「呪われた魔剣と剣聖十一段」第1回(調査編)

ゲームマスター:夜神鉱刃

もくじ

★第1章 密室殺人事件の調査

・1−1 ストロング兄弟の調査

・1−2 警備員5人の調査

・1−3 死体の調査

・1−4 レオンとブラストの決闘調査

・1−5 魔剣と剣聖の調査

・1−6 味方NPCからの報告



★第1章 密室殺人事件の調査

・1−1 ストロング兄弟の調査

 まるで今回の事件は、マニフィカ・ストラサローネ(PC0034)が好んで読むような推理小説の密室殺人事件だ。いわゆる不可能犯罪の匂いもするが、学院内で事件が起きてしまった以上は風紀委員会も黙っている訳にはいかない。
 早速の役割分担の結果、マニフィカはストロング兄弟(NPC)の調査担当となった。理由を率直に言えば、彼らはワスプでたまに依頼を受けるシーフのようなので、ティム・バトン(NPC)の存在が脳裏を過ぎったからだ。
(素人探偵みたい……いいえ、これは一種のノブレス・オブリージュですわ。それにしてもティムさんの様子が気になりますわね……仲間を失ったのでしょう?)

 ワスプに到着すると、ちょうどティムがウェイターとして出て来た。
「いらっしゃいませ! おや、マニフィカさんでは? 今日はどうなさいますか? 新作のホットドッグもありますよ?」
「あ、いえ、実は……。そうですわね、奥の個室をお借りできないでしょうか? ティムさんとお話がしたいのですが……」
「何やら訳ありか」とすぐに察したティムは、上司のナイト(NPC)に事情を軽く説明すると、一時的にシフトの休みを貰った。

***

 さて、ワスプ奥にある個室に通されたマニフィカだが……。
 ティムはアイスコーヒーを2杯持って来て、それぞれマニフィカと自分の席に置いた。
「ティムさん、この度は誠に申し訳ございません。シフトまで休みにして頂いて……。この借りは必ずいつか……」
「ははは、いいですよ、それぐらい。全然気にしてないです。それより……もしかして、学院で何か事件でも起こりましたか?」
 勘が良いティムは既に何かしら察しているようだ。いらない前置きをすっ飛ばして、マニフィカは学院で起こっている事件についてわかっている範囲までを率直に話した。
「なるほど……。ストロング兄弟って、どうなるかなーって思っていましたが……。その事件で死んじゃったって事ですね?」
「ええ。そのようですわね……」
「えっと? まさかだと思うけれど、僕が容疑者として疑われているって事ですか? それでマニフィカさんが調査しに来たと?」
 意外な言葉が出たので人魚姫は即座に首を振って否定した。
「いいえ、とんでもございません、違いますわよ! わたくしが知りたいのは、ストロング兄弟についての情報ですわ! ティムさんは彼らと近い位置にいたかと思われますので、もしよろしかったら、知っている限りの事をお聞きしたかったかと……」
「ああ、なるほど! そういう事ですか! ええ、別にかまいませんよ。出来る限りは協力します」
 しかし、盗賊には『沈黙の掟』に類する不文律があった事を聡い人魚姫大学生は思い出す。ティムは本当にしゃべってくれるのか?
「盗賊同士でしたわよね……?」
「ん? 『沈黙の掟』みたいな事、気にしていますか? それなら全然問題ないです。なにしろ、僕とストロング兄弟は同じ盗賊職であっても『仲間』ではありませんでしたから。そもそも一言で『盗賊』と言ってもジャンルが違います。彼らは本当に盗みで生計を立てているそりゃあもうブラックな盗賊です。それに対して僕は飽くまでワスプの依頼でのみ必要な時に正義の為に盗賊を行う義賊ですから。……そもそも、やり方から生き方まで何もかも違うんです……」
 マニフィカは意外な答えが返って来て驚く。ティムは仲間を失って傷ついているものと思い込んでいたからだ。だが、今、ティムは確かに、『仲間ではない』『彼らとは違う』と言い切った。それでも、同業者を亡くした事には変わりがないので、念のため……。
「お気持ちお察ししますわ……」
「あ、いやあ……。察して頂く程の物ではありませんね! 彼らが生きても死んでも僕はどちらでもかまわないんですよ。別に友達ですらなかったですから……。まあ、今のマギ・ジスでは人が簡単に死にますからね。それこそマギ・ジスのスラムなんかで生きていた時は、人が死ぬ事なんて日常茶飯事でしたし……」
 ティムは意外とたくましいようだ。
 人魚姫お姉さんは、その点に関しては、ほっと胸を撫で下ろした。

 さて、ティムのマインドケアは大丈夫どころかそもそも問題ですらないようだった。
 改めて事件の話をしたいのだが……。
「ティムさん? では、わたくしがストロング兄弟についての情報をお聞きしても問題はないのですわね? わたくしは彼らの人となりみたいな事も知りたいのですが……」
 ティムはアイスコーヒーをごくりと飲むと答え返す。
「ええ。何でも聞いて下さいよ。そもそも僕ら『同盟』関係じゃないですか? ストロング兄弟の情報なんていくらでもあげますよ?」
 ストロング兄弟の事なんて歯牙にもかけない様子でティムはにこやかにそう言う。
 それならそれでマニフィカも遠慮なく聞き出せる。
「そうですねえ……何から話そう……。あ、そうだ! 彼らのあだ名を知っていますか?」
「え? あだ名ですの?」
「はい。実は彼ら、ワスプ界隈では『ウィーク兄弟』なんて呼ばれていました」
「『ウィーク』? もしかして、『弱い』という意味かしら?」
「ええ、その通りです。『ストロング』は『強い』という意味もありますが、彼らは名前負けしていました。そのくせ気が強くて傲慢な奴らでした。しかも依頼もよく失敗して帰って来ていました。要するにめちゃくちゃ弱くてダメな奴らなんですよ。だから皮肉を込めて『ウィーク兄弟』なんです」
 この情報にマニフィカは少し驚いた。あの魔剣を盗み出すぐらいだからそれなりの実力者達だと思っていたからだ。
「それと? 魔剣関係で話が聞きたいんですよね? だったら、こんな話もありますよ……」
 ティムが楽しそうに続きを話し始める。
「あれは今回の事件が起こる数日前の事でした……。ストロング兄弟がワスプの依頼で剣聖の墓の裏にある森で魔物の討伐依頼を受けたんです。しかも魔物の数が多かったから、彼らだけではなく、他のメンバーも加わって討伐へ向かいました。ちなみに僕は当時、別の依頼で忙しかったのでそちらへ行っていません。この話は飽くまで人から聞いた話ですよ?
 それで魔物討伐自体は上手くいったらしいんです。しかし、その時もストロング兄弟が散々足を引っ張って死にかけた人達もいました。で、その帰り道、ケンカになった訳です。幸か不幸かその森は人気がない場所だったので、皆でストロング兄弟をぼこぼこにしたという話でした。当然、ストロング兄弟は弱いからぼこられて死にかけたそうでした。
 それから、妙な話があります。翌日以降、ストロング兄弟、特に兄の方が何かに取り憑かれたような表情でたまにぶつぶつと一人で話しているみたいだったんです。彼のその姿を見た人達は言いました。「あれはきっと、剣聖の墓の森で邪神にでも呪われたのだろう」と。
 真偽はわかりません。ですが、僕が彼と話した時は別に何て事ない普通の様子でしたが……。もしかしたら、今回の盗みも誰かに唆されたのでは? と、僕は思っています。だってあまりにも不自然なんですよ? あの『ウィーク兄弟』が伝説の魔剣を盗みに行くなんて大それたお話は。僕はてっきり、半分ぐらいジョークだと思って、当日、彼らの話を聞き流したんです。まあ、まさか本当にやるとは夢にも思いませんでしたが……」

 ひとまず、ティムが知る話はこれぐらいだろう。
 人魚姫は「なるほど、『黒幕』から事件の誘導をされたのですわね」と理解した。

 マニフィカがアイスコーヒーを飲み干し、お礼を述べてワスプを去ろうとした時……。
「マニフィカさん、ちょっと待って! これ、持って行って! 新作のホットドッグです! スピードチリ味っていうやつだけれど、おススメです! 事件の合間にでも食べて!」
「あら! ティムさん、おみやげまで頂いて申し訳ありません。ですが、ティムさんのホットドッグは美味しいですので、遠慮なく頂きますわ。ありがとう存じます」
 ティムの『同盟』になってお得な事その1。美味いホットドッグが食べられる事。

・1−2 警備員5人の調査

 萬智禽・サンチェック(PC0097)は現場の警察官達と力を合わせて被害者情報をまとめていた。被害者達の元仲間であった警備員達は喜んで協力してくれたので全く問題なく情報も集まった。ストロング兄弟に関してはマニフィカに任せてあるので、彼は殺害された警備員5人の身元を調査する事にしたのだ。

「さて……。警備員5人が誰だかはわかったのだ……。邪神との接点を発見する為、今一度、全員の情報をおさらいしてみよう……」
 以下、萬智禽がまとめた警備員5人の情報は……。

***

・ジョニー・ドイル 男 30歳 警備隊隊長 火炎の魔剣の使い手 性格は冷静だが熱い 奥さんと子ども1人を持つ 魔導剣術4段

・ロン・ルブラン 男 27歳 警備隊副隊長 風の魔剣の使い手 性格はひょうひょうとしているが真面目 独身 魔導剣術4段

・リック・チェスタートン 男 22歳 新米の警備員 土の魔剣の使い手 陽気な性格 独身 恋人がいる 魔導剣術3段

・ライラ・クィーン 女 25歳 中堅的な警備員 水の魔剣の使い手 おてんばな性格 独身 魔導剣術3段

・リズ・クリスティ 女 23歳 ほぼ新米の警備員 光の魔剣の使い手 控えめな性格 独身 恋人がいる 魔導剣術3段

 備考:全員、聖アスラ学院の出身。魔剣に関してはファングマン(NPC)の指導を受けた。

***

「ふむ。洗い出せたのはこれぐらいか……。警備員の彼らは全員魔導剣術の有段者達だ。魔剣を扱う者達なので、何かしら邪神と接点が見つかっても良かったもしれない。だが、邪神とどう接点があったのかまではわからなかったのだ。あるいはただ単に、本当に無関係であるか……。ん? 無関係なのになぜか殺さている……!?」

 ちょっと行き詰ってしまったが、数分悩んだ末、目玉の魔術師はある事を閃いた。
「ああ、簡単な事なのだ! 『過去視の水晶球』を使えばいいではないか! ここの犯行現場で当時、何が起きたかを『視て』しまえば良い。そしてその情報を皆で共有できるだけでも大きな進歩なのだ!」

 と、いう事で……。
 さっそくゾットスルー族秘蔵の水晶球に呪文を唱えて、現場の過去を『視る』ものの……。

 一瞬、ぞくっと真っ黒い何かが来て……。
 ぱきぱき……ぱっりいぃぃぃん!!
 あろう事か、水晶球にひびが入り真っ二つに割れてしまった!

「な、なんと! そんなバカななのだ!!」
 萬智禽が驚くのも無理はない。
 割れるはずがない物が簡単に勝手に割れ出したからだ。
 だが、ある事がわかった……。
「水晶球が割れる前だが……おぞましい魔術の殺気を感じたのだ。おそらく邪神の力か何かが働いたのだろう。水晶球が割れたのも……邪神の残留思念が魔力に干渉したからだろうか?
 だいたい、TM事件の時、私はこの水晶で過去を視ても球が割れる事はなかった。強化されたジェームス殿の魔力で球が割れる所まではいかなかった。だが、今回はかなり早い段階で普通に真っ二つに割れている……。今回の相手は、TM事件の時以上の魔術の使い手だという事がわかっただけでも進歩としよう」

 さて、後は……。
 他に気になる点を近くにいる協力者の警備員達に質問してみた。

「ところで、何故、一度壊して開けた錠を再密封して密室状態にしたのか? 警備員が盗賊をゆっくり締め上げる為に部屋を密封したらしいが、そんな事をしなくても一人か二人が保管室の出入り口に立って、見張っていればいいではないか?」
 年配の警備員がこの質問にはきはきと答えてくれた。
「そりゃあ、あんた、あの伝説の魔剣を封じている部屋だよ、ここは? おそらく、当時の警備員達は、『盗賊をゆっくり締め上げる為』に部屋を密封したかもしれないが、それ以上に『魔剣をどうしても外に出さない為』に部屋を密封したんじゃないか? あの魔剣が外で暴れちまったら最後だな。ありゃあ呪いを振り撒くからな……」
 萬智禽は回答の全てに納得した訳ではないが、ひとまず、なるほど、と頷く。

「もう一点いいだろうか? 保管室の監視カメラが壊れているのもおかしい。聞いた話だと、事件当夜、ブラスト(NPC)達が決闘する為に監視カメラを壊したらしい。だが、まさかブラストがここの監視カメラまで壊したという事はないだろう。それではブラストは一度、この保管室に来た事になる」
 その質問には別の壮年の警備員が力強く答える。
「そのブラストってのが、誰だかはわからねえ。だがな、事件当夜、確かに保管室の監視カメラは壊れていた。外部のネットワークから侵入されて魔導剣術学部の監視カメラのマザーコンピューターがやられていたんだ。つまり、ここまで物理的に来て監視カメラを壊さなくても、外部のネットワーク操作で『機能させない』事はできるんだよ。ま、実際にその犯人はそうした訳で不覚にも我々はそれを見破られなかった訳なのだが……」
 そのネットワークに仕掛けたのが誰だかは、今はわからない。だが、萬智禽はこの回答にしても、そうなのか、とひとまず納得しておいた。

 目玉の軍師は壊れた水晶球を念力で浮かしながら、犯行現場だった部屋を出てため息をつく。
(ふう、結局、調査は空振りに終わった訳か。だが、それならそれで警備員は捜査対象から除外してもいいという証明になる訳だな?)

・1−3 死体の調査

 犯行現場だった場所をいつまでもそのままにしておく訳にもいかないだろう。
 例えば、死体は時間と共に腐敗が進行してとても嫌な臭いが出て来る。
 鑑識が、袋の被さった死体の移動を命じる時、呉 金虫(PC0101)は動いた。

「ちょっと待ってくれ! 実は死体について思う事があるんだ。俺にも調査させて貰えないだろうか?」
「ええと、あなたはたしか、風紀の方でしたか?」
 鑑識がメガネをかけ直してそう質問する。
「いや、俺は厳密には風紀委員ではなくて飽くまで協力者なのだが。いや、な、今回の場合、ばらばら死体が出ているだろう? 例えば、ちゃんと人間6人分がその死体から出来るのか、とか調べねえといけないと思うんだが?」
「ああ、そういう事ですか。もしかしたら死体の数が合っていないのが犯人のトリック、みたいなお話ですね? ええ、かまいません。では、鑑識の私の下で調べる事になりますが問題ありませんか?」
「おう、むしろ指導をよろしく頼むぜ。俺は科学者だが法医学の専門家ではないからな。鑑識の力を借りられるのはありがたい」

 そういう訳で、呉は死体検分用の衣装を借りてゴム手袋も装着。
 さっそく死体を再現するが……。
「えっと、これが盗賊弟の頭部で……ん? 足の切断面はこちらの股で……あ、腕はこっちの胴体に付くのか?」
 と、まあ、死体をパズルみたいに組み合わせて人間の形を形成していく作業なのだが。こういう描写は苦手な方もいるかと思うので、描写するのはこの辺までにしておこう。
 で、結局……。
「どうやら、死体の数をごまかしていたとか、ないな。いないはずの人間が出て来たとか、逆にいるはずの人間がいなかったとか、そういうのはない、という事だな?」
「ですね。死体の数を使ったトリックではなかった、という事でしょうね?」

 死体の数の確認ついでに呉はさらに確認したい点もあった。
「死体の身元は確実か? 誰が誰と、死体が合致するかを照らし合わせる作業は丁寧にやったか?」
 本日、各自の活動開始時に被害者担当が割り当てられた時、皆、この鑑識の指示に従った。
 例えば、マニフィカならストロング兄弟の調査へ、萬智禽なら警備員の調査へ、と向かった訳だが……。もし、死体の身元という大前提が間違っていたら、調査そのものが間違った方向へ進んでいる事を意味している。
「はい。もちろんです。死体に残された遺品やIDカードの類から死体の身元は割れています。特にマギ・ジス警察の捜査ですと、魔跡鑑定というのがあるんですね。マギ・ジスタンの考え方では人は皆、魔力を何かしら持っています。その魔力の跡をルーペで辿る事によって、その人間を特定する事ができます」
「ああ、なるほど。科学的に言えばDNA鑑定みたいなものか?」
「そうですね。私は、DNA関連はあまり明るくありませんが。マギ・ジス大学の方ではDNAなんかも最近は研究されているようで……。まあ、我々のスタンダードは魔跡鑑定です」
 念の為、呉は遺品、IDカード、魔跡鑑定も見せて貰ったが特に問題は見つからなかった。

 死体を元の人間の姿に形だけ戻したが、このまま死体を見送って良いのだろうか?
 呉は、もう2点、ある事を思い出した。
「そういや、死体の断面を見て、ちゃんと剣の刃で切断されたものかは調べたか?」
「ええ、調べましたよ。魔跡で」
「科学捜査でも確かめていいか? 物と物が接触した時、互いの微量な分子が必ず交換されるという原則がある。つまり死体の断面を調べれば、魔剣で切られたものならば魔剣の構成成分が死体に付着しているはずだ」
「なるほど。しかし、どうやって?」
 鑑識が不思議そうにしていると呉はアイテム袋から「高性能顕微鏡」を取り出した。
「こいつを使おう!」
「なんと!」
 さて、呉が再び死体の断片を持ち出して顕微鏡で観察してみると……。
「こいつは……変だな? 確かに死体には斬撃で切られた跡がある。だが、刃物の分子が全くなかったどころか、分子の交換すらされていない?」
 鑑識は丁寧に説明してくれた。
「我々の鑑定によりますと、これは刃物で直接切られた訳ではありません。剣聖のスキルである『邪神滅殺冥府斬』(じゃしんめっさつめいふざん)が使用されました。つまり、魔剣のスキルですので、剣で直接切る訳ではなく、魔剣から発せられる魔の波動の衝撃で切断されているのです」
 これで呉も合点した。
「ああ、なるほどな? 魔力の波動衝撃で死体を切った訳か!?」

 それともう1点。
「死体の傷の活性反応は調べたか? つまり、生きている時にその傷が出来たのか、あるいは死んだ後にその傷が出来たのかも調べてみたい」
「かまいませんよ。実は私達も一度調べています。もう一度、一緒に調べ直しましょうか?」
「ああ、頼む。法医学の専門スキルはないんで鑑識指導の下やってみたい」

 死体の傷の活性具合からわかった事は……。
「どうやら、どのばらばら死体も『生きている時』に一瞬でばらばら死体にされて殺されたようだな? 死体の死後の時間経過なんかも傷の断面で同じだ。つまり、『同じ一瞬』で肉体のパーツが全てばらばらになっている。さらに言えば全てのばらばら死体が『同じ瞬間』にばらばらにされて殺されている事もわかる……」
「ですね。奇妙な事件です」

 呉はふと、ある事が思い浮かぶ。
「もしかして……。剣聖のスキルに見せかけた偽装殺人かもな? だいたい、剣聖のスキルだけならともかくミイラ状の死体まであるのが解らんしな……」
 鑑識は即座に首を横に振る。
「いいえ。これは確実に剣聖のあのスキルです。呉さんとも一緒に調べました通り、あのスキルが使われていない方が逆に不自然なんです。死体の断面、活性反応、魔跡、全てが剣聖のスキル『邪神滅殺冥府斬』が使われた事を示しています。
 それに……。ミイラ状の死体が1体出ている事は簡単に説明が付きます。あの死体を調べましたが、どうやら魔力をかなり激しく限界を超えて吸い取られたようです。私なんかの仕事ですとたまにこういう死体も見かけます。全身の魔力を極端に吸い取られると、人の死体は案外容易くミイラ化してしまうのですよ」
 これは科学者の呉には大きな発見だったかもしれない。
 つまり、盗賊兄の死亡理由は、誰かあるいは何かに極端な量の魔力を取られた事による。

 呉は念の為、死体以外の事でも確認しておきたい事もあった。
「そういや指紋は取ったか? 魔剣や錠前に残された指紋を調べるだけでも何かの手掛かりに繋がると思うが?」
「もちろんです。指紋も採取しています」
「容疑者全員からか?」
「いいえ、この短時間に全員からは集められていません。例えば、学院長に関しては今、イースタにいますのでなんとも」
「では、どの程度なら集まった?」
「被害者全員なら」
 呉は確認の為、集めた指紋も見せてもらった。
 断りを入れた上で、呉自身も魔剣と錠前と死体から指紋を取る。
 そして、わかった結果は……。
「どうやら、魔剣を握っていた盗賊兄の指紋が一致した。錠前も錠前をこじ開けた盗賊兄の指紋、そして再密封した警備員達の指紋が一致、と。警察の捜査と比べて特に進展した事はないが……。一点、わかった事と言えば、盗賊兄は死ぬ前にこの魔剣を振るっていた、という事だ。そして彼はミイラとなって死んでいる……。ううむ、一体、どういう関連性があるのか?」
 疑問は大いに残る所だが、呉の科学捜査は事件解明の為の一歩に貢献できたようだ。

・1−4 レオンとブラストの決闘調査

 殺人事件の当日に殺し合いの決闘をしていたレオン(NPC)とブラスト(NPC)。
 姫柳 未来(PC0023)は、そんな話を聞くと、彼らをどちらも要注意人物だと考えた。

 ところで、ここ数日、恋人のトムロウ・モエギガオカ(NPC)が遥々イースタから未来の元へ遊びに来ていたのだ。しばらくはデートなど満喫できるかと思いきや、殺人事件発生! やむを得ず、デートは中止になり、2人で協力して事件調査に加わるのであった。

「さて、トムロウ? わたしはレオンの方から当日の決闘の話を聞いてくるね。トムロウはブラストの方をお願い! 話を聞きだすコツは、相手の味方のふりをしてね? たぶん、あの2人はどちらも自分にとって都合の良い話をすると思うから。なるべく相手に寄り添って傾聴する態度を見せた方が話を引き出せると思うよ?」
「おうよ、任された! 未来ちゃんの為なら火の中、水の中、殺人事件の中だぜ!」

 ともかく役割分担が決まったので、未来はさっそくレオンを捕まえる。
 レオンは意外にも事件調査を真面目にやるつもりだったらしく、現場検証でもやりたがっていたのだが。
「あ、レオン! ちょうどいい所に! 実はさ、事件の調査をしたいんだけれど、一緒にやらない?」
 レオンがぴくりと反応する。
「えっと? 誰だったっすか? ああ、風紀の先輩かな? いやね、俺、殺人事件の現場でも調べようと思うんすよ? それやるすか?」
 未来がやりたい事はそれではない。誘導を考える。
「あ、ごめん! 紹介してなかったよね! 私は姫柳未来。未来って呼んでね。風紀委員会はお手伝いで来ている広報委員会の人間だよ。あと、わたしは先輩というより後輩かな? 所属は高等部だし。そうそう、レオンと事件の話をまとめようと思ったんだよね! 現場検証はスノウ(NPC)とか呉のおじさんがやってくれているみたいだから、わたし達は違う角度から事件に当たってみようか?」
 ちょっと慌てていたので、早口でそう話す未来だが、レオンは怪しんではいない。
 むしろ、「違う角度から」に惹かれたようだ。
「そうっすね! 違う角度から事件を調べれば意外な貢献ができて、解決に繋がるかもっすよね! んで、改めて俺、レオン・ハボレムね。よろしくっす、未来さん!」

 ひとまず誘導は成功だ。
 未来は体育館の裏へレオンを連れて行った。
 実は裏と言っても、日中であれば人がいる。
 裏には大きなグラウンドがあるので陸上部の子達などが活動していた。
 レオンが実は真犯人とかいう展開になったとしても、周りに人がそれなりにいるので下手な行動には出られないだろう。

 話って何すか? とレオンが切り出す前に未来から話し始める。
「ブラストって本当にひどい奴だよね。『3番目の魔術師事件』のときも、すごく大変だったんだよ」
 相手に味方だと思わせる未来の交渉戦術だったが……。
 意外な答えが返って来た。
「そうっすか? TM事件の時は大変でしたっすね? でもあんなすごい事件解決するなんて未来さん達さすがっすよ! あ、あとブラスト先輩はとても良い人っす! 俺、尊敬しているっすよ!」
 どういう事だろう?
 彼は決闘のショックで頭をぶつけたのだろうか?
 それともブラストに洗脳でもされたのか?
 あるいは風紀と未来の調査ミスなのか?
「あれ? 意外! みたいな顔しているっすね? いやいや、実は自分でもすごく意外だったんすよ! あのブラスト先輩が意外にも良い人だった事を発見した事が!」
「えっと? わたしが聞いた話だと、あなた達って決闘したんだよね? 決闘するぐらいだから仲は険悪だと思っていたけれど? どうして彼が良い人なの?」
 えっへん、とレオンはどやる。
「実は俺達、決闘の果てに和解したんすよ! 俺が本気を出して30分以上も持ち堪えた上に死なないどころか五体満足でいられたのって、ブラスト先輩ぐらいなんすよね。でね、向こうからも同じ事言われたんすよ。つまりね、俺達、引き分けだったんす。激闘の果てに引き分けたんで、もうお互いを認め合おうという話になったんすよ!」
 なるほど、と未来は一応納得した。
 だが、これでは予定がちょっと狂うが……。
「へ、へえ〜? そうなんだ? でも良かったね、ブラストと仲直りできて? で、さあ、もしよかったら当日の決闘の流れとか教えてくれる? どういう決闘だったのか、わたし、気になるんだよね?」
 ああ、とレオンも声の調子を落とす。
「そういや、その決闘ですが、誰かがスノウ委員長に告げ口したみたいで、委員長の心証をだいぶ悪くしたんすよね? その件すか、未来さんが俺に聞きたいって事は? ま、一応、俺も容疑者にされちまったみたいなんで、いくらでも答えますよ? 俺は、やっていませんからね?」
「うん、ごめんね? 辛い質問をしちゃって?」
 未来がちょっと悲しそうにそう述べると、レオンがにやりと笑う。
「いや、全然? 俺、気にしてないっすよ? 昔から悪ガキだったんで、こういう事、よくあったですし?」

 レオンは話をするのがあまり得意ではないのかもしれない。
 所々脱線したり技の擬音語を連発したりするので未来も聞き取るのが大変だった。
 どうやら聞く所によれば、決闘はお互いがムカつくという所から始まったらしい。
 当日、邪魔が入るのを恐れて、学院の監視カメラは体育館周辺を中心に基本的に全て潰したとの事。2人で協力してカメラを潰して、時には警備員まで倒したらしい。
 特にブラストがハッキングまでして魔導剣術学部の監視カメラも潰したそうだ。
 魔導剣術学部の警備員が強くて一番手ごわい為である。

 で、肝心の決闘だが、30分無我夢中だったので詳しい手順等は覚えていないらしい。
 どちらも大技、必殺技、奥義を駆使しての大激戦だったらしい。
 最後の1手でどちらも力尽きて引き分けて、笑って和解、という事だったそうだ。
 ちなみに壊したカメラは後日2人で弁償し、学院長へ自首しに行くつもりもあるという。

「ふうん……。そうなんだ? 話してくれてありがとう。とても参考になったよ!」
「いえいえ、俺も調査のお力になれたのなら嬉しいっす!」

 レオンからの決闘の話は事件解決に直接貢献するものではなかった。
 どうやら未来が話を聞く限りは、決闘は例の殺人事件の日と偶然重なっただけらしい。決闘を利用して、真犯人が例の殺人事件でトリックを放ったという訳でもないそうだ。
 ただただ、レオンもブラストも青年期特有の悩みが大爆発した結果の大ゲンカだったらしい。
 それがわかっただけでも一歩前進かもしれない。

 なお、トムロウからの報告は、あと(「1−6 味方NPCからの報告」)で届く予定だ。

・1−5 魔剣と剣聖の調査

 アンナ・ラクシミリア(PC0046)は霊的な物が苦手だ。
 こんな変なお化けがやったみたいなばらばら死体の密室殺人事件なんてごめんだ。
(安心して学院生活を送れるよう、犯人を見つけ出しますわ)
 と内心穏やかではなかった。

 アンナは剣聖の墓が怪しいと思ったようなので、仲間達に行き先を告げてから出発する。
 行く前にスノウに一言。
「スノウは解決する気、満々かもしれませんが。密室バラバラ殺人事件なんて、風紀委員会の仕事の範疇を超えていますわ。わたくしも早く解決したいので協力しますけれど、無茶だけはしないようお願いしますわよ?」
「ええ、もちろん解決するつもりよ。ありがとうアンナさん。剣聖の墓には何が待ち受けているかわからないわ。あなたもお気を付けて」

 剣聖の墓はマギ・ジスの郊外にある。
 電車やバスなんかを乗り継いでアンナはやっと墓地へ到着する。
 墓地への入場は守衛を通らないと行けないそうなので一言声を掛ける。
「すみません、わたくし、聖アスラ学院高等部のアンナ・ラクシミリアと申しますわ。実は学院で殺人事件が発生しまして、その調査に当たる風紀委員会と警察の捜査を手伝っていましてね……」
 アンナが事情を説明すると守衛はすぐに了解してくれた。
 聖アスラ学院はこの辺では知名度の高い信頼のある学校であり、職業訓練校としても有名だ。風紀と警察のお墨付きという事もあり、守衛は嫌な顔をせずアンナに協力してくれた。

 ひとまず、問題の墓を見よう。
 アンナは守衛に案内されて剣聖の墓に来るが……。
「わあ! なんと言いますか、すごい気迫に満ちていてそれでいて静謐ですわね……」
 恐れ多くもかの剣聖ハボレムの墓だ。
 巨大なレヴィゼル十字が立っていて、聖剣のレプリカも施されている。
 高価な墓石には「剣聖ハボレムここに眠る」と記されてあった。
 墓下には美しい生花も捧げられてあった。

 さて、どこから手を付けるものか?
 アンナは守衛に質問をする。
「質問よろしいでしょうか? 近日中に剣聖の式典が行われるそうですが、式典を管理しているのはどちらでしょう?」
 守衛のおじさんも嫌な顔をせずにこやかに答えてくれる。
「そりゃあお嬢さん、剣聖ハボレムの一族であるハボレム家が式典を毎年主催しているのさ。剣聖ハボレム没後、毎年、ハボレムの一族が今ぐらいの時期の命日に式典を開いているんだよ」
「となると? 例えば、聖アスラ学院関係者にもハボレムの一族はいると思いますが?」
「そうだね。ハボレムは聖アスラ学院の魔導剣術学部の教授だったからね。彼の子孫達はほぼ皆が魔導剣術学部に入学して学んだらしい。もっとも、皆、実力者達なので、裏入学とかはないだろうけれど」
「ふうむ? と、なりますと? 例えば、現在、学院にいるレオン・ハボレムなどという学生も式典には関係しているのでしょうか?」
「ん? レオン君の事かい? そうだね、レオン君のお父さんが今回の式典の主宰だったかな? レオン君もたまに手伝いに来ていたよ」
 レオンに関する情報がここで出たが、何か決定的な事がわかった訳ではない。
 アンナは別角度からも質問を続ける。
「墓所に魔剣の解除キーとなる魔術書があったらしいですわね? そのことを知っていた人はどれくらいいるのでしょうか?」
 守衛は、ううん、と首を捻ってから答える。
「具体的に何人か、は把握していないね。でも墓地管理をしている私達、そして式典を主催しているハボレム一族は皆、知っていると思うよ。ん? なんで?」
「ええ、実はその魔術書が今回、盗賊に盗まれたそうではありませんか? もしかしたら関係者から情報が漏れたのかもしれませんわね?」
 ああ、その件か、と守衛は悔しそうにうめく。
「その件はこちらの失態だったね。まさか墓掃除の兄弟が盗人だったなんて夢にも思わなかったよ!」
「彼らが盗人だったのはいつ発覚したのでしょうか?」
「魔術書が盗まれた直後さ。私が掃除係の管理もしていたので、彼らが帰った後、掃除がちゃんと行われたかどうか確認しに行ったんだ。で、掃除はちゃんとしてくれていた。それと同時に魔術書がなくなっていたんだ!」
「だったらその時に盗賊兄弟を捕まえるなり警察に届けるなりすれば良かったではありませんか?」
「ああ、したさ。掃除係を頼んだギルド、スパイダーネストにも問い合わせたが盗人兄弟は既にいなくなっていたとの事だった。警察に被害届は出したものの進展はないな……」
 アンナは、あら? と首を傾げた。
 盗賊兄弟がいたギルドはスパイダーネストだったのだろうか?
 まあ、今は、それは置いておいて……。
「でも不思議ですわね。まさかその盗賊兄弟がハボレム家の関係者という訳でもないのに情報が漏れたのですわね?」
「うん。その話が不思議なんだよね。一体、誰があんな盗人共に教えたんだろうね?」

 ところで、とアンナは最後の質問をする。
「今回の事件は何者かが魔剣を盗み出すために画策したということなのでしょう。魔剣と一緒に封印されていた何かを解放するために企んだと考えることもできますわ。さて、一体、あの魔術書にはどんな秘密があったのでしょうか?」
 守衛のおじさんは言うべきか言わないべきか迷っていた。
 だが、盗難事件を起こしてしまったのは墓地側のミスでもあるので正直に話す事にした。
「そう、あの魔剣には邪神が封印されていたという伝説も聞く。何しろ、『伝説の魔剣』などという代物だからね。だがね、魔剣に封印されている邪神は完全体でもないと聞くね。だから、今回みたいに魔術書とか幾つかの魔道具に分散して封印して邪神の力を弱めていたとも聞く……。ははは、こんな話、どうせ眉唾の怪談なんだろうけれど」
「とても参考になりましたわ。色々と興味深いお話をありがとうございました」

 アンナは墓地を去ると同時にある事が脳裏を過ぎった。
(事件の真犯人ですが、もちろん、今、生きている人が一番怪しいのは間違いないですわ。ですが、考え過ぎると怖い考えが浮かんできてしまいます……。さっきの守衛の怪談が本物であるとすれば、真犯人は……!! いえ、考えるのを止めましょう! ぞっとしますわ!)

***

 副業として夜間警備のアルバイトも許可されているジュディ・バーガー(PC0032)は、今回の事件で犠牲者になった警備員達とも面識があった。だから他人事ではなかった。せめて非業の死を遂げた仕事仲間の無念を晴らしたいと思い至る。風紀委員会と警察の合同捜査が行われる際には、助っ人を志願すべくコーテス副委員長(NPC)の下に駆けつけたのだ。

「ヘイ、コーテス! ユー、どうシマス? どこから調べマース?」
「それは、もちろん……。図書館です! 今回の事件は……『剣聖』や『呪われた魔剣』というキーワードが出ました……。これは、歴史的考察を……必要とする事件な事は……明白です!」
「オウ、イエス! 仰る通りデース! ジュディもヒストリーからアナライズするデース! デハ、ライブラリ(図書館)、お供するデース!」

 と、いう訳で2人は学院図書館へやって来る。
 グループ学習室の一室を借りて、まずは2人で手分けして文献を集める。
『剣聖』や『魔剣』に関する資料を集めて持って来ては解読を進める。
 かなりの情報量を読み込まないといけなかったので、調査前半は解読に時間を当てた。
 やがて数時間が経過し、一度、ここでお互いの情報を確認しようという話になった。

「そちらは……どう、ジュディさん? 手掛かりは……つかめましたか?」
「イエス、デスネ。ソモソモ『呪われた』魔剣という形容詞が怪しいデース! ジュディはソレ、リサーチしたデース」
「ですね。まず調べるべき所……でしょう」
 遡る事、剣聖が魔剣を手にした所から始まる。
「剣聖ハボレムは今回の魔剣持つマデは剣聖ではなかったデース! 魔剣をゲットして剣聖まで己を昇華させたデース!」
「そう、そこです! 順番が逆だったんですよね?」
「イエ―ス。コノ魔剣は邪神クロウというゴッドが封印されてたデース。剣聖はある時、この魔剣を適性者として引き抜いたデース。ダガ、コイツ、暴れ馬でしたデース! 魔剣は殺人剣デース! 剣術家の目的は殺人ではなく己の道を究める事デース!」
「そうです。ハボレムはあえて殺人剣である魔剣を手にして……自分を律していたそうです。魔剣を持つと強い殺人衝動に駆られる……でも心を強く保ち殺人には手を染めない……。そんな精神的葛藤をあえて抱え、克服する事で、彼は……最後は剣聖になったんですよね?」
「イエ―ス。ハボレムは決して最初から賢者ではなかったデース。魔剣で人をやっちまいそうになるショックを我慢したある種の変態デース!」
「ま、まあ、ハボレムが変態だったかどうかは……置いておきまして……。でも、世界大戦の時には……その殺人剣をあえて解放する事で……彼は魔術陣営の最強の将軍となりえたのでした……。戦争では、一人殺せば殺人でも、百人以上殺せば英雄になれますからね……」
 ジュディは手元から時代小説『世界大戦時代の英雄たち』を取り出す。
「ソノ描写は、ジュディの愛読書であるこのブックにも書いてあったデース。特に戦時中は、剣聖はカノ奥義『邪神滅殺冥府斬』を炸裂させたデース。このスキル、リサーチしましたが、なかなかの曲者デース。今回の事件みたく、魔剣の波動衝撃で、一瞬で人をばらばらにできるスプラッター殺人剣デース!」
 ですね、とコーテスはハンカチで汗を拭う。
 暑いからではない、恐ろしく焦るからだ。
「それにしても、今回、僕達は分が悪いです……。邪神クロウが封印された魔剣ですよ?」
「ソモソモ? クロウ、何者デース、ソイツ? ヘイ、コーテス、ヒストリーの観点から解説するデース!」
 おほん、とコーテスは咳払いする。
「邪神クロウは……世界大戦よりもずっと前の時代、遥か古代……神々の争い時代にいた神様でした。今のマギ・ジスタンは一神教ですが……昔は多神教でした。クロウも今では邪神と言われていますが……当時は真っ当な神様でした。ですが、レヴィゼル神との争いに敗れ……彼は邪神として魔剣に封印されてしまいました……」
「オウ? クロウは、昔はマットウなゴッド、デシタ? デモ、バトルに敗れて、グレて、悪い事する邪神にずり落ちたデース?」
「ま、まあ、簡単に言うとそういう事なんでしょうね……。で、その邪神クロウが封印されている魔剣を持つと……殺人衝動に駆られるので、『呪われた魔剣』という事なのでしょう……」
 どうやら、2人は段々と事件の真相に近づいているようだ。
「トコロデ、『邪神滅殺冥府斬』に質問デース! 剣聖はドウシテそのスキル編み出したデース? 剣聖がピコっと閃いたデース? ソレトモ、誰かに教わったデース? 魔剣と関係シマスカ?」
「そう、問題はそこ、なんです!」
 2人が調査を続けてみると、ある事がわかった。
「オウ! ナンテコト! 剣聖は魔剣からそのスキルを習ったデース!」
「ですね? 剣聖が閃いた訳ではなく……誰から伝授して貰った訳でもなく……。魔剣が剣聖にスキルを教えた、とこの伝承には書いてありますよ?」
「オウ、ノウ!? 眉唾デース! デスガ、モシ、本当なら、魔剣は剣聖の師匠デース!」
 コーテスはある可能性に閃く。
「そうか……。そうだったのか……。魔剣、アイテム、スキルセット、NPC……RPGなんかでよくある……!!」

 2人はおそらく事件の真相に辿り着いたのだろう。
 一度、風紀委員室へ戻ろうかという話が出たが……。
「ごめん、ジュディさん! 僕、ちょっと寄る所がありますので……先へ行っていて下さい!」
「OKヨ。シーユー、ネ!」

 さて、コーテスは何をしに行ったのだろうか?
 真相を得たジュディは風紀委員室へ急いだ。

・1−6 味方NPCからの報告

 以下の項目では味方NPC達が調査した報告書をまとめて紹介する。
 事件解明の為のヒントとなれば幸いである。

●ウォルター教授からの報告「ファングマン先生を調べました」

・私はファングマン先生と面識があります。ですので、私自らがファングマン先生から直接話を聞くというスタイルの調査にしました。

・名前がそれっぽいですが、もしかして「ライカンスロープ」に変身して剣聖のスキルが放てるのですか? と質問しました。そんなまさか、と笑って否定されました。

・剣聖のスキルではなくても同じような効果を持つ、『似ているスキル』が放たれたのかもしれません。私はファングマン先生に演習の名目で戦闘を仕掛けました。異種魔導格闘技戦(私が魔導動物召喚、先生が魔剣で)をしましたが、3本勝負があって、私が全勝でした。ファングマン先生は教育者としては人格者ですが、実は剣術家としてはあまり強くないのです。彼が件の被害者7人を同時に殺害してばらばらやミイラにするのはさすがに無理かと思います。

・ファングマン先生のアリバイは調べましたが完璧でした。

・魔物の犯行かもしれません。私がファングマン先生と戦闘演習をしている最中、研究室の学生にも調べさせました。ですが、あのスキルを放てる魔物はやはりいませんでした。もし、いるとすれば、それは『魔物』以上の存在である、『魔』が付く何かが犯人なのでしょう。

●ブロッサム警部からの報告「アスラ学院長を調べたぜ」

・アスラのアリバイを調べたが完璧だった。アリバイは崩せない。アスラが犯人ではありえないという結論に至った。

・なぜ、アスラにこだわっていたのか? 別に奴が嫌いな訳じゃないさ。その理由は『スキル』だ。俺も職務上、魔導剣術、魔導銃術、魔導柔術、魔導空手などの心得があるからわかる。一定以上の水準になると、魔導系の武術は才能がかなり要求される。特に剣聖十一段レベルのスキルとなると、並みたいていの奴には撃てない。
 しかし、この事件ではそのスキルが登場している。当然、仲間の鑑識の言う事は信頼している。と、なると、このスキルを放てる人物こそが犯人だ。最初の段階で確実にスキルが放てる容疑者は『2人』いた。うち1人はかなり昔に死亡していて、うちもう1人はアリバイが完璧だ。
 つまり、今、学院には『3人目』がいるという事だ。『その3人目こそが真犯人』だと俺は断言する。

・俺は犯人が誰だかわかってしまった。先程、俺が、犯行現場だった場所で周辺の事情聴取をしていた(「募集案内」の小説パート後半)のを覚えているか? 実は、あの時、犯人は何食わぬ顔で現場にいたんだ。だが、教育上の配慮もあるので、あえて犯人が誰かは教えない。

・今回は、大捕り物になるだろう。俺は学院に戻る前に犯人捕獲の為の罠を仕掛ける。推理編はおまえらで頼む!(警部は第2回には出席しません。第3回で帰って来ます)

●トムロウからの報告「ブラストから話を聞いたぜ」

・ブラストは戦闘狂だ。今度、決闘するという約束と引き換えに奴から情報を得たぜ。とほほ。

・ブラストの話だと、例の決闘は、お互いにムカつくから決着を着けようという話だったらしいぜ。あの日、殺人事件が学校で起こるとは夢にも思っていなかったらしいが。

・ブラスト達は決闘の邪魔をされるのがどうしても嫌で学院内のほぼ全ての監視カメラを壊したらしいぜ。特に魔剣学部の方は魔剣を使う強い警備員達から止められたくなかったので、あちらのカメラも抜かりなく壊したそうだ。一台一台壊すよりは、ネットワークから侵入する等、魔導電源そのものを破壊した物もあったようだ。(特に遠方の魔導学部のカメラなど)当然、後日2人で弁償するつもりだったらしいぜ。

・ブラストの話だと2人の決闘は引き分けだった。決闘は30分程度続いたそうだ。決着がなかなか着かない上に、本気で殺し合ったはずなのに、30分が経過してもお互いに五体満足でいられたことに驚いたそうだ。そういうわけで、色々あったが2人は決闘の果てに引き分けて、お互いを認め合う仲になったらしいぜ。なお戦闘中は無我夢中だったので詳しい手順は覚えていないらしいな。

●レオンからの報告「俺自身による俺自身についての報告っす」

・自分が疑われているみたいっすね。殺人事件があった当時に学校で決闘をしていたのだから当然といえば当然でしょうが。悪いと思ったので、自分が容疑者ではないという報告書を提出するっす。後で学校には謝って停学か強制合宿の処罰を受けに行くっす。

・率直に言えば、自分は剣聖十一段のスキルは撃てないっすね。だが、じっちゃん(ハボレム)と昔話した時、俺(レオン)が十一段になったら教えてくれるという約束だったんっすよね。ただ、小さな子どもの頃の約束であり、結局、約束は果たされる事なく、じっちゃんは死んでしまったっす。

・じっちゃんが死んだのは寿命だったっす。長年、限界を超えた戦いや修行をしていたので無茶がたたったのだろうと。衰弱死だったっすね。

・十一段のスキルが撃てないならば、『似ているスキルは撃てるか?』と聞かれれば、撃てる、と答えられるっす。例えば、自分が使う「流氷剣」や「サウザンド・ファルコン」を応用すれば『似ている殺人』はできるかもしれないっすね。ただ、この話は自分から申告しているので、自分が犯人だとは言っていないっすよ?

・ブラスト先輩との決闘は未来さんが調査した通りっす。自分は、ウソはついていないっす。皮肉にもブラスト先輩が自分のアリバイを証明してくれているっす。

・ファングマン先生とももちろん面識はあるっすが、あまり仲は良くないっす。ファングマン先生は剣聖だけでなく剣聖一族に嫉妬していたっす。ちなみに彼の家柄は特に剣術家の家系などではないみたいっすね。あまり言いたくありませんが、疑うならファングマン先生だと思うっすよ。

・『じっちゃんの太刀にしてはぬるい』というのが正直な感想っす。じっちゃんが本気で殺人剣を駆使したら、たぶん、ばらばら死体どころか死体の痕跡すら残さないぐらいに木端微塵にできるはずっすからね? 剣聖ハボレムは本当に本気に死ぬ程怖いっすよ!!

●備考

 犯行現場の調査では十分に情報が出揃ったのでスノウからの報告はない。
 図書館の調査でも十分に情報が出揃ったのでコーテスからの報告もない。
 事件の情報は既にほぼ出揃った。(一部、調査で出て来ていない情報もアリ)
 後は推理して事件の真相を解明するのみだ。

(続く)