ムーア北方最大の軍事都市ゼネンへ

 脱出組本隊がムーア兵の追撃を受けた時、異世界の青年ディック・プラトックは、わずかな距離をおいて脱出する民を援護する。そのディックの視界に、この場に残ってはならない4人の子供たちの姿が飛び込んで来た。
「! どうしてここに!?」
「へっへー、お兄ちゃんの援護に決まってるよー」
 驚くディックに、子供たちが笑顔で言う。
「お兄ちゃんが、霧の中で敵が見えるのどうしてだと思うー?」
 自慢げに胸をそらすのは、風術を覚えたばかりの子供たちであった。しかしこの時、ディックの乗ってきた馬が突然倒れ、続いて子供たちの体が宙に浮く。
“これが噂の神官の力ですか?”
 声の後、子供たちの体が地面に叩きつけられる。それを助け起こそうとしたディックの体は、金縛りにあってしまう。
「何!?」
“面白い技をお持ちのようですね……あなたも我が城へご招待しましょう……軍事都市ゼネンへ……”
 そうしてディックと子供たちは、ムーア兵たちに取り押さえられていたのだった。

 ゼネンへと連行される中、ディックは冷静に考えをまとめていた。
『声の主は何故自分達を捕まえたか? 神官の力を持っている事を知っていたのか?』
 そこまで考えると、子供たちの使う技は、神官そのものの力ではないことはディックにもわかる。またあの時、自分が使った技は棒術であるので神官の力とは異質のものである。
『カン違いしてるってコトか? それに神官に会った事がない? たぶん領主は少なからず自分の神官の力に興味があるんでは?』
 思い至ったディックは、自分たちを連行するムーア兵に言う。
「ゼネン領主に会わせろよ」
 ディックの言葉に、ムーア兵が無表情で頷く。だが、その応え方に、異様な冷ややかさをディックは感じてしまう。神官の力の片鱗を持つ子供たちも、その原因が敏感にわかったようだ。
「! この兵隊、動いてるけど、死んでるよ!!」
 怖がり、大声で泣き出す子供たち。この時、ディックはとっさに子供たちが話していた「霧の中で敵が見える」事を話題にする。本当はあの時、子供達が風術で視界を良くしてくれたんだとわかっていたディックは言った。
「ふふん。あの時、霧の中で敵が見えたのは・・・自分の視力が良いからだ。それに、自分の普段の行いがいいからだしな」
 ふざけて言うディックに、子供たちは安心して体をすりよせていたのだった。

 ムーア世界の未来はまだ見えない。

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