『バッタもの奇譚』

ゲームマスター:田中ざくれろ

【シナリオ参加募集案内】(第1回/全6回)

★★★
 一階の依頼掲示板のあるホールが騒がしくなる。
 オトギイズム王国の王都『パルテノン』の冒険者ギルドに、多くの人にとっては見覚えのある男がやってきたのだ。
 腰に差した日本刀。東洋の黒髪と陽に焼けた頑健な筋肉を持った中年男。
 カワオカ・ヒロシテン。
 以前、このオトギイズム王国で『酔狂スペシャル』という冒険ドキュメンタリー番組を撮っていった男だ。
「いやぁ。撮影したいのはいいんだけど元の世界に戻る方法が解らなくてね」ヒロシテンは頭を掻いた。「ついでに一仕事やっておこうと思って」
「で、今度はどの様な冒険番組をご依頼なんですか? カワオカさん」
「いや、今度はTV撮影ではないんだ」
 受付窓口のトレーシ・ホワイト嬢の言葉に優しく反論するヒロシテン。
「今度は劇をやろうと思うんだ。この町には座席数二百ほどの大衆劇場があるだろう? 私は冒険隊隊長だが、俳優でもあってね。昔『仮面バッター』という特撮劇の主人公をやっていたんだ」
 ヒロシテンはパンフレット兼企画書の様な印刷物の束を出し、窓口越しにトレーシ嬢に読ませた。
 特撮劇というのは特殊な造形の着ぐるみやメイク、小道具、大道具を多用し、架空のヒーローや悪役を配したドラマの事らしい。
 仮面バッター。
 それはバッタと人間を組み合わせた様な造形の正義の改造人間・仮面バッターが、社会を脅かす悪の秘密結社『スリラー』が生み出した悪の改造人間と戦い、世の中の平和を守るという連続活劇のTV番組だ。
 スリラーに誘拐され、バッタの怪人に改造された主人公は、脳改造を受けて洗脳される前に脱出に成功し、以後、大自然の使者となって、同じ様に人間と動植物と合体させた悪の改造人間が行う様様なテロ行為を挫き、世界を守る為に戦い続ける。
 風のエネルギーを受けるか、もしくは変身ポーズを行う事で人間の何十倍も強い仮面バッターに変身し、怪人と戦い、アクションの末に決め技の必殺バッターキックで滅ぼすのが毎回の見せ場だ。
 基本的に子供向けだという事だ。
「この活劇を観て、子供達に正義と善を守る心を啓蒙してもらうのが私の人生の使命だと思っているんだ」
 ヒロシテンは太い腕を組みながら屈託なく笑った。
「それでTVのない、このオトギイズム王国でも舞台劇として上演しようと思ってね。一晩限りだが、大衆劇場を借り切って、仮面バッターをやろうと思うんだ。……それで冒険者ギルドへの依頼だが」
 ヒロシテンがずずずいっと窓口へ身を寄せる。
「この国の冒険者に劇の手伝いをしてもらおうと思うんだ。舞台美術や雑用は酔狂スペシャル探検隊スタッフにやってもらうからいいとして、俳優を冒険者にやってほしいんだ。仮面バッターならではの役割をね。それだけじゃない、もし、この劇のシナリオやら演出やらにもどんどん口出ししてほしい。メイクや着ぐるみにも。むしろ、一から作り直してもらう方がありがたい。このオトギイズム王国ならではのものをね」
 ヒロシテンはそれを力強い口調で力説する。
 彼は今回はちゃんとオトギイズム王国の通貨を持っていて、それを受付窓口に依頼料として登録した。
 依頼を受ける冒険者に一人頭、十万イズム。
 経費として落とせるならば、劇に必要な雑費は幾ら使ってもいい。
 舞台の幕が開くのは一週間後だ。
「じゃあ、一週間後に劇場で私と握手だ」

★★★
 ところで、王城では姫のトゥーランドット・トンデモハットが最近、行方不明らしいという噂が、王国に飛び交っていた。
 なんでも研究室にこもっているのかと思ったら、その研究室にもいないらしい。
 『白衣の姫』の行方が知れないという噂は、国国の冒険者に広まっていった。いないという確実な証拠はないが、どうも最近の国事に姿を現さないという事だ。
 ただし国王のパッカード・トンデモハットは普段と同じ様に毎日の謁見に応えているので、大事ではないだろうというのが大勢の見方だが。

★★★

【アクション案内】

z1:仮面バッターに参加する。
z2:トゥーランドットについて調べてみる。
z3:その他

【マスターより】

バッター……変身! とぉ!(ジャンプ)
というわけで以前『酔狂スペシャル』でお世話になった、カワオカ・ヒロシテンの復活です。
今回は彼の一夜限りの舞台劇『仮面バッター』公演を手伝ってもらいます。
仮面バッターのフォーマットは大体、以下の通りです。
1:怪人が社会相手に悪さを行う。
2:カワオカ・ヒロシテンがその悪事を聴きつける。
3:怪人がまた悪事を行っている所にカワオカ・ヒロシテンが現れる。
4:怪人と戦闘員とカワオカヒロシテンの戦闘。仮面バッターに変身する。
5:仮面バッターと怪人の戦闘。仮面バッターのバッター・キック。怪人大爆発。
6:バッターの勝利。
一から作るつもりで台本にどんどん手を加え、またPC自身も何かの役で出演OKです。
ちなみにシナリオタイトルと似た名前の居酒屋が、本物の仮面ライダー2号・佐々木剛氏によって経営されていますが、私がそれを知ったのはこのシナリオ案を作った後であり、シナリオタイトルはパクリではない事をお断りしておきます。
では、観衆が沸くよき舞台劇が次回あります様に。
仮面バッターの真似は危険だからちびっこは絶対にしないでね。