【私立らりほう学園世界オープニング】
★★★
両手を振ると同時に全く息が上がっていない幼げな声でオクは観客席に呼びかけた。 歓声が更に沸く。 「みんなー! 今夜はねー、オクから衝撃的爆弾的発表があるんだー!」 沸く歓声。しかし、その発言に戸惑いと期待の成分がわずかにある。 「みんなー! オクは」ちょっと言葉を溜める。「今度の『生徒会長選挙』に立候補する事にしましたー!!」 歓声とどよめきが混ざった大きな声が観客席全体から沸き上がった。 確かに現職の生徒会長の任期がもうすぐ終わって、次の生徒会長選挙が始まろうとしている。 しかし、AIアイドルの立候補。 これは五万人の学園生徒全員が予想していなかった事だった。 占い部も聖書研究会の誰もすら予言出来ていなかっただろう。 だがこのコンサートを観ている者達が等しく抱く危惧があった。 生徒会長選挙は現在、羅李朋学園生徒である事が唯一の立候補条件だ。 果たして、AI・亜里音オクは学園生徒だといえるのだろうか。 「みんなー! オクはこれから転入生として編入される為に転入試験を受けまーす! 必ず合格しまーす!」自信に満ちた澄んだ声がスピーカーから発せられる。「羅李朋学園に編入したら、清き一票をお願いねー! AIに人権はありまーす!」 観客席が最高潮の絶叫たる歓声に満ちた。 オクを応援する声があちこちで湧きあがった。 だが、今まで美声を発していたスピーカーから突然、若い男の声が発せられた。 「アイドルに人権などない! 人の似姿は全て破壊されるべき!!」 突然、観客席の二階席一部が火炎を上げて爆発した。 それに続き、観客席のあちこちで小規模な、だが確実な爆発が連続する。 観客席は悲鳴と驚きの叫びに包まれた。 「グスキキだ!」 「グスキキのテロだ!」 あちこちでその名を呼ぶ叫びが繰り返された。 やがて自動小銃の射撃音が観客席の様様な場所で聞こえてきた。 血と硝煙。 それまで客席に潜伏していた白い覆面姿の者達が自動小銃を連射して始めた無差別テロに、観客席はパニックになった。 自動小銃の射撃は中央ステージの亜里音オクに対しても行われた。 ガラス柱が砕け、オクの投影映像がひびと共に消える。勿論、コンピュータ・プログラムが本体であるオクが傷ついたわけではない。だが、このコンサート会場のアイコンは退場を余儀なくされた。 警備についていたが不意を突かれた形の学園警察がここに来て、ようやく応戦を始めた。まさかコンサート会場内から火の手が上がるとは思っていなかったのだ。 しかも電波妨害されて、警察官同士の連携に難があった。 スタッフとしてコンサート会場にいたコンピュータ研、アイドル研、アニ漫研の内、銃器で武装していた者達も応戦に加わる。 逃げ惑う観客達を巻き込んで、銃撃戦が始まる。 突撃報道班が銃火の下を駆け巡りながら実況取材をする。 コンサート会場は悲鳴と銃声の坩堝だった。 グスキキ、『偶像崇拝禁止教団(ぐうぞうすうはいきんしきょうだん)』。 現状で最も力があり、危険とされている狂信的地下組織。 ある者は一般生徒として普段を暮らし、ある者は下水網に潜伏していて、突然、組織的にテロ破壊活動を開始する。彼彼女らはこの世界にある全ての人の似姿、彫像、人物画、写真、人形、アニメや漫画やゲームののキャラクター、テレビや映画自体、神や仏の像や絵、アイドル、フィギュア、ゆるキャラ等、一切の人型アイコンを文明から排除する事を目的とした狂信者なのだ。 拝するのは唯一の神のみ。その名も呼ばず、一切の偶像も許さない。人とは神の似姿。人を写すのは神を写すのと同じ事。一切の似姿を破壊、破棄すべし。その為なら手段は選ばず。そういう集団なのだ。 そんな彼らにとって亜里音オクは破壊すべき偶像・ナンバーワンだった。 夜の銃撃戦は組織だった攻勢を行うグスキキに確実な優がある様だった。 ★★★ 「こっちだ! アル・ハサンだ!」 コンサート会場であるホールの地下通路で、ある人物が思いがけず学園警察に追いつめられていた。 アル・ハサンはグスキキのリーダーである。 直接、この会場に乗り込んでいてテロに参加していた浅黒い肌の若い青年は、地下通路で複数の警察官に追いつめられつつあった。 「……しまった。『テレパシー・ネットワーク』に集中しすぎたか」 一人ごちる彼は分厚い隔離ハッチに行き当たった。開ける事は出来るが時間がかかる。 すぐに学園警察が追いついてきた。 「動くな! 動けば射殺する!」 警察は近づきながら、隔離ハッチを開けようとしているハサンの背に銃弾を連射した。 「『バビロン・ズー』!!」 名を叫びながらハサンは自分のスタンドを発動させた。スタンドとは彼が生と死の淵をさまよった経験から獲得した、超能力のエネルギーが具体的ビジョン化したものである。人間大の金属の球体に一対の大翼を生やした様なデザインのそれは翼を前にして身を守り、自分めがけて発射された弾丸を全て弾き返した。 弾き返された弾丸を受けて、先頭の警察官が倒れた。 「ウララララララララララララ!!」 叫びと共に近接攻撃型スタンド、バビロン・ズーはメタリックな翼をまるで拳の連撃の如く、他の警察官に叩きこんだ。 その場の警察官全員は自分が何に殴られたのかも解らないまま、スタンド使いにしか見えない不可視の翼撃を受けて背後へ吹き飛び、壁に叩きつけられて命を失った。 とりあえずの安全を得たハサンは、落ち着いてバビロン・ズーの特殊能力であるテレパシー・ネットワークを使った。 (今回はもう十分だ。全員、連携をとってフラッシュ・グレネードと煙幕を使い、退却しろ) その彼の思考はバビロン・ズーを触媒としたテレパシーとなり、グスキキの同志全員に伝わったはずだ。グスキキ全員が彼と同じくこの様なテレパシーのネットワークを作っている。それがバビロン・ズーの能力だ。こうして彼は距離にも地形にも電子妨害にも邪魔されない完璧な連携をとって、敵の思いがけない時にテロを行い、組織を攻める時に攻めさせ、退く時に退かせて、連勝を得てきたのだ。 アル・ハサンは隔離ハッチをようやく開き、そこから多目的ホールを脱出した。 ハッチの向こうにあるものは解っていた。 下水網の侵入口だ。 凶悪犯罪者として『強制退学』を受けた男、アル・ハサンは再び闇に身を躍らせた。 ★★★ テロリスト達の退却完了という形で終息した、今夜のグスキキのテロは今までで最悪の結果だった。 グスキキはあらためて地下へ潜入、或いは一般生徒に溶けこんだ。 観客の一般生徒、警察官、コンピュータ研、アイドル研、アニ漫研に大量の死傷者を出し、対して捕まったグスキキのテロリストはいなかった。数人が退却不可能の負傷をしたのだが、捕縛される前に自爆したのだ。更にリーダーを一度は追いつめながらも逃走された事が、襲撃された側に血涙と悔恨の情を育んだ。 放送局はこのニュースを哀悼の意を込めながら各生徒に伝え、決してテロには屈しないという現生徒会長の意志も伝えたが、まだグスキキのテロは続くだろうという一般生徒の厭世観を拭う事は出来なかった。 ニュースは最後に、亜里音オクが生徒会長選挙に立候補するという意を示した事を放送した。 今夜のテロで五万人の生徒から百二十四人が間引かれ、広大な墓地にまた墓碑が増えた。 ★★★ 繁華街。甘味処『餡汎満』。 「ねえねえ、聞いた? オクが編入試験を受けたって話」 「カンニング防止にスタンドアローンに隔離したクローン・プログラムにテスト受けさせたらしいけど、満点だったんだって」 「クローンのオクちゃんはあんまり愛想なかったって聞いたけど」 「これでAIオクもあたし達と同じに授業を受けられるのね。体育の授業はどうするのかしら」 「さすがにオール見学じゃない。女の子だし」 「これでオッキーが新生徒会長になったら、あたし達の上にAIが君臨するのね」 「もう既に学天即がいるんだし、私達の生活はあんまり変わらないんじゃないかな」 「エー、でもただのコンピュータと自我を持ったAIは違いマスヨ。きっと、もっとミー達の為になる政治をしてくれマスヨ」 「グスキキがこれに対して怒ってたりするんじゃないかなぁ。コンピュータ研、アイドル研、アニ漫研の武装許可案ってグスキキ対策でしょぉ。あたし、一票入れちゃったぁ」 「私もアル・ハサンの強制退学に一票入れたわよ」 「言ってみれば、ただの不法滞在者よね」 「オクがグスキキを殲滅させてくれるといーんだけどね……ジャムおじさーん、エベレストパフェ追加ねー、糖質ギガマシマシで」 ★★★ 最悪のテロの夜から二週間後。 グスキキが新たなる活動を起こした。 「邪悪なる偶像、亜里音オクの学園生徒編入を取り消せ。さもないとスカイホエールは取り戻せない大きな傷を負う事になるだろう」 学園各所のスピーカーからアル・ハサンの声が響き渡った。 オクが学園に転入生として無事編入され、即座に生徒会長選挙へと出馬したのが学園中に知れ渡った日の夕刻である。 グスキキからの犯行予告声明が学園各地から一斉に様様なスピーカーを通して、学園生徒に伝えられた。PCのスピーカーから。学園の教室のスピーカーから。公園に立てられた広報スピーカーから。自動車のスピーカーから。スマホのスピーカーから。 学園警察やコンピュータ研がこの発言の発信元を特定しようとしたが、データ送信は幾つもの家庭用PCやスマホの回線を経由しながら刻刻と回線を乗り換え続け、遂には地下下水網に敷設された施設へ行きついた後に追跡不可能になってしまうのだ。 操舵手の背後にいて、スカイホエール艦長『大徳寺轟一(だいとくじ・ごういち)』は、艦橋のスピーカーでハサンの演説と脅迫の声を聴いていた。 スカイホエールの全指揮を任せられた轟一である。五十歳をもうすぐ迎える彼は厚い胸板の前で手をこまねいていた。 「どう思う、学天即」 轟一は艦橋内とリンクしている羅李朋学園の管制コンピュータの音声認識システムに問いかけた。 「グスキキは直接武力に訴えてくる組織である事は間違いありません。脅威度は最高です」学天即は平坦な合成音声で彼に答えた。艦橋内の全員がその声を聴く。「私は学園生徒を保護する義務があります。しかし亜里音オクも現在は学園生徒です。私自身は保護の優先度を決定出来ません。優先度を決めるのは総学園生徒の投票に従います。もしくはスカイホエールに関する全権を任された貴方の決定に従うか」 自我のあるAIではない冷徹な論理システムの回答に、轟一は水兵服を模した制服の制帽をとり、片手で髪をぐしゃぐしゃに掻き回した。 自分が選択するしかないのだ。しかしテロに屈する事は出来ない。 それとも学園生徒となった自我のあるAIを切り捨てるか。 つらい選択だった。 長いのだか短いのだか体感のよく解らない時間が過ぎた時、アル・ハサンの通達が聴こえた。 「諸君らには我らが本気である事を解ってもらう必要がありそうだ。これより第一の爆破を行う」 突然、大きな爆発音が聴こえた。後方からだ。船外だ。 「何だッ!?」 「第五百二十八気室が爆発しました!」 艦橋のメインディスプレイがその付近にある船外監視用カメラの映像に切り替わる。 スカイホエールの船殻の一部が大きな炎を上げて爆発していた。 上部後方だ。 剥がれた太陽発電パネルの無数の破片がキラキラ夕陽を反射しながら、気流に乗って爆炎と共に後方へ流れていく。 それを見た瞬間、不燃性のヘリウムの爆発にしては燃えすぎではないのかと思ったが、轟一はすぐ気持ちを切り替えた。相手はためらわず爆弾を爆破してきた。奴らなら本気でこのスカイホエールごと心中する覚悟があるかもしれない。 最初の爆弾が吹き飛ばしたのは八百ある気室の内の一つだ。一つや二つ、爆破されたからといって、即座にスカイホエールが落ちる事はない。しかも各気室は連鎖爆発などしない様な頑丈な隔壁に守られている構造だ。ましてや封入しているのはヘリウム。ヒンデンブルグ号の様な大火災が起きるはずはない。 しかし爆弾が何処にどれだけ仕掛けられているか、予想が出来ない。 そこまで考えた時、艦橋に昇ってきたエレベータのドアが開いた。 「アル・ハサンの使っているのは爆弾ではない。魔術による落雷じゃ」 そう言いながら乗り込んできたのはまるで老人の様にか細い男を中心にした、学生服の上に灰色のローブを羽織った一団だった。 轟一は畏怖に似た、それでいて頼もしさをその男達に抱いた。 中心の男は羅李朋学園・魔術研究会会長『ギリアム・加藤(ぎりあむ・かとう)』。強力な魔導師だと轟一も噂には聞いている。歩く姿さえ何かのまじないの様だ。 「グスキキには魔術師がいる様じゃな。落雷を使ってスカイホエールの各気室を狙い撃ちするつもりじゃ」 「しかし、スカイホエールには避雷システムがあります」 この硬式飛行船には雷撃を機体表面を経由させて、下部構造からレーザーでイオン化させた空気を伝わらせて空中放電する避雷システムが存在している。静電気や落雷に対しては完璧の防護のはずだった。 「奴の魔術師は純粋な自然現象を捻じ曲げるほどの強力な力を持っている様じゃな。今度、その術を使えば、威力を奴の魔術師に返してやる事が出来るかもしれん。場所を借りるぞ」 ギリアムは言って、艦橋中央に陣取り、連れてきた会員達を周囲に配置して全員で一定の呼吸リズムで言葉を詠唱しながら、身体の各位置に次次と手を触れていく厳かな作業を始めた。精神集中をしながらも酩酊した様子でもある。 魔術については疎い轟一もこれは何らかの儀式魔術を始めたのだという事は解った。 艦橋の船員達が遠巻きに見守る。 ギリアムは精霊を召喚して身に宿らせ、重大な魔術の準備に入っているのだ。 「次の実力行使を行う」 ハサンの声がして一秒ほど後に新たなる爆発音が起こった。 今度は先程よりもずっと後方だ。 「第八百番気室、爆発!」 艦橋に報告の声が響き、メインディスプレイの映像はスカイホエールの最後尾の爆発光景に切り替わった。 最後尾の気室を狙ってくるとは。 「ギリアム!」 轟一は叫びながら汗をかいている魔導師を振り返った。 「全てを返すには間に合わなかった」老人の様な学生の無念そうな言葉。「しかし威力の何分の一かは術者に返した。グスキキの魔術師は今頃、黒焦げになっているだろう」確信を得ているギリアムの声。そして自分達の魔術が人を殺したという事について哀しそうな顔をした。 その時、艦橋は右に傾いた。 「最後尾気室の爆発衝撃により、右水平尾翼が大きく破損しました!」焦燥の報告が轟一の耳に届く。「フラップ脱落! 船体が揚力を失い、右ロールしながら高度を落としています!」 スカイホエール自体が右に傾斜しながら墜落を始めたのだ。 現在、スカイホエールは高高度を飛んでいない。 上昇し始めていたが、先ほどまで水を補給する為に海面すれすれを飛んでいた。 今はせいぜい高度八百mほどだ。 下は太平洋の海面。 スカイホエールの質量がこのスピードでハードランディングすれば、硬式飛行船は大破してしまうだろう。そして五万人の生徒ごと沈没だ。 「全力で逆推進! エアブレーキ!」 轟一はスカイホエールの両舷に並ぶレシプロ推進器の逆回転と非常用のエアブレーキ展開を命令した。 スカイホエールは総電力のほとんどをつぎ込んで速度を落とし始めた。 「左水平尾翼、仰角一杯! 垂直尾翼も動かして船体を立て直せ!」 「コントロールが戻りません!」 艦橋要員から悲痛な報告が届く。 「非常事態! 非常事態!」学天即がスカイホエール全体に緊急アナウンスを流し始めた。それは艦橋にも響く。「総員、何かに身体を固定して衝撃に備えて下さい!」 轟一はこのアナウンスにグスキキ自身も冷静さを失って、怯えているだろう、とせめて夢想した。 スピーカーにアル・ハサンの声はなかった。 夕凪の海面が迫る。角度をつけて船首から激突しようとしているのだ。 「風の力で衝撃を受け止める」ギリアムが声を張り上げた。「魔術で船体を防護する。最悪の事態は避けられるはずだ」 周囲の魔術研部員と共に詠唱が再び始まる。儀式魔術は傾斜した艦橋ではまるで何かの冗談の様に厳かに行われていた。 今度は間に合うのか。轟一は冷や汗と共に思った。 と、突然、全員の身を震わす不気味な唸りがスカイホエール全体を包んだ。 耳を聾するほどの大きな唸りだ。 これは魔術の成果なのかと轟一はギリアムを見たが、彼も意外そうな顔で驚いていた。 「共鳴している!」ギリアムは大きな声で呟いた。「そうか! ヘリウムと一緒にあるアレと魔術が影響を及ぼし合っているのか!? 想定外の効果が!?」 轟一には理解不能な呟きだった。 艦橋の風防ガラスから外部の突然の輝きが射し込んできた。 メインディスプレイが分割画面となり、船殻のあちこちに仕掛けられている船外カメラの画像を一斉に映し始めた。小画面は次次と切り替わるが、船体の何処もが輝いている。 スカイホエール全体が夕陽に負けない光で輝きだしていた。正確には気室を抱えた船体が、だ。上部に張り出した艦橋とレーダー、下部に張り出した着地システムとレーダー、推進器や尾翼は光っていなかった。爆発の傷のある第五百十八番気室と第八百番気室もだ。 「高度ゼロ。海面と衝突します」 学天即は冷静に報告する。 ★★★ 唸りと光を挙げるスカイホエールは太平洋公海の海面に衝突した。 衝撃は全くなかった。 スカイホエールの船首はまるで鏡の中に吸い込まれる様に、波も立てず、海の表へと吸い込まれていった。 海面に一切の変化はない。 ただ夕陽に照らされたスカイホエールの黒く長い影と一緒に、その三千mの船体はまるで透過する様に海へと呑み込まれていった。海面が何処かへ通じる扉であり、スカイホエールが未知の部屋へと引きずり込まれる様に。 長い船体は船速のまま、唸りと共にどんどん海面に呑み込まれていった。 やがて傷ついた船尾までもが輝きながら夕刻の海の表に溶けていき、遂には完全にスカイホエールは海へと消えた。 唸りは消えた。 沈没したのではない事はオレンジ色の海面の穏やかさを見れば、明らかだった。 スカイホエールは、羅李朋学園の五万人の生徒は、この世界から完全に消失した。 ★★★ |
【『オトギイズム王国』世界概略】
中世ヨーロッパ風、剣と魔法のファンタジー世界『オトギイズム王国』。 銃器も発達していないのに完全鎧に身を鎧うた騎士と、美肌をあらわにした半裸のビキニアーマーの女戦士が互いに背を預け、悪魔、怪物達に正義の剣を振り下ろす世界。 月にバニースーツのかぐや姫。 海にギャル風の人魚姫。 森に七人のドワーフに守られた超巨乳の白雪姫と、赤いレザーボンテージの赤頭巾、年頃の女の子である金太郎が同居する、お伽話に語られる人達が住みながら、それでいて何処か世界観が狂った、まるで創造主が受け狙いの為に作りあげた様なファンタジーワールド。 賢者曰く、世界の法則は『デザイン』なり。 造形に魂が宿る。 速そうなものは速く、力強そうなものは力強く、美しいデザインは美しく。 そうでないものはそれなりに……。 オトギイズム王国は現在、王都『パルテノン』でトンデモハット王家による治世が続き、現在は国王『パッカード・トンデモハット三世』によって治められている。 后は『ソラトキ・トンデモハット』。 王子として長男は『ハートノエース・トンデモハット』。彼は美形でプレイボーイとして知られていたが、近近『シンデレラ』という妻をめとる予定である。 次男王子は『バラサカセル・トンデモハット』。無類のナルシストとして知られる。 末の姫『トゥーランドット・トンデモハット』は科学に秀でたデザイナー・錬金術師として知られ、国内の錬金術デザイナーに庇護を与える者で『白衣の姫』の異名を持つ。 オトギイズム王国の地理は以下の様になる。 王都は百万都市『パルテノン』。中央に公園が造られ、それがよりそう様に大時計塔と城壁のある王城がある。パルテノンを囲む壁の北東の壁に、よりかかる様な大牢獄がある。 『パスツール地方』。以前、赤い流星が落ちた場所で森もある丘陵地帯で村が点在する。丘の魔女が住む丘もある。 牧草地が広がる『モータ地方』は山と丘の土地で、牧畜と林業が主産業である。 海辺の港町『ポーツオーク』。オトギイズム王国で一番の港があり、近海の海底には時の結界に守られた『竜宮城』と人魚の王国『アクアリューム王国』がある。 沖の大島『獄門島』。島を二分する北半分と南半分では大きく風景が違い、周囲を断崖絶壁に囲まれて、上陸するには南の入り江からしか出来ない。北半分は荒れ果てた荒野『雷鬼の国』。南半分はパステル色の地勢が広がる『真理王の国』になっている。 海岸に近い『グラディース島』。周囲の他の島と比べて、地質的に異質だ。地形は、島を中心に波紋が広がった様に円く幾何学的にえぐられている。表面に無数にある小さな円形は、まるで宇宙空間で幾つもの小惑星を受け止めたクレーターの様に見える。以前はここに謎の大洞窟があったが、現在は踏破され、奥にあった未来的な異界は根本的に破壊されている。 王国の東方にある『バークレー山』を越えてさらに東へ行くと、和風の雰囲気を持つ『アシガラ地方』がある。アシガラの北東の外れ、国境沿いに『遊郭ヨシワラ自治区』という独立都市がある。 街道を少し外れた緑豊かな『エイトゥズィ山』は、その頂上に向かう舗装された山道にA〜Zと名づけられた二十六ものカーブが続き、そこを馬で駆け下りる速さを競うのが娯楽となっている。 女公爵に治められた『デリカテッセン領』には『モンマイの森』と呼ばれるドワーフの七人兄弟が住む森と鉱洞がある。またデリカテッセン領には『バッサロ領』というアンデッドに満ちた領地があったが、現在は全てのアンデッドは駆逐されている。 オトギイズム王国は空の月にも住人がいる。『月世界』にはバニームーンことかぐや姫が治める独自の国で、住んでいる動物は形や生態は様様なれど、オーストラリアの有袋類の如く全てはウサギ類の亜種である。これは月世界人も同じである。 冒険者というものを『出世払いの何でも屋』と例える者もいる。 冒険者とはどういうものか、という確固たる定義はない。 冒険者と名乗る者、呼ばれる者が冒険者だというのが一般的な認識ともいえる。 住所不定無職同然の冒険者は多い。また自宅の警備が主な任務だという者も。 とりあえず冒険をする者が冒険者なのだ。 そんな自由業の彼らの冒険を斡旋、仲介し、引退後の面倒を看る保険的な仕事まで引き受ける相互扶助的な組織がある。それが『冒険者ギルド』という組合だ。 冒険者ギルドというものはオトギイズム王国の大きな町には一つはあるものだ。 大きな通りから道一本入った所にある、結構大きな建物で、一階が広い受付ホールとなっており、めぼしそうな冒険や依頼を探す冒険者達と彼らに依頼を引き受けてもらいたい一般人達がたむろする。更に何かしらかの思惑を秘める後ろめたい者も混じり、流れのアイテム売りや題材を探す吟遊詩人もいて、人種の坩堝、ちょっとした混沌の様相を呈している。 雑多な人が行き返す一階受付ホールは冒険の仲介、依頼を斡旋をするギルドの玄関で、ここで冒険者を雇って様様な仕事をこなしてほしい人間が受付嬢に前金等手数料を払って依頼を登録する。登録された依頼は書類の依頼手配書として受付ホールの依頼広告ボード、つまり大掲示板に貼り出され、冒険者の参加を募って窓口で受けつけるのだ。 場合に応じて、依頼書は町の印刷ギルドで複製されて、他の町の冒険者ギルドでも掲示する為に早馬や飛脚が八方に走る事もある。それは大口の依頼だったり、広く人材を募集する依頼だったりする場合だ。 ともあれ、迷子の猫探しから遺跡の探検、戦争の軍師までギルドに掲示される依頼は幅広い。 冒険者ギルドの二階以上は事務室の他に居酒屋や宿屋を兼業する。地下に降りればお上品とは言い難い踊り娘が舞台で踊っている不健全な酒場や不健全な宿屋や不健全な衣装屋や不健全なアイテム屋がある。この構造も何処でもほぼ一緒だ。 オトギイズム王国の格言に「裸の冒険者をあなどるな」というものがある。 女戦士が下着の様な裸同然の鎧だけしか身につけていないとしても、彼女が初心者の冒険者でそれしか買えなかったのだとは限らず、もしかしたら完全鎧を上回る魔法の如き防御力、回避能力を発揮するデザインで仕上げられた超高価なビキニアーマーを手に入れた熟練者だったり、凄まじいガード能力がある様にデザインされた魔法のアクセサリーを装着した魔法使いかもしれないのだ。またニンジャ、クノイチという東洋にルーツを持つ冒険者達には脱げば脱ぐほど強くなる体術を身につけ、内外を常に全裸ですごす者もいるという。ただ中には露出するのが好きなだけの人もいたりする。 裸かそうでないかは冒険者の個性でしかないのだ。 |
【マスターよりシナリオ紹介】
私立らりほう学園世界、長いオープニングになりました。 今回の私立らりほう学園世界オープニングは、『神の視点』を取り入れています。つまり現在の『オトギイズム王国』にいるPCの視点では絶対に知るよしのない情報を書いています。 これは『羅李朋学園』の世界観を最初に出来る限り、PLに伝えるべきだという考えから行ったもので、なるべくPLの方にも最初は「羅李朋学園の情報を踏まえながらも、PCはそれを直接知らない事にしてアクションを書く」という事をお願いしたく思います。ただし羅李朋学園生徒という設定で新しく作られたPCはこの限りではありません。……尤も正確な全情報がオープニングに書かれたわけじゃないけど。 さて、それはさておき。 今回のシナリオシリーズは巨大学園物となる予定です。 いや、燃えるでしょう、巨大学園。 しかも空を飛ぶ。 実は昔、衛星軌道に浮かぶ、銀色のバラの形に集光パネルを配した巨大学園、という物を夢想していたのですが、これは某アニメで同じ様な物が先に発表されてしまったので残念ながら作品化するのを断念しました。飛行船学園は……ないですよね? とりあえず、これまで古今東西、様様な巨大学園の物語がありましたが、羅李朋学園もその末席に加えていただければ、と大層な事を考えております。 だいそれた事かなー……だいそれた事だよなー……。 |
【シナリオ登場キャラクター(NPC)紹介】
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『羅李朋学園』ナンバーワンのバーチャルアイドル。 |