの事だ。
 五十人もの人員で馬につながれた幾つものカラフルな貨車を牽き、広い街道を通って、町へ入ってきた。
「奇想天外! 究極神秘! 万国驚愕! 一目瞭然! 今、この都市の領民にさらされる類まれなる娯楽の数数! 娯楽の殿堂、我がエスマ・サーカスはこれより一週間、あなた方を楽しませる娯楽を提供し続けます! さあさ皆様、ご近所、ご親族をお誘いの上でご観覧いたして下さい!」
 サーカス団長が高らかにそう宣言した。
 パルテノン中央にある大広場。
 全ての道が集合するこの広間にエスマ・サーカスの本拠が置かれた。
 三日後から始まる興業の為に、様様な派手な施設の設置が急ピッチで進められている。
 中央にはサーカス用、一度に数百人の観客を収容出来るという大テント。
 その周囲に小さなテントや屋台が並び、花畑の様に広場を彩っている。
 他の町から流れてきた話によると、出し物はどれも基本的に一回、三百イズム。
 当たれば、ぬいぐるみがもらえるボール射的。
 力自慢の為のハンマー叩き。
 占い小屋。
 見世物小屋。
 足踏みろくろと火鉢を利用した綿菓子製造機。
 金魚すくい。
 輪投げ。
 回転木馬。
 人形劇。
 紙芝居。
 フランクフルト。
 その他もろもろのエンターテインメイト。
「他のサーカスの話を聞いたけど、サーカスって大概『がっかり』と『いんちき』なんだぜ」
 開設現場を前に見て回っている、子供達の内、裕福そうな身なりのリーダー格がそんな事を仲間達に吹聴している。
「俺も『ノミのサーカス』っていう出し物を観た事あるけど、小さなブランコや回転木馬は実際にノミが動かしてるわけじゃなくて、からくり仕掛けの機械があたかもノミが動かしている様に動いてるだけなんだ。見世物に過大に期待をかけちゃいけない。如何に料金分、自分が満足出来るかなんだよ」
 頭のよさそうな子供がそんな事を言う。
 子供達は建築中の見世物小屋の前を行き過ぎる。
 見世物小屋の中では『空気獣』という札が立てられた、空っぽの大きな檻が幾つも作られている最中だ。
 エスマ・サーカス。
 入場料、二千イズム。
 このサーカスが人人の耳目を惹きつけるのは、奇矯なる出し物の他にもあった。
 エスマ・サーカス団長、エスマ・アーティ。
 派手なタキシードとシルクハットで着飾った、彼の人相。
 とても太い眉。眼、口は大きく、黒髪の生え際は後退している。
 オトギイズム王国の人人が夢に見る『ディス・マン』そのものもだった。

★★★

【アクション案内】

z1.サーカスや屋台の出し物を楽しみに行く。
z2.自分が夢に見たディス・マンの情報を、エスマ団長に報告しに行く。
z3.その他。

【マスターより】


 サーカスと言えば真っ先に板野サーカスを思い出す田中ざくれろです。
 外国の映画とか観るとサーカスって、出店みたいなものが沢山出ていて、素敵そうですね。
 と、いうわけで皆様にはサーカスの出店とか屋台とかを考えてもらいます。
 自分や他人が遊んだり、食べたりしたら面白そうだと思うものを考えて下さいね。
 さて、一方のディス・マンですが……何でもTVの『世にも奇妙な物語』でネタになったそうで……実は私はそれを知ったのは放送が終わった後なので観てないんですよね。DVDとかも出てないし、ネットに動画もなさそうだし……ええい、口惜しや
 まあ、これがどう絡むかは後のお楽しみという事で。
 では次回もよき冒険があります様に。