公開処刑日まで

「……今日は……雨……かな」
 うつろな瞳が壁を見つめる。雨音に聞こえたのは、地下をしたたる水音だった。
 すでに今が昼か夜かもわからない時間の流れ。 『必ずみんなが助けに来てくれる』と仲間たちを信じて待つ少女トリスティアの精神は今、限界に近い状態にあった。
 いざ助けが来てくれた時には、思いっきり動けるように大人しく体力を温存していたトリスティア。しかし、そんなトリスティアには、ろくな食事も与えられず、修羅族に罵倒をあびせられ、ムーア兵には揶揄される日々が続いていたのだ。
『……このままじゃ……脱出の機会が来ても……反撃に転じるのは……』
 すっかりやつれてしまったトリスティアが唇を噛む。公開処刑に集まっている観衆の前で、逆に修羅族や敵司令官などを倒し、反撃ののろしを上げたいと考えていたトリスティア。この行動によって、しいたげられている東トーバの民に反抗の意思と気力が芽生えてくれたらと考えていたのだ。しかし、そのトリスティアが捕らえられているのは、四方を石の壁で囲まれた神殿地下の貯蔵庫であった場所。手足を拘束するのは金属性の枷と鎖。その自分の前を終始監視するムーア兵。さらに修羅族も現れては、休息など望めない状況下に置かれてしまったトリスティアであったのだった。

 やがて亜由香によって決められた、トリスティア公開処刑日がやって来る。
 場所は東トーバ神殿前。このムーア反抗勢力への見せしめでもあるトリスティア処刑後に、神殿の神官たちは、決められた街へと送り込まれるのだ。その為の馬車も、東トーバに集まって来ていた。
 一方、トリスティアという希望が消える日を寂しく思うムーア世界の人々が、“リクナビ”の力もあり各地から集まって来る。その中に異世界人が紛れても、わからない処刑日当日。全身マントで顔を半分隠しバンダナ姿となって潜入に成功したのはリク。フードを目深に被って身元を隠し、可能な限り前の方へ移動して、チャンスを待つフレア。そのフレアと打ち合わせをしたリリエルは、トリスティアの武器回収に成功したのだが、処刑場の外側警備に回されてしまっていた。また、この処刑場所を目指すラティールは、到着までいま少しのところまで進んでいる。
 しかし、この処刑を執行するのは、腕力と速さに長けた三体の修羅族たちである。彼らの腕力でもって、トリスティアの頭と左右の体は無残に引きちぎられるというのだ。
 すでに体力を奪われたトリスティア。その命運は集結するトリスティアの仲間たちが握っていた。

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