『A FIRESTARTER』

ゲームマスター:田中ざくれろ

【シナリオ参加募集案内】(第1回/全3回)

 星座。
 町の夜景。
 鋭く風が鳴っていた。
 雪が降ってもおかしくない、凍てつく夜だ。
 通りのかがり火の暖かさも届かない、寒風に身をさらすのは粗末な服を着こんだ十歳にも届かない少女。麦藁色の髪にそばかすの肌。栄養を摂れずに細い手足。つぎはぎだらけの木綿の服に膝までのスカートという、着るコートもない様子は見た目、いかにも寒寒しく、通りから一歩入った裏暗がりの路地の入り口から半身を乗り出す様に、商品を入れたバスケットとその一本を握る手を通りがかる夜の紳士淑女に差し出している。
「……マッチはいりませんか? ……マッチはいりませんか? 一本、5000イズムです」
 風の音に負けそうな声。
 錬金術ギルドが開発したという赤燐マッチ。従来の毒性が強く、自然発火の恐れもある危険な黄燐から比較的安全な赤燐へと最近、原料を変えたマッチが少女の指に握られ、売り物となっている。
 たかがマッチ一本に5000イズムとは法外な値だ。
 しかし、少女の売り物はマッチだけではなかった。彼女のマッチを使ったあるささやかで倒錯的な娯楽が、その商品に付随しているのだ。
 それはマッチを買った人間だけが解る。
 夜の裏路地に現れるこの様な少女は、街を買ってもらえば、そのまま二人で人目のない路地の奥へと移動する。
 そしてその暗がりに立った少女は自分のスカートをまくって脚を開く。火が着いたマッチは極めて限定的な明るい光で暗闇だった物を照らし出す。スカートの中のドロワースも何も履いていない、むき出しの下半身を買い手の前にさらけ出すのだ。
 マッチに火が着いてから消えるまでの短い時間に、付加価値を成立させる。
 一本分の時間に満足出来ない者は二本三本とマッチを買い足す。
 少女は羞恥の時間をじっと耐える。
 ただ観るだけで決して触らない。そういう暗黙のルールがこのプライベートショーの買い手と売り手の間には存在している。
 そうして買い手は自分の性的好奇心を満たした気持ちで胸を温め、家に帰るのだ。
 今夜も『フィーナ』という名の少女は寒空の下、マッチを売っていた。
 貧民街ではありふれたシチュエーションだ。
 フィーナはふとこの間、亡くなった祖母の事を思い出した。優しかった祖母。決して豊かではなかったが、心が温かかったあの日日。
 今夜はまだマッチは一本も売れない。
 紳士は現れない。

★★★
「マッチはいらんかえ〜。っていうか、一本5000イズムって高いマッチを買うと今すぐもれなく素晴らしい物が観られますよ〜、だから買え、ちょんちょん、この〜!」
 フィーナがマッチを売っている場所から少し離れた所にあるこの路地では、スカートをはいた黒髪の少女がやはり高いマッチを売っていた。
 雰囲気はフィーナとはかなり違うが、売っている品物、服装、年齢は同じだ。
「マッチを五本もらおう」
 人人が行き交う通りに暗い雰囲気の太った紳士が立ち止まり、その少女のマッチを買った。
「いきなり五本とはお客さん、通だね〜。はい、最初の一本。じゃあ、こっちの路地の奥までおいでよ〜」
 少女は身なりの立派な紳士を、路地の奥の暗がりへと手を引っ張って誘導する。
 そして「じゃじゃ〜ん!」と紳士の前で足を開いて、スカートをまくった。「まだ毛も生えてませんよ〜」
 紳士がマッチに火を着ける。
 すると、照らし出される年端もいかない少女の下半身。
 しかし。
「なんだこりゃッ!? てめえ、男じゃねえかッ!? てめえは『マッチ売りの男』じゃねえかッ!!」
 少女の下半身には、男がさんざん自前で見慣れた物がぶらさがっていた。
「いや〜ん、『マッチ売りの男の娘(おとこのこ)』って呼んでよ!」
「このサギ野郎めッ!」
「その手の趣味の方には好評ですけど〜」
 追いかける変態紳士から逃げる少年。
 路地の道なりは少年の方が詳しく、あっという間に追いかけてくる紳士をまいてしまった。
「いや〜、実質上、マッチ四本分、もうかったな〜。この調子で今夜ももっと客が捕まるといいけど」
 少年が壁にもたれて金を数えていると、その傍の路地の奥から不思議なものが音もなく現れた。
 死んだはずの彼の母親だ。
「あれ〜? 母さん、迷ってこの世に出てきたの〜? ところで美『男の娘』に産んでくれてありがとう」
「お前や……この暮らしで満足かい? ……世の中に復讐したいと思わないかい? そのマッチで世の中を焼き払いたいと思わないかい」
「いや、別に思わないけど〜。ところで母さん、再会ついでにうちにたまってる洗濯物の山、片づけてくれませんか〜」
 彼の母親は「ちっ」と舌打ちして、路地の奥へと溶ける様に消え去ってしまった。少年の記憶ではそんな舌打ちをする様な人ではなかったはずだが。
 少年はまもなく貧民街の噂で知る様になる。最近『マッチ売り』をしている子供のところに死んだはずの家族が現れ、そのマッチで悪事をする事をけしかける、そんな出来事が頻発していると。

★★★
 今夜、皆は様様な理由でこの大火に出くわしていた。
 その区画は業火に包まれていた。
 町の住宅区画で、炎は渦を巻いて、暗い星空をかきむしる様な眩しい鉤爪を天へ伸ばしている。
 火炎が数数の建物を呑み込み、煌煌と夜を照らしている。今や、家家は熱い陽炎の中で立ち尽くす燃料でしかない。
 衛士や町の青年達で組織された消防隊はその灼熱の壁を前にして、何とかこれ以上の延焼を食い止めるのが精一杯。
 夜ごとの連続放火。
 今、五軒の家が火災に呑まれていた。
「まだ、中に! 中にジェレミーがいるんです!」
 母親らしき女性が、機械仕掛けのポンプで必死に水をかけている消防隊の面面の袖をつかみ、叫んでいる。
「まだ、逃げ遅れている子供がいるんです!」
 どうやら母親は夫の手によって、外へ連れ出された様だ。父にしても廊下が火で包まれていた当時、子供部屋を見捨てるのは苦渋の決断だったに違いない。
 だからといって、消防隊も何も出来ない。二の足を踏まざるをえない、すさまじい熱風だ。消火活動をしているだけで肌が焼けそうだ。
 遠巻きの野次馬が騒いでいるが、彼らにも何も出来ないのは明白だった。
 果たして、少年は業火の中で死ぬのを待つだけなのか。
 それともすでに死んでいるのか。
 今にも家は焼け崩れそうだ。
 この火事を見ていたあなたはそして……。
★★★

【アクション案内】

z1.ジェレミーを救いに火事の家に飛び込む。
z2,『マッチ売り』を調べる。
z3.その他

【マスターより】

Xマスが近いから……というわけではありませんが、こういう寒い冬のシナリオをお届けします。
ところで原作の『マッチ売りの少女』はあれでハッピーエンドだという意見もあります。それは少女は死んだお婆さんと天国へ行けたから。キリスト教ではそれこそ「天国に行くにはラクダが針の穴を通るより難しい」という諺があるくらいです。『フランダースの犬』も同じです。ネロとパトラッシュは天使に見守られ て天国へ行きましたからね。
さて、皆様方はそんな『ハッピーエンド』を望んでいますでしょうか?
あまりシリアスに考えずにギャグもお待ちしております。
では、あなたに次回もよき冒険があります様に。