「誰がための物語」

ゲームマスター:秋月雅哉

【シナリオ参加募集案内】(第3回/全5回)


●錯綜する想い

 神龍国ドラグニールの王宮。謁見の間に据えられた玉座にカインは頬杖をついて座っていた。高く据えられた御座の下には長身の男。落ち人とひそかに接触し、この国の内情を語った近衛騎士団のランスだ。
「ねぇ、ランス」
 ランスは沈黙をもって続きを待つ。カインは一人語りのような口調で言葉をつづけた。空気で悟れるのは、長い付き合いだからだろうか。
「僕たちはどこで間違ったんだろうね? あの子が犠牲になることを黙認した時? それともあの子にそこまで追い詰めさせるまで何もできなかったこと? あの子が生まれてきたこと、僕が次期国王だったことから、間違ってたのかな」
 カインは狂気に染まってはいるが決して暗愚ではなく。邪知暴虐な性情だったわけでもない。彼の隣に彼にとっての光があったころは、若いながらも聡明で慈悲深い、国王にふさわしい人格者だったのだ。
「民を苦しめたいわけじゃない。でもあの子をないがしろにするのが当たり前だなんてことは認めない。王としても、兄としても。民が平等に幸せになる世界に、どうしてあの子の居場所だけが認められなくて、どうしてそれが当たり前だと、役に立てたことを感謝しろ、なんていわれなくちゃならない?」
 人々が当たり前を望んだ中、王弟フィリエルは当たり前に当たり前をあきらめた。カインにはそれが許せない。それだけが、許せない。
「君は落ち人と接触したね?」
「……あぁ」
「なら、王宮に彼らを招く。僕の名代として、レジスタンスの拠点と、落ち人のもとへいってくれ」
 ランスの意志の強そうな眉が片方だけ上がる。
「レジスタンスもか?」
「彼らとて近衛騎士団をはじめとする騎士たちに戦いで勝てるとは思っていないさ。もともとはほとんどが農民だし、彼らが求めるのは『平和』だ。交渉によっては内乱も近々終息するだろうさ」
 君と落ち人には、交渉の中立者として席についてほしい。そういうカインの目はランスを見ていない。玉座の右脇、彼の弟が控えていた場所を見ていた。
「許せないことは、ある。けれど許さなければ……許し合わなければ、平和を願ったあの子があまりに哀れだ」
 間違っていると、気づいてはいるけれど。認められるかは別の話で。それでもカインは、どこかに進まなければいけないことだけは知っている。
 国が荒れれば民の心が荒れる。それはフィリエルの望みに反する。
 国が揺らげば敵国が攻めてくる。命が喪われることも、フィリエルの望みに反する。
 この国で生きることを許してやることができなかったドラグニールの民は、誰もが。
 前に進んでいるつもりで停滞したままだった時間を、動かさなければいけないことを悟る。遅きに過ぎたかもしれないけれど。気づかないままでいるよりはきっとましなのだ。

●萌芽のころ

 落ち人を巻き込み、弟を取り返そうとした国王。けれど誰かを代わりにした世界で、彼の『大事』は決して笑わない。そして、その誰かを呼び戻すためにきっとまたいなくなる。
 それを知っていて、カインは気づかないふりをした。駄々をこねる子供より、権力がある分たちが悪いと自覚しながら、非道を尽くした。
 力に対し、レジスタンスも反発で戦った。己の正義を謳いながら、己自身が小さな声で自分の罪を責め続けた。
 龍の国に芽吹くのは、果たして幸福か、破滅か。
 キーとなるのは、知らぬ間に世界を巻き込むことになった落ち人たちだ。
 運命の輪は、ここにきてようやく回り始める。


【アクション案内】

m1.王の招待に応じる
m2.王の招待が信じられず独自にドラグニールを調査する
m3.その他

【アクション選択解説】


m1を選んだ場合、レジスタンスと国王の和解について話し合うことになります。中立の立場・レジスタンス側など、それぞれの立場から自分の本心を告げることが大事です。

m2を選んだ場合は独自でもう少しドラグニールについて調べることができます。フィリエルの人となりやこれまでの経過などフィリエルの元部下から話を聞くことができるでしょう。

m3ではそのほかの動きをすることができます。元の世界に戻る方法を探す、ランスの手伝いをするなど。どうしてその行動をとろうとするか明確な指針があると活躍できるでしょう。

【マスターより】


物語も佳境に入ってきました。原点となる一次創作からも、当初の予定からも全く違うストーリーになってきています。
皆様に楽しんでいただける、そして誰かの笑顔が見られる終わりにしたいと思っています。今回もよろしくお願いいたします。