「英雄復活リベンジ・オブ・ジャスティス」
本当の最終回・真の最終回・裏の最終回(後日談)
サブタイトル「語り継げ! 不滅の英雄伝説」
執筆:燃えるいたちゅう
出演者:熱きガーディアンのみなさま
1.英雄崇拝 日本。 ガーディアンたちの活躍により、デッドクラッシャーズ日本支部は壊滅させられ、日本の街には平和が戻りつつあった。 だが、人々の心が晴れやかなわけではない。 デッドクラッシャーズによって家族を殺された人々は、いまでも心の傷に苦しんでいる。 ガーディアンとデッドクラッシャーズとの戦闘の最中にも、多くの人々が巻き添えになって傷つき、倒れていった。 戦闘の傷跡は、街のあちこちに、そして人々の心の中にいまでも残っている。 それに、日本支部が滅びたといっても、まだ日本の各地には超甲人の残党勢力がテロ行為を繰り返している。無論、超甲人たちの数は激減しているので、既存の警察組織や自衛隊で十分対応できるものではあったが。 遠い昔にデッドクラッシャーズたちの先祖がやってきたデッド星の王、デッドロードは滅び、デッド星人たちが地球を攻撃する可能性はなくなった。 だが、地球全体からデッドクラッシャーズがいなくなったわけではない。 いつ、海外のデッドクラッシャーズが日本に侵入をはかるかわからない。 侵入があったとき、果たして日本の行政は十分な対応をできるだろうか。 日本の中の闘いが終わったとはいえ、人々の心は決して晴れやかになったわけではないのだ。 常に不安を抱えて、人々は生きていた。 戦闘バカ的側面の強いガーディアンたちに対する反発。 と同時に、海外からのデッドクラッシャーズ侵入に対する強力な防壁になるのではないかという期待を、ガーディアンたちに抱く人々も少なからず存在した。 問題を認識しながらも、人々の心は必要悪としてガーディアンを認めてもいいような方向に傾いていったのである。 そんな、人々の「ガーディアンはまあいなくなっても困るかな」という傾向が極限化した存在は、街中で堂々と英雄崇拝を宣伝してまわっていた。 日本英雄教会である。 「みんな! ガーディアンは英雄だ! いや、神だ! 私たちは、彼らに受けた恩義を決して忘れてはならない! 強さがなければ平和を維持することはできないんだ!」 「讃えよー! みんな、ガーディアンを讃えよー! そして、私たちも彼らに従い、強くなろうではないか! みんな、修行だー!」 「修行だー!」 教会のメンバーたちは、ガーディアンたちを「必要悪」ではなく「絶対正義」として肯定し、本人たちには無断で神格化して、キャラクターグッズを売り出すまでになっていた。 人々は、日本英雄教会に対してはガーディアン以上に「怪しい存在」と感じていた。 「あれが英雄教会か。あっ、俺の人形をまつっているぞ。全く、本人に断りもなく、よくあそこまで勝手なことができるよなあ」 妹たちとともに街を歩いていた、ホウユウ・シャモンが呟く。 ワッショイワッショイと神輿を担いで歩く英雄教会の会員たち。 神輿の上には、抜き払った斬神刀を天高く振り上げた、ホウユウの木造人形が据えられてあった。 「ああいうのをみると、ひいてしまうぜ。なあ?」 ホウユウは妹たちに語りかける。 「いいではありませんか。私たちも、お兄様を讃える心では彼らと同じですし」 ミズキ・シャモンがいった。 「いいって、本当に!? あんなのがか!?」 ホウユウは驚いていった。 「お兄様のファンたちが同人活動をしているのだと思えばいいですわ。アニメ好きの若者が同人誌を発行しても、著作権無視といって本気で怒るのは無粋というものでしょう?」 クレハ・ミズキが珍しく饒舌に語る。 「同人活動って、あそこまで堂々とやられたら鼻につくぜ。完結しなかったマンガの最終回を勝手に描いたらヒットして、出版社に抗議されたっていうのと同じだ」 ホウユウは眉をひそめている。 「兄ちゃん、うちら、兄ちゃんを応援する人たちはみんな仲間だと思うで!」 アオイ・シャモンも英雄教会の活動には、ホウユウの他の妹たちと同様、暖かい目を注いでいる。 兄妹たちが言い合うのを知らずに、会員たちは街中で英雄崇拝を叫んでいる。 「みんな、ホウユウは斬神刀の力でデッドロードを葬ったんだ! ガーディアンそれぞれの千光太刀の力を結集して、実体を持たないデッドロードの精神を『斬った』んだ! ホウユウは、東洋武術の極意を極めた、戦士の中の戦士、師の中の師なんだ! グレイト・ホウユウ!」 「グレイト・ホウユウ!」 会員たちはみな、神輿のうえの人形に向かって敬礼する。 「ずいぶんほめ殺しするんだな。師の中の師って、俺はそんな柄じゃないぜ」 ホウユウは苦笑していった。 と、そのとき。 「む!? あそこにいるのは、本物のホウユウ様では!!」 「ああっ、本当だ!」 「ホウユウ様ぁ!」 会員たちがホウユウに気づいて、いっせいに押し寄せてきた。 「しまった、気づかれたぞ。逃げよう!」 駆け出そうとしたホウユウの裾を、ミズキが引いて制止する。 「お兄様、逃げる必要はありませんわ。みんな、お兄様に感謝しているんですもの」 「おおっ、あなたたちはホウユウにつき従って加護の力を与える、聖女シャモンシスターズ!」 会員たちはホウユウの妹たちにも賛嘆の声をあげ、たちまちのうちに取り巻いた。 「聖女だなんて、そんな……。私たちは、お兄様の妹に過ぎませんわ」 クレハが、頬を赤くしていった。 「へへーん! おい、あんたら、兄ちゃんに軽々しく触れたらあかんで! 用があるならあたしたち妹を通すんや!」 アオイは鼻高々だ。 「アオイ、やめろ。悪ノリしてこいつらに構っていたら、ろくな目にあわないぞ。結局こいつらは『ありがた迷惑』で、勝手な奴らなんだ」 ホウユウはアオイをたしなめたが、とき既に遅し。 「ホウユウ様、どうぞ神輿の上に!」 「我らの本部にきて下さいませ!」 会員たちはホウユウを取り囲み、そう簡単には逃げ出さない状態になっていた。 「囲まれたか。実力行使でこいつらを蹴散らすのはたやすい。だが、俺は、むやみに人を傷つけたりはしないんだ。ドクター・リスキーは、戦士としての俺の良心を信じて、解放してくれたのだから!」 ホウユウは、ドクター・リスキーの渋い顔を思い出しながらうなずき、こういった。 「いいぜ。本部に行ってやろう。でも、神輿は勘弁してくれよな」 「お兄様、せっかくですから神輿に乗りましょう!」 ミズキが兄の言葉を遮るようにまくしたてる。 「えっ? いや、俺はそこまで……」 「兄ちゃん! 是非乗ってえな! あたしたちも兄ちゃんの晴れ姿をみたいんや!」 アオイもホウユウをせきたて、会員たちも是非是非というので、ホウユウはしぶしぶ神輿の上に乗った。 「さあ、本物がいらっしゃったんだから、こんな人形はもう要らない!」 会員たちはホウユウの人形を神輿の上から落として、金槌で粉々に打ち砕いてしまった。 「わあっ、何もそこまでしなくても……。お前たちが讃えている、俺の人形なんだぜ? 何だか過激な奴らだな」 ホウユウは会員たちの過激な行為に眉をひそめながら、神輿に乗って運ばれてゆく。 「ホウユウ様ぁ!」 会員たちは感激のあまり絶叫した。 「兄ちゃん!」 アオイも感激して叫ぶ。 「お兄様、素晴らしいですわ! 私たちはこのときを待っていました!」 ミズキは感動のあまり涙さえ流していた。 「うーん、俺の妹たちも教会に賛同するとは……」 ホウユウは複雑な気分になりながらも、神輿に乗って本部に運ばれてゆく。 ホウユウをみる、一般市民たちの視線が冷たかった。 「くっそー、本当にこれでいいのか?」 ぼやきながらも、ホウユウは教会の本部にたどりつき、本部長と対談する。 「ようこそ、グレイト・ホウユウ」 「その名前はやめろ!」 「失礼しました。では、マスター・ホウユウ」 「それもやめろ! 俺はまだ師になれる器ではない!」 ホウユウの抗議も、本部長は途中までしか聞かなかった。 「まあまあ。あなた方ガーディアンが偉大な存在であることは、人々はみな承知しております。特にマスター・ホウユウ、あなた様はガーディアンたちの中でも特に優れた存在。かのデッドロード打倒も、あなた様のお力がなければなしえなかったことでしょう」 「そんなことはない! みんなの力があってこそ俺は勝利できたんだ」 ホウユウが怒鳴っても、本部長はニコニコするばかり。 その愛想のよさには、独善が感じられた。 「マスター・ホウユウのお人柄は確かですな。これほどの偉業をなしとげながら、なお謙虚でいるのですから。どうでしょう、このまま我らの教会にとどまり、我らを導いては頂けませんでしょうか? もちろん、精一杯のおもてなしをさせて頂きます。聖女シャモンシスターズについても同様です。実をいうと、私たちの教会にまともに接触して頂けたガーディアンは、あなたがはじめてなものですから」 「当然だ。誰がこんな怪しいカルト集団にまともな接触をするか! 招かれても、もてなされても御免だ! 必死で闘ってきた俺たちをバカにしているようにも感じられるんだ、お前たちは!」 ホウユウは激昂した。 「お兄様、どうか抑えて。お兄様のファンたちなのですから」 ミズキが兄に囁く。 「これがファンだと? 何をバカなこと……」 言葉の途中で、ホウユウは本部の備品に目が止まり、茫然とした。 「な、何だこれは? 何でこんなに武器を用意する必要がある!」 本部の壁には、ライフルやバズーカといった、戦場で使用する兵器がびっしりとかけられていた。 「ホウユウ様。我らは、あなたたちガーディアンに教えられたのです。力がなければ、平和を維持できないということを。もしまた日本を襲うものどもがあれば、我らはあなたたちの志を継いで、いのちがけで闘うつもりなのです」 「平和のために闘うって、本当か? お前たちは、信用できない。どこか勝手だし、それにこの武器は、銃刀法違反だ!」 「お兄様、それをいったら私たちも……」 ミズキがあわてていった。 「うるさい! とにかく銃はダメだ!」 「かしこまりました。さすがホウユウ様。早くも闘い方について指導して下さる。銃のような飛び道具で闘うのは卑怯ということですな。闘うにしても武士の誇りを大切に、とは、まさに目からウロコの教え。我らも、ホウユウ様のように刀で闘うことにいたします。銃は処分しましょう。ですが、剣道の心得ある者は少ないゆえ、是非ご指導のお願いいたします」 「アホか! そういう問題じゃない!」 ニコニコした表情を変えない本部長に、ホウユウはいらだった。 「銃はダメって、そしたらあたしはどうなるんや?」 アオイが愛用のバズーカを手に目をぐるぐるまわしている。 「ご心配なく。シスターズ様は例外です。何しろ、ホウユウ様の最愛の妹たちなのですから」 「はあ? 何やそれ。まっ、いっか。兄ちゃん、あたし、こいつら気に入ったで! 兄ちゃんの正義を理解せん一般市民の連中よりも、よっぽどマシやで! あたし、前からの夢やったんや。兄ちゃんをまつる神社をつくりたいって。こいつら、あたしの夢をかなえてくれると思うんや! 兄ちゃん、こいつらのいう通り、教会にしばらくいよう!」 アオイがホウユウにだだをこねてくる。 「おお、神社ですか。いいですね。さっそくつくりましょう」 本部長の顔がますますゆるくなる。 「神社だって? 何を……うーん、でも、こいつらは、放っておくとどんな過激なことをしだすかわからないな」 ホウユウは考え直した。 武装した教会は、一歩間違えば破壊団体と化す。 一度そうなれば、アーマードピジョンよりもたちが悪くなることは目にみえていた。 「仕方ない。ガーディアンを代表して、俺がこいつらをコントロールしよう。確かに一般市民の俺たちに対する目には冷たいものがあるしな。必要悪といわれるのも複雑な気持ちなんだ。だが、しばらくしたら俺たちは故郷に帰らせてもらう。それでいいか?」 「構いませんとも。ホウユウ様、あなたが去るまでに、我らはあなたの教えを全て記録し、修行のうえでの聖書を作成したく思います」 本部長は喜んでいった。 「聖書だって? それこそ同人誌か」 呆れるホウユウ。 「本部長様、その本は私が書きますわ。以前から、今回の闘いでのお兄様の活躍を、一冊の本にまとめたいと思っていたのです」 ミズキがいった。 「おお、シャモンシスターズの一員であるミズキ様がじきじきに書いて下さるとは、これ以上の光栄はありません。是非お願いします」 本部長は顔を紅潮させて、手もみをしている。 「さあ、ホウユウ様、それにシャモンシスターズ様、これからしばらく、どうぞ我らに道をお示し下さいませ。我ら、ホウユウ様たちのために、寄付金を極限まで集めて、豪華な邸宅でおもてなしさせて頂くことを約束しましょう。マスター・ホウユウ、ばんざーい!」 本部長とともに、会員たちもみな万歳を始めた。 「ばんざーい!」 「はあ、本当にこいつら、大丈夫か? まあ、暴走しないようにうまくさばいてやるか」 ホウユウはため息をつきながらも、これも世界のためと、居座る覚悟を決めた。 2.光ある道へ ホウユウたちが教会に加わって、数ヶ月が過ぎた。 ある日の、教会での演説。 「あー、みんな。よくきてくれたな。俺はホウユウ。マスター・ホウユウだとか、ホウユウ様だとか呼ぶ奴がいるが、ホウユウと呼んでくれれば結構だ。みんな、俺がいった『光』を心の中に抱いて生きているか?」 「『光』は我らの心の中に。ホウユウ様ぁ!」 ホウユウの呼びかけに、会員たちが絶叫して答える。 「『ホウユウ様』はやめろといっただろ。まあいい。俺がいった『光』とは何か。みんな、答えるんだ!」 「はい、『光』とは、信義を重んじ、人倫を重んじ、生命を重んじ、明日に続く平和な社会を築こうとする人々の希望の光のことです!」 「そうだ。みんな、『光』を抱いて生きろ。『光』を曇らすようなことはするな。それが俺のメッセージだ!」 ホウユウは熱く叫ぶ。 「はい。マスター・ホウユウ、ばんざーい!」 会員たちは感極まって騒ぎたてる。 「『マスター・ホウユウ』はやめろといっただろ。まあいい。こういう俺の教えを心に刻んでいる限り、こいつらが破壊活動に走るようなことはないだろう」 ホウユウは満足げにいった。 「うう、お兄様。すっかりノッていらっしゃる。りりしいですわ」 ミズキが感動のあまり涙をぬぐいながら、兄に一冊の本をさしだす。 「うん、これは何だ?」 ホウユウは本を開いていった。 「『ガーディアン戦記 武神装攻ホウユウ・シャモン』だって!? 俺のことが書いてあるのか」 ホウユウは驚く。 ミズキの書いたというその本には、ガーディアンとデッドクラッシャーズとの闘いが、ホウユウ中心の視点で描かれていた。 「はい。締め切りに追われながら一生懸命書き上げました。オフセット印刷で200部出版して即売会で売るつもりです」 「即売会か!? 値段はいくらだ」 「1,500円を考えています」 「おいおい。文字だけの本で1,500円か。表紙も地味だし、これで、そういう即売会で売れるかなあ。200は無謀なんじゃないか?」 「でも、部数を下げるともっと値段があがります」 ミズキがそこまでいったとき、英雄教会の本部長がわりこんできた。 「おお、これは素晴らしい。さっそく教会御用達の出版社に持ち込み、商業出版として流通させましょう」 「ええっ、出版社!? どこですか」 ミズキが目を丸くしてたずねる」 「泣く子も黙る民迷書房です。教会からの出版物は、全て民迷書房から刊行させて頂いております」 「民迷書房だって!? あんなインチキくさいところから出版するのか」 本部長の答えに、ホウユウは腕組みをする。 「民迷書房から出版された教会関係の書物は、全てベストセラーになっております」 「それは、会員に購入を義務づけてるからだろう」 「ホウユウ様は全てお見通しなのですね。ミズキ様の本は、我らの聖書として、会員に1人3冊の購入を義務づけます。さらに、全国の市町村にある図書館に献本を……」 「だーっ! そんなことしなくていい!」 ホウユウは叫んだが、本部長はもう決めていた。 後日、民迷書房刊『ガーディアン戦記 武神装攻ホウユウ・シャモン』は稀代のベストセラーとして、日本の出版界にその名を残すことになる。 ベストセラーなのに、一般市民にはほとんど知られないという結果ではあったが。 ホウユウとミズキ、そして本部長が刊行される書物の件で話し合っていたとき。 「兄ちゃーん! 神社ができたで! みたってやー!」 アオイが演説場に飛び込んできた。 「おお、ついに完成したか!」 ホウユウも何となく嬉しくなって、妹が建てたという神社をみにいこうと腰をあげたとき。 「待ちなさーい! あなたたちは、許せませーん!」 絶叫とともに、姫柳未来が演説場に乱入してきた。 「うん、未来か!? 久しぶりだな」 「ホウユウさん! 私は今日抗議にきました!」 ホウユウの言葉など聞こえないかのように、未来は興奮している。 「おお、セーラー服の舞姫、聖なる女子校の女神、姫柳未来様だ!」 「未来様ぁ! ホウユウ様たちとともに、是非我らにお導きを!」 会員たちは未来の登場に感激して、両手を振り上げて叫んだ。 「うるさい! 何がお導きよ! 勝手に人の写真をバラ撒いて!」 未来は超能力で街中から集めてきた、大量のビラを壇上に叩きつけた。 未来が回収したビラには、制服姿の未来が街の駄菓子屋さんで買ったアイスキャンデーを舐めている姿を撮影した写真が、大判で掲載されていた。 未来の写真の脇には、『セーラー服の舞姫、現代に降臨! 人々の心に光をともして歩きます! みなさん、聖なる女子校の女神を讃えましょう!』という内容の文字が記されていた。 「何だこりゃ!? こんなもの、いつの間に配布してたんだ!?」 ホウユウは目を丸くする。 「ホウユウ様のお耳には入れず、申し訳ありませんでした。未来様もまた、ホウユウ様に劣らぬ名声の持ち主でして、当協会といたしましては、是非その活動をバックアップしたく考え……」 「何がバックアップよ! よりによって人のプライベートの写真を無断で撮影してバラ撒くなんて!」 「未来のいう通りだ。お前たちは間違ったことをした。そして、未来、俺もまた、教会にいる者として謝ろう」 ホウユウは未来に頭を下げる。 「わかってくれればいいの。でも、これをみて!」 未来が指を鳴らすと、光に包まれた、傷だらけの人々が空中に現れ、壇上に横たえられた。 「な、何だ、この人たちは! このひどいケガはいったい!?」 ホウユウは驚いていった。 「教会の街中での活動に罵声を浴びせた一般市民に、『正義の邪魔をした』といって教会の人たちが暴行を加えた結果がこれよ! ホウユウさん、あなたはこんな行為が許されると思っているの?」 未来は声を震わせて詰め寄った。 「何ということだ。誰がこんなことを!? いや、誰がやったということじゃない。お前たち、いったい俺の教えをどう解釈すればこういうことができるんだ!」 ホウユウは声をあらげて会員たちに怒鳴った。 「ホウユウ様、この者たちは『光』を汚そうとしたのです」 本部長がいったとき、ホウユウは一喝した。 「がー! 『光』を汚したのはお前たちだ! ふざけるな! お前たちは俺の教えを破った!」 ホウユウのあまりの剣幕に、会場が水を打ったように静まりかえる。 「いいか。もう2度と、無断で人の写真を撮ってバラ撒いたり、理由が何であれ人に暴行を加えたりするんじゃない! これは俺の教えだ! いいな」 「ははあ。わかりました。ホウユウ様、我らの未熟さを許したまえ。ああ、どうかどうか」 本部長を始め、会員たちはみな平伏して、床に額をこすりつけて詫びを述べる。 「わかればいいわ。でも、約束して。これからこの教会の人たちは、慈善団体として、街のゴミ拾いとか、福祉施設のお年寄りの世話とか、各地の復興作業を手伝ったりする、ボランティア活動を始めるの。私も一緒にやるわ。いいでしょう?」 「おお、未来。それはいいな。みんなもすぐ実行するんだ!」 ホウユウは未来の提案に胸をうたれていった。 「ははあ。おおせのとおりにいたします。さすれば、未来様も我らとともにいて下さるとのこと。誠に感激に存じます。よし、みんな、いまから街の掃除だ! ゴミの分別だ!」 「ははあ、未来様! ボランティアの女神! 都会に咲く一輪のバラ! その心は我らとともに! さあ、支度だ!」 会員たちはみな、ほうきやモップ、ちりとりを持って、いまにも街に飛び出さんばかりだ。 「お兄様、私もやります!」 クレハ・シャモンもまた会員たちに加わる。 「よし、俺もやろう! アオイ、神社は後だ! お前も手伝え」 「あたしも掃除を!? まっ、兄ちゃんがいうならやるしかないか」 兄の言葉に一瞬戸惑ったがアオイだが、結局は笑顔を浮かべて承諾する。 「よし、いくわよ! 今日から英雄教会は生まれ変わったわ!」 未来もまた、腕まくりして掃除の態勢に入った。 「さあ、みんな、掃除だ、ボランティアだ! しかしモップをみると誰かを思い出すなあ」 ほうきを肩に担いで街道を進みながら、ホウユウは戦友の一人を思いうかべた。 あいつは、彼女は、いまどこでどうしているだろう? 3.熱血ゴッドクロス軍団 アメリカ、砂漠の中央にある軍事基地。 「おんどりゃー! おんどりゃー!」 アメリカ軍がガーディアンのレッドクロスを分析してつくりだした装甲ゴッドクロスを装着した兵たちが、気炎をあげて訓練に従事している。 ゴッドクロスは量産化に成功したが、レッドクロスにあった危険性を取り除いている分、その力は制限されたものだった。 「うおりゃー! ぐおりゃー!」 無人戦車やロボット兵士たちと模擬戦闘を行い、必死に訓練に明け暮れる兵たちを指揮する、一人の女がいた。 「オッケー! 気合一発、ガーントレッツゴー!」 ジュディ・バーガーが兵たちの戦闘にたって、ロボット兵士に飛びかかってゆく。 「あちょー!」 ジュディのタックルを受けたロボット兵士が一瞬で爆発。 ちゅどーん! 「す、すごい。あれがガーディアン、そしてレッドクロスの力か」 「でも、ジュディ隊長はガーディアンの中でも第一級の実力者なんだ。南太平洋の孤島で再生超甲人機を連続で倒した伝説はあまりにも有名だ」 兵たちはみな、畏敬のまなざしを隊長に向けるのだった。 「さあ、みんな、訓練はココマデ! 最初のミッションデス! メキシコを占拠したデッドクラッシャーズが国境を侵そうとしてイマス! 平和を守るため、出発デース!」 ジュディは手を振り上げて叫んだ。 「いきなり実戦だって!? まっ、隊長と一緒だから大丈夫か」 兵たちは戸惑いながらも隊長にあわせて手を振り上げ、オーと叫びながら輸送用ヘリに乗り込む。 ヘリが出発。 兵たちは、アメリカとメキシコの国境にたどりついた。 「デッド、デッド、デッドサボテン〜! ゆけ、ぶっ殺せ、突き刺せ〜!」 巨大なサボテンのような胴体から二本足を生やした超甲人機デッドサボテンが超甲人たちに号令をかけ、アメリカの国境を侵そうとしているところだった。 「デッド〜! デッド〜!」 超甲人たちのバズーカ砲が、高圧電流の流れる鉄条網を破壊する。 既に、国境守備隊は壊滅している。 「ストーップ! きみたち、許せません! アイキャントフォーギブユー! いきますよ、ミッションスタート、レディーゴー! ファイア!」 ジュディは雄叫びとともに超甲人の群れに飛び込んでゆく。 作戦も何もなく、ただ突っ込んでタックルをかけてゆくだけだが、超甲人たちは次々に爆発していった。 ちゅどーん、ちゅどーん! 「よし、みんな、隊長に続け! アメリカの、いや、世界の平和を守るんだ!」 ゴッドクロスを装着したグリーンベレーたちも、クロスから光を放たせながら敵のただ中に突っ込んでゆく。 その勢いのあまりの強さに、超甲人たちは唖然とさせられるばかりだった。 「ええい、何をやっているか! こんちくしょうめ、死ね!」 デッドサボテンは激昂して、手にした巨大なサボテンをジュディの頭に叩きつける! バコン! サボテンで殴られたジュディは頭がクラクラとなったが、それでもめげずに敵に襲いかかった。 「熱い拳! アメリカンドリームパ〜ンチ!!」 ジュディの拳がすさまじい勢いで突き出され、デッドサボテンの頭部にめりこんだ。 ズガッ! 「う、うおお!! 負けるか、ガーディアンめ! トゲトゲシャワー!」 ジュディの拳をモロにくらったデッドサボテンは頭をクラクラさせながらも必殺技を放つ。 デッドサボテンの全身から針が飛び出して、ジュディに襲いかかった。 「ノー!」 針はジュディの額にも刺さり、流れる血が彼女の視界を塞ぐ。 「ノーノー! アイムネバーギブアップ! カモントゲトゲ!」 流血に目を覆われながらも、ジュディはやみくもに叫んで、敵の胴体にタックルをしかける。 「う、うおおお〜! デッド〜!」 「ヘイ、地獄への招待状デス!」 ジュディとデッドサボテンは砂漠の砂の中を組み合った状態で転がり、互いが互いを殴りあうデスマッチの状態となった。 「みんな、隊長にばかりやらせるな! いくぞー!」 「おー!」 ゴッドクロスを装着したグリーンベレー部隊は次々に超甲人と激突、破壊してゆく。 ちゅどーん、ちゅどーん! 巻き起こる爆発とともに、砂漠に熱い砂が舞い上がった。 「ネバーギブアップ! ワタシハケッシテマケマセン!」 デッドサボテンのトゲが全身に突き刺さり、血まみれになりながらもジュディはなおも相手を殴りつける。 「ぐ、ぐおお……これがガーディアン、いや、アメリカの力か!」 ジュディのすさまじい勢いに、デッドサボテンは徐々に追いつめられていく。 「いつの日か、世界に真の平和を! ガオー!」 ジュディは天に向かって叫んだ。 彼女の闘い、そしてアメリカの闘いはまだまだ続くのである。 4.極地の激闘 ロシア、シベリアの、タイガと呼ばれる針葉樹林の中で、ガーディアンとデッドクラッシャーズの激闘が行われていた。 ガーディアンは、フレア・マナとアクア・マナ。 デッドクラッシャーズロシア支部からは、超甲人部隊を束ねる超甲人機デッドトレインの姿があった。 「デッド、デッド、デッドトレイン〜! ロシア支部にたてつく不遜なガーディアンを狩りたてろー! ブッポ〜」 電車の車両のような姿のデッドトレインが、その巨体を滑らせ、タイガの森林を蹴散らしてゆく。 「キー! ガーディアン、死ね!」 自動小銃を乱射しながら針葉樹林を駆けまわる超甲人たち。 「ね、姉さん、やはり、いきなりロシアにくるのは無謀だったのでは!?」 樹木の影に身を隠し、息を弾ませながらフレアが姉に語りかける。 「ロシア支部は強大だ。早急に叩く必要がある。それに、無謀ではない。勝算はある。もうすぐ、ロシアの民兵たちが援護にきてくれるはずだ」 フレアのすぐ側に身を隠しているアクアは、冷静な口調でいった。 「でも、このままじゃ援護がくる前にやられてしまう! あの超甲人機をみたかい、姉さん?」 「何をびびっている? そんなに怖いならとっとと日本へ帰れ、アクア」 「そういうわけにはいかないよ。今度こそ、本当に姉さんを失うことになったらたまらないからね。ボクはどこまでもついていく、だから無茶はしないで、姉さん」 フレアは姉に叫んだ。 「静かに! みつかるぞ。私は無茶などしていない。いくぞ」 「えっ、姉さん、まさか討って出るのかい?」 フレアが目を丸くしたとき、アクアは既に樹木の影から駆け出していた。 アクアの手には、南京珠すだれが握られている。 「このロシアの極寒の気候は、私にとっては何でもない! 氷着!」 アクアはレッドクロスを装着。 氷の結晶が全身をとりまく、水氷の戦士が姿を現した。 「見つけたぞ。死ねー!」 ダダダダダ アクアを発見した超甲人たちが自動小銃を乱射する。 「何だ、その攻撃の仕方は! 数撃ちゃ当たるで弾丸を無駄に消費して何とする!」 アクアはたくみな動きで銃弾を避けながら、超甲人たちに襲いかかる。 「はー、南京珠すだれ!」 「ぎゃー!」 アクアの振りおろしたすだれに打たれ、超甲人は悲鳴をあげて爆発、四散した。 「くそー、いい度胸だ!」 アクアが息つく間もなく、他の超甲人たちから弾丸の雨が降り注がれる。 「わー、姉さん!」 みていられなくなったフレアが駆け出す。 「姉さんがこの氷の地で倒れるようなことがあってはならない!」 フレアはレッドクロスを装着。 通りすぎると凍りついた地面から湯気がたちのぼる、紅蓮の炎の戦士が姿を現した。 「いくぞ、フレイムフィールド!」 フレアはスペシャルテクニックを発動。 フレアがかざした両手から、すさまじい炎の塊が現れ、超甲人たちに向かって宙を滑ってゆく。 「わー、熱い〜!」 炎を浴びた超甲人たちが悲鳴をあげながら爆発する。 ちゅど〜ん! 「よし、覚悟を決めたようだな、フレア」 「姉さん、援軍はいつくるの?」 戦場で互いに協力しあいながら闘う姉妹。 そんな姉妹を、遥か次元の彼方からみつめる存在があった。 「フ……アクア。あれ以来、お前とのコミュニケーションは不足していたな。だが、俺は忘れたわけではないぞ。お前がまだデッドクラッシャーズに属していたときの、あの屈辱を!」 どす黒い声が次元の狭間で呟かれる。 だが、そんな声には全く気づかず、姉妹は死闘を繰り広げる。 ちゅどーん、ちゅどーん! タイガのあちこちに巻き起こる爆発。 「デッド〜! こしゃくな姉妹め! ひき殺してくれる!」 デッドトレインがその巨体を姉妹に向けて走らせる。 まるで、みえないレールが姉妹に向かって敷かれているかのようだ。 ミシミシと、樹木をはね飛ばしながら進むデッドトレイン。 姉妹に衝突するかに思えた瞬間。 「とおっ!」 姉妹は手を取り合って、天高く跳躍した。 「くっ! 方向転換しなくては!」 方向転換が苦手なデッドトレインは焦る。 「よし、いまだ!」 アクアはデッドトレインに向けて攻撃の構えに入る。 だが、そんなアクアを、一人の超甲人が、樹上からライフルで狙撃しようとしていた。 他の超甲人からアクアを守って闘っているフレアも、樹上の敵には気づかない。 「フフフ。クロスの隙間を狙えば! 死ね、アクア!」 超甲人は、笑いながら引き金を絞ろうとしていた。 そのとき。 「フフフ。アクアめ、超甲人に囲まれ、超甲人機に闘いを挑もうとしているいまこそチャンスだ! くらえ! 式の鳥!」 次元の狭間に潜む武神鈴もほくそ笑みながら、式の鳥を放った。 「けーん!」 式の鳥は鳴きながら、アクアの股間をかすめて飛び去る。 鳥の翼がアクアの腰を覆う装甲に触れて、大きくめくりあがらせる。 装甲の下の下着が、超甲人たちに丸見えとなった。 「なっ!? うわっ!」 アクアは顔を真っ赤にしながら、大股開きで地面にひっくり返った。 ずきゅーん! アクアが倒れると同時に、ライフルの弾丸がアクアの頭部があった空間をかすめ過ぎた。 「くそっ、外した!」 樹上からライフルを撃った超甲人が舌打ちする。 「お前! よくも!」 樹上の敵に気づいたフレアが、炎の剣を投げつけた。 「うっ、ぐわー!」 剣を胸にくらった、樹上の超甲人が悲鳴をあげて爆発する。 「は、はあはあ、何だ、いまの鳥は!? でもおかげで助かったぞ」 腰の装甲をもとに戻して、アクアが立ち上がる。 さすがの彼女も、超甲人に下着をみられたとあっては赤面の状態である。 「恥ずかしかったが、きっと神様が私を助けてくれたんだろう」 「ああ、きっとそうだよ、姉さん」 フレアもアクアに駆け寄って、いう。 「く、くっそー! 恥をかかせるつもりが、かえって生命を助ける結果になるとは!」 次元の狭間で、武神は舌打ちする。 だが、心のどこかで「もういいだろう」という気持ちもあった。 「アクア、戦士としてのお前は立派なものだ。だが、忘れるな。お前のその容赦のない性格が、誰にどんな災いをもたらしているかわからないことを!」 武神の言葉も、アクアには届かない。 「俺は、もうお前に関わっている時間はない。ほかにもやることがあるんだ! またいつの日か逢おう!」 その言葉も、アクアには届かなかった。 だが、アクアはそのとき、武神のことを思い浮かべていたのである。 「ふっ、いまの艶姿、お前にみられたら私は本当に顔をあげられなかっただろうな、武神。お前はたいした奴だったぞ、次元の狭間にデッドアーマーを封印して世界を救ってしまったんだからな!」 「姉さん、どうしたんだい。突然武神のことを思い出して」 フレアがたずねる。 「何でもない。あいつは、エリカがよかったようだ。いくぞ、ブリザード・シュート!!」 フレアの追求をかわすかのように、アクアはスペシャルテクニックを発動する。 アクアの振りかざした両手から猛吹雪が発生し、超甲人を、デッドトレインを、タイガを包みこんだ。 「デ、デッド〜! 車輪が凍りついて動くことができん!」 デッドトレインがうなる。 そのとき。 「アクア、そしてフレア! 遅れてすまなかったな。シベリアをデッドクラッシャーズから解放する我らコルホーズが助太刀するぞ!」 デッドクラッシャーズと闘うロシアの民兵組織の兵たちが、アクアたちの援護に現れた。 「おお、助かるぞ。しかしコルホーズとは農場のことでは? まあいい。みんな、闘え! 指揮は私がとる!」 アクアははじめてあった兵たちを早くもしきり始めた。 「了解。いくぞー!」 兵たちはアクアの指揮のもと、凍りついて動けない超甲人たちに攻撃をしかける。 「う、うわー、ハラショー!」 奇声をあげながら超甲人は爆発。 「お、おのれ〜! 除雪車はまだか?」 歯ぎしりするデッドトレイン。 「姉さん、何だか、いきいきとしているね。ボクも、できるだけのサポートはするよ」 熱心に指揮をとるアクアを茫然としてみつめながらも、フレアは気をあらたにする。 日本での闘いが終わっても、姉妹の闘いは終わらない。 やがてロシアは解放されるだろう。 そのときは、姉妹は次の戦場に向かうのだ。 戦場こそが、フレア、というよりアクアを生かせる場なのだから。 5.ピジョン解体 アーマードピジョンの事務スタッフたちが会合を開く、電脳チャット空間。 いまそこでは、ミスター・ゼットが去った後の体制について話しあいがもたれていた。 「それでは、新しい代表はリーフェ・シャルマールということで。異議はありませんか?」 「異議なし!」 スタッフたちは全員一致で、ガーディアンのリーフェをピジョンの新代表にすることに同意した。 「みんな、支持をありがとう。自信があるわけではないが、私として精一杯のことをさせてもらおう」 リーフェ・シャルマールは新代表就任の言葉を述べる。 アーマードピジョンの代表と契約を結ぶ傭兵の立場であるガーディアンがピジョンの代表となることについて、異論がなかったわけではない。 だが、ミスター・ゼットの後をついで組織をまとめられる人材は、リーフェ以外にはいなかった。 「ミスター・ゼットが代表をひいたことで、ガーディアンとは契約のし直しになる。一部のガーディアンは日本を出て外国などで活躍しているようだが、彼らが新しい契約に応じなかったとしても、彼らを追いかけてレッドクロスの返還を迫る余裕は、いまの私たちにはない。いま、私たちがなすべきことは、この日本社会でアーマードピジョンが生き残り、市民権を得るために、組織を根本から改革することだ」 リーフェは淡々と述べた。 「その改革とは、やはり……」 スタッフの一人が問うた。 「そうだ。一度そい気を解散し、当面の間は綜合警備会社として登記し、ガーディアンを社員として雇用する」 「そんな契約に彼らが応じるでしょうか?」 「応じなければ、彼らは組織から放り出されて、一人で社会の攻撃を受けることになる。それに、警備会社の仕事としては、超甲人との戦闘なども含まれるだろうし、戦闘好きな彼らにとって嫌な仕事でもないはずだ。まっ、以前よりは退屈になるだろうがな」 リーフェはピジョンの解散と、株式会社化を本気で進めるつもりでいた。 経営については、ホビー・デルタ社のドクター・リスキーにアドバイスをもらい、業務提携も行う予定でいた。 ホビデ社の再建で忙しいドクター・リスキーだったが、リーフェの要請には快く応じてくれた。 警備員としてなら、ガーディアンの実力を知る多数の会社から仕事の依頼がくるだろう。 安易な期待といえばそうだが、組織を早急にたてなおす必要があるし、リーフェも内心は必死だった。 会議が終わり、スタッフがチャット空間から消えてゆく。 一人残るリーフェ。 「武神。本当は、私一人で頭脳労働をするのはこころもとないのだ。こんなときに、お前がいてくれれば。なぜ、お前は科学者ではなく、戦士の道を選んだのだ? 会社が成功し、資金がたまれば、私はいつの日か、次元の狭間のお前を探しにゆこう」 リーフェはひとりごちた。 そのとき。 「やめろ……そんな必要はない……」 どこからか、声がチャット空間に響いてくる。 「これは、武神か!? どこからアクセスしている?」 驚くリーフェに構わず、武神は言葉を続けた。 「リーフェ、お前には感謝している。だが、だからこそ、このまま眠らせてくれ。いまの俺は、正確には武神鈴の影だ。俺、武神のオリジナルは、キャリーベースに冷凍保存されている。精神のない抜け殻として、な。この義体に宿る精神は、オリジナルから分離されたものだ。いまの俺は、鎧に染みついたデッドロードの妄執と同じ存在に過ぎない。だからそっとしておいてくれ、リーフェ」 「そういうわけにはいかない。エリカがきみを待っている」 「エリカの件は……片をつけておく」 「なっ、どういう意味だ!?」 「お別れだ、リーフェ。いま、俺は次元の狭間を漂うデッドアーマーと闘いを繰り広げ、半ばアーマーと融合しているんだ。俺を呼び戻せば、デッドアーマーもこの世界に戻ってくることになる……」 「いや、私は諦めない。いつの日か、きっと!」 「お前一人の技術で、俺のいる場所にくるには、何十年も時間がかかるし、そのときにはお前は老いていて、俺を探す気もうせているだろう。じゃあな。さらばだ」 「本当にそうなるかな? 待っていろ、武神!」 リーフェがいったとき、既に武神はアクセスを切っていた。 「武神……無限の空間で、永遠に闘いを続けるつもりか? だが、俺はお前を忘れられないのだ!」 リーフェはいいながらも、いまはピジョンの組織改革を優先すべきだと気づいていた。 「私はきっとこの組織をたてなおし、お前のところにもいつか行ってみせる! 待っていろ、武神!」 熱い決意を胸に秘めるリーフェ。 リーフェの願いは、かなうだろうか? その答えは、未来にならなければ、わからない。 6.それぞれの道 放課後の女子校。 「お掃除、お掃除〜あら?」 廊下にモップをかけていたアンナ・ラクシミリアが、外の光景に目をひかれた。 「よーし、掃除だー! ボランティアだー!」 ホウユウの号令のもと、日本英雄教会のボランティアたちが、姫柳未来と、ホウユウの妹たちとともに道路のゴミ拾いにいそしんでいたのだ。 「あらあら。私も、負けてられませんわ」 闘いが終わった後、門限破りと謎の大金振込がバレて、両親に外出禁止を申し渡され、仕方なくガーディアンを引退して掃除に明け暮れていたアンナだったが、久しぶりに仲間の姿をみて、口もとがほころんでいた。 「私には仲間がいましたわ。いつも私はモップばかりかけていたけど……でも!」 アンナは校舎の外に駆け出した。 「うん? アンナ!」 「アンナさん!」 ホウユウと未来が声をあげる。 「おお、あれは清浄なる清掃の天使! アンナ・ラクシミリア王女ではありませんか!」 教会の会員たちも歓声をあげる。 しかし王女とはいったい!? 「みなさん、私も微力ながら掃除のお手伝いをいたしますわ。門限はありますが、できるだけやらせて頂きますわ」 アンナは会員たちとともに、道路にモップをかけ始める。 「アンナ、気をつけろよ。こいつら、きみの写真を撮って、無断でバラ撒くかもしれないぜ。まっ、そんなことがないように俺がきつくいっとくけどな」 ホウユウが笑っていった。 「アンナ! これからも、みんなで一緒に日本をよくする活動をしようね!」 未来が目をキラキラさせていった。 「はい、もちろんです。外出禁止がとければ、海外にも掃除に行くつもりです!」 アンナはいった。 「さあ、あともうちょっとで今日は終わりにしよう。そして、俺たちは明日、アオイが建ててくれた神社をみにいく。未来はどうする?」 「私は明日、お台場に行きます。約束があるので」 「そうか。じゃ、もうちょっとだ。がんばろう!」 「おー!」 会員たちと、そしてアンナが声をあげて、熱心にモップをかけ始めた。 まさに、地域に貢献する、微笑ましい光景であった。 「私はいつか、地球全体をお掃除しに行きます。それが私の夢なんです!」 アンナは、力強い声で呟くのだった。 京都、五条大橋。 白装束姿で死者を弔う、一人の巡礼者の姿がそこにあった。 巡礼者の名は、マニフィカ・ストラサローネ。 先日の闘いで、この五条大橋にて、マニフィカの部下である半魚人のギルマンたちはデッドペンギンの大群と闘い、敵の自爆に巻き込まれて死んでいった。 誠に、尊い犠牲であった。 「ギルマンたちよ。安らかに眠れ。そして、他の多くの犠牲者たちも」 橋に花を置き、手にした鐘を鳴らすマニフィカ。 ち〜んこ〜ん 鐘の音が、橋に響きわたる。 マニフィカによって亡骸を運ばれ、遥かな海の底に葬られたギルマンたちの心にも、鐘の音はきっと届くだろう。 「わらわは、これから日本各地に、闘いの犠牲者を弔う巡礼の旅に出るぞえ。闘いは虚しい。多くの犠牲者が、闘いのたびに生まれる。誰もその犠牲者たちのことをかえりみないのか? わらわは、どうしても気になるぞえ。散っていった者たち、土の下、海の底に眠る者たちのことが……。わらわの巡礼の旅には、戦士が闘いを振り返り、いたずらな闘いをいましめる、そんな意義もあるのだぞえ」 橋を去り、旅に出るマニフィカの後ろに、数人の白装束のギルマンたちの姿があった。 彼ら、生き残りのギルマンたちも、主を追って巡礼の旅に出るのである。 「ぴぎゃ〜! マニフィカ様、海の女王様!」 「ぴぎゃ〜! 犠牲を忘れぬ、慈愛の女王様!」 ギルマンたちは口々にマニフィカを讃えながら、その後を追っていくのだった。 「ふっ、マニフィカ。死者を忘れぬその心意気。戦士たちの中でも一等上でお見受けいたしました」 橋の出口に立っていた一人の僧が、かぶっている深い編み笠の影から、マニフィカが通りしなに声をかける。 「そなたは、何者ぞえ?」 「京都を守護する者の代表です。マニフィカ殿、おぬしの活躍、日本の神々も感嘆し、感謝しておりました」 僧は渋い声で答えた。 「では、伝えて欲しいぞえ。神々は何のためにあるのか? 雲の上から全てをみているなら、人の生命が無駄に失われぬよう、配慮すべきぞえ」 マニフィカの言葉に、僧は無言だった。 少し歩いてからマニフィカが振り返ると、もう僧は消えていた。 「ふっ。神々が……神々が何だというのだぞえ。わらわは、失望したぞえ。この世界をただ統べるだけなのか? 彼らは」 やるせない虚しさを覚えながら、マニフィカは巡礼の旅に出てゆく。 闘いに伴う犠牲を実感として胸に深く刻みこんだ彼女は、海の女王として、一層の成長を遂げたのである。 いつの日か、彼女の成長は、海の王国の繁栄の中で、平和を維持する大きな力につながっていくだろう。 マニフィカが歩くのは、自分自身の内省の道でもあったのである。 7.亜細亜博士の声 東京、多摩丘陵。 フルメタルに乗って丘陵の上空を飛ぶ、エルンスト・ハウアーの姿があった。 「ふん、ピジョン解散、綜合警備会社設立じゃと? どこまでバカなんじゃ、あいつらは! もうつきあってられんわい。なあ、フルメタルよ? ハッハッハ!」 フルメタルの端末に入った通信を解読して、エルンストは鼻で笑っていた。 「フルメタルよ、わしにはわかるぞ、おぬしは始めから中立でいたんじゃな。ガーディアンが本当に正義かどうか見極めて、それから力を貸すつもりでいたんじゃろう。じゃが、わしに力を貸すのはなぜだ? 確かにこれまではガーディアンとは別の勢力として、どちらかというと中立的な存在だったわい。じゃが、これからわしがどうするつもりか知っているか? そこまでわしにつきあえるかな、フルメタルよ?」 エルンストの饒舌など聞こえないかのように、フルメタルは淡々と飛行し、丘陵の一点に着陸する。 「ここは!? デッドクラッシャーズ日本支部の基地があったところじゃのう。ガーディアンの奴らがめちゃくちゃにしてしまって、情報収集もできなくなったところじゃ」 エルンストは、フルメタルを出て、丘陵に降り立った。 「誰もいないのう。基地の爆発に巻き込まれて死んだ超甲人は無数におるじゃろうが」 エルンストは丘陵にある瓦礫をちょっと掘り返してみたりしたが、何も出てこない。 「のう、フルメタル? ここに何が……」 そのとき。 エルンストは感じ取った。 この地に残る、残留思念を。 死してなお、誰かに何かを伝えたくて残っている魂の存在を。 「誰じゃ? わしにいいたいことがあるなら、いうがよい」 エルンストは、耳を澄ませた。 「私は……亜細亜だ……。私の罪を、最後に、明かしておきたい……」 その声は、レッドクロスの開発者とされる亜細亜博士のものだった。 エルンストにとっては、はじめて聞く声だったが。 「何じゃ? 罪などと、だいそれたことをいいおる。誰もが罪を抱えておるわい。天に向かって自分は清廉潔白だなんていう偽善者が何人いるかのう?」 そういうエルンストは、まさに罪の塊ともいえる、暗黒の存在だった。 だがエルンストは、『罪』というかたちでは、自分のこれまでの行為をとらえていないだろう。 そんなエルンストの、どこか軽々としたところに、残留思念はひかれたのかもしれない。 「私は、南太平洋の孤島にある未知文明研究所で、古代アトランティスの文明に研究をしていたときに、海底の遺跡から発掘された物質の一部に、人間の精神に反応する未知の成分があることを発見した。その成分をコピーすることは不可能だったが、私はわずかにあったその成分の研究に没頭した。すると、あるとき、あの黒ずくめの鎧の騎士が現れたのだ。そして、私に、海底の遺跡からその騎士が掘り出したという、大量の精神反応物質、そう、レッドクロスを託した。あの騎士が何をやりたかったかはわからない。私はレッドクロスの構造を分析し、超甲人機や、光と闇のクリスタルを生み出すヒントをつかんだ。超甲人機も、クリスタルも、もともとはレッドクロスの一部を改造したり、成分を抽出して集めたりしたものなのだ。つまり、私は無からレッドクロスをつくりだしたり、完全にレッドクロスをコピーして数を増やすなどのことは達成できなかったのだ。あれがこの世界とは別の並行世界で生み出されたことを考えれば、当然だったろう」 「おやおや、長い話を始めるわい。しかし、デッドナイトがあんたにレッドクロスを渡したとは、驚くべき話じゃ。なぜナイトはそんなことをしたのじゃろう? それに、なぜあんたはデッドクラッシャーズに協力するようになった? ナイトに脅迫されたのか?」 「違う。デッドナイトは、レッドクロスを私に託した後は、接触を絶った。ときどき研究所の周囲に現れて研究の成果を見守っていたようだが、それだけだ。私の研究をどこかでかぎつけたデッドクラッシャーズの幹部が、私の家族を人質にとって、私に協力を要請したのだ。最初はやむをえず要請に応じた私だったが、自分のしていることが恐ろしくなって、ひそかにアーマードピジョンに連絡をとり、グレイト・リーダーにレッドクロスの半分を渡したのだ。研究所にアーマードピジョンからの被験者がきたこともあった。やがて、事故が発生した。私が残りのレッドクロスを改造してつくりだした超甲人機のプロトタイプが、暴走を始めて、研究所を破壊し、研究者を殺害したのだ。アメリカ政府はレッドクロスの研究を封印し、私を幽閉しようとしたが、私は既にデッドクラッシャーズの基地に運ばれていた。そして、日本支部で、私はずっと研究を続けていたのだ……。悪の組織にとらわれた私の家族、娘が生きていることを信じて! だが、エリカを逃がしたことを組織に追求されたとき、私の眼前に、惨殺体となった娘が横たえられたのだ。私は悲嘆にくれた。あの娘、エリカに、私は、殺されているだろう娘の面影をみていたのかもしれない。だから、エリカには生きていて欲しかったのだ……」 「家族を人質にとられて、というが、あんた自身も研究にとりつかれていたんだろう? そういうところも正直に認めなくてはいかんな」 「ああ、そうだ。発見当時から、私はレッドクロスがアトランティスを崩壊に導いた技術と関係があると感じていた。だから、研究を続けるのが危険だとも知っていた。だが、私もまた、同じだったのだ、エリカがひかれていた、あの武神という男と同じなのだ。科学者というのは、ときに狂った研究にとりつかれるものなのだよ」 「なるほどな。あんたはずっと、地上にとどまって全てをみていたんだな。で、それであんたの話は終わりかい? これで成仏できそうか?」 「私のしたことは、許されることではない。だが、誰かに話しておきたかったのだ。全ての謎の真相を、ガーディアンたちは知らずに闘っているようだったし、それに、エリカ……あの子に伝えて欲しい。武神のことは忘れて、新しい幸せをつかむのだ。彼女が、彼女が元気に生きていてくれれば、私は満足だ。これで私は、自分の娘のいるところにいける……」 最後の言葉とともに、思念は消え失せた。 「やれやれ。話してもらったところで、あいつら、ガーディアンどもは自分の力のルーツになんぞ関心はない。あんたも、よりによって、ずいぶんとアホな奴らにクロスを託したのう、亜細亜博士よ? エリカに伝えることは、伝えておくわい。では、いくか、フルメタル? おや?」 エルンストが振り返ると、丘陵の上に着地していたフルメタルはどこかに消え失せていた。 「エンジンの音もしないということは、テレポートか? まさか、武神のところに行ったんじゃないじゃろうな? やはり、今後のわしには協力できないということと、亜細亜博士の話を検証した結果、クロスの処分はとりあえず置いておくことにしたのかな、奴は。全く、機械に知性なんぞ持たせるもんじゃないのう。得体がしれなくて寒気がするわい、って得体がしれないのはわしも同じかのう。ふぉっふぉっふぉっ」 エルンストはほくそ笑みながら、宙に浮き上がる。 「フルメタルなんぞなくとも、わしは自分の力でエリカに逢いに行けるわい。それ!」 エルンストは宙をはしった。 8.エリカの憂鬱 横浜の公園にある、丘の上にエリカはたたずんでいた。 夕暮れの光の中で、その顔は憂いに沈んでいる。 「武神さん……もう帰ってこないんですか? 探しに行きたくても、私はどうすればいいかわかりません」 エリカの頬に、涙が滑り落ちる。 次元の狭間に飲み込まれていった武神。 好きだった男への未練は、募るばかりだった。 「エリカ……悪かったな。いま、楽にしてやるぞ」 次元の狭間でエリカを見守っていた武神鈴が、静かな声でいった。 「記憶の操作を行う。俺の記憶を消して、ついでに、デッドクラッシャーズに与えられた忌まわしい記憶も消してやる!」 武神は、禁断の記憶操作に踏み入ろうとした。 だが。 ちゅどーん! 次元の狭間で爆発が起きる。 「なっ、攻撃だと!? どういうことだ。デッドアーマーか? いや、あれは……フルメタル!?」 武神は愕然とした。 次元を越えてやってきたフルメタルが、武神の乗り込むグレートピジョンロボの残骸に攻撃をしかけていたのだ。 「フルメタル、俺を悪しき存在と認めたか!? いや、俺と半分融合しているデッドアーマーの破壊が狙いか? あるいは、その両方か!」 焦りながらも、武神はエリカの記憶を操作する装置を始動させようとする。 だが。 「動かない! どうしてだ!」 「武神くん……きみには失望したよ。人の記憶を操作することにまで手を出すなんて……」 「この声! 亜細亜博士か! 霊だと? そんなバカな!」 武神は愕然としたが、すぐに、その声が装置の中からすることに気づいた。 「どうなっているんだ? いつの間に仕掛けを!」 「武神くん、ドクター・リスキーは私の友人だった。私は残留思念でいる間に、彼に頼んでおいたのだよ。きみがつくりだしたマシンの中に、私の人格が宿った装置を組み込んでおいて欲しいとね。きみはいつか暴走し、そのときにエリカのことで悩んで、彼女の記憶を消そうとするかもしれない。私も科学者だから、きみのやりそうなことにはすぐ思い当たったんだ」 「くっ、残留思念だと? そんなものは信じない! だが現実に、この装置の始動をお前は妨害している! グレートピジョンロボの中のどこにお前はいるんだ? 完全に融合していて除去できないとでも?」 「武神くん、エリカの記憶を操作することは許さない。もうこれ以上、彼女は身体を誰かにいじられるべきではないのだ。たとえ無惨な記憶、哀しい記憶であろうとも、それは彼女のものだ。誰かに、自由にされていいはずはない」 「はっ! あんたは、おそらく、エリカの中にあるあんた自身の記憶が消えるのが嫌なんだ! そうだろう!」 「やれやれ。きみとエリカが結ばれていいのかどうかは、微妙なところだな。だが、みたまえ。エリカはきみのことを思いきったようだ」 亜細亜博士の声に促されて、武神はエリカの様子に目を注いだ。 「武神さん……これで一応の区切りにします。安らかに眠って下さい」 エリカが、丘の上に立てたもの。 それは、武神の墓標だった! 「エリカ、俺を死んだと考えたか? まあそれも当然だが。しかし公園に墓をつくるというのは……まあ、そんなことはいいか」 武神は呟く。 「そうか、俺を死んだと考え、吹っきれたなら、敢えて記憶を消す必要もないか。よかったな、亜細亜博士。あんたの望んだとおりの結果になって。もうすぐ、エリカのいる世界との接続も切れてしまう。また接続できるようになるには、気の遠くなるような時間がいるな」 「エリカはきみを吹っきれたかもしれない。だが、きみはどうだ?」 「俺は……いいんだよ。俺みたいな狂った科学者に女なんて必要ないんだ!」 「やれやれ」 「ああ? おい、いま俺のことを笑わなかったか?」 だが、武神の呼びかけに、亜細亜博士の声は返答を返さない。 装置は急に沈黙してしまった。 「何だよ、もう。しかし、あのフルメタルは、やはりデッドアーマーを破壊したがっているようだな。奴に乗り込めないか、くそっ」 武神は舌打ちした。 武神の葛藤も知らずに、エリカは丘の上の墓標に手をあわせている。 「エリカ、ここにいたか。武神は死んだとみなすのかのう」 エルンストが宙を飛んでやってきた。 「エルンストさん。私は、武神さんが本当に死んだとは、信じていません。でも、こうしなければ次に進めない気がして……」 「そうじゃ。おぬしは、まだ若い。忌まわしい記憶は忘れて、いなくなった男のことも忘れて、自分のこれからのことを考えるのじゃ。亜細亜博士も、おぬしには元気でいて欲しいと願っておったようじゃからのう」 「そうですか。博士のこと、私も忘れていません。博士のお墓も……立てなきゃ。でも、その前に、明日、私はお台場に行きます。約束があるんです。エルンストさんはどうするんですか?」 「わしかい。わしは、これから政党をつくるわい。その名も全日本鋼鉄党じゃ。いままでのフルメタルの判断基準を参考にした政策を実行するわい。キャッチフレーズは『フルメタル的清く正しい社会』!! ちなみに対アーマードピジョン法には賛成じゃ。悪いがのう」 「はあ……それじゃ」 何といっていいかわからなかったエリカは、とりあえずエルンストに別れを告げる。 「おう、期待しとれ! フルメタルはどこかにいってしまったが、わしは理念を実現するからのう!」 エルンストは夕焼けの空に浮き上がってゆく。 政治活動もいいもんだと思いながら。 9.うちゅうのトリスティア そして、エリカがエルンストと話した翌日の午後1時、お台場。 「トリスティア、本当に行くの?」 「うん。ボクは、もっと大きな世界で自分の力を試してみたいんだ! あのとき、宇宙の大きな存在を感じたからね」 未来の手を握って、トリスティアは熱い口調で語る。 トリスティアの脳裏には、デッドダゴンの艦内から宇宙に放り出され、デドン将軍とともに漂流していたときに遭遇した、宇宙平和維持軍の巨大戦艦ブライトの姿があった。 戦艦ブライトのような存在を生み出した、広大な宇宙。 その中で、トリスティアは、ガーディアンとして活躍してみたいと思っていた。 「トリスティアさん、私たちのこと、忘れないでね」 未来とともに見送りにきていたエリカが、トリスティアに笑顔で語りかける。 別れの場面が、涙ではなく、笑顔で飾られる。 そんな展開には、トリスティアの人柄も原因としてあったし、また、トリスティアがこれから宇宙に旅立っていく光景に、大きな夢が感じられるということもあった。 「ボク、宇宙に行っても頑張るよ。だから2人とも頑張ってね」 「うん!」 トリスティアの言葉に、未来とエリカは強くうなずく。 「あっ、迎えがきた!」 お台場上空に、巨大な円盤が姿をみせた。 「あれが、ミスター・ゼットのいっていた、宇宙平和維持軍からの迎えの宇宙船だよ! ボクはあれに乗って、宇宙平和維持軍の傭兵として、銀河を股にかけて大冒険をするんだ」 トリスティアは、胸がわくわくするのを覚えた。 しゅわあああああ
「さよなら、みんな! 元気でね」 光に包まれ、浮上しながらトリスティアはいった。 「うん、トリスティアも元気でね!」 「宇宙からも手紙を送ってね!」 未来とエリカも、トリスティアはいった。 やはり涙は流れない。 ひたすら笑顔であった。 円盤に吸い込まれて、トリスティアが消えていく。 「さあ、私たちも、自分の道を歩みましょう! 私はボランティアを。エリカさんはどうするの?」 「私は、レスキューチームとして、戦場で傷ついた人を救助する仕事を続けようと思います。だから、海外に行きます」 エリカは、未来に答えた。 「そう、がんばって」 「はい。未来さんも!」 熱い握手をかわし、二人は別れた。 「エリカさん……もしかしたら、戦場で看護をしているときに、兵隊さんの誰かと結ばれるかもしれないわね。そしたら、武神さんのことは本当に忘れられるかも」 未来は、エリカのことを何となく思いながら、ホウユウたちの待つ神社に向かっていった。 「武神さん! 私は、自分の道を歩みます! あなたも、きっと、別世界で自分の道を歩いていると思います! お互いがんばりましょう!」 深呼吸して、エリカはレッドクロスの力で宙に上昇してゆく。 空は、どこまでも晴れ渡っていた。 10.永久の眠り 「総選挙の結果、自衛党の滅入氏が新しい内閣総理大臣に選ばれました! 新しい内閣は、対アーマードピジョン法を廃案にすることを公約しています! アーマードピジョンはいまや綜合警備会社にかたちを変え、対アーマードピジョン法での規制になじまなくなっていることも理由としてあるでしょう! 一方で、新しく誕生した全日本鋼鉄党は、死人のような一部の支持者によって何とか議席をひとつ確保できましたが、まだまだこれからといったところです!」 テレビのニュースがやかましい、横浜のホビー・デルタ本社内部。 デッドクラッシャーズの攻撃によって崩壊した本社ビルはドクター・リスキーによって再建され、再び世界的な医療機器メーカーとして営業を開始せんとしていた。 いま、ドクター・リスキーは社内の冷凍睡眠装置の前に立っている。 装置の中には、多数のガーディアンたちの姿が。 綜合警備会社の警備員として働くことに抵抗を覚え、かといってそのままで社会からの攻撃に耐えられない傭兵たちは、コールドスリープに入る道を選んだのだ。 「安らかに眠れ、戦士たちよ。いつの日か、お前たちの力が必要とされる日が、きっとくる。そのときまで、眠り続けるのだ。安全は、私が保障しよう」 一群の冷凍睡眠装置を包んでいるのは、頑丈な核シェルターだ。 遠い未来に、この建物が崩壊したとしても、シェルターの内部は保存されるだろう。 誰かの手によって睡眠がとかれたとき、彼らの次の闘いが始まるはずである。 デッドクラッシャーズとの闘いよりも、遥かに激しいかもしれない闘いが。 ドクター・リスキーは、そのときがくることを信じて疑わなかった。 「レッドクロスは、この世界のバランスを狂わせると同時に、それ自体が世界を調整する作用も持っている。遠い未来に、世界全体のバランスが崩壊する何かが起きたとき、クロスの力は再び必要とされるだろう。必要悪として、な」 リスキーは、テレビに目を注いだ。 テレビ画面には、日本英雄教会が建設したという、ホウユウ・シャモンを現人神としてまつる、巨大な沙門神社の姿がうつしだされていた。 神社の中には、ホウユウと、妹たち、そして未来の姿があった。 みな、勢揃いして記念撮影をしている。 「ホウユウはうまくやっているようだな。教会を無害な団体に変え、そのうち故郷に帰ることだろう。結構なことだ」 リスキーは、遠くをみる目で、窓の外をみた。 次元の狭間。 そこには、武神鈴とデッドアーマーがさまよっているはず。 「しかし、亜細亜君も勘が鋭いな。武神のマシンに自分の人格を組み込んでおけとは! 微調整のすんでいなかったグレートピジョンロボがあれだけの力を発揮したのも、亜細亜君が全体をひそかにコントロールしていたせいかもしれんな。まあ、あの男の残留思念が現れたときは、さすがのわしもぞっとしたがな」 しかし、 武神はいま、何をしていることやら。 亜細亜博士のいったように、この世界でのことに後始末をつけようといろいろ画策しているのだろうか? ドクター・リスキーは、遠い星の彼方にも思いをはせる。 宇宙に旅立ったというトリスティアは、元気にやっているだろうか? いつの日か、トリスティアが地球に帰ってきたとき、自分はもうこの世にいないかもしれない。 まあ、そんなことは、どうでもいいか。 大切なのは、世界が平穏で、人々が笑顔を失わずに、過ごしていけることだ。 ガーディアンたちの熱い魂が、曲がりなりにも世界を救えたなら、それはそれで結構なことだ。 後は、歴史家が判断することだろう。 ドクター・リスキーは、悟った境地になっていた。 それから、何年か経った。 宇宙のどこかの、ブラックホールで。 「待てー! 宇宙海賊め! トリスティアは許さないぞ!」 宇宙の英雄と化したトリスティアが、レッドクロスを着用して、ブラックホール内部で危険なバトルに身をさらしていた。 一歩間違えば、ホールに吸い込まれて次元の彼方に行ってしまう。 そんな中で、同じように危険に身をさらしている宇宙海賊の戦艦と闘っているのだった。 「こんなところにひそむなんて、悪党も生命がけだね! でも、負けないもんね!」 トリスティアと一緒にやってきた宇宙平和維持軍の第一部隊は、艦を破壊されて全員死亡していた。 なぜか「トリスティアと一緒に行く第一部隊は必ず壊滅する」という不吉な噂が、宇宙でもそのとおりになっているのだった。 「うがー、死ねー!」 トリスティアに向けて砲弾を放つ海賊たち。 「とあー、負けないぞ!」 ホールに吸い込まれないように全力で敵艦に接近し、流星キックを放つトリスティア! どごーん! ホールの中で、艦が爆発し、破片はホールの奥に吸い込まれてゆく。 「あっ、あれは!?」 トリスティアは、ホールの中心でうごめく何かに気づいた。 見覚えのあるあの機体は、フルメタルだ。 「うん? トリスティアか。宇宙で傭兵をやっているのか。たいしたもんだな」 「その声は……武神さん!」 フルメタルからの通信をキャッチしたトリスティアは思わず叫んでいた。 「どうしたの? そんなところで?」 「いや、それが、いま、このホールの中心から、デッドアーマーがこの世界に出ようとしているんだ! 俺が何とかするから大丈夫だけどさ、グレートピジョンロボは破壊されて、いまはこのフルメタルに乗ってるんだ! なかなか俺のいうことを聞かないマシンだけどな」 「手伝おうか?」 「よせ、お前も吸い込まれて次元の狭間にいっちゃうぜ。どうやら俺は、次元の狭間からこうしてこの世界にときどき顔を出しながら、この邪悪な鎧と半永久的に闘い続けなきゃいけないようだ! まあ、何万年かして相手が弱ったら、俺が勝つんだろうけどな。心配するな、結構楽しんでるよ。ときどき余裕ができれば、またこの世界に干渉することもできるだろう。じゃあな!」 ブラックホールの中心から姿を現したデッドアーマーを無理やり押し戻しながら、フルメタルに乗った武神は再び次元の狭間に消えてゆく。 「武神さん、さようなら。がんばってね」 トリスティアはかつての仲間に別れを告げ、最後の敵艦にキックを放った。 「アカシア星系にその名をとどろかせる、『流星のトリスティア』をなめるなよ! いくぞ、必殺の、ハイパー流星キーック!」 トリスティアンの高速回転キックが、海賊の艦の土手っ腹に炸裂。 ちゅどーん! ブラックホールの内部で大爆発が巻き起こり、その爆発の勢いを借りて、トリスティアはホールの外に飛び出してゆく。 「よーし、海賊をやっつけたぞ! 第一部隊は壊滅したけどまあいいや! 次のミッションは? 次の敵はどこだー!」 宇宙を漂いながら、トリスティアは叫び声をあげる。 じきに、トリスティアを回収する艦がやってくるだろう。 宇宙の英雄は、これからも闘い続けるのである。 (本当の最終回・真の最終回・裏の最終回(後日談)・完) |
【報酬一覧】
今回はなし。 |
【マスターより】
最後の最後でも遅れてしまってすみません。このシナリオの運営は本当に楽しかったです。仕事が多忙になってピンチになったときも多々ありましたが、何とか書き続けてこられたのはみなさんの声援があってこそ。どうもありがとうございました。いたちはヒーローものが大好きなので、今後もこういうノリのシナリオや小説を書いていきたいと思っています。次回作も期待してね! |